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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

9月27日・アルバート・エリス博士のバナナ

2021-09-27 | 科学
9月27日は、サッカーの小野伸二選手が生まれた日(1979年)だが、米国の心理学者、アルバート・エリスの誕生日でもある。論理療法の権威である。

アルバート・エリスは、1913年、ペンシルベニア州ピッツバーグで生まれた。ユダヤ系の家庭で、父親は出張の多いビジネスマンだった。
アルバートは病気がちの子どもで、5歳から7歳のあいだに、腎臓病や扁桃炎、あるいは細菌感染のために8回入院し、そのうちの一回の入院は1年近くの長きにわたった。彼の両親はどちらも子どもに愛情を見せることがすくなく、めったに病室に顔を出さなかった。
青年時代、女性に対しててとも恥ずかしがり屋だったアルバートは、自分に対する行動心理学的処方として自分に、ひと月のあいだに百人の女性に声をかけるという課題を課し、それをやり遂げた。ひとりとしてデートに応じてくれる女性はいなかったが、彼の女性恐怖症の傾向はだいぶ減じられた。
21歳で、ニューヨーク市立大学を卒業したアルバート・エリスは、34歳のとき、コロンビア大学で臨床心理学の博士号を得た。
博士となったエリスは、その後、精神分析の訓練を受け、心理カウンセラーをしていたが、精神分析の方法論にいい効果を見出せなかった。
そこで彼は、42歳のころ、独自の論理療法(Rational Therapy)を考案。46歳のとき、ニューヨーク州にアルバート・エリス研究所を設立し、神経症やコンプレックス、恐怖症など、さまざまな心的問題を抱える人々の治療にあたった。
90歳を越えてもなお、本の執筆、後進の指導、クライエント(来談者、client)との治療などで一日16時間働いていたエリス博士は、92歳のときに肺炎を起こし、病院とリハビリ施設を行ったり来たりする生活をしていたが、2007年7月、ニューヨークのアルバート・エリス研究所の上の階にある自宅で没した。93歳だった。

エリス博士の著書『論理療法』を買って読み、いまも持っている。さすが「論理療法」、理路整然と心や行動のまちがいが書いてある。ごもっとも、ということばかり。けれど、この「ごもっとも」が、人間にはなかなかできない。

博士が89歳のときのインタビューをテレビで見た。折れそうに細い、きゃしゃなからだながら、元気なしゃべり方の人だった。
博士の研究所では、なにかの恐怖症をもったクライエントに、たとえばこういうトレーニングをさせていた。バナナを腰にぶらさげて通りを歩くとか、地下鉄に乗って「つぎは42番ストリートです」と大声で叫ぶとか。クライエントは最初、
「そんなこと、恥ずかしくてできない」
と考える。でも、嫌々言われた通りやってみる。すると、なんでもない。まわりも、たいして気にとめない。気づかない人もいる。そういう体験を積んで、自分の自意識過剰に気づき、論理的思考を行動実験によって裏付け、恐怖心を取り除いていくのである。
たまにはバナナをぶらさげて歩かなくては。
(2021年9月27日)



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