1日1話・話題の燃料

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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

7/24・姿の大きな谷崎潤一郎

2013-07-24 | 文学
7月24日は、『三銃士』を書いた「パリの王様」アレクサンドル・デュマが生まれた日(1802年)だが、文豪、谷崎潤一郎の誕生日でもある。
自分が谷崎の小説を読みだしたのは学生のころで、出世作の『刺青』を最初に読んだと思う。以来ファンになり、社会人になってから谷崎潤一郎全集を二度買った。一度目に買ったのは普及版で、未収録の作品があったのが不満で、人にあげた。それからより完全な全集をあらためて買い直し、それはいまも本棚に並んでいる。判型が大きく、一冊一冊がとても重たい。

谷崎潤一郎は、1886年、東京の日本橋で生まれた。祖父が、活版所や洋酒を扱って成功した実業家で、父親はそこへ入った婿養子だった。
成績はつねに優秀で「神童」と呼ばれ、小学校時代の教師の影響で、早くから文学に関心をもった。17歳のとき、学友雑誌に彼はこう書いた。
「われ幼きより、最も嫌ひしは軍人にて、次は商人なりき」(『新潮日本文学アルバム7 谷崎潤一郎』新潮社)
東京帝国大学の国文科に入学した谷崎は、仲間と同人誌「新思潮」(第二次)を創刊し、その雑誌に小説『刺青』を発表した。この耽美主義の傑作が作家の永井荷風に激賞され、注目の新進作家となった。以後、『痴人の愛』『蓼食ふ虫』『吉野葛』『蘆刈』『春琴抄』『細雪』『少将滋幹の母』『鍵』『瘋癲老人日記』など名作を書き、生涯を通じて絶大な人気と存在感を示しつづけた。一文一文が長い、王朝風を感じさせる華麗な文章を書いた名文家だが、その文章の論理はひじょうにすっきりと整っていて、その本質はじつは西洋的な作家だとも言われる。
1965年7月、腎不全から心不全を併発し没した。79歳だった。

谷崎の魅力はまず、その文章にあると思う。とにかく文章が平易でわかりやすい。論理が明晰に通っている。それでいて、ものすごく流麗で、その文章の上手さに酔ってしまう。それから、話の趣向がとても凝っていて、その筋立てがひじょうにおもしろい。読み出すと、止まらなくなる。自分など、ページを繰っているとき、ふと気づくと、自分の首根っこをつかんで離さない、谷崎の強烈な腕力を感じる。
日本の古代から現代にいたる文学の歴史を通じて、谷崎はいちばん姿の大きな作家かもしれない。自分の運命を信仰している。そういう大きさがあると思う。

自分は谷崎の小説にもしびれるけれど、谷崎の随筆も愛読している。
最初の妻とのあいだにはじめて子ども(娘)が生まれたとき、父親となった感想を、谷崎はこうつづっている。
「『父となりて』の経験はまだ非常に浅い。生れてから約一と月を過ぎた今日、私は一向に子供が可愛くなつて来ない。恐らくは永遠に可愛くなるまいと思ふ。子供よりはまだ妻の方がいくらか可愛い。(中略)第二が生れたら、既に或る人の養子に与へる予約が整つて居る」(「父となりて」『谷崎潤一郎全集 第二十二巻』中央公論社)
この辺の率直さも、すごいと思う。
谷崎の小説のみを読んできた方には、機会をとらえて、こういった全集に収録されている随筆も、ぜひおすすめです。
(2013年7月24日)


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