父の死に臨んで~浜名理香~ 2018-12-25 17:49:11 | 短歌 浜名理香は、 肉親の情を 多く歌に詠んだ。 自然な感情の流れ、 的確な描写の力が その骨格をつくっている。 父との別れを詠んだ句を 挙げてみる。 ‥‥‥ 頭からかぶってすとんと膝に落つ夏の喪服のワンピースの裾 七曜のひと日ひと日の波かがしらくぐりて父の今日七七忌 お母さんが嫌わないかと言いだして置きまどう父の骨壺の場所 精進を落としにきたる昼餐の卵のスープ連華に掬う
「老いらくの恋」川田順 2018-12-24 20:10:46 | 短歌 歌人川田順は、 歌人であるとともに 実業家であった。 住友本社の常務理事まで務めた。 退職後は、 妻と死別し、 京都に住み、 「新古今集」の 研究に没頭していた。 ところが、 ここで、 京都大学教授の妻、 俊子と恋愛事件を 引き起こしてしまう。 俊子は離婚し、 川田と27歳年下の俊子は、 神奈川県国府津に住むようになる。 「老いらくの恋」として、 有名になった。 その頃のことが、 以下のように歌われた。 わが夢は現となりてさびしかり田舎のすみかに枕を並ぶ
水野昌雄の歌~その1~ 2018-12-24 19:58:54 | 短歌 水野昌雄は、 すぐれた自然詠、社会詠を 多くつくっている。 研ぎ澄まされた目、 温かいまなざし、 ときにするどい見方。 次々に名歌が生まれている。 ‥‥‥ それぞれの草は自立したくましく群れをなすとき雑草とよぶ 立葵土手の斜面に散在すまっすぐ伸びて花は明るく 除草機は唸りをあげてすすみ来て立葵の花もなぎ倒していく さまざまな事件の続くこの国に賭博犯罪さらに増えゆく
不運な歌人正岡子規と凡河内躬恒 2018-12-17 17:42:43 | 短歌 短歌を読んでいると、 人生において、名誉や地位をわがものにしながら、 実は、 大変な苦労や不運に見舞われる人が多いのがわかる。 そういう意味で、 普遍的な幸福とは何か、 という思いを馳せることは多いのである。 人生の幸福とは何か、という思いに誘われるのだ。 そういう意味で、 歌人やその作品を紹介している。 波乱の人生は、 われわれにも身近なものと 感じられるのである。 古今の短歌のうち、 人生においては 不運であった 2人の歌人を確認したい。 ひとりは、 「古今集」の選者であり、 そのなかで 紀貫之に次いで 多くの作品をとられた 凡河内躬恒がいる。 歌壇的には高名であったが、 この世における地位は低く、 殿上人にもなれなかった。 代表歌は以下のとおりである。 今日のみと春を思はぬ時だにも立つことやすき花のかげかは 一方、 明治時代に、 短歌を革新し、 古今集以来の 華美な歌を批判した 正岡子規。 肺結核とカリエスのため、 闘病生活ののち、 34歳にして逝った。 代表歌のひとつを挙げる。 いちはつの花咲きいでて我目には今年ばかりの春ゆかんとす 平凡な生活を続けるわたしたちと変わらない、 ときにはもっと悲惨な人生を送る人が 多いことを思う。
水原紫苑の歌~その1~ 2018-12-15 22:57:58 | 短歌 水原紫苑は、春日井建に師事した。 雄大な歌、自然の歌、空想の歌を つくった。 月や太陽の歌にも優れたものがある。 ‥‥‥ 朝露の花の目覚めに立ち会へばわれの一生に恋なきごとし 御衣黄のさみどりわれは土民にて高貴の花に近づきがたし 後の世はやまざくらばな、けだものの犬と交わり鬼を生むべし 水と花とわれのあはひに翁在り恋とは突然変異に似たり
高野公彦の歌~その1~ 2018-12-15 22:39:57 | 短歌 高野公彦は、 新聞歌壇の選者として 有名である。 自然と人生の機微を 健やかに歌う。 ‥‥‥ 無数なるいのち養うこの星のオーラのごとし夕あかね空 白鷺は鳴かず飛びをり天地の間身一つで行き身一つで死ぬ やはらかな大和の歌のひらがなのやうな息してねむるみどりご 月浮かび真澄の夜半となりにけり誰も名のなきいのちの始め
歌論にも優れた三枝昂之 2018-12-15 22:25:24 | 短歌 歌論にも優れたものを書いた、 三枝昂之。 歌の歴史も踏まえた、 現代的な作風で知られる。 自然を詠み 人を詠んだ。 ‥‥‥ それぞれの暮らしの襞を垣間見せ江戸屋横丁伊勢屋横丁 立志像となりたるかなり果てたるか高杉晋作突っ立ったまま とはいえど走って走って走り抜く若さ眩しと思うときあり こころざしは人を滅ぼす久坂玄瑞二十四歳高杉晋作二十七歳
「男」を歌った歌 2018-12-15 19:45:45 | 短歌 最近、若い男が 草食動物系になったとは、 よく言われることである。 静かに、 のんびりと 日々を過ごす男たち。 かつての男は、いかがだったろう。 「男」を歌った短歌を 4首挙げる。 ‥‥‥ 固きカラーに擦れし咽喉輪のくれなゐのさらばとは永久に男のことば(塚本邦雄) 父よ男は雪より凛く待つべしと教へてゐてくれてありがたう(小野興二郎) 夏野行く夏野の牡鹿、男とはかく簡勁に人を愛すべし(佐々木幸綱) あけぼのの中なる樫の影太しあな男とは発語せざる樹(影山一男)
寡婦として生き抜いた森岡貞香の歌 2018-12-15 19:23:06 | 短歌 森岡貞香75歳の時の歌である。 をみなふりて自在の感は夜のそらの藍青に手ののびて嘆くかな 1946年に夫を失い、 30歳にしてひとりの子をもつ寡婦となった。 未亡人であり、美貌である作者ゆえ、 世の目を生きがたく感じたであろう。 森岡は、80歳まで生きる。 ‥‥‥ 未亡人といへば妻子のある男がにごりしまなこひらきたらずや 雨に濡れし着物のままにぬくもればいぎたなしわれは泣き虫となりて 流弾のごとくわれが生きゆくに撃ちあたる人間を考へてゐる
浜田到の歌~その2~ 2018-12-15 18:59:02 | 短歌 浜田到は、10代から作歌を始めた。 叙情的な歌の作りと、 新鮮なことばの取り合わせが 見事である。 医師として働いたが、 49歳で、往診の帰りに 事故死してしまった。 生前には歌集を持たなかったが、 中井英夫が認め、 短歌集を出した。 ‥‥‥ ふとわれの掌さへとり落とす如き夕刻に高き架橋をわたりはじめぬ にくしんの手空に見ゆかの味き尖塔のうへに来む冬をまつ 哀しみは極まりの果て安息に入ると封筒のなかほの暗し
牧水の妻若山喜志子の歌 2018-12-15 15:51:27 | 短歌 若山牧水の妻、若山喜志子は、 文学に憧れて、国をでた。 24歳で牧水と結婚。 しかし、 喜志子40歳の時に牧水は死んでしまう。 よく知られているように、 牧水は旅と酒の歌人である。 死してしばらく、 酒のアルコールで、体が 腐らなかったという噂さえあった。 さて、 酒を飲む、 旅に出る、 無職だ、 という 牧水。 喜志子は40歳から80歳まで、 ひとりで 子どもを育てながら、生きる。 80歳に近くなって、 やっと酒の味がわかる「気がする」と歌う。 それが 第1首であり、 他の歌は、心の中の牧水の存在を感じさせる。 ‥‥‥ ひとり出でて旅の宿りに啜りましし酒の味のこのごろ解る気がする にこやかに酒煮ることが女らしきつとめかわれにさびしき夕ぐれ 酒煮るとわが立てば子も子の父も人かこむなり楽しき夜よ 酔へばとて酔ふほど君のさびしきに底ひもしらずわがまどうかな
俵万智の青春歌に思いをめぐらす 2018-12-14 22:14:38 | 短歌 ある歌は、 遠い青春の日を 思い出させる。 その時代に 研ぎ澄まして 心に感じたことどもを 昨日のように思い出すのだ。 いろいろな歌人の歌を 紹介するにつけ、 「時代の子」 という言葉を思い起こす。 俵万智の歌。 「スペインに行こうよ」 風の坂道を 駆けながら言う 行こうと思う Runnig up a hill,you saying, "Let's go to Spain!” Yes,let's go. I think‥‥
小池光の歌3首 2018-12-14 21:43:29 | 短歌 先に、 文学と「老い」 について書いた。 具体的な作品を鑑賞しつつ、 表現の可能性を 探ってみよう。 小池光の歌より。 ~あまりにも平凡な日々をかえってうまらなくおもうとき~ 泥棒にはいられたることいちどもなく七十年過ぐ 泥棒よ来よ ~年齢を重ねるにつれて心を通じ合う人が減るのを嘆いて~ この人とゐても話すことなしと思へる人いつしか増えて年とりにけり ~老いを感じつつ~ 二次会に誘はれたれどわれ行かず厭世観につかまれをれば
佐藤弓生の歌~その1~ 2018-12-13 23:26:12 | 短歌 佐藤弓生の歌。 中堅歌人として、 一定の評価を得ている。 孤独と死を歌いつつ、 現代の 風景を活写する。 ‥‥‥ この夕べ空は子どもの頬の色のこしてなべてお伽にてあらな 三つ四つ刺されし痕をさするとき遠い火口をさぐるここちす 改札の流れを眺めながら夜わがものとするあなたの孤独 おさな子の髪に鋏をおよがせる手のふっくらとあなたは生きて
時代の感性を伝えるのは短歌 2018-12-12 23:03:29 | 短歌 現代和歌の秀作を 紹介している。 それぞれ、 自分の年齢と比べつつ 選んでいる。 自分がどのような状態の時 歌われたのか。 どのような時代背景があるのか。 抽象的な 語を並べる 歴史のテキストでは 時代のみずみずしい事実は 理解しえない。 短歌は、 そのようなとき、 事実に関し、関わって 時代を過ごした 生の感情を 伝えてくれるのである。