「他に誰かいたかしら・・・」
「奥さん、あの眼鏡の方、そう、助教授だかの方がお見えになったじゃないですか。あの、なんて名前だっけ」
「藤岡さん。あの方は去年の暮れよ。何でも、どこだかの教授に推薦してもらいたいとかで。でも宇津木に門前払いされたじゃない」
「でもあの方、目を真っ赤にして何かわめいて帰られましたよねえ」
「そう。そうねえ。でもあの人、靴を脱いでもないのよ」
何の話をしているのだ。怪しい。書斎へ入った者のリストを問われているのに、私に恨みを抱いていた者をあげつらって疑惑を転嫁しようとしている。
警部もさすがに呆れたのか、閉ざされたアルミサッシに顔を向けた。目を上げて、風の通る通風窓を見上げる。私が幽体離脱した日にそこから空へ飛び出した場所である。
彼は通風窓を見上げたまま質問を続けた。
「御主人は、生前、ひどく悩んでおられるような様子がありましたか」
視線を二人の女に戻す。
「あ、いや、つまり自殺を思い切るほどの悩みです」
(つづく)
「奥さん、あの眼鏡の方、そう、助教授だかの方がお見えになったじゃないですか。あの、なんて名前だっけ」
「藤岡さん。あの方は去年の暮れよ。何でも、どこだかの教授に推薦してもらいたいとかで。でも宇津木に門前払いされたじゃない」
「でもあの方、目を真っ赤にして何かわめいて帰られましたよねえ」
「そう。そうねえ。でもあの人、靴を脱いでもないのよ」
何の話をしているのだ。怪しい。書斎へ入った者のリストを問われているのに、私に恨みを抱いていた者をあげつらって疑惑を転嫁しようとしている。
警部もさすがに呆れたのか、閉ざされたアルミサッシに顔を向けた。目を上げて、風の通る通風窓を見上げる。私が幽体離脱した日にそこから空へ飛び出した場所である。
彼は通風窓を見上げたまま質問を続けた。
「御主人は、生前、ひどく悩んでおられるような様子がありましたか」
視線を二人の女に戻す。
「あ、いや、つまり自殺を思い切るほどの悩みです」
(つづく)
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