10月17日に行なわれた
都立高専中小企業家経営塾 本年度 第1講 の講師をお務めいただいた
㈱IDSの 加茂坂鉄男 氏より、講義の原稿(レジメ)をいただきました。
ソフトウェアとモノづくりを結びつけ
ナノ(1/100万ミリ)レベルの制御を行なう仕事をしていると話されていた加茂坂氏
『日本人のモノづくりDNA』のタイトルで
わが国(日本人)の「モノづくり」の原点について、お話しいただきました。
大変、参考になりますので、
この原稿(レジメ)を、そのままご紹介させていただきます。
2007.10.17 都立高専 中小企業家経営塾 平成19年度 第1講
日 本 人 の モ ノ づ く り D N A
株式会社 アイ・ディ・エス 加茂坂鉄男 氏
産業技術高等専門学校(高専)について私の印象は
古い話ですが大学時代今から30年近く前、3年編入生のガリ勉
ロボカップでの活躍(輝きのある学生)
この夏、インターンシップでの学生との出会い
伝えたいこと 技術の習得に前向きなみなさんだからこそ
私の想いの話し
自己紹介
東京下町の町工場のせがれ
旋盤職人のオヤジの工夫(流用、転用)
工作機械見本市見学(晴海で毎年)
展示機械の長所を見るときはどうやって、短所を見つけるときはなぜ、考える癖
中学時代の学校の夏休み、旋盤、フライスで粗引きの手伝い、お小遣いは無し
高校時代にNC旋盤を使う(大隈が日本初のNC旋盤を発売した翌年)
8尺汎用旋盤が5~600万円、NC旋盤が2000万円、5倍以上
NCプログラムの講習会に参加、当初は、粗引き程度しか出来なかった
道具さえ良ければ、オヤジの仕事ぐらい、と思っていただけに、悔しかった
職人技術をコンピュータ化する時代がやってくる
大学は、電子工学に興味をもちつつも機械科へ
そしてアルバイトではパソコンBASICの講師(当時パソコンは200万した)
制御系ソフトハウス就職(経営理念:技術縦割り社会にシステムの横糸を通す)
5年で卒業
高度精密加工専門の町工場でNCの修行(職人芸のこだわり、F-1、原子力、軍需品加工)
1年で卒業
工作機械メーカでNC工作機械の製作(パイプベンダ)
3年で卒業
技術縦割り社会にシステムの横糸を通す、義理と人情とおせっかいをキャッチフレーズに
製造業向けのソフトハウスとしてのIDSを設立、15年目を迎えました
オヤジと同じ道、町工場の社長、なんか絶対歩くもんか、と思っていましたが
業態こそ変われど、似たようなことしている自分がここにいるわけです。
だったら、この宿命を使命に変えて、若いこれから皆さんに伝えていこうと
考え、今日のお話をさせていただくことにしました。
前置きが長くなりましたので、そろそろ本題に
日本のモノづくりの原点
モノづくりで皆さんが連想されるモノは何でしょう
たぶん、今日の講義の予習で皆さん、いろいろ調べてくださったのではないでしょうか。
ウチのつたないサイトもご覧になられたんだと思います
高度な技術に培われた製品、代表的なものとしては、車、家電ですね
視点を変えれば、半導体関連装置、顕微鏡でしか見えないギア、最近では家庭用風力発電
それを陰で支える職人技:テレビのプロジェクト何とか、何とかの夜明けでご存知だと
切削、溶接、曲げ、絞り、研磨などに代表される日本の匠と言われる技術によるものです
あんまり、えらそうに話していると後ろにいらっしゃる諸先輩がたに怒られそうですが
じつは、その道の巨匠たちは、日本だけではなく、世界中にいます、
また道具や機械さえ用意してあげれば、なれる人もいると思います
では、日本のモノづくりとは何でしょう?
私が考える日本のモノづくりとは
古くは、竪穴式住居、校倉造など歴史を紐解くとユニークなモノがたくさんあります
でも私は、日本のモノづくりの原点は鉄砲(火縄銃)だと思っています
鉄砲伝来は16世紀半ばに種子島で2丁をポルトガル人から購入
その後、短期間のうちにコピーが出回りました、どっかで良く聞く話ですが
しかしコピーで終わらないところが日本のすばらしいところです
半世紀も経たない16世紀後半には、世界一といえるほどの、すばらしい性能と
生産量になり、輸出もしていました
このときすでに貿易黒字だったかも知れません
関が原の戦では6万丁、この数は世界の半分に相当します
鉄砲というモノを知らなかった日本人がわずか50年足らずで世界シェアをとりました
乱世が終わり治世の江戸時代では鎖国に入り、鉄砲製造技術は農耕器具に生かされ、
維新後はヨーロッパの紡織機技術を取り入れ、急激に発展し
何を勘違いしてしまったのか世界を相手に戦争を始めてしまいました
戦後、奇跡といわれた急成長を遂げジャパン・アズ・No.1になりました
そして現在、世界中の製造業で一番成功している企業は日本のトヨタ自動車だと思います
19世紀初頭にオートメーションをはじめたのは米国自動車メーカーのフォードでした
それを取り入れ、日本のモノづくりの文化を十分に生かしきった生産方式、それが
トヨタカンバン方式です
世界中の企業が真似をしようとしましたが、いまだ実現できた企業はありません
日本企業ですら、マネできていません
カンバン方式を説明するのは大変ですから、みなさんで勉強してください。
その中核となる二つの考え方があります。
一つ目は、「下流工程はお客様」、次の工程の人が作業しやすいように、また迷惑を
掛けないようにと、一人一人が心がけることにより、みんなのためにが出来上がります。
いかに次の工程の人たちが仕事をしやすくできるか、それを毎日考えているのです
業界用語では、セル生産方式とも言います。
これは私の個人的な見方ですが、トヨタはこのセルを無機的なシステムの一つの個体と
考えず、有機的に捉え各人の個性を尊重したのだと思います。
下請の中小企業に対しても同じ考え方です
下請は生かさぬよう殺さぬよう、などと言われていますが、あの不況時に倒産した会社は
ほとんどありません
そして、社内外の中小企業の集まりがトヨタの強さだと思っています。
二つ目、「改善」、ローマ字で「KAIZEN」というキーワードです。
この改善という言葉はKARAOKEと並んで世界中で有名な日本語です
ある特定の分野の人たちだけなので、バーのママさん達は知りません。
今のやり方より、もっと良いやり方は無いか。と、常に考える習慣です
ここに、日本人のモノづくりのエッセンスが集約されていると思います。
トヨタは、それをじっくり時間を掛けて上手に「仕組み」として仕上げたのです
日本人のモノづくりの感性
もっといいものを、もっと使いやすく、もっと簡単に
この「もっと」と当たり前のように考えてしまう能力、本能ともいえる感性、
これが日本人の卓越したモノづくりDNAと、私は確信しています
簡単に言ってしまえば、工夫をしなくてはいられない本性とでも言いましょうか。
この世に無いまったく新しいモノを作る能力は低いと思いますが(あくまで私見です)
世界中のどこより良いモノを作るチカラが、優れているのです。
そして、人のために、この人のためにが、とてもすばらしい日本の美学だと思います
日本の国民性である、和を以って尊しとなす、です
古いですか? でも皆さんの潜在意識には必ずあると、私は信じています。
これも大切な日本人のDNAです
この和とは、みんなと一緒、という考え易いですが、実は個人を尊重し互いに認め合う
事で成り立つことでして、欧米の征服、制圧するという文化ではあり得ないことです。
日本は元来、農耕民族でした。お互い助け合いながら生き抜いてきたからです。
欧米は狩猟民族でしたから、領地の略奪が生き抜く手段だったのです
時代劇とかで見たことがあると思いますが、
江戸っ子風に言うと、「っしょうがねぇなぁ、ばかやろう」とかなんとか言いつつ
ひと肌脱ぐとか、おせっかいを焼くことですね。
さて、話は変わり、米国評論家アルビン・トフラーが
今から30年近く前に「第3の波」という本をを発刊しました。
第一の波は農業革命(1万年前)狩猟採集から農作物の栽培、家畜の飼育
第二の波は産業革命(100年前)フォードT型の大量生産に代表される物質文明
第三の波は脱産業社会 情報革命(20年前)
パソコン、インターネットの普及、携帯電話で国際電話が出来る時代の到来
30年近くも前にこの状況を予想したトフラーはすごいですね。
そして今、Net社会はWeb2.0へとシフトして情報配信から情報の相互利用の時代
世の中は、短絡的におカネを儲けるネタがあふれています。
ホリエモンや三木谷社長にあこがれる若者がたくさんいます
ITの発展(蛇足、本当はICT:情報通信技術、
日本にはCが無い、これも今の日本には重要な問題です、さておき)
ITの発展には経済成長が大前提、経済基盤が無いところにITの発展はありません
経済活動の原点は衣食住、そしてモノづくりです。モノの次に情報です
順番にこれらを満たせなければ、その次の活動はありません
このまま行くと、日本の将来は、かなり怪しい雲行きです
ここで日本国の生業を思い出してください。
小学校の社会の時間に習ったと思いますが
日本という国は、原材料を自給自足出来ない国と習ったはずです。
それは今も変わりません。皆さんが習ったとき以上に今はもっと足りません。
原材料を輸入し、価値を輸出する国です
それを支えてきたのが中小企業です。
経済を活発にするには、この作業を怠ってはならないのです、また言い換えれば
中小企業が元気をなくしてはならないのです。
福田総理も大変でしょうけど、アメリカになんと言われようと、貿易黒字を出し続け
なくてはいけない国なのです。
今、ITの先のユビキタス時代がすぐそこまで来ています。
機械や電機電子だけでもダメ、ITだけでもダメ、今ある技術を有機的に融合することにより
ユビキタス時代は実現します。
これこそまさに、日本の出番です、
潜在意識を呼び覚ましDNAたちを覚醒するときです。
今までは、機械、電気電子、コンピュータを融合して、もっといいモノ、を作ってきましたが
これからは、それにバイオを加えて、日本ならではの、もっといいモノ、を作る時が来ています
また、地球環境保全問題では、地球温暖化、有害物質、廃棄物
少子・高齢化問題では、医療、介護とつくらなくてはならないモノが目白押しです
日本のモノづくりを伝承し、そして新しい技術をどんどん融合することで
日本はモノづくりによる日本自身の再生をしていくのです
おわりに
今回、このお話をさせて頂くことで、創業時の想いを明確に思い出すことが出来ました。
そして技術者から、経営者としての意識が自分自身でも少し判るようになりました。
故松下幸之助さんは「松下電器は人を作っています、併せて電化製品も作っています」と
言っておられました。
会社経営は人作り、今後、モノづくりにこだわる人材の育成にチカラを注いで行きたいと
思います
オヤジから学んでいたことを、今度は私が若い人たちにに伝える年になったのかなと思います。
今日は、どうもありがとうございました。
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加茂坂 鉄男 株式会社 アイ・ディ・エス
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