「おい、ちょっと口の脇の所を、見せてくれないか?」 | |
「え? 口の脇?」 | |
「ここですか?」 | |
「お前の口は、綺麗だなあ……」 | |
「私なんか、こうだぞ」
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「昨日あたりから、目やにも出るし……」
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「やれやれ……」 | |
「おかか先生……」 | |
ため息をつく猫たちのすぐそばに、小さな四つ葉のクローバーが、ひっそりと、たたずんでいた。 | |
小さな四つ葉のクローバーは、おかか先生やおむさんの役に立ちたいと、心の底から願っていた。 | |
「私なら、おかか先生とおむさんに、とびきりの幸福を運ぶことができるのに……」 | |
「ああ、おむさんの可愛いお手々に、摘み取られたい!」 | |
「ああ、おかか先生の可愛いおでこに乗りたい!」 | |
それが、小さな四つ葉のクローバーの、夢だった。 だが、おかか先生は、そこに四つ葉があることに、気付かなかった。 | |
おむさんも、気付かなかった。 | |
小さな四つ葉のクローバーは、「私を摘み取って下さい」と、何度も何度も、繰り返した。 けれど、その声は余りにもか細かったので、猫たちの耳には届かなかった……。 | |
やがて、小さな四つ葉のクローバーは、誰にも摘み取られることのないまま、萎れて、枯れた。 そして、風に飛ばされてしまった……。 | |