釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

ドルを崩壊させ中国・ロシアを強化する米国

2023-09-09 19:13:02 | 社会
1944年、米国ブレトン・ウッズにおいて、連合国諸国が集まり、戦後の国際通貨体制を、英国に代わって大国となった米国通貨ドルを中心とすることを取り決め、金1オンスを35米ドルと交換可能とした。米国は世界の金の6割を保有していた。しかし、戦後の朝鮮戦争やベトナム戦争での軍事的支出や海外への経済援助で、ドルが流出し、1959年には、米国内保有のドル、75億ドルより海外保有のドル資産、91億ドルの方が多くなった。こうしたドルへの不安から、フランスはじめ欧州各国は米国に対してドルと金の交換を要求し、次第に米国の金は減少して行った。1971年、ついに当時の米国ニクソン大統領は、ドルと金の交換停止を発表した。いわゆるニクソン・ショックだ。金との交換が停止されたドルへの信用を維持するため、米国は1973年、サウジアラビアと「リヤド密約」を結んだ。石油の取引をすべてドルで行うと言うものだ。どの国もエネルギーとして石油を購入しなければならならず、その際にドルでしか購入出来なくなった。米国は世界最大の消費国であり、1980年代には財政赤字と経常収支赤字の、いわゆる「双子の赤字」が拡大し、以後もそれが続いて来た。本来、こうした国の通貨価値は低下する。通貨への信用を失うために、他国はそんな通貨を避けようとして、手放す。しかし、ドルがなければ石油が購入出来ない上、他製品の貿易もほとんどがドルで行われるようになっていたため、たとえ米国が双子の赤字となっていても、ドルを手に入れようとする流れは維持されて来た。価値が損なわれないドルは、米国自身にドルの増刷を許した。増刷され続けたドルは、今では国内に今年第2四半期で歴史始まって以来の巨大な債務に膨らんでしまった。非金融債務では州と自治体で3.26兆ドル、連邦政府で28兆ドル、家計で19.6兆ドル、企業で20.3兆ドルあり、このほかにも金融債務が20兆ドルある。ただし、金融債務についてはさらに金融商品デリバティブなど誰にもわからない部分もある。今日の米国ZeroHedgeは、「Slide In Consumer Credit Accelerates As Excess Savings Exhausted, Average Credit Card Rate Hits 22%(余剰貯蓄の枯渇で消費者信用の低下が加速、クレジットカードの平均金利は22%に達する)」を報じている。クレジットカードを使用する人たちへの信用が低下し、利用者の金利が22%にもなっている。昨日の英国著名経済紙The Financial Timesは、「Janet Yellen says China has ‘policy space’ to boost its economy(ジャネット・イエレン氏、中国には経済を押し上げる「政策的余地」があると発言)」を報じた。中国経済が崩壊すると西側メディアが報じているが、米国財務長官は「「中国の成長は時間の経過とともに減速すると見ている。とはいえ、中国にはこうした課題に対処するための政策余地がかなりあるので、状況を注視している」と述べた。 中国はこれまでのところ、大規模な財政刺激策や苦境にある不動産セクターの救済策を控えているが、信用回復の一環として基準貸付金利を引き下げている。」とあり、「シンガポール銀行のチーフエコノミスト、マンスール・モヒウディン氏は「人民元が新安値を更新している理由は、ドルが全面的に強く、PBoCの(人民元を支える)選択肢が限られているからだ」と述べた。」と書いている。「ドルが全面的に強」いのは、金利による。金利が米国より低い中国や日本は通貨が安くなるが、日本はそれが中国以上に極端になっている。日本はいまだにゼロ金利を維持しており、それが円安を加速させている。とは言え、米国は現在、2年債利回りが4.99% 10年債利回りが4.26%で、短期金利が長期金利を上回る逆転現象が起きている。目先に経済不安が迫っている時に起きる現象だ。短期国債を売り、長期国債の方へ移る。国債は買われれば価格があがり金利が下がる。売られればその逆になる。米国中央銀行総裁は、インフレを抑えるためには更なる金利引き上げもあると発言している。今日のZeroHedgeは、「Small US Banks Suffer Biggest Deposit Outflows Since SVB Crisis, Money-Market Inflows Soar(米国の小規模銀行、SVB危機以来最大の預金流出に見舞われる マネー市場への資金流入は急増)」も報じている。金利の上昇は債務があり体質の弱い小規模銀行は危うくさせるため、預金者はそうした銀行から預金を引き出しに走る。銀行危機もまだ終わっていない。米国金融メディアWatcher Guruは、7日、「BRICS: 21 Countries Officially Agree to Ditch the US Dollar in 2023(BRICS:21カ国が2023年の米ドル離脱に正式合意)」を載せた。2023年3月、ASEAN諸国連合は、国境を越えた取引に米ドルを使用しないことを決定した最初の国々だ。 東南アジア10カ国の首脳は、米ドルの使用をやめ、代わりに自国通貨を推進するという宣言に署名した。 さらに、BRICS連合は今年8月のサミットで、米ドルを使った国際貿易の決済を停止することで合意した。 BRICSは貿易に自国通貨を使用し、加盟国間で共通通貨を創設することも検討している。 貿易は既存の10カ国のブロック内で決済され、同盟外の他国とは行われない。 ASEANは10カ国からなり、BRICSは11カ国からなる。 合計21カ国が2023年に米ドルを捨てて世界貿易を行うことに正式に合意したのだ。以下は、米国Geopolitical Economy Reportによる3日の記事の訳を載せる。

Western sanctions failing: EU imports more Russian gas, China beats US tech war 
欧米の制裁は失敗: EUはロシアのガス輸入を増やし、中国は米国の技術戦争を打ち負かす
Western sanctions are backfiring: The EU is importing Russian liquified natural gas at record levels, and China is making high-tech chips despite US export restrictions.
欧米の制裁が裏目に出ている: EUはロシアの液化天然ガスを記録的な水準で輸入し、中国は米国の輸出規制にもかかわらずハイテクチップを製造している  

ワシントンとブリュッセルの経済戦争は、皮肉にも北京とモスクワの経済主権を強化する一方で、ヨーロッパに逆風を吹き込んでいる。

世界は新たな冷戦を生きている: 第二次冷戦である。そして、この戦争は経済的手段によって行われている。

制裁は経済戦争の主要な手段である。制裁措置が国連の支持を得ずに一国によって一方的に課される場合、それは「一方的強制措置」と呼ばれ、国際法上違法である。

世界人口の4分の1は、米国から一方的に制裁を受けた国に住んでいる。

米国とヨーロッパが制裁を加えた国は、世界のGDPの3分の1近くを占めている。

米国とヨーロッパの同盟国による制裁措置は近年急増している。

米国が制裁を加えている国の中には、地球上で最も強力な国の2つがある: 中国とロシアだ。

中国は、購買力平価(PPP)でGDPを測定した場合、世界最大の経済大国である。ロシアは世界第6位の経済大国である。

米国政府は、ユーラシアの大国の経済を妨害することが目的であることを明らかにしている。

しかし、ワシントンは失敗した。

中国は最先端の技術を開発し続け、ロシアは世界の商品大国としての役割をさらに強固にし、製造業を強化している。

この西側の経済戦争の失敗、さらには反撃は、一方的な制裁がベネズエラ、キューバ、シリアのような経済が発展していない小国には大きなダメージを与えることができ、またしばしばそうなる一方で、中国やロシアのような巨大な産業基盤を持つ大国にとっては、その経済が事実上「制裁するには大きすぎる」可能性があることを示している。

このような場合、欧米の制裁は短期的には経済的なダメージを与えるが、中長期的には、一方的な強制措置が経済的・技術的な主権を高めることで、実際にはターゲットを助けることになる。

これらの巨大なユーラシア経済は代替手段を見つけ、もはや欧米企業に依存することなく、独自のハイテク製造業を発展させ、生産プロセスにおける付加価値を高めている。

米国の制裁にもかかわらず技術的に進歩する中国


2021年、ジョー・バイデン米大統領は、中国が「世界の主要国、世界で最も裕福な国、世界で最も強力な国」になるのを阻止しなければならないと主張した。

同様に、ジーナ・ライモンド米商務長官は、ワシントンの目標は「中国の技術革新の速度を遅らせる」ことだと述べた。

中国経済、特にそのハイテク部門にダメージを与えるため、米国はドナルド・トランプ大統領のもとで始まり、ジョー・バイデン大統領のもとでも徹底的に超党派のキャンペーンを展開し、積極的な制裁を何度も課してきた。

しかし、これらの制裁は中国の技術的発展を妨げることは出来ず、北京は大きな前進を続けている。

中国企業のファーウェイは、先進的なチップ技術を搭載した携帯電話を開発した。同社の「Mate 60 Pro」は今年9月に市場に投入され、世界を席巻した。

Bloombergは、Mate 60 Proがファーウェイにとって初めて、北京の国有企業である国際半導体製造(SMIC)が製造した最先端技術、7ナノメートル・プロセッサーのKirin 9000sチップを採用した携帯電話であることを明らかにした。(訳註:その後Kirin 9000sチップ自体もファーウェイ製造であることが判明)

「北京は、その台頭を封じ込めようとする米国の努力を回避するため、全国的な推進を早々と進めている」と同メディアは述べている。

SMICとファーウェイはどちらも米国政府から制裁を受けている。

ワシントン・ポスト紙も同様に、「Mate 60 Proは中国の技術力における新たな高水準を示しており、中国がこのような技術的な飛躍を遂げるのを防ぐことを意図した米国の厳しい輸出規制にもかかわらず、内部に設計され中国で製造された先進的なチップを搭載している」と認めた。

同紙はさらに、この携帯電話の「発売は、米国の制裁が中国の重要な技術的進歩を阻止出来なかったと言う、ワシントンでのひそかな懸念に火をつけた」と付け加えた。このような進展は、米国のチップメーカーが警告した、制裁は中国を止めないが、米国の技術に代わるものを作る努力を倍加させるという警告を実現するようだ」。

ファーウェイは、ライモンド米商務長官が訪中した際にこの新型携帯電話を公開した。

欧州、制裁にもかかわらずロシア産液化天然ガスを過去最高水準で輸入


ロシアは地球上で最も制裁を受けている国のひとつである。米国と欧州連合(EU)は、ウクライナにおけるNATOの代理戦争をめぐって、このユーラシア大陸の国に何度も制裁を課して来た。

バイデン大統領は、この経済戦争によるワシントンの目標は、ロシアの通貨ルーブルを「瓦礫」に変えることだと明言した。

バイデン大統領は2022年3月、1ルーブルの価値が少なくとも一時的には1米ペニー以下になったと自慢した。

米国大統領はこう宣言した:
我々は歴史上最も重要な経済制裁パッケージを実施しており、ロシア経済に大きなダメージを与えている。
そのせいで、ロシア経済は率直に言って大打撃を受けた。プーチンが戦争を宣言して以来、ロシア・ルーブルは50%下落している。1ルーブルは今や米国の1ペニー以下の価値しかない。1ルーブルは1米国ペニー以下だ。そして(我々は)ロシアの中央銀行がルーブルを支え、その価値を維持するのを妨げている。今それをすることは出来ないだろう。我々はロシアの大手銀行を国際金融システムから切り離した。

バイデンは、ロシアには1億4千万人以上のロシア人が住んでおり、彼らは日常生活でルーブルを使っていること、賃金をルーブルで受け取っていることに触れなかった。

通貨を破壊しようとすることで、この西側の経済戦争はロシア政府とプーチンを傷つけただけでなく、1億4000万人以上の市民を含む国全体を傷つけている。

しかし、制裁は正確な手段ではない。西側諸国政府は常に、そして誤解を招くかもしれないが、制裁は個人を「対象とする」ものであり、「人道的免除」があるはずだと主張している。

制裁は経済戦争、集団懲罰の残忍な手段であり、しばしば深刻なダメージを与え、対象国に住む市民に大きな結果をもたらす。

例えば、ベネズエラでは、ドナルド・トランプ政権がフアン・グアイドーをクーデターさせようとした一環として、米国が南米諸国に課した違法な一方的制裁のために、少なくとも数万人、おそらく10万人以上の民間人が死亡していることが、主流派の専門家によって明らかにされた。

しかしロシアの場合、経済制裁は西側諸国が期待するほどのダメージを与えていない。

当初、ルーブルは他の通貨に対して大幅に下落したが、石油やその他の商品価格が上昇したことが主な理由で、すぐに反発した。ロシアは世界有数の石油、ガス、肥料、小麦の生産国である。

実際、制裁はロシア経済を瓦礫と化し、壊滅的な打撃を与えることに失敗しただけでなく、ヨーロッパにも裏目に出て、エネルギー危機を引き起こし、高水準のインフレを助長している。

その一方で、EUは記録的な量のロシア産液化天然ガス(LNG)を輸入している。

フィナンシャル・タイムズ紙によると、2023年の最初の7ヵ月間、EU加盟国のベルギーとスペインはロシア産LNGの第2位と第3位の購入国だった。これより多く購入したのは、ロシアの最も近い同盟国である中国だけだった。

フランスとオランダもロシア産LNGを大量に輸入している。

フィナンシャル・タイムズ紙は、「EUの超低温ガスの輸入は、2021年の同時期と比較して、今年1月から7月の間に40%増加した」と書いた。

同紙は、「EUはロシアからのパイプライン・ガスに依存していたため、ウクライナ戦争以前は大量のLNGを輸入していなかった」と付け加えた。

そのパイプライン・ガスはどうなったのか?ヨーロッパはボイコットを約束した。しかしさらに、ロシアとドイツを結ぶ最も重要なパイプラインの一部であるノルド・ストリームが、2022年9月に国際テロ行為によって爆破された。

誰がこの重要なエネルギーインフラを妨害したのかは不明だ。しかし、ピューリッツァー賞を受賞したジャーナリスト、シーモア・ハーシュは、それが米国政府であったと報告している。

そのため現在、EU加盟国は記録的なレベルでロシアのLNGを輸入している。皮肉なことに、EU加盟国は安いパイプライン・ガスに対して、以前よりもさらに高い金額を支払っているのだ。

フィナンシャル・タイムズ紙は、ヨーロッパが2023年1月から7月までにスポット市場でロシア産LNGを購入するために、およそ52億9000万ユーロを費やしたと報じている。

同紙は、「EU当局者は、2027年までにロシアの化石燃料を段階的に廃止する全体的な努力を指摘しているが、LNGの輸入を全面的に禁止することは、EUのガス価格が1メガワット時あたり300ユーロ以上という過去最高値を記録した昨年と同様のエネルギー危機を引き起こす危険性があると警告している」と指摘した。

ロシアは現在、ユーロ圏にLNGを輸出する第2位の国である。より多く販売しているのは米国だけである。

実際、欧州のエネルギー危機とロシアへの制裁により、2022年には米国が世界最大の液化天然ガス輸出国になった(カタールと同数)。

ヨーロッパの経済が苦しむ一方で、米国企業は利益を得ているわけだ。

同時に、西側の同盟国であるインドは、記録的な量のロシア産原油を市場価格よりも安く購入し、その原油を精製してヨーロッパに高値で販売している。

ヨーロッパは制裁のためにロシア産原油を直接買うことを拒否しているため、インドはロシア産原油をヨーロッパに売って大儲けしているのだ。

この自滅的な制裁政策は、ヨーロッパにエネルギー危機を煽り、経済を不況に追い込み、猛スピードで工業化を阻害している。

平均的な労働者はこの経済的苦痛の重荷を背負っている。

ユーロ圏の労働者の実質賃金は、2020年から2022年まで6.5%減少した。


米国非金融部門債務(青:企業債務、緑:政府国債債務、赤:家計)