釜石の日々

岩手県釜石市に移り住んで16年8ヶ月が過ぎ、三陸沿岸部の自然の豊かさに感動する毎日。

秋田の方言

2016-10-28 19:17:00 | 文化
先日秋田市へ行った。秋田県は岩手県に比べると方言を耳にすることが多い。岩手県は高齢者で方言を話す人に出会うが、比較的方言を耳にすることが少ない。しかし、秋田県に行くと、年齢や場所に関係なく方言が耳に飛び込んで来る。ある産直に寄った時に、店の入り口には「おざってたんせ」と書かれていた。秋田大学のよろず相談室によれば「どうぞおいでください」と言う意味だと言う。岩手では耳にしたことがない。東北は他の地域から見ると同じように見てしまうが、実際に住んで見ると、やはり同じ東北でも地域により違いがあるのが分かるようになった。無論、岩手と秋田で共通の方言もある。牛のことを「べこ」と呼ぶのは共通だ。日本の方言は地域によって区画分けされており、主に国語学者の東条操の区画に従っているようだ。それによると、東日本方言の中の東北方言に分類され、さらに南北の奥羽方言に分けられている。秋田方言は青森県、岩手県中北部、山形県沿岸部、新潟県阿賀北地域の方言とともに北奥羽方言に含められる。岩手の大部分は南奥羽方言に含まれる。同じく国語学者の金田一春彦は近畿地方を中心として同心円状に内輪方言、中輪方言、外輪方言、南島方言と区画し、近畿から離れるほど新しい変化だとしている。近畿が日本語の原型だと考えたようだ。歴史における近畿一元主義と同じく、国語学の近畿一元主義とも言える。しかし、東北の方言はとても近畿の言語が派生したものとは考え難い。「おざってたんせ」や「べこ」などは元になる近畿の言語とはかけ離れている。言語は歴史とも関連していることから、むしろ東北の方言は和田家文書にあるように縄文時代に北方からやって来た阿曽辺(阿蘇部)族や津保化族の使った言葉が遺残したものではないだろうか。東北の方言や地名にはアイヌ語があるとも言われるが、そのアイヌ語自体もまた縄文の二つの部族の影響を残しているように思われる。言語や民俗は歴史と密接であり、近畿一元主義ではかえって本来の姿が見えなくなってしまうだろう。江戸時代に東北に残された伝承や古文書を収集した和田家文書を無視することは出来ない。勝者の記録でしかない古事記や日本書紀には隠された史実がある。その隠された史実の片鱗はその土地の伝承や古文書から丹念に紐解いて行けば明らかになって行くだろう。岩手の古老の言葉は「通訳」が必要だが、秋田ではどの世代の言葉も「通訳」を要する。それだけ秋田では岩手よりも方言が顕著に生活に残されている。
秋田市久保田城趾のある千秋公園の秋