なだれ込み研究所の一日

物語作家を目指すもの書きが、ふとしたことから変な事務所で働くことに!
日々なだれ込んでくる人や仕事、モノやコト観察記。

動き続けること

2007-06-03 22:53:49 | スローライフ

昨日、掛川ライフスタイルデザインカレッジ・ベーシックプログラム「6月フォーラム」が行われた。講師は建築家で東京学芸大学准教授の鉄矢悦朗氏。タイトルは、「私の動きを変えた『デザイン教育』プロジェクト~『止まって考える』より『動きながら考える』が次の扉を開く~」である。

鉄矢氏は、冒頭「今日いちばん悩んだのは実は洋服。ライススタイルデザインカレッジなので、ラフでありながら真面目な感じを出したかった。最初に着たのは去年と同じのだった」と話された。「大真面目」と「なんちゃって」の両方がわかる鉄矢氏らしいエピソードだ。

建築家から大学の教員になって6年目。教育とは何だろうといつも考えるという。
「自分が持っているものだけ出していたらすぐからっぽになってしまう。デザインという性格上、自分が持っている情報だけでは古い。動き続けることが大切。そういう中で教える面白さと大変さを同時に感じる」

「デザイン教育とは、何を教えるのか。研究員からの言葉で、教育を『教える』と『育む』に分けて考えれば自分にもできると感じたという。歴史、技術は教えるもので、思考力と勇気は育むもの。勇気とは、行動につなげる勇気のこと。自分の教え方は『育む』の要素が強い。ツリーハウスプロジェクトも、掛川ひかりのオブジェ展プロジェクトも、『育む』機会として企画した。好奇心が行動につながっていくことが大事」

「学生たちは、その場その場の手探りの状況の中、場当たり的に実践しながら様々なものを学んでいった。こうしたデザイン教育は、教室では学べない。教科書にも載っていない。系統だてても教えていない。実感のないデザイン教育は不毛だと思う。実感のあるデザイン教育は、ボディブローのようにあとで効いてくる。私が経験したように」

どんな経験をしたのか、ぜひ次回、聞いてみたいものだ。
さて、そんな鉄矢氏が、最近の学生を見て感じることを「現代社会から消えているもの」という切り口で話されたのだが、それは、私たち大人への警告でもあるように感じた。

消えているもの。まずは、とんかち。
「ツリーハウスプロジェクトを通じて、とんかちを使ったことのない生徒がいることに驚いた。しかし、考えてみれば、都内のマンションに住む住人など、壁に穴を開けることもできず、庭もなく、部屋の中でトンカンやったら苦情がくる。とんかちが使えない社会であるということ。『とんかち』が消えるということは、たたく実感がなくなるということ。たたく実感がなくなるのは、異常ではないかと思う」

たき火。
「火を扱ったことのない学生を見ていると、『燃えるゴミ』『燃えないゴミ』の分別は暗記でしかないのだと感じる。ゴムを火に入れたときの臭い匂い、プラスチックを燃やしてしまってドロドロになった経験がないから、燃える、燃えないの実感が伴わない」

空き地。
「空き地はほとんどが駐車場になり、誰の所有かわからない土地が消えている。子どもたちは作られた公園で『自由に遊んでいい』と言われるが、私には、用意された空間で遊ぶことは気持ちの悪いことのように思える。大人の目のないところで楽しむ工夫してこそ、遊びなのに」

ここで私は、先日書いた「ハブ毛とリム毛の話」を思い出す。
「些細なものまでも常にきれいに保とうとする昭和の文化。心をかけたハブやリムの美しさは、気持ちがよいほどです。使い捨て文化の現代にはない昔の人たちの繊細な感性を感じます。今の時代こそ、ハブ毛&リム毛文化を堂々と主張すべきだと思います」
N村さんの言葉の中に、ハブ毛が生まれた背景に、自転車を快適にきれいに保とうと工夫する昭和のデザイン力を感じる。存在自体が汚いという自己矛盾はご愛嬌で、そこには自転車に対する愛がある。
これは、鉄矢氏の言っていた「デザインするとは」に通じるものだ。

デザインするとは――
工夫する
工夫をみつける
工夫を感心する
工夫を人に伝える
工夫を愛でる

美しくする
美しさをみつける
美しさを感心する
美しさを人に伝える
美しさを愛でる

鉄矢氏が私たちに問いかけた「消えるもの」を考えるということは、つまりは人間社会がどう変わってしまったのか、何に対してどう工夫するのかという価値基準がどう変わってしまったのか、その背景、その裏側、その先にまで想いを巡らすということなのかもしれない。

最後に、「先生は感性を磨くためにどんなことをされていますか」の質問に、鉄矢氏はこう答えられた。
「感動すること。『知ってる知ってる』で済まさないこと。状況や話す人が違えば、違った感動がある。違うものの見方ができる。次に反応すること。アクションの中から次につながり、次が生まれる」

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