なだれ込み研究所の一日

物語作家を目指すもの書きが、ふとしたことから変な事務所で働くことに!
日々なだれ込んでくる人や仕事、モノやコト観察記。

自転車とは何か

2007-05-10 23:50:42 | スローライフ

昨日、掛川ライフスタイルデザインカレッジ5月フォーラムが行われた。白鳥和也氏の講演は『自転車人間試論』。そもそも人間にとって「自転車とは何なのか」という、ある意味、哲学的な問いを投げかけられた気がした。その問いを発することも、その答えを実感することも、自転車に乗ることでしか感じられない。自転車を文学と同列に扱い、哲学をも感じさせながら、「まずは自転車に乗ってみようよ」と背中を押してくれるような講演だった。

今のような自転車ブームがなぜ起こったのか。
白鳥氏は、二つの答えを用意した。

まず一つ目は、1999年に出版された一冊の本『自転車通勤で行こう』(疋田智著)であるという。この本により、自転車の新しい価値が発見された。
例えば、東京から新宿まで何㎞くらいあるか。直線距離にして約6㎞。掛川駅から天竜浜名湖鉄道の原野谷駅くらいまでしかない。驚くほど近い。この本の読者の多くは、電車から自転車通勤に変えたことで、都内は驚くほど狭い世界だったと気づいた。東京という都市の巨大さが幻想だと分かった。と同時に、東京にも実は細い路地や人間くさい空間があることに気がついた。つまり、自転車に乗ることで、都市空間がリアリティを持って実感できた。

二つ目の理由。
現代は、何でも便利になり、身体を使わなくなっている。身体を使わないということは、生きている実感、生きること自体のリアリティが希薄になっているということ。今、自転車に乗る人が増えているのは、自分の身体を使って何かを体験したい人が増えているからだ。
自転車は、私たちに身体のあり方を教えてくれる。自転車に乗ると五感の感性が豊かになり、生きている感覚が増幅される。音の感覚が敏感になる。

さて、自転車とは何か。
自転車に乗らない人には、絶対思いつきもしない問いである。しかし、自転車に乗れば「自転車とは何か」を考え、「自転車とは何か」を自ずと実感できる。
表現者たる白鳥氏の言葉の数々をどうぞ。

「自転車は、その人の人生の中で行くべきところに連れて行ってくれる。10年、20年、30年経ってわかる。あのときのあの町、あの人との出会いはこういうことだったのかと」

「自転車に乗ることで、自分の町がどんな空気をしていて、どんな人が住んでいて、どういう町なのか、そしてどんなざわめきがあるのか、リアリティを持って感じさせてくれる」

「自転車に乗ると、季節の変化がわかる。夏は、だんだん夏に変わるのではなく、ある日突然夏になる。『今日、夏になった』と実感できる」

「自転車に乗り、ペダルをこいで進むことで人間は変われる。物事を肯定的に捉えられるようになる。例えば、車に乗っていると他の車は仲間に感じられないが、自転車に乗っていると、他の自転車は仲間であると感じる」

「環境のために自転車に乗るという考え方もあるが、環境のためだけだったら、二酸化炭素の出ない燃料電池が開発されればそれでいいわけだ。しかし、そうしたものがいくら開発されても、20㎞、40㎞、100㎞自転車で走る人は必ず出てくる」

「自転車は精神にとっての薬であり、心のツールなのである」

「自転車に再び乗るようになった大人は言う。『そういえば、子どもの頃はこんなふうに感じていた』と。自転車はタイムマシンでもあるのだ」

「自転車は、ものの見方を変えてくれる一つのメディアである」

「私は自転車と文学という全く関係なさそうなものを同列に並べているが、自転車も本も、自分で乗ってこがないと、自分で読まないと、その世界へ行くことができない。自転車と本の世界は、人が介入することで動き出す」

「自転車に乗ると、広くて新しい道が欲しいとは思わず、今ある道がいいのだ、今ある道が素晴らしいのだと感じる」

「相手と過去は変えられないが、自分と未来は変えられる。自転車は、そのツールになる」


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