なだれ込み研究所の一日

物語作家を目指すもの書きが、ふとしたことから変な事務所で働くことに!
日々なだれ込んでくる人や仕事、モノやコト観察記。

モノがコトに変わるとき

2006-10-27 20:15:29 | ビジネスシーン
今日は「モノ」が「コト」になるときの話をした。
私が「誰にも会わず、家に引きこもっている時間がほしい」と言ったら、S藤さんがこんなふうに言ったのだ。

「オレはフランス車が好きだろう。フランス車の雑誌を見たり、フランス車を見に行ったりして楽しんでいるわけだが、実際にフランス車に人を乗せて走ってうんちくをベラベラしゃべっているときが嬉しいわけさ」
「はあ……」
フランス車のことなど全く興味も知識もない私は、ちょっとテキトーに相づちをうった。
「K住さん! フランス車を例にしてるけれど、これは普遍的な話だぞ!」
「は、はいっ」
「フランス車はオレの好きな『モノ』だ。だけど、あいだに『人』が入ることで『モノ』は『コト』に変わるんだ」
「どうだ、わかったか!」という勢いだったが、後でじっくり考えてみて「なるほど」と思った。

私は本が好きだ。本を「物」だとは思っていないが、たしかに自分だけの世界にあるとき、本は「モノ」だ。けれど、同じ本を読んでいる人と本の話をするとき、本は二人をつなぐ「コト」になる。

そして思い当たった。
最近、「誰とも会わず、家に引きこもっていたい」と感じていたのは、本を読んでいないからだったと。それも新書ではなく、物語で。

現代社会の中で、今、一人になれる時間というのは少ない。こうして一人でブログを書いていても、どこかで人や社会とつながっているのを感じる。これは、私だけの見解かもしれないけれど、本は一人になれる。今、同じ時間、同じ本を読んでいる人がいようと、「読む」という行為は一人であり、「読んでいる世界」は私だけのものである。登場人物たちと時間を共有しようと、作者と価値観を共有しようと、やっぱり「一人」なのである。私はこの「たった一人」が好きだ。自分自身と対話できるこの静かな時間が好きなのだ。

今日、事務所に見えたYちゃりのY崎さんも、自転車に向き合って整備などしているときは、きっと一人なのだろう。だけど、みんなでサイクリングするときは、自転車が「モノ」から「コト」に変わる。

今、私の中の最優先事項は「物語を読むこと」なのだ。好きな作家の新刊もちゃんと手ともにある。私がページを開くのを待っている。
この豊かで静かな時間を過ごしたあとは、この本について誰かと話をしよう。私だけの大切な「モノ」が「コト」に変わる瞬間。
どちらも、今の私にとってとても大切なものだと、今日、気がついた。