ことの始まりは、S木くんが電話番号を教えまちがえたことだった。
YちゃりY崎さんから、NPO専門委員S木さんの携帯番号を聞かれたS木くんは、ライフスタイルデザインカレッジのスタッフ名簿から番号を教えた。Y崎さんがその番号に電話をかけると、なんと電話に出たのは北海道のK松さんだった!
「あ、あ、あれれ……、S木さんに電話をかけたはずなのに……」
と驚きながらも、せっかくだからとY崎さんは9月に行われたツールド北海道のことをあれこれ聞いた。K松さんは、仕事でツールド北海道に関わっている担当者なのだ。
「K松さんと話をしていてね、一般の人にサイクリングの楽しさを知ってもらうためには、バリバリのサイクリストが声を大にして『サイクリングは面白い!』と言ってもだめだという話になったんだ。絶対にサイクリングなんてしそうもない人が、よろよろしながらも走って、そうしたら面白かった、というふうにして周りを巻き込んでいかないと」
「そ、それって……、もしかして……」
私がおずおずと切り出すと、Y崎さんは電話の向こうでにっこり笑った(と思う)。
「そう、K住さんがサイクリングの本を出すんだよ!」
突然の話にびっくりしながらも、考えれば考えるほど、私しかいないという気もしてくる。
絶対にサイクリングなんてしそうもないインドア派の私が、自転車で40㎞を走った。サイクリストからすれば40㎞なんて「屁でもない」のかもしれないが、一般人からすれば「すごい!」のひと言。よろよろしながら、ゼーゼーしながら、それでも五感をめいっぱい働かせ、自転車で走ることの楽しさを感じた。
かといって、このままサイクリングにのめり込み、バリバリのサイクリストになることはあり得ない。
そんな、へなちょこサイクリストだからこそ書けること。今の私だから書けることがきっとあるはず。
「K松さんもS鳥さんもきっと寄稿してくれるよ。そうしたら、なかなか面白い本になると思うよ」
Y崎さんはS木さんの正しい電話番号を聞くと、「それじゃあ、構成も原稿もK住さんにまかせたから~」と電話を切った。人の心に突風を吹き込んでいって、自分は気楽なそよ風のように去っていった……。
ちょうど10日ほど前、事務所にS鳥さんが来て、こんな話をした。S鳥さんはサイクリストであり、平凡社から自転車関連の本を2冊出している(今度、3冊目が出る)作家であり、自転車文学研究室を主宰している文学青年(?)である。
「ボクの場合、書けない時期が10年くらいあったけど、あるとき突然書けるようになった。K住さんもきっと書けるよ。ここにいることで、いろいろな引き出しが増えると思うけど、書けるときって、まったく思ってもみなかった場所から出てくるものだよ。もしかしたら、そんな引き出しがあること自体、あるいはそんな場所が自分の中にあること自体、気づいていないかもしれないけど」
「そんなものでしょうか……」
「ああ、きっと」
今日の「サイクリングについて書く」ということも、まったく思ってもみないことだった。でも、たぶん、私ほど適任はいないような気もする。
ちょうどなだれ込んでいたF田さんの奥さんに言うと、
「K住さんの文章を読むと、私もサイクリングをしてみようかなって、ちょっと思いますもん」
と言ってくれた。F田さんの奥さんも、絶対にバリバリのサイクリストにはならないタイプ。
S木くんが電話番号を教えまちがえたばかりに、Y崎さんはK松さんに電話をし、こうしてめぐりめぐって、私のところに話がきた。不思議なものだと思いながら、打ち合わせから戻ってきたS木くんにそのことを話した。
「ええっ! ボク、まちがえて教えちゃいましたか。すみません」
あわてて名簿をめくるS木くん。
「あれえ~」
見ると、なんと、名簿の方が違っていた!
「この名簿って、私がつくっ……」
人生、やはり、めぐりめぐっている??
YちゃりY崎さんから、NPO専門委員S木さんの携帯番号を聞かれたS木くんは、ライフスタイルデザインカレッジのスタッフ名簿から番号を教えた。Y崎さんがその番号に電話をかけると、なんと電話に出たのは北海道のK松さんだった!
「あ、あ、あれれ……、S木さんに電話をかけたはずなのに……」
と驚きながらも、せっかくだからとY崎さんは9月に行われたツールド北海道のことをあれこれ聞いた。K松さんは、仕事でツールド北海道に関わっている担当者なのだ。
「K松さんと話をしていてね、一般の人にサイクリングの楽しさを知ってもらうためには、バリバリのサイクリストが声を大にして『サイクリングは面白い!』と言ってもだめだという話になったんだ。絶対にサイクリングなんてしそうもない人が、よろよろしながらも走って、そうしたら面白かった、というふうにして周りを巻き込んでいかないと」
「そ、それって……、もしかして……」
私がおずおずと切り出すと、Y崎さんは電話の向こうでにっこり笑った(と思う)。
「そう、K住さんがサイクリングの本を出すんだよ!」
突然の話にびっくりしながらも、考えれば考えるほど、私しかいないという気もしてくる。
絶対にサイクリングなんてしそうもないインドア派の私が、自転車で40㎞を走った。サイクリストからすれば40㎞なんて「屁でもない」のかもしれないが、一般人からすれば「すごい!」のひと言。よろよろしながら、ゼーゼーしながら、それでも五感をめいっぱい働かせ、自転車で走ることの楽しさを感じた。
かといって、このままサイクリングにのめり込み、バリバリのサイクリストになることはあり得ない。
そんな、へなちょこサイクリストだからこそ書けること。今の私だから書けることがきっとあるはず。
「K松さんもS鳥さんもきっと寄稿してくれるよ。そうしたら、なかなか面白い本になると思うよ」
Y崎さんはS木さんの正しい電話番号を聞くと、「それじゃあ、構成も原稿もK住さんにまかせたから~」と電話を切った。人の心に突風を吹き込んでいって、自分は気楽なそよ風のように去っていった……。
ちょうど10日ほど前、事務所にS鳥さんが来て、こんな話をした。S鳥さんはサイクリストであり、平凡社から自転車関連の本を2冊出している(今度、3冊目が出る)作家であり、自転車文学研究室を主宰している文学青年(?)である。
「ボクの場合、書けない時期が10年くらいあったけど、あるとき突然書けるようになった。K住さんもきっと書けるよ。ここにいることで、いろいろな引き出しが増えると思うけど、書けるときって、まったく思ってもみなかった場所から出てくるものだよ。もしかしたら、そんな引き出しがあること自体、あるいはそんな場所が自分の中にあること自体、気づいていないかもしれないけど」
「そんなものでしょうか……」
「ああ、きっと」
今日の「サイクリングについて書く」ということも、まったく思ってもみないことだった。でも、たぶん、私ほど適任はいないような気もする。
ちょうどなだれ込んでいたF田さんの奥さんに言うと、
「K住さんの文章を読むと、私もサイクリングをしてみようかなって、ちょっと思いますもん」
と言ってくれた。F田さんの奥さんも、絶対にバリバリのサイクリストにはならないタイプ。
S木くんが電話番号を教えまちがえたばかりに、Y崎さんはK松さんに電話をし、こうしてめぐりめぐって、私のところに話がきた。不思議なものだと思いながら、打ち合わせから戻ってきたS木くんにそのことを話した。
「ええっ! ボク、まちがえて教えちゃいましたか。すみません」
あわてて名簿をめくるS木くん。
「あれえ~」
見ると、なんと、名簿の方が違っていた!
「この名簿って、私がつくっ……」
人生、やはり、めぐりめぐっている??