時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

高学歴難民の行方

2006年07月21日 | グローバル化の断面

  景気の好転で、大卒者の就職難のピークは過ぎ、人手不足の様相が前面に出てきた。しかし、大卒、大学院卒などの高学歴者の労働市場には、以前から別の問題が露呈している。  

「高学歴難民」の行方
  高学歴者が社会のニーズに質的面で対応ができず、就職できない問題である。「高学歴難民」とも言われている。学士より修士、修士より博士が就職に不利という逆転現象が起きている。これは、先進国にかなり共通の問題であり、グローバル化のひとつの断面でもある。例外はアメリカで、専門職の労働市場が形成されていて、こうした問題はほとんど指摘されていない。

  中国でも大卒者が供給過剰となり、就職難が深刻化している。中国では1999年、高等教育をエリート養成から大衆化路線に切り替えた結果、大学新入生定員枠が1998年から2005年までに一挙に4倍以上に拡大した。その結果、大卒者が過剰となり、2005年の新規大卒者の就職率は、せいぜい73%にすぎない。学生が就職活動に奔走するようになっている。過熱気味の中国経済といえども、吸収できない状況が生まれている。

  この背景には乱立した大学が、社会の要請に応えうる学生を送り出していないこともある。学卒者の知的水準が大きく低下している。インドの理工系大学が、IT革命に対応しうる学生を多数養成しているのと大きく異なる点である。

高級?配管工へ
  ヨーロッパの先進国の間でも、ドイツでは年間新卒者数に匹敵する23万人が失業状態と推定されている。ブレア政権が大学進学率の向上を推進したイギリスでは、単純労働の仕事しか見つけられない高学歴者が社会問題化している。

  イギリスでは熟練配管工が年4万ポンド以上稼いでいると知って、ホワイトカラーが「高級?配管工」として転職を目指すとまでいわれる。ロンドンではベビーシッターが平均21000ポンド以上の年収も得ており、住み込みで家賃は不要、報酬だけをみると新米教師よりも上だという。

  学歴化さえ高ければ自分の商品価値も上がるという安直な考えで進学した学生、そして親の過剰な教育熱の結果でもある。
  
  国の無責任な政策の犠牲は、たとえば日本の法科大学院政策にも反映している。本来の目的であった専門性の高い法曹人材の養成という側面は、政策の見込み違い、不適切な対応などもあって後退し、代わって資格取得のための受験技術重視への傾斜が顕著になっている。これでは、なんのための制度改革かも分からない。

  大学に入学したものの勉強する意欲もない学生に、手取り足取りして、「勉強していただく」プログラムも盛んである。これでは「大学」ではなく「小学」と思うほど、大学側の志も低くなっている。大学は「大学」の名にふさわしい学生を世の中に送り出す社会的責務がある。質の伴わない高学歴は、「百害あって一利なし」であることを関係者は十分認識する必要がある。


Reference
「学歴難民クライシス」Newsweek 2006年6月7日
「中国、低廉労働力が減少」『日本経済新聞』2006年6月9日

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