時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

破綻した外国人研修制度(1)

2006年08月19日 | 移民政策を追って

  意図や方針は必ずしもはっきりしないが、『朝日新聞』が「時時刻刻」シリーズで、労働問題にかなり力をいれている。一面トップで、偽装請負に続き、外国人研修・実習制度が取り上げられている。確かにグローバル化、市場原理の積極導入の過程で、過労死、長すぎる労働時間など、日本の労働環境は急速に劣化している。そして、それを抑止すべき制度の形骸化が著しい。

 とりあげられている問題の多くは、かなり前から深刻化し、改善が求めれられていたにもかかわらず、 部分的な対応の手直しなどで、抜本的な措置が講じられることなく、事態の悪化につながってきた。

  外国人研修・実習制度にしても、1990年代からその形骸化は指摘されてきた。表向きは「単純労働」(当初から意味不明な用語)の受け入れを認めないとしながらも、使用者側の圧力に押されて実質上、不熟練労働者を受け入れる「偽装された」仕組みが、この制度であった。

  制度の導入当初から悪用される可能性は指摘されていた。開発途上国からの研修生を「研修」という響きのよい名称の下で、実際には安い手当てで「働かせる」という実態が広がっていった。外国人労働者問題は多くの関係者の利害が絡み複雑であり、こうした制度も多少の試行錯誤は必要かもしれない。しかし、導入されてまもなく、制度が本来目指す方向へは進んでいないことが明らかになった。外国人労働者の調査をすると、この制度が日本人が働きたがらない分野で外国人労働者を受け入れる「隠れ蓑」であることは、多くの人が知っていた。もっと早い時期に抜本的改革を行うべきであった。

  日本人が働かなくなったきつい分野の仕事を、最低賃金にも達しない低賃金で外国人に押しつけ、働かせている実態がどうして「技能移転」といえようか。彼らの母国の発展に役立つ熟練・技能はなにも身につかない。日本についてのマイナス・イメージだけを持ち帰ることになる。

  「技能移転(」研修)と「就労」という異なった役割を、ひとつの制度に折衷すること自体が元来無理なのである。制度導入当初から破綻は目に見えていた。透明性がない制度は、必ず悪用されるか、機能しなくなる。現状の制度は複雑化の弊害や現実との間隙の大きさなど、機能不全に陥るのが当然という状況にまでなってしまっている。こうした制度は数多い。最低賃金制もそのひとつである。時給300円で外国人研修生が働かされているという実態が、研修制度ばかりか
最低賃金制も破綻していることを端的に示している。

  現在提案されている改善策?の多くは、相変わらずほころびを繕おうとする範囲にとどまっている。一部のグループの権益維持などのために、制度が歪んでしまっている。「國際化」に対応という表現が使われていても単に言葉の上だけであり、真の國際化とはほど遠い。1980年代以降、日本も外国人労働者問題についてかなりの経験を積んだはずである。問題の根源に立ち戻り、透明度の高い政策の再確立を望みたい。


Reference
「外国人実習生低賃金で酷使、雇用側の不正増加」『朝日新聞』2006年8月17日
   

コメント
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