時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

ラ・トゥールの書棚(4):楽しい手引き

2006年08月07日 | ジョルジュ・ド・ラ・トゥールの書棚
  ラ・トゥールという画家が長らく闇に埋もれていた背景のひとつに、現存する作品がきわめて少なく、真作を目の前にする機会が限られていることを挙げることができる。最も多数を保有するルーヴルでも一部分(6点)しか見られない。そのために、世界の各地で時々開催される特別展などは、この画家の作品をまとめて鑑賞できる大変貴重なチャンスとなる。

  日本で近い将来、再び昨年のような特別展が開催される可能性はきわめて少ないが、比較的楽に海外に行かれるようになった今日では、どこに作品があるかを知っていれば実物に対面できる機会も生まれるだろう。この謎に包まれた画家の時代背景,生涯などを知っていれば、実際に作品を見る機会があれば、理解はさらに深まるだろう。

  ラ・トゥールの愛好者にとって、日本語で書かれ、しかも最も充実した最新の鑑賞の手引きは 昨年、国立西洋美術館で開催された際のカタログである(これについては、改めて紹介の記事を書くつもり)。しかし、大部のものであり、もっと手軽に参考になる書籍はないだろうかと聞かれるとちょっと困る。フランス語、英語では格好の手引きがいくつかあるのだが、日本語文献自体がきわめて少ない。

  今日は、フランス語版ではあるが、きわめてハンディでしかも充実した手引きを紹介してみよう。次の小冊子である。

Olivier Bonfait, Anne Reinbold, et Veatrice Sarrasin. l'ABCdaire de Georges de La Tour. Paris: Flammarion.1997. pp.119.

    表紙にはあの「いかさま師」の謎の召使が描かれている。手引きといっても、内容はかなり濃密である。簡単な年表から参考文献、作品を保有する美術館、索引まで含まれている。というのも、小冊子といえども、書き手はラ・トゥールの中堅研究者たちであり、かなり力が入っている。簡単な記述の中に最先端の研究成果が盛り込まれていて感心する。

  この限られた紙幅に出来るかぎりの情報を盛り込もうとする方法は、以前に紹介したことのあるキュザン=サルモンの著作ときわめて類似している。同年次の出版である。

  ラ・トゥールの出自、画家に影響を与えた同時代の画家の作品との比較など、この画家と作品を理解するための材料が小さなスペースにぎっしりと詰め込まれている。ラ・トゥールの研究史に登場する主要な材料は、ほとんど登場する。

  印刷も大変きれいである。というのも、出版社は美術関係では著名なFlammarionである。手元において時々眺めるだけでも大変楽しい読み物である。

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