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ミリーの短編小説 その1

2013-07-30 06:42:11 | ショートストーリー
なんとなく不安な感じがした。

ぼくは、その日ミリーを街で見かけた。その時ぼくはマリと一緒に歩いていたので、声をかけることはしなかった。ミリーは一人で歩いていた。すれちがう時、こちらを見ていた。その目がなんとなく不安そうにしているように思った。声をかければ良かったと後になってから思った。でもぼくはいつもとっさに行動がでてきない。それは、よく考えてから行動するのがくせになっているからだ。でも、そんな自分が憂鬱で不安になる。

ミリーを見たのは半年ぶりくらいだった。高校で同じ部活にいた。ぼくとミリーがいたのは文芸部だった。ぼくたちのいた文芸部では、文化祭の時に部員全員で雑誌を出版していた。2年の時、ミリーは短編小説を書いた。それは、一部の生徒の間で話題になった。その内容は、ぼくたちの高校を舞台にしたSFだった。登場人物も名前は変えてあるけど、実際の生徒や先生がモデルであることがなんとなくわかる。意図してわかるようにしているのかもしれない。でも、主人公は誰がモデルか分からなかった。少なくとも、ぼく以外の人には分からなかったと思う。でも、ぼくにはわかった。以前一度だけ部室でミリーと二人で話した会話の内容がほとんどそのまま使われていたからだ。

ぼくはなんとなくうれしかった。ミリーはあまり人と話したりはしないが、前からぼくは気になっていた。それで、部室で二人だけになったとき聞いてみた。
「ミリーの話の主人公って、ぼくをモデルにしてる?」
ミリーは少し驚いたようだった。突然ぼくが話しかけたことに驚いたのかもしれない。ミリーは何と言ったらいいのか考えているようだった。でもその後すぐに他の部員が部室に来たので、その日はミリーとはそれ以上何も話さなかった。
次の日の放課後、ぼくはいつもより早めに部室に行ってみた。そこには、ミリーがいた。他には誰もいなかった。ミリーは少し緊張した感じで、ゆっくりと言った。
「この話の主人公にモデルはいない。主人公だけじゃない。他の登場人物も、誰か特定の人をモデルにした覚えはない。似てるとしたら、それは偶然。」

ミリーはあきらかにウソをついていると思った。こんなに淡々とした話し方でなければ、冗談だと思っただろう。でも、その時のぼくはミリーに言われたこの言葉が、すごく距離を置かれているように感じ、それ以上何も言い返せなかった。
次の日、ミリーは休みだった。そして、その次の日ミリーは転校したと聞いた。

===

3年生になって、ぼくは部活を辞めた。大学入試のために、塾に行くようになっていた。マリとは、その塾で知り会った。別の高校だった。ぼくと違い、人付き合いの良い、明るい感じの子だ。その日、マリに誘われて王立図書館に行く途中だった。マリは、ぼくに好意を持っているようだった。でも、ぼくはそれに気付かない振りをしていた。ぼくは、あの日からずっとミリーのことが気になっていた。ミリーはなぜ急に転校したのか?どこに行ったのか?それなのに、その日ミリーに声をかけることができなかった。そんな自分がいやになる。
図書館からの帰り道で、ミリーを見かけた辺りを通ったとき、そこに、ミリーがいればいいと思った。しかし、もちろん、ミリーはいなかった。マリと別れ際に、マリは明日も図書館に行こうとぼくを誘った。ぼくは、用事があると言って断わった。

次の日、ぼくは一人でミリーを見かけた辺りに行ってみた。そして、その場所にしばらく立っていた。前の日ミリーを見かけたのと同じ時間になったとき、遠くをミリーが歩いて来るのが見えた。ミリーはまだ気付いていないようだ。ミリーは前の日と同じように不安そうな表情をしていた。しかし、昨日と違い、ミリーは他の男と一緒に歩いていた。ぼくは、とっさに隠れた。一緒に歩いているのは、ぼくの知らない男だった。同じ歳くらいだろう。二人が近くを通ったとき、男の言葉が少し聞こえた。明日、ルナソルのファーストパークで待ち合わせしようというような内容だった。ルナソルとは、月の3番目の都市だ。ぼくは、ミリーがどこか遠い存在になってしまったように感じた。結局、また声をかけることはできず、家に帰った。

その日の夜、ぼくは夢を見た。なぜだか、ぼくには超能力が備わっていて、ミリーからのテレパシーが聞こえるのだ。ミリーはテレパシーで、ぼくに助けを呼んでいた。あの男は、ルナソルのマフィアのドンの息子で、ミリーの不思議な力を狙っているというのだ。なんだか、すごくリアルな夢だった。

目が覚めても夢の内容は、はっきりと覚えていた。この夢はもしかしたら、本当のことなのか、そんなことをぼんやりと考えていたら、テレビにあの男の写真が出ていたのを見た。ルナの「希望の光」という組織の幹部であり、ある暴力事件の重要参考人として捜索中ということだった。ぼくは何がなんだか分からなくなった。

ぼくは携帯端末だけ持って家を飛び出した。そして、エアポートまで行き、月行きのバスに乗った。

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