東京新聞
2013年9月5日
福島原発事故で生じた損害賠償をめぐる懸念が広がっている。東京電力に対する請求権が民法の定める三年の時効で来年三月以降に失効する恐れがある。時効の延長を含めた新たな立法が急務だ。
「被害を知った時から三年間に請求しない場合は時効によって権利を失う」。民法七二四条のこの規定が原発事故に適用されると、請求権は来年三月十日から失効していく可能性が高い。
東京電力は原発事故後、国が決めた避難指示区域などの住民十六万人に対し、一世帯百万円(単身七十五万円)を仮払いし、土地や建物などの賠償を本格化させようとしている。
賠償額は原子力損害賠償紛争審査会が認定基準を決めた中間指針に基づくが、生活を立て直すには不十分だと指摘されている。故郷に戻れるのか、戻るのか、避難先で新たな生活を築くのか-。見通しの立たない中で請求を迷う人や、請求の仕方が分からない人。時効があることを知らないで請求権を失う人も出てくるだろう。
原発事故は通常の不法行為とは違う経験のない災害である。何の落ち度もなく困難な生活に追い込まれた人に規定を当てはめ、請求権を失わせてはならない。できる限り長く請求できるよう、年内にも時効の適用を外し、延長させる新たな法律を作るしかない。
先の国会で時効中断に関する特例法が成立した。だが、この法律が適用される人は限られている。被害者と東電の間で交渉を仲介する原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に申し立てて仲介が打ち切られた人と、一部だ。
二年前に開設したADRは当初、仲介委員などが足りず、和解案が示されるまでに平均七カ月もかかっている。組織になじみがなかったりして、八月末までの申し立ては七千五百件にすぎない。仮に被害者が時効前に申し立てに殺到しても対応しきれないだろう。
日弁連は新たな特別法について、年内に通常の債権と同じ「十年」に延長し、法施行後に賠償の進み具合をみてさらに延長▽甲状腺がんなど健康被害や土壌汚染などの被害は明らかになった時を時効の起点-と主張する。
忘れてならないのは、東電が債務を認める、被害を与えたと認める十六万人は、実態とはかけ離れて国が線引きした人で、その外側には低線量被ばくにもおびえる膨大な被害者がいることだ。被害の全容はつかめていない。賠償請求の道を閉ざしてはいけない。
2013年9月5日
福島原発事故で生じた損害賠償をめぐる懸念が広がっている。東京電力に対する請求権が民法の定める三年の時効で来年三月以降に失効する恐れがある。時効の延長を含めた新たな立法が急務だ。
「被害を知った時から三年間に請求しない場合は時効によって権利を失う」。民法七二四条のこの規定が原発事故に適用されると、請求権は来年三月十日から失効していく可能性が高い。
東京電力は原発事故後、国が決めた避難指示区域などの住民十六万人に対し、一世帯百万円(単身七十五万円)を仮払いし、土地や建物などの賠償を本格化させようとしている。
賠償額は原子力損害賠償紛争審査会が認定基準を決めた中間指針に基づくが、生活を立て直すには不十分だと指摘されている。故郷に戻れるのか、戻るのか、避難先で新たな生活を築くのか-。見通しの立たない中で請求を迷う人や、請求の仕方が分からない人。時効があることを知らないで請求権を失う人も出てくるだろう。
原発事故は通常の不法行為とは違う経験のない災害である。何の落ち度もなく困難な生活に追い込まれた人に規定を当てはめ、請求権を失わせてはならない。できる限り長く請求できるよう、年内にも時効の適用を外し、延長させる新たな法律を作るしかない。
先の国会で時効中断に関する特例法が成立した。だが、この法律が適用される人は限られている。被害者と東電の間で交渉を仲介する原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に申し立てて仲介が打ち切られた人と、一部だ。
二年前に開設したADRは当初、仲介委員などが足りず、和解案が示されるまでに平均七カ月もかかっている。組織になじみがなかったりして、八月末までの申し立ては七千五百件にすぎない。仮に被害者が時効前に申し立てに殺到しても対応しきれないだろう。
日弁連は新たな特別法について、年内に通常の債権と同じ「十年」に延長し、法施行後に賠償の進み具合をみてさらに延長▽甲状腺がんなど健康被害や土壌汚染などの被害は明らかになった時を時効の起点-と主張する。
忘れてならないのは、東電が債務を認める、被害を与えたと認める十六万人は、実態とはかけ離れて国が線引きした人で、その外側には低線量被ばくにもおびえる膨大な被害者がいることだ。被害の全容はつかめていない。賠償請求の道を閉ざしてはいけない。