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信州岩波講座2016講座Ⅱ 佐藤優さん「沖縄と日本」

2016年09月06日 | 信州岩波講座
ー沖縄問題は構造的差別の問題ー




 8月27日(土)の講座Ⅱは、佐藤優さん(作家・元外務省主任分析官)が、「沖縄と日本」と題して、およそ650人の聴講者を前に、民族や差別の観点から講演しました。

 沖縄の問題が日本人の間で理解されないことの背景には民族の問題がある。イングランド人やロシア人は、スコットランド人やチェチェン人の独立運動のことを理解できない。日本と沖縄の関係も同様で、多数派は少数派を理解できない。
 1952年のサンフランシスコ条約締結までは、日本全土が占領下で「平等」だった。しかしその後は沖縄が差別され続けている。1952年当時、在日米軍基地の比率は沖縄10%対本土90%だった。現在は日本の面積の0.6%にすぎない沖縄に74.5%もの基地が集中している。
 基地と原発の問題を同一とする考え方があるが、過程が全く違う。原発は一応「民主的」手続きを経て合意の上に成り立っているが、沖縄の基地は強制的に接収されたもので、民意の承認を得ていない。
 米軍属の男による女性強姦殺害事件について、翁長知事はオバマ大統領来日に際し直接訴えたいと考えていた。しかし政府は「外交は政府の専権事項」としてこれを認めなかった。東京で同様の事が起きたらどうなるのか。沖縄人と日本人の命は等価なのか? 沖縄と日本のギャップは広がり、不可逆的な状況になっている。沖縄を犠牲にしてまで日本全体のために働く意思はないというのが沖縄人の多数派になりつつある。日本人の当事者性が問われている。
 
 フロアからは70余りの多様な質問が寄せられましたが、沖縄関連では、「政権の中枢にいる人たちが沖縄問題を理解していない。ここ数年の中央政府の沖縄に対するやり方は余りにも無神経」「地政学的に沖縄基地は必要という考えは全く間違っている」「沖縄の貧困問題は深刻だ。基地を縮小する方が貧困の解決につながる」などと述べました。

信州岩波講座2016講座Ⅰ 高橋源一郎さん「ことばの復興のために」

2016年09月06日 | 信州岩波講座
「私が考え選ぶ明日」を基本テーマとする第18回信州岩波講座は8月6日に始まりました。


ー「ことばの再定義」が大切―




 講座Ⅰは高橋源一郎さん(作家・明治学院大学教授)が「ことばの復興のために」と題して講演。およそ480人の方が聴講。大学での講義のようにステージ上を移動しながら、ユーモアを交えて語りかけました。

 今の20代・30代の人が野間宏や椎名麟三を知らないからといって驚くことはない。彼らはそうした昭和文学の作家たちが〝存在しない世界〟に住んでいるのだ。しかし、例えばドストエフスキーを学生たちに読ませれば、結構キチンと読んでいることが分かる。あるもの(それは時代によって変わる)を読んで感動するということは昔も今も変らない。
 8月8日の「天皇のおことば」で〝戦後〟は終わり、未知の世界に入っていく。そこで大切なことはきちんとものを考えることだ。他人の言うことをそのまま信用するのではなく、自分の頭で考えること、ことばを「再定義」することが大切だ。「民主主義を守れ」というとき、「民主主義って何だ」というように。憲法をめぐっても9条だけでもさまざまな考え方があるが、やはり「憲法って何」という再定義が必要で、その上で一から考えることだ。
 文学には多様性がある。何も否定しない。それは政治とは正反対の世界だ。戦後は終わるが闘う手段はある。最終的には個人個人の再定義で時代に立ち向かうこと。そこに文学の必要性がある。「ことばの復興」とは、衰えてしまったことばや概念が新しい意味をもつことだ。

 後半の質問に答えるコーナーでは、夏目漱石の評価、オバマ大統領の広島演説、弱者を排除しようとする風潮、若者と政治、立憲主義などの問題について、丁寧に答えていました。