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第21回信州岩波講座 8/24講座Ⅱ 福岡伸一氏

2019年09月26日 | 信州岩波講座
チョウ、フェルメール…AIをしのぐ「動的平衡」の生命
         オタク少年が重ねた出あいと学びの旅路
 

 福岡伸一さん<科学と美術>大きな連環で描く
第21回信州岩波講座の講座Ⅱは8月24日、青山学院大学教授の福岡伸一さんが「AIと人間」のテーマで話しました。少年時代の発見の喜びから生物学者へと学びの旅路をたどりつつ、社会に影響力を増すAIをしのぐ生命体のたくましさ、巧みさをわかりやすく説き起こし、先端科学と共に生きるためのしなやかな指針を示してくれました。
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 太く濃いまゆ毛がトレードマークの福岡さん。でもメガネごしの目は優しく「オタク」と「出あい」の2つのキーワードをもとに、笑顔をたやさず語り続けました。
そのひとつは「チョウ・虫のオタクだった」少年時代。本と顕微鏡の世界との出あいに始まった試行錯誤の学び。もうひとつは留学体験を通じて、先見的な業績にふれ「私にとってのヒーロー」となったユダヤ人の生化学者ルドルフ・シェーンハイマー。そして独特な美の世界にひきこまれ「オタク」となったオランダ人画家フェルメールとの出あい。  
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一見したところ、バラバラに映るキーワードと出会いが、ものごとの源流をさぐり原点を確かめる道すじでは重なり合うと説明。結果として福岡さんが研究の核にたどり着いたのが「動的平衡」という生命体の捉え方という。
私たちの身体は、プラモデルのような静的なパーツから成り立っている分子機械ではなく「絶えず自らを分解しながら、新しい状態につくり替えていくダイナミックな流れの中に成り立っている」。福岡さんが魅了された<美術の世界>もまた色彩の変化や遠近法の“動的な状態”にあるのだとして、科学との大きな連環のなかで描いてくれました。
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講座のテーマに掲げたAI社会のゆくえに言及することは多くはありませんでした。しかし、動的平衡をもとに「AIは集積したデータをもとに、なにかを提案することは得意なコンピューター。しかし、生命のように自分自身を壊しつくり替えていくことはできない。恐れるに足らない」と、AIと生命のバランスをはかる視点を力説しました。
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圧巻だったのは、動的平衡と戦争の関わり。会場とのやりとりで「戦争という破壊行動も人間社会の“動的平衡”なのでは」という質問に「それは違います」ときっぱり否定。<種の保存>に生きる他の生物とちがい「人間のみが<個の存在>として生きることを位置づけられています。それが生産性とか障害、病気などには関わりない万人の基本的人権。それを踏みにじる戦争は、真の動的平衡の意味とは異なります」
専門の枠をこえた福岡さんの普遍的な広がりのある視点が浮き彫りにされた場面でした。