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第20回記念信州岩波講座2018 講座Ⅱは樋口陽一氏と中島岳志氏、講演と対談

2018年09月26日 | 信州岩波講座
樋口陽一氏(東京大学名誉教授) 「戦後日本」を「保守」することの意味
中島岳志氏(東京工業大学教授) 死者の立憲主義

保守すべき「戦後」とは…死者と共に立憲の志を
─ 樋口さんと中島さん 深掘り対論 ─

歴史に照らし「ことば」の捉え直し
 2018信州岩波講座の本講座Ⅱは9月15日、須坂市メセナホールで東大名誉教授の樋口陽一さん(84)と東京工業大学教授の中島岳志さん(43)が登場しました。深い学識と気鋭の論客による、時代に対する危機感あふれる講演で盛り上がり、会場から多く寄せられた質問をもとにした“老若対論”の活況で締めくくりました。
 この日の講演テーマは、樋口さんが「『戦後日本』を『保守』することの意味」、中島さんは「死者の立憲主義」。


 <保守><立憲>に限らず、日ごろメディアにあふれ、私たちが使っている民主、自由、主権、伝統、革命、民意といった言葉は、──見バラバラ状態に映ります。どんな歴史のなかに生まれたか、どんな結びつきがあるのか──お二人はそれぞれの専門分野の立場から、明治維新からの150年、日本国憲法の戦後の文脈のなかに、あらためて言葉をつなぎ直し、めざすべき<くにのかたち>の方向をわかりやすく話していただきました。
 とくに、樋口さんは、戦後の自由の意味には「制約されるべきでない“心の自由”」と「制約されるべき“カネ(経済)の自由”」の両面があり、いまの課題に通じるダブルスタンダードに向かい合う必要がある、と鋭く指摘。


 また、中島さんは東日本大震災を外国で知ったことと、編集者の友人を亡くした体験をもとに、なにが大事で伝えていくべきか──「死者の志」とともに生きることではないか」と語りかけ、根っこにある“研究者の発意”をのぞかせました。


 講演を控え、お二人は興味深いエピソードを披露しました。敗戦時、仙台で学生だった樋口さんは同級の作家、故井上ひさしさん、1年先輩の俳優、同菅原文太さんを追憶し「自由な校風で戦時中でもゲートルを巻くのを強制されなかった。未成年でお酒も飲んだ」。
 中島さんは「3歳になる息子が“大相撲オタク”で御嶽海ファン。なんにも教えないのに戦前力士のしこ名まで漢字で読める。勝負を挑まれるのが体にこたえる」。
 戦後日本の初心や、親から子への継承といった、いずれも講演本番の内容につながっていく印象深い“秘話”でした。

 日程を終えたお二人は、20回を迎えた岩波講座について、地元CATVのインタビューなどに「知人、友人が多く講師となってきた節目に招かれ、うれしい気持ちで話すことができました」(樋口さん)、「どなたも席を離れず、涙をぬぐう方もおり感銘しました。30回、40回と続いてほしい」(中島さん)と語っていました。

第20回記念 信州岩波講座2018 トップに丹羽宇一郎氏 熱っぽく

2018年09月18日 | 信州岩波講座
元中国大使 丹羽宇一郎氏 
    「日本の国是と未来の姿」



“ハプニング”重なり 会場湧きたつ
 信州岩波講座2018本講座が9月8日、須坂市メセナホールで開幕しました。「今、くにのかたちは-歴史と向き合う」を基本テーマとする節目の第20回。
 皮切りには「日本の国是と未来の姿」のテーマで、元中国大使の丹羽宇一郎氏が登場。「安全保障とは憲法の平和を守り自由貿易のもとで生活を発展させること。それが<国是>。防衛(軍事)の方向とは違うのに、今は本道を歩んではいない。何のために生きるかを問い、自分の声を挙げて」と熱っぽく訴え、約470人の聴講者に共感が広がりました。
 今回は緊張感のなかハプニングに始まり、ハプニングに終わる活気にあふれた会場となりました。
 あらかじめパワーポイントで中国指導部の顔ぶれが並ぶ資料を用意して臨んだ丹羽さん。冒頭、なにか会場の雰囲気が琴線にふれたかのように「教育熱心な土地柄で話すことを楽しみに来ました。資料を使うのをやめ、違った話題で話したい」と驚かせました。
 約1時間半の講演のなか、丹羽さんは抑えきれない思いがあふれ出すかのような場面が見られました。

▽歴史には後になって悔やんでも、もはや戻れないターニングポイントがある。だからいったじゃないか、とこの世を去るわけにはいかない。
▽戦争の体験を語る人びとが少なくなっていく。残虐な実態、国は国民を助けてくれたりはしない真実が若者には伝わらない。ゲームの世界と同じと思い、殺す殺される人間が見えていない。
▽日本の未来、くにのかたちをどうするか-革命的、ベストな道はない。10年、20年の先を考えるベターチョイスとして進むしかない。考えが左、右だからと選択することではない。
▽政治のトップは「声なき声」を100%自分の支持と受けとめる。勇気を出して、できる範囲で自分の声を出さないと。



「じっと座っていては、世界は変わらない」
 講演を終えたところで、またハプニングが起きました。今回はすぐ帰京する急ぎの日程のため、会場との質疑応答は予定されていませんでした。しかし、控室に引き揚げる途中「岩波講座は会場から質問がたくさん寄せられるのが定番です」と伝えると「それならぜひ聴いて応えたい」と再登壇してくれました。
 さっそく会場から「中国大使退任」と「いま個人が成すべき具体的なこと」の質問2点が出され「私はカネや名誉でなく日中関係のためにいうべきをいうが基本。政治の方で使いにくくなったのでは…。官僚の役割を大事にせず、政治が動きすぎた面も」と率直な感想。また「じっと座っていては世界は変わらない。勇気を出してはがき1枚でも発信することが大事」と奮起を促しました。
 丹羽さんの著書の末尾には「印税は著者の意向に寄付されます」と記されています。贈り先は会長を務める日中友好協会と、かつて会長だった国連食糧計画協会。前者は中国からの留学生向け奨学金、後者はアフリカの子どもたち向け食糧支援です。行動する知の人らしい現地体験に基づく「個人が成すべきこと」としています。

「高校生編」の挑戦!夏川草介さんを招いて200人が聴講

2018年09月17日 | 高校生編
8月25日 信州岩波講座~高校生編 
講師は『神様のカルテ』著者 夏川草介氏
「本は友だち 少年の日々、読書の日々」




 この夏、信州須坂の高校生たちの数年越しの夢がかないました!
 8月最後の土曜日に行われた「信州岩波講座・高校生編」に、須坂の高校生が会いたい作家3年連続第1位(信州岩波講座・高校生編運営委員会内で行ってきたアンケートの結果)の夏川草介さん(医師・小説家)(長野県在住)にお越しいただくことができたのです。
 「神様のカルテ」の主人公に作者の姿を重ねるかたは多いことでしょう。「本は友だち 少年の日々、読書の日々」と題して、ご自身の読書遍歴を真正面から語られた夏川草介先生は、そのイメージに勝る読書家でした! 絵本との出会い、はじめて徹夜で読んだ本、濫読ぶりは漱石にとどまらず、朗々たる『山月記』の暗唱には会場全体で聞きほれました。
 一流の講師から一生の宝物になるお話が聞ける信州岩波講座。須坂市の高校に通うすべての若者に聴講して巣立っていってほしいと願っています。けれども、「高校生編」は、高校生たちに根づいてはじめて活字文化のすばらしさを伝える場になるのです。「自分たちの講座」。彼ら自身がそう思えなければ、高校生から高校生へ伝えていく力は発揮されません。
 ご講演のあと、運営委員会でつくった夏川先生にまつわるクイズに会場全体で挑戦していただき、夏川先生から正解を答えていただく時間を持ちました。これは運営委員にとっても大きな挑戦でした。夏休みを返上して準備をすすめ、クイズを通してたくさんのひとたちと分かち合ったもの、(それは、彼らは気がついていないけれど)あれこそが活字文化だったのです。
 高校生が高校生のために運営する講演会。そんな兆しの見えた信州岩波講座・高校生編でした。