長野から東京へ-五輪につながる懸念
内田樹さん“文武両道”の投げかけ
内田樹さん“文武両道”の投げかけ
8月27日に登場した内田樹さんと加藤典洋さん。新幹線は別々で長野駅で合流。内田さんは見上げるような長身、上着のそでをまくりあげ、筋肉の盛り上がった腕で重いカートを引いて現れました。小柄でもの静かな思索家といった加藤さんとは対照的な印象。両氏は久しぶりの再会という。
内田さんは神戸の女子大を退職し、今の名刺の肩書きは「凱風館 館長」。武道と哲学を両輪とする学びの本拠です。須坂に向かう車がエムウエーブに差しかかったとき「長野オリンピックの遺産はなにかな」との問いを発しました。かつて立ち寄ったスイス・ローザンヌの五輪記念館で「長野招致の功労者として開発企業トップが“ヒーロー扱い”されていましたよ」と話し「でも、長野の人たちにはいま、なにが残っているのかな」と、もう一度問いかけました。
そして、語調を強めて「東京オリンピックは失敗しますよ」。暑さで記録は振るわず、財政負担が重く残るだけというのがその理由。なにより原発事故の放射能不安を「アンダー・コントロール」の一言で押しのけ、国と企業の思惑がらみの“上からの招致・準備活動”に疑問を示しました。
「『帝国』化する世界・『中世』化する世界」がテーマの講座本番。内田さんは締めくくりに「人口減少の社会に成長は望めない。“信頼”や“友情”が資産となる」と、文武両道を地でいくアプローチで世界のゆくえを展望。そのうえで「東京は失敗」とする、車中での予測を繰り返しました。
なぜ長野の過去にこだわったのか…東京の今につながる日本社会の問題を鮮明に線引きして見せた場面でした。
2部はお二人による対談
聴講者からは
・「現実」というものにいかにかかわるか。それは「理想」というものをいかにとらえるか、ということにも通ずるかと思う。その意味で、お二人の論客の示唆するところは大きかった。(70代男性)
・加藤先生のお話が面白かった。「一階」部分で「戦争はいやだ」と叫ぶ力はどの程度のエネルギーを必要とするのか。日本の8月の年中行事のように「戦争だけは嫌ですね」という声はどうすれば「一階」の力となるのでしょうか。(70代男性)
・幕末と太平洋戦争(第二次大戦)との照らし合わせの話はたいへん面白く、なる程と感じました。帝国時代に変っていく、戻っていく話。隙間帝国は大賛成です。人も地球の生物も、西へ西へと流れるコスモ的本能があるとの話も面白かったです。(60代女性)
・内田先生の人間、助け合わないと生きてゆけないという話に感銘を受けました。同感です。安倍首相は地球的外交と称し、百十数か国を訪問したが、肝心の韓国、中国への公式訪問なしという外交汚点を残しているのではないか。(70代) など多数の声が寄せられました。