のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

小樽商科大学 4

2009-07-09 | 小説 忍路(おしょろ)
 列車を待つ間も、電車の中にあっても、終始心は晴れなかった。
 里依子はなるべく私といたくないと思っているのだろうか。そんな考えがいくら否定しても湧き上がってきて私を悩ませた。
 列車がいよいよ小樽に着くころになって、私はもう一度伊藤整の本を取り出し、これからの道順を考え始めた。
 私の前に札幌からずっと一緒に座っている若い男女がいた。二人は私のことなどまるで意識もしていないようだったが、私の方は里依子のことを思い起こさせてつい二人のしぐさを見てしまうのだった。そんな二人に思い切って声をかけ蘭島や余市のことを聞いてみた。
 はたして二人はこの地の学生のようで、女性が問うような眼を男性の方に向け、男はそれに応ずるような表情をしてから私に答えた。

 蘭島から余市までの海岸通りはおそらく雪で歩けないだろうとということだった。
 伊藤整がその恋人根見子を伴って初めて海岸を蘭島から余市まで歩いた。私はその足取りをたどってみようと思ったのだ。
 小樽、塩谷、蘭島。余市、そして忍路。二人の話からは確かなことは何も聞けなかったが、二人の飾り気のない対応に少しずつ心が晴れて来るのを感じて、私はいつの間にか二人を好きになっていた。


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