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[銀狐稲荷シリーズは充電中の為しばし休載させて頂いております。不定期でも再開の意志はございますので、何卒ご了承のほどお願い申し上げます。]
PRIDE
仕事と恋愛。働く女性は常にその二つの間で揺れ動いている。
自分の弱点となりうるもの…愛情…を受け入れることは出来るのか?
恋愛感情を仕事のエネルギーとすることは出来るのか?
物心ついた時からいつも私は戦い続けて来た。なりたいのは常にトップ。それ以外なら例え2位でも最下位と同じ。必死だった。
それは何故?
何もないからよ。私には何もないからよ。空っぽなの。だから埋めたいの。
気付いて欲しいの。見て欲しいの。聴いて欲しいの。認めて欲しいの。
「私が此処に居る」って。
誰も助けてはくれなかった。私は一人で生きて来たのよ。群れるのは嫌いなの。
友達なんていらないわ。裏切られるだけじゃない。
友達なんかじゃないわ。戦うべき、倒すべき、蹴落とすべき敵だけよ。みんな、みんな…
何を目指しているの?
何かになりたいと自分で考えていた訳でもないし、やりたかった訳でもないわ。でも、やるからにはトップを目指しているわ。
でも難しかったよね?
『トップだなんて、口先だけですか?』
『貴女が未熟だから、出来ないのですよ?貴女の実力ではまだまだとても通用するレベルじゃありません。負けたくないならなぜもっと努力しなかったのですか?』
『結果を出せないで文句だけは言うのですか?実力と自身が伴ってこそ本当のプライドでしょ。』
…わかっているわ。泣きごとを言うのは嫌いよ。人の3倍努力してやっと人並み。だからやるしかなかったのよ。
でも『彼』と出会ってしまった。貴女は自分が到底かなわないと思える人しか認めないよね。『彼』はまさにそんな素晴らしい人だったんでしょう?だけど、『彼』に貴女の思いは届かなかった。それでも貴女は今まで以上に努力することでふっ切ろうとしたよね?
『彼』のせいにしたくなかったのよ。『彼』の為に堕落した、なんて私のプライドが許さなかったの。恋をして、恋に溺れて今まで築きあげて来たものの全てを台無しにしたなんて許せなかった。
だから今まで以上に頑張ったわ。結果が出せるように死に物狂いで努力した。
思いは叶わなくとも、『彼』が私を高めてくれた。それを誇りに思うわ。
でも貴女は死のうとしたんじゃなかったの?
死にたかった訳ではないわ。ただ、眠りたかっただけよ。できればずっと。何も考えず深く眠りたかった。明日が来なければいい、眠って目覚めたら何もかも全てなくなっていたらいいのに、そう思っただけよ。だから目覚めたあと、何も考えずただ遠くに行きたくてひたすら街をさまよったわ。
何で私はまたこうして歩いてるんだろう、そんなことをぼんやりと思いながら。
貴女は幼い頃からずっと幸せじゃなかったんだね?幸せに生まれたかった?
できればね。でも仕方ないわ。これが私の人生ですもの。
貴女はいつも声も立てずに一人で泣いてたよね?
人に涙を見られたくなかったのよ。人前ではいつも強い私で押し通していたから、弱みを見せたくなかったの。完璧な私を演じ続けなきゃっていつも思っていたわ。
あれから時を経て貴女にとって人生の優先順位は変わったの?
大人になったのよ。どんなに頑張っても私より優れた人は幾らでも居るわ。
わかっていたの、本当はね。でも、認めたくなかった。絶対に勝てないなんて信じたくなかったのよ。
出来るはず、やれるはず。出来てないのは私の努力が足りないから。そう思おうとしたわ。
でも本当は気付いてた。限界なんだって。今は自分のことはちゃんと見えているつもりよ。
許容量・許容範囲を超えた無茶はもうしないわ。
キャリアとかトップとかかつてのわたしにとっては甘美な響きだったけれど、今はもうそれほど私の心には響かないの。
分相応、わきまえている…ってことかしらね。
やっとがんじがらめの呪縛から逃れられたの。
引きずり続けた『彼』への思いも今は、私に力を与えてくれてありがとう、出会えてよかったという感謝の気持ちよ。
人生の中であれほど人を愛したことは後にも先にもないわ。
実らなかったけど、『彼』がいて、『彼』を思った私がいた。
本当に幸せな気持ちというものがどんなものかは私にはわからないけど、『彼』の近くに居られた時間は人生の中で小さくても輝く宝石のような時だった。今はそれだけで十分よ。
「プライド」って何なんだろうね?
そうね、かつて私が「プライド」と呼んでいたものは本当に「プライド」だったのかしら?
「虚勢」に過ぎなかったんじゃないかしら?
今になってそう思うのよ。
ただ人より成果を出そうとして勝ったの負けたの…それはプライドではないでしょう?
自分自身を誇らしく思うこと。誰も知らなくても、誰も誉めてくれなくても、自分自身が認めればそれでいいのよ。
私は私でしかないんだから。
キャリアと恋は両立すると思う?
かつて私は恋をすると女は弱くなると信じていたわ。
失いたくないものができるとそれは弱点になると。
違うのね。きっと。
パワーやエネルギーをくれて、自分自身を高めてくれるのきっかけになるなら、片思いでも恋はプラスになるわ。
…と、今なら言える。
そうね、もしそれが、実ればどうなのかしら。もっと幸せで、もっと強くなれるのかな。
それは私にはわからないわ。経験が無いんですもの。
でもきっと、そうなんでしょうね。
実らない恋でもこんなに輝くなら、受け入れてもらえていたらきっともっと光を放っているんでしょうね。
いつか気力がなくなって何もかもどうでもよくならないかな?
そうかもしれないわ。でも、恋はしていたい。終わってしまった思い出にすがりついて一生を終えたくはないもの。
何よりも大きな力を与えてくれるもの、その気持ちだけはずっと忘れないでいたい…