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二銭銅貨

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パルジファル/東京文化会館(二期会)2012

2012-10-06 | オペラ
パルジファル/東京文化会館(二期会)2012

作曲:ワーグナー、演出:クラウス・グート
指揮:飯守泰次郎、演奏:読響
出演:アムフォルタス:黒田博、ティトゥレル:小田川哲也
   グルネマンツ:小鉄和広、パルジファル:福井敬
   クリングゾル:泉良平、クンドリ:橋爪ゆか

壁に飾られた聖杯とその後ろに斜めに取り付けられた聖槍に強い照明が当たってその部分が強く白く輝く。その前では、第2次世界大戦前の独裁者に成り上がったパルジファルが民衆を睥睨している。舞台は回転し、集会の部屋の外に。そこのベンチには、これまで争っていたアムフォルタスとクリングゾルが腰掛けて、うなだれている。第1次世界大戦の惨劇から、この2人が共倒れになることで平和が訪れて、将来の希望の中で復興が始まろうとしている。ところがその芽はなんと再び独裁者だ。いったい、今までの犠牲はなんだったのか。

パルジファルの物語を、第1次世界大戦からその戦後復興とファシズムの台頭までに重ね合わせた演出のようだった。本来の物語とは正反対の方向性を持った演出に見えて、面白かった。透過性のある幕や舞台の建物に映像を映写する美術が使われ、歩く足を映す映像が何度も使われていた。これは実はゆっくりと静かに進行してくるファシズム、あるいは独裁者の足音を表現していたのかも知れない。その他、平和の到来を意味すると思われる場面では、実際の当時のニュース映像のようなものが使われてた。どちらかと言えば戦傷者や避難民など戦争の犠牲者たちを映した映像が多かった。

「戦争と平和の繰り返し」が人間の歴史で、それは天敵の居ない人間社会の必然的な進化手法だったとも言える。大きな戦争の無くなった現代や未来では別の進化手法になるのだろうけれども、過去ではそうだった。戦前までは「戦争と平和の繰り返し」は人類が進化するためのプロセスの1つだった。舞台の人々の顔も見えない天井桟敷から、人類の歴史を俯瞰的に見ればそういうことになる。けれども戦場の当事者たちにとってはそんな事ではすまない。その悲劇と惨劇はもう二度と見たく無い、経験をしたくない光景だ。こうした現場を演劇として再構成して平和を訴えるという意味では、オリジナルの物語も演出家の意図も共通していると思える。

黒田は力強い迫力のあるバリトンで、小鉄は丁寧で美しいバスだった。福井はやや荒削りな感じの若々しいテノールで、泉も迫力のあるバリトンだった。橋爪は低音が強力でメゾと思えてしまうようなパワーのあるソプラノだった。合唱では裏のほうから微かに聞こえてくる女声合唱曲が美しく印象的だった。演奏は、安定して強力な金管楽器としっかりとした弦楽器によるもので、全体にくっきりとした丁寧な演奏だった。

舞台はセットを回転させる形式でかなり激しく回しまくっていた。第1次世界大戦の野戦病院で屋敷らしき建物を接収したような感じの作りのセットで3つの場所に分かれている。ものを落した時の音や、動きの物音など、かなりの量の効果音が使われていた。音楽に合わせた階段の登り降りが印象的で、その他、全体的に音楽にアンサブル的に合わせた精密な演出のようだった。

12.09.16 東京文化会館


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