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二銭銅貨

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宮本武蔵・一乗寺の決斗

2007-10-14 | 邦画
宮本武蔵・一乗寺の決斗 ☆☆
1964.01.01 東映、カラー、横長サイズ
監督・脚本:内田吐夢、脚本:鈴木尚也、原作:吉川英治
出演:中村錦之助、入江若葉、平幹二朗、高倉健

夜明け前の小高い丘の上から見通す田園を背景にして、
静寂の中に、薄く煙るがごとき空気に透けて佇む一本松。
白と黒の無彩色、ややセピア色が感じられる夜明け前から、
除々に明るさが増しては来るものの、
それでも彩度は感じられぬまま、
物語は無彩色で進んで行く。
田のあぜ道が薄く見えている。

全体に彩度の足りない、暗くくすんで深い印象の画面と美術。
人の心に沈殿した苦悩の堆積物、苦難の沈殿物。
業の深さを思わせるような重い空気を描き出す美術が、
それぞれ念入りに仕上げられて次々と出てくる。

全体的に暗い色彩の中に、ホッと明るく、
お通の薄水色の着物の色が浮かんで幻想的。

「我、事において後悔せず」とは五輪の書の句だと思うけれど、
そのセリフを吐く中村錦之助演ずる宮本武蔵の胸中は穏やかでは無い。
心ならずも少年を殺し、
若い侍の眼を切ったことが、
暗く、鈍く、くすんで、彼の心にひっかかっている。
仏を一心に彫る宮本武蔵の周りには木っ端が散って、
それだけが明るく輝いているように見える。

この重苦しさは、吉川英治には無いタッチだと思う。
07.09.23 NFC