にっぽにあにっぽん日本語&日本語言語文化

日本語・日本語言語文化・日本語教育

ぽかぽか春庭「目黒のさんま・落語でおいしい日本語食堂」

2008-08-26 10:30:00 | 日記
2007/11/08

目黒の秋刀魚


(9)目黒のサンマ (日本語の音)

(9-1)女川のさんま

 まだ真打ちにはなってないけれど、二つ目修行真っ最中の古今鼎、「ちっともおもしろくネー」というご批判もございますが、なにぶん、修行中の身、皆様からご批判ご叱責たまわりますことも成長の糧でござりますれば、なにとぞ、ご静聴のほどを。春庭、声調ととのえて、語らせていただきます。

 あの、ここはセイチョーを3回続けましたんで、ショーモネー駄洒落と思いましても、一応拍手なんかパチパチといただきますと、楽屋のそろばんがパチパチと鳴って、講師料がちょっとあがることになってるんです、、、、ってこともないか、大学の講師料、非常勤講師の講師料ってのは、非常識講師料っていうくらい、安いんです。

 まあ、パチパチの音はおいとくとしまして、まずは、「日本語の音」の一席を。

 秋になると、食べたくなるのが、秋刀魚。七厘の炭火をうちわでバタバタとあおぎ、ジュウジュウと音を立てて焼けてくる秋刀魚。美味い!

 今年の秋、春庭は特別美味しい秋刀魚をいただきました。宮城女川漁港から直送してもらった、秋刀魚です。
 秋刀魚漁の漁船に乗っている漁師Aさんが、豊漁の生産調整のため漁港に戻ったあいまをみて、東京の我が家に直送してくださった秋刀魚。
 届いたその日は、刺身にしました。寿司ネタにしてもおいしい。

 サンマは、私の授業の「おいしいネタ」でもあります。では、おいおいと調理調音をすすめましょう。ゥン?調音?
 はい、これから「日本語音声学」のおいしいお話をします。

 さて、刺身、マリネ、生姜煮、自家製ひらきと楽しみ、28日は、冷凍したものを塩焼きに。
 冷凍にしたものでも、元が新鮮ですから、ほんとうにおいしい。

 秋刀魚を昼ご飯にいただいたあと、娘・息子といっしょに、池袋のサンシャイン60ビルへ出かけました。秋になっても気温は真夏日という日なので、足にはサンダルをつっかけて。
 秋刀魚、サンダル、サンシャイン。

 60ビル、最初はワールドインポートのパスポートセンターへ。3人そろってパスポートの更新をしました。娘と息子はあと5ヶ月、私は6ヶ月の有効期間が残っていますが、国によっては「有効期間が半年以上あること」がビザ発行の条件になっているため、更新しておくことにしたのです。

 次は、サンシャイン水族館へ。
 「目黒のサンマ」でも聞かせるのかと思って我慢して読んでやったのに、話はサンシャインへすっとんでいって、いったい何の話かってぇと、ここは、まくらでして、もうちょっとで、本題へいきますんで、ちょっとがまんしてきいてやってくださいまし。
 かんかん照りのステージでアシカショウをみたあと、水族館の中を巡りました。


(9-2)サンシャインのさんごサンマの「ん」

 北の海のクリオネ、熱帯の色鮮やかな魚たち、深海の蟹、アマゾン川やアジアの大河の魚。ふわふわと水に溶けそうなクラゲ。
 銀色のうろこをひからせて、ぐるぐる回遊しているイワシ。うん、おいしそう。

 水族館に来て、第一の感想は「おいしそう」
 新鮮で、いい寿司ネタになりそうな鰯です。
 のんびりふわふわ浮かんでいるクラゲを羨みつつも、日本語教師は、10月からの日本語音声学のネタをまとめています。

 サンシャイン水族館の「ウリモノ」は、アシカショウやペンギンパレードだけじゃありません。
 日本で初めて、サンゴ礁の浅海(ラグーン)を再現した大型水槽も目玉のひとつ。
 サンゴ礁の生態系を再現し、珊瑚を育成しています。

 地球温暖化の影響なのか、本物の海では珊瑚の白化がおこり、珊瑚の大量死滅が伝えられています。
 動物園で絶滅危惧動物の繁殖がはかられているように、水族館の中でサンゴを保護育成することも、これからの水族館の大きな役割のひとつになるのでしょう。
 
 「サンゴ」地球にとっても、大切な生物。
 私の「日本語音声学」授業にとっても、重要なネタです。
 はい、ここは声を出して読みましょう。「サンマ珊瑚サンシャイン」。

 水族館回遊水槽での、魚の餌付けショウを見ました。
 水槽の中をゆうゆうと泳いでいたエイや小型の鮫が、飼育員のダイバーお姉さんに、餌をねだって、まとわりつきます。鮫もなついてくれば、かわいいもんなのでしょう。
 2m近いウミヘビも、昼寝の穴から出されて、おねえさんにだっこしていました。

 「ウミヘビは、蛇っていう名だけれど、蛇とは違います。蛇はハ虫類ですが、海蛇はうなぎやあなごと同じ。お魚です」と、ダイバーおねえさんの解説。
 うん、名前って重要ね。うなぎやあなごはおいしそうで、いい寿司ネタになりそうだけど、海蛇ってきいたら、うまそうじゃなくなる。

 「日本語音声学」って聞くと、なんだかむずかしそうで、ちっとも面白そうじゃない。 ウミヘビときくと、同じお魚でも美味しそうじゃなくなるのと同じで、どうもネーミングが退屈なんですね。でも、ほんとうはおいしいんです。面白いんです。

 海蛇だって、蛇っていう名前に惑わされずに食べてみたら、穴子と同じくらいおいしいかも。
 ゆっくり水族館を楽しんだあと、おなかがすいてきたので、アルパ3階のレストラン街へ。何たべようか、鰻?穴子?

 ここで重要なのは、鰻か穴子か海蛇か、どれを食べるかではなくて、「3階」ってことです。エレベーターの中で「行き先押しボタン」のそばに立っている人から「何階ですか」と聞かれたら「サンガイ」って行き先を告げましょう。

(9-3)さかなクンのサンマ

 夕食後は58階の展望台へ。展望台ギャラリーでは、さかなクンの「魚イラスト」が展示されていました。
 さかなクンのイラスト、魚の絵一枚一枚に、「お魚大好き」という気持ちがあふれているように思えました。

 さかなクンは、13年前の高校生のときに「テレビチャンピオン魚通選手権」に出場した頃から見ています。
 今では東京海洋大学客員准教授として後進の指導にもあたって、「お魚らいふコーディネーター」として活躍しています。好きこそもののじょうずなれ。

 みなさん、日本語すきですか。ちゃんと発音しています?

 お昼ご飯の秋刀魚から、サンシャイン水族館の魚、展望台ギャラリーのさかなくんのお魚イラストと、お魚たっぷりの一日が暮れていこうとしています。
 西の空が鮮やかな夕焼けになり、みるみるうちに展望台からのながめはきらきらした夜景になりました。

 10月からは、私も息子も後期授業が本格的に始動。のんびり親子で外出することも少なくなるでしょう。
 「だいたい、24歳の娘と18歳の息子がハハオヤなんかといっしょにお出かけをしてくれるだけでもありがたいと思え」と、オンを売られております。

 そうだよね、ありがとう。ハハは、娘息子といっしょにサンシャイン58階から眺める東京の夜景に、しみじみしております。

 はい、ここまでが「いささか長すぎて、飽きてきたマクラ」「だらだら続いた前説」です。
 これからが本題です。
 「サンマ食べて、サンダルはいて、サンシャインでサンゴを見る」


(9-4)サンマの「ん」

 日本語学授業の始めに、毎年「学生に与える練習」があります。
 カフェコラムではもう何度もこの話をしてきましたから、すぐ正解がわかる方もおいでだとは思います。

 学生だと、講義中、3回くらい同じ話を繰り返しても右耳から左耳へ話が抜けていって、少しも脳内にとどまっちゃあいないってことが多いのですが、脳力に自信をお持ちの方が多いカフェで、同じ話を繰り返したら、「つまらん!」と、一喝かも。
 でも、ま、同じ「目黒のサンマ」を何度聞いても笑えるのがほんとのハナシ家。

 同じ内容で恐縮ですが、再掲載です。アレンジは少々かえてありますが、基本は同じハナシ。
 学生は毎年新しく受講するのですから、毎年同じ練習をやらせて反応を楽しめる。
 題して、「秋刀魚、サンダル、珊瑚のサンシャイン練習」。

 「自分は日本語がよくわかっている」と、思いこんでいる日本人学生に「日本語わかっているつもりでも、わかっていないこともあるんだよ」と気づかせるために、まず、五十音を読ませます。

 「五十音図の文字、全部読める?日本語教師になりたい人、五十音図のひらがなくらい読めるよね」
 学生、「ばかにすんな」という顔で教師を見ます。
 「じゃ、読んでみましょう。ア行からひとり一行ずつ声に出してひらがなを読んでいってね」
 「あいうえお」「かきくけこ」「さしすせそ」~「わいうえお」

 「はい、じょうずにワ行まで読めましたね。じゃ、君、最後のこの文字、読んでみてね」
 「ん」の文字を指します。
 「ン」
 「え、なんて言った?もう一度」
 「ゥン」

 黒板に「さんま」「さんご」と書きます。
 「はい、君、読んでください」
 「サンマ、サンゴ」
 「はい、よく読めました。じゃ、もう一度、五十音表の最後の文字、読んでね」
 「ン」

 「え、ほんと、ほんとにそういう発音だった?もう一回言ってみて」
 学生、うんざりしながら「ウン」
  「え~、ほんとにこの字はゥンなの?確認してみようね」

 黒板に「さんま」「さんご」に続けて、「サンダル」と書きます。
 「はい、さんまっていってみましょう、みなさん、いっしょに。サンマ」


(9-5)「運」のつく練習

 次に、サンマというとき、「サン」の次に「マ」を言おうとして、でも言わないで、発音する直前で口の動きを止めてみて。
 「ん」というとき、口の形はどうなっていますか。

 隣の席の人の顔を見ながら、もう一度「さんま」の「ま」の前でストップしてね。はい、いっしょに「さん、、、」
 口はどうなっていた?
 はい、唇を閉じていましたね。
 この練習、隣の人と顔を見合って、口元を互いに見つめ合うことが肝心。
 一人で鏡を見ながらやってもできないことはありませんが、一人だと「ん」の音を意識してしまい、「サン、マ」と区切って発音してしまうことが多いです。それだと、口を閉じないで、マの音に進みます。

 「この絵は3億円」と聞き、びっくりして「えっ、サン?まあ!」と言うときには、マの前で口を閉じていません。「私は唇閉じてない!」と、おっしゃる方は、こちらの「サン、ま」の方を発音しています。

 ごく普通の速度で、魚屋さんへ言って「サンマ三匹ちょうだい」と、注文する気持ちで言ったとき、一般的な日本語母語話者の場合、マの直前の「ン」は「m」の音を発音しているのです。

 「さんま三匹」と言ってみましょう。「びき」の前でストップしてね。「さんま、さん、、、」
 ほら、やっぱり口を閉じているでしょう。

 では、次に「サンダル」と言いましょう。はい、いっしょに「サンダル」
 次は、ダルと言う直前でストップしてね。「さん、、」
 口は閉じていましたか。ほら、さっきの影響で意識すると閉じちゃう人もいるから、隣の人に「サンダル買いますか」と、言いましょう。もう一度「サンダル」と確認するつもりでいいかけて、「ダ」の前でとめます。

 「サンダル」と言いかけて、「ダ」の直前でストップしたとき、舌が口の中のどの位置にあるか、確かめてみて。
 歯の上に舌がありませんか。
 「三足といってみましょう。はい、サンゾク。ゾクの直前で止めて。ほら、やっぱり、舌は歯の上の歯茎のところにくっついているよね。

 最後に「珊瑚」といいましょう。はい、「サンゴ」
 では、サンゴと言いかけて、「ご」の直前でストップ。さっきは舌が歯の上にストップしていたのに今度はどうなっていますか。
 舌先は歯茎にくっついていなくて、舌の奥のほうが上あごに近づいていますよね。

 もう一度、「三匹の秋刀魚」「三月の珊瑚」「三足のサンダル」と言って見ましょう。
 おなじ「ん」という文字で書いているけれど、発音の仕方は3つのバージョンがあったことが、わかりましたか。


(9-6)田圃のトンボ

 「さんま」の「ん」は「samma」です。[p][b][m]の音の前の「ん」は、[m]になります。「ん」と言っているとき、唇はとじて、くっついています。

 「さんご」の「ん」は、「 sa[ng]go」です。[k][g][h]の音の前の「ん」は[ng]になります。舌は後方が盛り上がって、上あごに近くなります。

 「サンダル」は、「sandaru」ですから、「ん」は[n]です。[t][d][s][z][r]の音の前で、「ん」は[n]の発音。舌は前歯の上にくっつきます。

 この練習をしていると、みなさん、「ん」の発音がようく理解できてきて、みんなに「運」が向いてきます。
 春庭センセから日本語学を教わると、みんな「運」がよくなる。これ、ほんと。

 今まで全部おなじ「ん」と思ってきたけれど、ちがう口の形、ちがう舌の形で発音していることがわかりましたか。
 春庭の「運のつく練習」やってみた方は、もう、単語ごとの「ン」の正しい発音ができますよね。

 って、もともと無意識にちゃんとできてたんですけれど。
 日本語教師になるためには、それを意識的に理解していることが必要ということです。

 「ん」の3つの発音、「○ンコ」の「ん」は[ng]で、「○ンボ」の「ん」は「m」でしたね。よくできました。
 ン?、、、○の中に何入れたの。

 ○ンコ、甘いあんこ。お金しまう金庫。
 ○ンボ、稲実るたんぼに赤トンボですね。

 ○ンコの丸に、「う」を入れて喜んでいるのは、マジロ家のふう太くんですね。もう、お父さんそっくりですね。
 あらら、お父さん、たんぼの「た」やとんぼ「と」を、タ行のほかの音に変えて喜ばないでくださいね。

 「ん」は、カナ文字の名前としては、「ン」でよろしい。日本語は文字の名前と発音がほとんど一致していることばです。
 日本語のひらがなカナカナのような文字、ひとつの音節にひとつの文字が対応している文字を「音節文字」といいます。

 ○ンコのなかに、ウをいれたり、マにしたり、入れ替えて遊べるのも、日本語が音節文字を使っているからです。


(9-7)ん、ん、ん

 日本語の音節、「ほとんどがひとつの文字にひとつの発音」というのは、例外もあるから。
 「は」という文字は、文字の名前は「ハ」ですが、この文字を使って発音するとき「ハ」と発音するときと「ワ」と発音するときの2種類ある。「へ」も同じ。ただし、こちらは、異音ではなく、「ハ」の音と「ワ」は、別の音と、日本語母語話者もわかっています。
 助詞の表記に限って、「ワ」と読むと決めたのです。

 英語なんかだと、「A」という文字の名前「エイ」ですが、発音は、日本語に近いアと言うときもあれば、アとエの中間の音のときもあり、Apeなど、エイになることもある。ひとつの文字をいろんな発音の表記にあてて使います。

 日本語は、原則ひとつの文字は一つの音節の発音を担当しています。わかりやすいです。そのため、江戸時代、日本の識字率は世界で一番高かった。簡単便利です。おっと、文字論はまたの機会にくわしく。

 日本語の発音で「ん」は特殊拍と呼ばれ、ほかの音節とは違うところがあります。
 私たちはまったく無意識に「ん」の発音を使い分けています。単語によって、異なる発音をしていながら、同じ「ん」の発音と思って聞いています。
 このような「実際には異なる発音をしているのに、同じ音と思っている音」を『異音』といいます。

 日本語を母語とする人にとって、「ん」の三つの異音は、どれも同じだと聞こえています。発音は別々なのに、別の音とは思っていないのです。

 日本語には特殊拍と呼ばれる音節が「ん」のほか、あとふたつあります。
 長音(のばす音)と、促音(つまる音)です。長音促音については、また別の機会に述べます。今回は異音についての理解をさらにすすめます。
「運」がついたあとは、「シラミごはん」聞き分け練習。

 「ん」には3つの音「異音」があり、3種類の別々の発音をしていながら、同じ「ン」だと思ってきたことを納得した後、日本人にとって異音であるLとRのハナシにすすみます。


(9-8)シラミとごはん、どっちが食べたい?

 英語ではRとLは、ことばを区別する音ですから、「lice」はシラミで、「rice」はごはん、です。まったく別の単語になります。

 しかし、日本語母語話者にとって、RとLも「同じ音」に聞こえます。「la」と「ra」は、どちらも「ラ」。日本語では、rice もliceも同じライスです。
 日本語にとって、[la]と[ra]は、異音なので、どちらを発音しても同じ「ライス」に聞こえるのです。

 ごはんを食べるのと、シラミを食べるのと、どちらがいいか、学生に尋ねます。
 そりゃ、ごはんのほうがいいに、決まっていますよね。

 もっとも、近頃の学生はシラミを見たことも頭にわかしたこともないのですけれど。
 犬や猫を飼ったことのある人は、「ノミ」は知っているので、「ノミのようなもん」と、紹介しておきます。

 敗戦後に、頭にシラミをわかして、保健所の巡回員にDDTを振りかけられたっていう世代の人は、シラミと聞いただけで、頭をかきむしりたくなりますね。
 はい、頭をかきむしらずに、耳をすましましょう。

 ここは、アメリカのレストランです。あなたは、客から注文を受けたとき、「ごはんrice」と言われたら、手を出してOKのサインを出しましょう。こぶしの親指を上にむけてね。「シラミlice」と注文されたら、ノーのサインを出してね。親指を下に向けましょう。

 「lice」「rice」「rice」「lice」、、、、
 学生たちは、気をつけて聞き分けようと一生懸命。
 私のLとRの発音はあまりよくありませんが、学生たち、「わかんない」という人もいますが、ちゃんと聞き分ける人もいます。

 はい、よくできました。みんな聞き分けができているね。今のは模擬テストです。次が本番の英語の発音聞き分け問題です。英語の発音、LとR。もうできるものね。

 ごはんをちゃんと注文できたので、食べることにします。
 アメリカは和食ブームだとか。日本式に茶碗とおはしで食べてみるよ。

 右と左の聞き分け練習。

 お箸はどっちで持つ?右利きの人は右手だよね。左利きの人も、今だけ右手で食べてね。
 お茶碗は左手で持って食べます。お隣同士、見合って食べましょう。はい、ちょっと暗いかな、電気ついてますよね。後ろの人、お隣さんの手が見えますか。


(9-9)右手におはし、左に茶碗でいただきます

 じゃ、私が右って言ったら、右手でお箸を持つマネしましょう。指をチョキにしておはしのつもり。私が左っていったら、左手の手のひら広げてお茶碗のマネ。いいですか。右は英語でright、左は英語でleftですよ。間違えないでね。
 rightって言ってないのに、右手をお箸にしちゃいけませんよ。

 「left right left left   light  light  left  light light light light 、、、、
 はい、全員まちがってますよ。
 学生達「えーっ、ちゃんと、右と左、区別したのにぃ」

 私、右って、言ったのは、最初の1回だけです。あとは、右って言ってません。電気のライトって言ってるの。

 学生たち、「な~んだぁ」
 この聞き分けは、右と左の聞き分けではなくて、電気のlight と右のrightの聞き分け練習でした。

 ほらね、意識してシラミとごはんを聞き分けようとすればできるのに、無意識に聞いていれば、電気のライトも右のライトも区別がつきません。
 日本語母語話者にとって、LとRは「異音」だからです。

 この「右左クイズ」で、学生たちに何を意識してほしいか。
 人間が発声できる「音」は、たくさんあるけれど、それぞれの母語で「ことばの意味を区別するための音」は異なっているということです。

 日本語ではRとLは、異音であって、ことばの組み立てでは区別していません。rightと言ってもlightと言っても、同じライト。
 けれど、英語ではRとLの音のちがいは、ことばの意味の区別に役立っています。

 一方日本語で「ra」を「da」に変えるとことばの意味が変わります。「ダイス」といったら、ライスとは違う意味の単語になります。ダイスって、ほら、1から6まで目があるさいころのことです。
 日本語では「d」と「r」は、言葉の意味を区別できる音です。

 しかし、「r」と「d」は異音にすぎず、「ライス」も「ダイス」も同じ音に聞こえるという言語の人もいます。
 日本語母語話者にとってRとLが同じ音に聞こえるように、RとDが同じ音に聞こえるのです。

 日本語でも「プディン(グ)」を「プリン」と言い換えたり、花壇(かだん)をうまく言えずにカランと発音したりする子どもがいたりすることから、「r」「d」は、近い音であることがわかります。近いけれど、日本語では別の音として聞こえています。
 どの音を言語の意味の区別に用いて、どの音を区別しないで無意識に異音として使っているかは、母語によって様々です。

 日本語の発音指導をしていて、ある人にとって発音が聞き分けられず、言い分けることがむずかしいとき、「なんでこんな簡単な日本語の発音ができないんだろう」と思わないでくださいね。と、日本語の先生になりたい学生たちに念を押します。


(9-10)目黒のサンマ

 えー、『目黒のさんま』
 『目黒のさんま』は、古典落語の演目の中でも「寿限無」「時そば」などと並んで、子どもにも大いに笑えるわかりやすいお話でした。

 群馬の山中で育った私、当時はまだ冷凍車などが発達しておらず、日頃は鰺の開きや鰹なまり節、身欠きニシンなどを食しておりましたが、秋には秋刀魚を七厘の炭火で塩焼きにして食べることができました。美味しかった!
 秋刀魚は七厘の塩焼きが最高です。

 さて、目黒といいますのは、春庭の現在の本籍地であります。じゃんけんに負けて夫の姓を名乗ることになり、夫の実家が本籍地になりました。

 現在は目黒駅の周辺など、高いビルもたって、にぎやかな都会になっておりますが、江戸の昔は、芋の産地。
 芋畑が、だ~と広がるばかりの土地ですが、緑豊かで鷹狩りにはうってつけの場所でした。

 行商人は目黒で芋を仕入れて、江戸の下町へ売りにまいります。帰りには芝にありました魚市場からサンマなどを仕入れて、目黒の里で商売、一石二鳥の行商人。
 目黒から芝あたりまで、歩けば当時1時間ちょっとかかったといいます。

 芝で仕入れた秋刀魚に、塩をふって1時間後、目黒の里で炭火にて焼けば、おいしいにおいがあたりに広がります。
 この匂いをかいで、食べたくなったのが、鷹狩りに来ていたお殿様です。

 日頃は鯛などの高級魚を手の込んだ料理法で召し上がっていた殿様、当時は下魚とされていた秋刀魚を初めて食べました。
 芝で塩をふって1時間、塩加減ちょうどよし、油ものって、あまりのおいしさに殿様びっくり。

 それ以来、秋刀魚が食べたいと思い暮らすようになりました。献立に注文をつけるなどは殿様のなさることではないのですが、あまり食が進まないでいた殿様に、爺やが「何か、お好みのものを」と好物をうががいました。殿様はここぞとばかり「秋刀魚を食したい」。

 台所方はおおわらわ。大事な殿様が秋刀魚のような下魚を食べておなかをこわしたりしたら、首がとびます。
 まずは油をすっかり抜き取り、小骨にいたるまで骨をとり、秋刀魚の影も形もなくした料理をお殿様にさしあげました。

 殿様は一口食べて、あのおいしかった目黒のさんまとはまるで違う味なので、がっかり。爺に「この秋刀魚はどこで求めた」と御下問に。
 爺が「芝の魚河岸で求めてまいりました」と答えると、殿様、「そりゃ、いかん、秋刀魚は目黒にかぎる」


(9-11)秋刀魚も食い放題

 こんなふうに「日本語教師になるための日本語レッスン」がはじまります。
 「秋刀魚珊瑚サンシャイン」は、「春庭、日本語教師のための日本語学」の「おいしいネタ」です。
 さんま食べてサンダル履いて珊瑚見にいくと、日本語が光り輝いてサンシャインになるんです。

こんなふうに「日本語教師になるための日本語レッスン」がはじまります。

 「秋刀魚珊瑚サンシャイン」は、「春庭、日本語教師のための日本語学」の「おいしいネタ」です。
 さんま食べてサンダル履いて珊瑚見にいくと、日本語が光り輝いてサンシャインになるんです。

 「運のつく練習」のまとめ。
1 日本語では「ん」の音を三種類使い分けているのに、皆、無意識に使い分けていて、[m]の「ん」も、[n]の「ん」も、同じと思っていること。
2 「R」と「L」は、英語では別の音だけれど、日本語では異音なので、light rightは、どちらも「ライト」にきこえる
3 自分の母語で異音である音が、第二言語では意味の区別をしている音である場合、そのふたつの音の聞き分けはむずかしい。

 異音に注意を向け、次は、「音節」という日本語の音の重要な単位について話が進んでいきます。
 音節をさらに分解して音素の別を知り、ひとつひとつの音素の調音の仕組みの勉強から始めます。

 母語話者として、日本語を話すだけなら、もちろん調音の仕組みなんて一生知らなくても、まったく問題ありません。調音法を意識しなくても、ちゃんと発音できているのですから。
 でも、日本語を「第二言語」として教える人にとって、調音法は必要な知識です。

 私たちが英語の発音を習ったとき、歯と歯の間に舌をはさんで「th」の練習をさせられたように、日本語をゼロから学ぶ人にとって、どのような口の動きで発音するのか、知ることは大切です。教える側は、発音の方法をきちんと理解していなければなりません。

 春庭「日本語音声学」については、2006年5月4日~7月27日まで、3ヶ月間にわたって、春庭ニッポニアニッポン語教師日誌「日本語ってどんな言語?まずは発音から」に、書きましたので、ご参照くださいませ。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200605A
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200606A
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/200607A


(9-11)秋刀魚は目黒に限ります

 今回書いたのは、2006年5月4日から5月10日までの分のアレンジ版「運のつく話、サンシャインの秋刀魚バージョン」です。
 何度聞いても面白い「目黒のさんま」めざして書いたのですが、読み返してみると、2006年バージョンのほうが面白いような気がします。

 毎年同じネタを手を変え品を変えて、料理していますが、学生は毎年ちがうので、反応は年ごとに異なります。
 おもしろがって右手あげ左手上げに興じるクラスのときもあれば、「なに、つまんないことやらせんだよ!」って顔のときもあります。

 ま、毎回サンマをさばいて料理しても、油のノリ具合やら何やらで、出来はさまざま。でも、秋刀魚、いつも美味しいです。ニッポンの秋の味覚です。
 春庭の日本語授業、何度同じ話を聞いてもおいしい、、、、はずでしたが、、、、。

 真打ちの演じる落語、『目黒のさんま』を、何度同じ話を聞いても、いつも笑えます。そんな真打ちを目指している二つ目春庭の「サンシャインの秋刀魚」一席、おつきあいいただき、ありがとうございました。
 
 春庭の「サンシャインの秋刀魚」、お味のほどはいかほどだったでしょうか。
 高級グルメに慣れた皆様のため、口当たりをよくしようと、ちょいと日本語音声学基礎の骨をぬきすぎ、油をしぼってしまったのではないかと、心配ではあります。

 読者の声「やっぱり、サンシャインのサンマ、美味くなかった」
「秋刀魚は目黒に限ります」

<目黒のさんまおわり>