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日本語・日本語言語文化・日本語教育

春庭の漢字検定1

2011-06-05 05:34:00 | 日本語学
2008/12/15
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(1)漢字習得レベル

 「朕」は、使用頻度は低くても、常用漢字に入っています。常用漢字は、現在約2000字。
 文化審議会国語分科会は、新しく加わる可能性のある220字の漢字を公表しました。今後使用頻度の調査などによってさらに絞り込み、2010年に新常用漢字表の制定を目指しています。さて、「頻度」は、読めましたか。「ヒンド」ですよ。では「頻繁」はどうでしょうか。

 昨今、話題の漢字といえば、「踏襲、頻繁、未曾有」
 なぜ話題になったか。21%まで支持率低下のアソぼん太郎さんが、これを「ふしゅう、はんざつ、みぞうゆう」と読んだからです。もちろん、正しい読みは、「とうしゅう、ひんぱん、みぞう」。

 日本語志望者の日本人学生には、こう話しました。「お金持ちの世襲政治家のぼっちゃまなら、漢字読めなくてもなれちゃうのが日本の首相ですね。首相ってのは、この程度の日本語力でもなれるもんらしいですけれど、日本語教師は、そういう程度の漢字力ではなれません。漢字は必修ですよ」

 と、言っても、私もしょっちゅう、漢字を間違えます。
 私は、20歳すぎてそうとうたつまで、同人雑誌を「どうにんざっし」と言っていた人間です。
 私の知人は、日本語教師になっても「一朝一夕」を「いっちょういちゆう」と言っていました。相手をはばかってまわりが教えてあげないと、いつまでたっても踏襲をフシュウと読んでしまうことにもなります。相手を気遣いながら、誤読であることを教えてやるのも親切ってもんですよね。

 首相が「前例をフシュウ」と読み間違えたとき、国民は何にがっかりするのか。彼が二・三の漢字を読みまちがえたってことじゃありません。だれでも誤読してきた漢字のひとつふたつはある。友人や上司に誤読を指摘され、そのときは恥ずかしい思いをして、私たちは誤読を知る。
 問題は、彼の周囲には、これまできちんと誤読を指摘してやるような友人もブレインも誰一人いなかったのか、という疑念を国民が感じた、ということ。ぼっちゃまの誤りを指摘してやれるようなスタッフがこれまでひとりもいなかったのか、ということです。今や国民は王様がハダカであることを皆知っています。

 留学生の漢字使用にも、面白い間違いが頻出します。私が読んだ中で一番面くらったのは、博士課程で工学を学ぶ予定の留学生が「私の仕事は、空気の中の弖爾乎波を打つことです」という作文でした。え?「弖爾乎波(てにをは)を打つ」って何のこと?

 彼は、空気中の粒子=パーティクル(Particle)を捉えて操作を加える研究をしていたのです。彼が持っていた辞書は古いものだったらしく、particleの訳語として、第一番に「perticle=てにをは弖爾乎波・助詞」と、書かれていたのでした。彼は、自分の作文を立派なものにしようとして、まだ習ったことのない「弖爾乎波」などという難しい漢字を書いてみたのでした。

 自分が漢字苦手なことは棚にあげて、留学生には、「日本語語彙の70%は漢語なので、漢字が読めて意味がわかるようにしないと、日本での生活がうまくできないし、日本語の文献は読めません」と、漢字学習の大切さを説いています。英語で論文を書く医学工学系の留学生であっても、漢字の知識が必要です。日常生活で「コーエンにいきましょう」と誘われたとき、公演なのか公園なのか講演なのか理解できないと、せっかくの招待に返事ができません。

 漢字習得レベル検定。
 留学生のための検定と日本語母語話者向けのふたつの検定があります。

 日本語学習者の漢字習得レベルは、日本語能力試験のなかに、「文字・語彙」として出題されます。初級が300~500程度、中級が1000字程度、上級が2000字程度です。
 上級になると、日本語の新聞が読みこなせるようになります。

<つづく>
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2008年12月16日


ぽかぽか春庭「漢字検定レベル」
2008/12/16
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(2)漢字検定レベル

 教える人が教わる人と同じレベルじゃ足りません。「日本語を教えたいなら、2000字の常用漢字の訓読み音読み熟語は当然のこととして、さらに上級をめざしていかなければなりません」と、日本語教師志望者には言っています。

 日本の漢検、漢字検定試験のレベルは以下の通りですが、6000字レベルの1級は、「漢字オタク問題」が多いです。一般的な社会生活にとって、準1級レベルで十分です。漢字苦手の太郎さんにも、ぜひ準1級に挑戦してほしいです。そうね、彼の場合、3級あたりからコツコツと勉強してほしいです。「バカヤロー発言」のジッチャンの名にかけても「漢字読めない宰相」というあだ名の汚名返上につとめていただきたいのですが、、、。
 
1級 - 大学生・社会人レベル(JIS第1・第2水準を目安とする約6000字)
準1級 - 大学生・社会人レベル(JIS第1水準を目安とする約3000字)
2級 - 高校3年生レベル(常用漢字、人名用漢字2230字)
準2級 - 高校1・2年生レベル(常用漢字1945字)
3級 - 中学3年生レベル(常用漢字1608字)
4級 - 中学2年生レベル(常用漢字1322字)
5級 - 中学1年生レベル(学習漢字1006字)

 大学生なら、2級は当然合格、大学卒業程度の準1級は合格して欲しい。学生達には準1級レベルの漢字検定に挑戦してもらいます。

 中国で高等教育を受けた人のなかには、「中国では最低限、5~6千の漢字を覚えないと新聞が読めない。高等教育を受けた人なら、1万近く漢字を知っている。日本の漢字が2千だなんて、簡単だ」と思う人もいます。

 ここが落とし穴。中国の漢字は、漢字ひとつに原則として読み方(発音)はひとつだけです。(標準語北京普通話の場合)
 ところが、日本の漢字は、ひとつの漢字につき、ひとつの読み方だけしかないのは、まれです。最低で2つ、多いとひとつの漢字に12もの読み方があります。訓読みを覚えるのは、なかなかたいへんです。ひとつの漢字に12通りの読み方がある「生」の字については、春庭コラム2008/06/24に書きましたので、ごらんください。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/d1497#comment

 日本語学習は、欧米圏の学習者にとって、むずかしいと感じられます。英語圏の学習者がフランス語を習う、スペイン語を覚える、というような「同系統の言語」を習うのと比べると、系統の異なる言語の学習はどの人にとっても、難しいし、しかも、アルファベットなどの表音文字とは異なる「漢字ひらがな併記」という書き言葉。
 日本語漢字の指導は、言語教育のなかでも、指導方法に工夫を要する分野です。中国での漢字教育ともちがいます。

 漢字嫌いにしてしまうと、その学習者の日本語能力は伸びていきません。少なくとも大学教育を受けようとする日本語学習者なら、2000字の習得は必須ですから、日本語教師たち、心して漢字教育に取り組んでいきます。

<つづく>
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2008年12月17日


ぽかぽか春庭「四字熟語で脳トレ」
2008/12/17
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(3)四字熟語で脳トレ

 日本語母語話者として、どの程度の漢字ができるか。
 四字熟語の問題で腕試しをしてみましょう。一般的な辞書には掲載されていないような漢字オタク問題は次回に出題しますけれど、まずは広辞苑に載っている範囲でテストしてみましょう。

漢字検定1級「四字熟語 問題」
(1)読み方を書きなさい。(読み方のヒント:あいうえお順にならべてあります)
(2)正しい使い方をしている文と、まちがった使い方をしている文があります。まちがった使い方の文を選び、正しい用例を作文しなさい。

1)阿諛追従・彼は、上役に阿諛追従してばかりいる、おべっか使いだよね。
2)一気呵成・仕事はいつも、勢いで一気呵成に仕上げることにしている。
3)慇懃無礼・あの人は、いつも乱暴で礼儀がなってない慇懃無礼な男だね。
4)韋編三絶・あなたも韋編三絶すれば、ダイエットに成功して少しはやせるでしょう。
5)烏焉魯魚・カラスが魚を狙っているから烏焉魯魚で気をつけなさい。
6)依怙贔屓・あの先生は大学者だけれど、決して学生の名前を覚えない依怙贔屓な人だ。
7)右顧左眄・横断歩道を渡るときは車がくるかどうか、きちんと右顧左眄しなさいよ。
8)偕老同穴・年寄りはみんな同じような考え方をして偕老同穴ステレオタイプになりやすい
9)隔靴掻痒・ああもどかしい、真意を理解してもらえず、隔靴掻痒だ。
10)苛斂誅求・消費税値上げ、後期高齢者保険、今の政府は苛斂誅求だね。
11)迦陵頻伽・ああ、このオペラ歌手、いい声だなあ。まるで迦陵頻伽のようだ。極楽にいる気分になるよ。
12)侃侃諤諤・歩きすぎて膝が侃侃諤諤になった。
13)旗幟鮮明・社長か専務のどちらに賛成するのか、旗幟鮮明をはっきりして会議に出なさい。
14)結跏趺坐・仏さまが結跏趺坐しているお姿を拝見していると、心静かになるね。
15)豪放磊落・彼は、大胆な行動がとれて小さな事にこだわらない豪放磊落な人ね。
16)叱咤激励・先生は愛の鞭をもって叱咤激励してくれた。
17)揣摩臆測・肩こりがひどいので揣摩臆測してもらった。
18)春風駘蕩・春風のように先生の教えが深く心に染み渡っていく。春風駘蕩のここちだ。
19)切歯扼腕・夜中になって急に切歯扼腕したので、翌朝歯医者へ行った。
20)魑魅魍魎・水木しげるの作品に出てくる魑魅魍魎は、ほんとうに興味深い。
21)彫心鏤骨・この作品は、彫心鏤骨で作り上げた自信作です。
22)喋喋喃喃・いよっ、お二人さん喋喋喃喃で親しげに語り合ってるなんて、怪しいね。
23)跳梁跋扈・政治の世界に跳梁跋扈する輩が多いねえ。悪者だらけだ。
24)桃李成蹊・桃や梨が好きな人は大きな人物になるね。さうが桃李成蹊。
25)博引旁証・彼は何でも自分勝手にひきつけて博引旁証で解釈する人だよ。
26)罵詈雑言・外国語で解説されても、私の耳にはぜんぜんわからない罵詈雑言だよ。
27)繁文縟礼・中国の漢文は、難しい漢字が並んでいて繁文縟礼だから、私には読めない。
28)不撓不屈・横綱を拝命したからには、不撓不屈でがんばります。
29)奔放不羈・彼女は指示してやらないと自分からは仕事をしようとしない奔放不羈な人だ。
30)勇気凛々・これだけ漢字がわかれば、これから勇気凛々で日本語教師をめざしていけるね。

(正解)正しい使い方の文は○、間違っている文は×

1)阿諛追従あゆついしょう○ 
2)一気呵成いっきかせい○ 
3)慇懃無礼いんぎんぶれい×(正しい使い方の例「あの人は、口先だけはていねいだけれど、慇懃無礼なふるまいをするね」 
4)韋編三絶いへんさんぜつ× 「何度読んでも難しい本だけれど、韋編三絶して繰り返し読んでいれば、だんだん理解できてくるよ。」
5)烏焉魯魚うえんろぎょ× 「烏焉魯魚で、似ている字はたくさんあるけれど、点ひとつで意味が変わってしまうのが漢字だから、気をつけないといけない。」
6)依怙贔屓えこひいき× 「あの先生は、美人のあの娘だけを依怙贔屓してよい点をつけたそうだね。」
7)右顧左眄うこさべん× 「いつも人の顔色をうかがって右顧左眄しているけれど、それじゃ、信用がえられないよ」 以下、自分で正しい使い方を調べてください。
8)偕老同穴かいろうどうけつ× 
9)隔靴掻痒かっかそうよう○ 
10)苛斂誅求かれんちゅうきゅう○
11)迦陵頻伽かりょうびんが○ 
12)侃侃諤諤かんかんがくがく× 
13)旗幟鮮明きしせんめい○ 
14)結跏趺坐けっかふざ○ 
15)豪放磊落ごうほうらいらく○ 
16)叱咤激励しったげきれい○ 
17)揣摩臆測しまおくそく× 
18)春風駘蕩しゅんぷうたいとう○ 
19)切歯扼腕せっしやくわん× 
20)魑魅魍魎ちみもうりょう○ 
21)彫心鏤骨ちょうしんるこつ○ 
22)喋喋喃喃ちょうちょうなんなん○ 
23)跳梁跋扈ちょうりょうばっこ○ 
24)桃李成蹊とうりせいけい× 
25)博引旁証はくいんぼうしょう×
26)罵詈雑言ばりぞうごん× 
27)繁文縟礼はんぶんじょくれい× 
28)不撓不屈ふとうふくつ○ 
29)奔放不羈ほんぽうふき× 
30)勇気凛々ゆうきりんりん○

 解説は次回。

<つづく>
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2008年12月18日


ぽかぽか春庭「四字熟語解説&オタクレベル問題」
2008/12/18
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(4)四字熟語解説&オタクレベル問題

 前回の「広辞苑に載っている範囲の1級出題四字熟語解説。
 以下の解説に出ていないことについては、検索してください。四字熟語のサイトはたくさんあります。

3)慇懃無礼=ものごし正しく言葉遣いは丁寧だが、丁寧すぎて人を馬鹿にしていて失礼な態度になっている。
4)韋編三絶=史記・孔子世家に出てくる。孔子が晩年に書物を綴じた革ひもが三度も切れるほど、易の本を読んだことから、熱心に読書するという意味になった。
6)烏焉魯魚=文字の書き誤り。「烏」と「焉」、「魯」と「魚」がそれぞれ字画が似ていて誤りやすいこと
24)桃李成蹊=史記(李将軍伝)に出ていることば。美味しい桃や梨(李)の回りには、人が通うから自然に道ができあがる。
繁文縟礼=規則が細かすぎ、煩雑な手続きが多く、非常に非能率的な状況を指す

 広辞苑に載っている範囲の四字熟語は、なんとか私にも読めたし意味がわかったのですが、一般的な辞書にない1級出題の四字熟語は、私には「知らんよ、そんな熟語」と思える語ばかり。
 1級になると、社会人レベルを越えており、はっきり言って「漢字オタク」の趣味の世界になります。趣味の世界に走って覚えるのも「脳トレ」にはなることでしょう。

 以下の四字熟語、読める人、意味がわかる人、すごい!!
 意味がわからなかった人、脳トレと思って自分で調べてね。一生の間にこの四字熟語を使うことはまずないと思うけれど。

蛙鳴蝉噪・あめいせんそう 郢書燕説・えいしょえんせつ 燕頷虎頚・えんがんこけい 延頚挙踵・えんけいきょしょう 偃武修文・えんぶしゅうぶん ・おうがらいりん 屋梁落月・おくりょうらくげつ 薤露蒿里・かいろこうり 豁然大悟・かつぜんたいご 瓦釜雷鳴・がふらいめい 鞠躬尽瘁・きっきゅうじんすい 尭鼓舜木・ぎょうこしゅんぼく 跼天蹐地・きょくてんせきち 金甌無欠・きんおうむけつ 霓裳羽衣・げいしょううい 蹇蹇匪躬・けんけんひきゅう 嚆矢濫觴・こうしらんしょう 光風霽月・こうふうせいげつ  鑿壁偸光・さくへきとうこう 尸位素餐・しいそさん 舳艫千里・じくろせんり 櫛風沐雨・しっぷうもくう 鵲巣鳩居・じゃくそうきゅうきょ 春蚓秋蛇・しゅんいんしゅうだ 嘯風弄月・しょうふうろうげつ 脣歯輔車・しんしほしゃ 膽望恣嗟・せんぼうしさ 蒼蝿驥尾・そうようきび 樽俎折衝・そんそせっしょう 堆金積玉・たいきんせきぎょく 銅牆鉄壁・どうしょうてっぺき 銅駝荊棘・どうだけいきょく 肉山脯林・にくざんほりん 筆削褒貶・ひっさくほうへん 被髪纓冠・ひはつえいかん 氷壺秋月・ひょうこしゅうげつ 風声鶴唳・ふうせいかくれい 俛首帖耳・ふしゅちょうじ 暴虎馮河・ぼうこひょうが 冒雨剪韭・ぼううせんきゅう 万目睚眥・まんもくがいさい 面折廷諍・めんせつていそう 瑶林瓊樹・ようりんけいじゅ 落英繽紛・らくえいひんぷん 蘭摧玉折・らんさいぎょくせつ 竜驤虎視・りょうじょうこし 霖雨蒼生・りんうそうせい 螻蟻潰堤・ろうぎかいてい 魯魚亥豕・ろぎょがいし 驢鳴犬吠・ろめいけんばい 老驥伏櫪・ろうきふくれき

 以上、漢字検定試験1級の過去問題から、四字熟語についての例題でした。次回、訓読み1級に挑戦。

<つづく>
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2008年12月19日


ぽかぽか春庭「訓読み1級で脳トレ」
2008/12/19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(5)訓読み1級で脳トレ

 日本語教師、1級までできなくてもいいから、2級・準1級は合格してほしい、と日本語教師志望者の学生に言っています。

 春庭自身は、漢字に弱い。読むのはなんとかなっても、書く方はまったく苦手。
 黒板に書く文字、間違えてばかりでイヤだったけど、パワーポイントを黒板代わりに使うようになって助かっています。だいたいの漢字は変換できますから。
 薔薇も憂鬱も無知蒙昧も曖昧模糊も、魑魅魍魎も、ちゃっちゃっと変換できる。耄碌しても強い味方。漢字変換。ときどきおかしな誤変換もしてしまうけれど。
 
 つまり、書くことができなくても、読み方と意味・使い方がわかれば、これからの世の中なんとかなる。一字一字書くことができなくても、大丈夫。同音異義語の使い分けができることのほうが、必要になる。
 漢検1級の書き問題で書けない字あったら、「脳トレ」がわりに書き取り練習するって程度で、よろしいと思います。

 1級のなかでも、音読みは熟語なので見たことある字も多いけれど、訓読み問題、一生のうちで、はたしてこんな字を訓読みで使うことがあるのやら、と思う漢字ばかり。
 文脈があれば推測で読めるのもあるでしょうが、文脈なしで私に読めた1級問題漢字は200字の問題のなかで20字ちょっと。正解率一割。

 あとはほとんど読めませんでした。すみませんね、こんなんでも日本語教師つとまっているんです。でもね。言い訳するけれど、1級の訓読み漢字、常用漢字の使用範囲外だから、おそらく、日常生活で使うことはほとんどない。
 「乖く」「闌ける」など、文脈無しに読むことはできませんでした。

 「干す」に「ほす」「ひる」と、ふたつの読み方があることは知っていましたが、「おかす」「あずかる」「もとめる」という読み方があることなど、まったく知らずに生きてきました。
 「統帥権干犯」ということばを読み書きして、かんぱん=「他に干渉してその権利を侵すこという意味も知っていたけれど、「干す」に「おかす」という読み方があることに思い至りませんでした。
 「ほす、ひる」という訓読みから「干犯」という熟語の意味が成立するのはおかしいとも考えなかった。

 「撥音はつおん」は、日本語学では「ん」のことですが、訓読みは、撥げる(かか・げる)と読むのだとまったく知りませんでした。
 軋轢(あつれき)は読めるが、轢る(きし・る)は読めませんでした。
 顰蹙(ひんしゅく)は読めるが、蹙まる(きわ・まる)は読めませんでした。

 簒奪(さんだつ)は読めるが、簒う(うばう)はダメ。
 健啖(けんたん)は読めるが、啖う(く・う)はダメ。「くらう」だと思っていました。
 陋屋(ろうおく)は読めるが、陋い(せま・い)はダメ。
 乖離(かいり)は読めるが、乖く(そむ・く)はダメ。
 闌干(らんかん)闌入(らんにゅう)は読めるが、闌ける(た・ける)はダメ。

 そんな訓読みがあったのか、と思う字ばかり。

<つづく>
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2008年12月20日


ぽかぽか春庭「読めない漢字で脳内清掃」
2008/12/20
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(6)読めない漢字で脳内清掃

 錣(しころ)は、単独では読めない。「錣山しころやま」という漢字、大相撲ではじめてみました。元関脇寺尾の親方名が錣山。
 縹色(はなだ・いろ)が読めるようになったのは、ポケモンの中の街、縹シティのおかげ。

 藩(まがき)が読めるようになったのは、「藩ハン」という居酒屋の店名説明に、「まがき」という読み方もあることが書かれていたから。私はそれまで江戸時代の薩摩藩や川越藩などの「藩」の意味しか使ったことがなく、「藩」のもともとの意味が「かきね」であることを居酒屋の案内広告で知りました。日本語教師の知恵袋、居酒屋にもあるのだから、せっせと通わなければ、、、、ということにはならないか。

 「腥さい=なまぐさい」が読めたのは、腥を「つき&ほし」と思いこんだ親が、子に名付けようとした、というエピソードを新聞で読んだから。
 偏として使われる「月」には、「月ヘン」のほか、「肉」の省略形としての「月=にくづき」もあるので、腕、腹、胸、などは「にくづき」です。腥は、「生の肉」の意味。

 「青春の蹉跌さてつ」は知っていたけれど、蹉く(つまず・く)は読めない。簒奪(さんだつ)は読めたが、簒う(うば・う)は読めなかった春庭。ほかにも見知らぬ訓読みがごろごろ。
 春庭にも読めた1級の漢字訓読み。200字のうち、20字だけでした。
 文脈がない出題だったので、わかりにくかった。と、言い訳。文脈なしにドンと「藜」だけ出題されても、読めません。アカザだった。野草のアカザのおひたし、好きだったのに。
 
 自分が読めた字、数少ない。貴重な「読めた字」の中からテスト問題出題してみます。ヒントとして文脈をつけます。文脈があれば読みを推測できます。

1)肉を[燻す] 
2)自分を[箴める] 
3)孔子の[諱]は丘、字は仲尼(ちゅうじ)  
4)鴨(かも)と[鳬] 
5)ついつい情に[絆されて]しまった  
6)[逬って]あふれる 
7)豚を[屠る] 
8).[頑]に否定していた
9)[黙り]を決め込む
10)刀の[鍔]
11)この刀いくらで[贖った]のか
12)[鷽]がえ神事
13)[嗄れた]声
14)[樒]を神棚に
15)議案を[詢る]

(正解)    
1 燻す(いぶ・す)2)箴める(いまし・める)3) 諱(いみな)4) 鳬(けり)5)絆される( ほだ・される)6)逬って(ほとばし・って)7)屠る(ほふ・る)8).頑(かたくな・に)9)黙り(だんま・り)10).鍔(つば)11)贖う(あがな・う)12)鷽(うそ)13) 嗄れた(しわが・れた)14)樒(しきみ)15)詢る(はか・る)

 「京大卒のクイズに強い芸人」がウリのロザン宇治原史規は、テレビ番組の企画で1級問題(漢字6000字レベル)に挑戦し続け、1級200点満点のうち、合格点の160点まであと14点まで来ています。(146点獲得)
 私には、そんな努力はできないので、「がんばっているなあ、合格してほしいなあ」と思います。

 次回は、「まったく読めない訓読み」をご紹介。

<つづく>
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2008年12月21日


ぽかぽか春庭「読めても読めなくても」
2008/12/21
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(7)読めても読めなくても

 中国の康煕字典や、諸橋轍次編纂『大漢和辞典』には、親字が5万字もあります。漢字文化圏の人にとって、全部読み書きする必要はありません。常用漢字2000字のほかは、読めなくても生活にまったく支障はありません。でも、5万字あるということは知っていてもよい。その中に入ってはいかないとしても、自分に知らない知の世界があることを感じていたい。

 「役にたたない漢字が存在して何になる?いった誰のためになる?」と感じた方もいらっしゃる。受け止め方はそれぞれでよい。私は私の感じ方で、自分の知らない世界があることが楽しいし、その知の山に登ろうと挑戦している人がいる人がいることがうれしい。

 昔のギリシアでは、軍伝令として役立っていた長距離走者。今では伝令としては何の役にもたたない。しかし、現代でも42kmを2時間で走れる人、人間の能力への挑戦者として皆に賞賛されます。
 砲丸を20mも投げられたら超人と思う。棒をつかって6mも高く飛べる人、鳥人だと思います。身体能力にすぐれていると、オリンピックに出られてスポンサーもついて得することがある。

 でも、100mを10秒で走る人には感心する人も、漢字を6000字知っている人に対して「それがどうした、日常生活で役にも立たないつまらんことを知って何になる」と言う。
 読めたからといって、何か得するということもない。でも、役に立たない字だとて、読み書きできる人は「すごい!」と、私は思います。

 役に立ちそうもない記録ほど、私は好き!オリンピック種目にはないけれど、23段の跳び箱とべる人もすごいし、剣玉の「もしかめ」という技(上下の皿の上に、交互に玉を受ける)を、30分の間に5000回続けたってのもすごい。

 今年ギネスブックに搭載された新記録のひとつに、四足走行世界最速記録、というのがあります。両手両足を地面につけて、四つん這いの状態で走る。2008年11月13日、いとうけんいちさん(26歳)が樹立した記録では、四つんばいのまま、100メートルを18秒58で駆け抜けた。いいなあ、こういうことに挑戦する人。ほんとに何の役にも立たない記録なんですけど。

 あえて言えば、ギネスに記録されることで一目おかれる人の仲間入りできたってことくらいか。お笑い芸人をめざしているそうですが、ロザン宇治原の「IQ高い芸人」のように「四足走行芸人」がウリになるのやら。いとうさんの「やった!」のブログは下記URLに。
http://ameblo.jp/itokenichi/entry-10164506954.html

 スポーツのオリンピックのほか、数学オリンピックや科学オリンピックもある。
 漢字オリンピックが開催されて金メダルのひとつも獲得すれば、漢字オタクが賞賛される日もあるかもしれないけれど、世界漢字オリンピックは当分ないでしょう。
 中国(簡体字)と台湾(繁体字)と日本(日本式新字)とで、別々の漢字を使っている字があるから。たとえば、芸術の「芸」という字、日本は「草冠の下に云」中国では「草冠の下に乙」台湾では本字の「藝」を使う。