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春庭の漢字検定2

2011-05-29 15:00:00 | 日本語教育
2008/12/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(14)年の終わりに、1年間の失敗をかんがみる

 以下、私には、まったく読めませんでした。
 脳トレーニング用に掲載。今回は「ア行とカ行」、次回「サ行~ワ行」をご紹介します。

<ア行>
01藜(あかざ)
02慊りない(あきた・りない)
03誑く(あざむ・く)
04晨(あした)
05攢め(あつ・め)
06洽し(あまね・し)
07愆ち(あやま・ち)
08恤れみ(あわ・れみ)

09吩咐かった(いつ・かった)
10鎔(いがた)
11師(いくさ)
12屑し(いさぎよ・し)
13鄙しむ(いや・しむ)
14苟も(いやしくも)

15售れず(う・れず)
16菲い(うす・い)
17偸からず(うす・からず)
18愬えん(うった・えん)
19萼(うてな)
20簒う(うば・う)
21惆む(うら・む)
22恤える(うれ・える)

23簡ぶ (えら・ぶ)
24干す(おか・す)

25筬(おさ)
26扼える(おさ・える)
27韞める(おさ・める)
28誨えん(おし・えん)
29駭く(おどろ・く)

<カ行>
30騫けず(か・けず)
31贏ちえる(か・ちえる)
33芟る(か・る)
34馥る(かお・る)
35撥げる(かか・げる)
36鑒(かがみ)
37疆りなし(かぎ・りなし)
38喞つ(かこ・つ)
39文る(かざ・る)
40傅き(かしず・き)
41昃きて(かたむ・きて)
42諧う(かな・う)
43苟に(かりそめ・に)
44稽うる(かんが・うる)
45檋(かんじき)

46轢る(きし・る)
47蛬(きりぎりす)
48蹙まり(きわ・まり)

49啖う(く・う)
50絮い(くど・い)
51軛(くびき)
52晦まし(くら・まし)
53窘しむ(くる・しむ)
54緇まず(くろ・まず)

55刪る(けず・る)
56距(けずめ)
57罩める(こ・める)

58爰に(ここ・に)
59嘗みに(こころ・みに)
60咸く(ことごと・く)

<サ行>
61昌ゆ(さか・ゆ)
62忤うる(さから・うる)
63曩に(さき・に)
64摸り(さぐ・り)
65号び(さけ・び)
66麾く(さしまね・く)
67折む(さだ・む)
68偖(さて)

69誣いがたし(し・いがたし)
70兪り(しか・り)
71閾(しきい)
72錣(しころ)
73娜やか(しな・やか)
74霎し( しば・し)
74亟(しばしば)
76蠹(しみ)
77精げる(しら・げる)
78黜ぞけ(しり・ぞけ)

79拯い(すく・い)
80龕(ずし)
81菘(すずな)
82瘋(ずつう)
83輒ち(すなわ・ち)

84陋い(せま・い)
85偬しい(せわ・しい)

86賊ない(そこ・ない)
87誚り(そし・り)
88乖く(そむ・く)

<タ行>
89闌けて(た・けて)
90贍らざる(た・らざる)
91夷らなり(たい・らなり)
92蹶れず(たお・れず)
93鏨(たがね) 495彙い(たぐ・い)
95原ねる(たず・ねる)
96鬛(たてがみ)
97賚(たまもの)
98椽(たるき)
99謔れる(たわむ・れる)

100嵌める(ちりば・める)
101殄くす(つ・くす)
102竟に(つい・に)
103瘁る(つか・る)
104尸る(つかさど・る)
105矜まずんば(つつし・まずんば)
106虔む(つつし・む)
107恪む(つつし・む)

108闔じる(と・じる)
109俘る(と・る)
110遐きに(とお・きに)
111尤めず(とが・めず)

<ナ行>
112脩し(なが・し)
113轅(ながえ
114慷く(なげ・く)
115薺(なずな)
116蔑する(なみ・する)

117渾す(にご・す)
118猝かに(にわ・かに)
119暴に(にわか・に)
120攘み(ぬす・み)
121練(ねりぎぬ)
122貽す(のこ・す)
123莅んで(のぞ・んで)

<ハ行>
124騁する(は・する)
125籌(はかりごと)
126ます(はげ・ます)
127趨る(はし・る)
128荷(はす)
129機で(はずみ・で)
130将(はた)
131桴(ばち)
132絶だ(はなは・だ)
133滔って(はびこ・って)
134夐かに(はる・かに)

135掣く(ひ・く)
136齣(ひとこま)
137闡く(ひら・く)

138濬し(ふか・し)
139銜み(ふく・み)

140諂わず(へつら・わず)
141謙る(へりくだ・る)

142頌める(ほ・める)
143鐫る(ほ・る)

<マ行>
144候つ(ま・つ)
145須つ(ま・つ)
146俟つ(ま・つ)
147孚(まこと)
148寔に(まこと・に)
149允に(まこと・に)
150諒をなす(まこと・をなす)
151眥(まなじり)
152萁(まめがら)
153戍る(まも・る)
154罕に(まれ・に)
155蹼(みずかき)

156撓す(みだ・す)
157紊れ(みだ・れ)
158叨に(みだり・に)
159咸(みな)
160邏る(みまわ・る)

161邀う(むか・う)
162牟る(むさぼ・る)
163噎んだ(むせ・んだ)

164聘らしむ(めと・らしむ)

155艾(もぐさ)
156醇ら(もっぱ・ら)
157徼む(もと・む)
158需めに(もと・めに)
159覓める(もと・める)
160悖りて(もと・りて)
161懶く(ものう・く)
162慵し(ものう・し)
163醪(もろみ)

<ヤ行>
164烙く(や・く)
165頤わるる(やしな・わるる)
166恬らか(やす・らか)
167忰れる(やつ・れる)
168諧らぎ(やわ・らぎ)

169饒かな(ゆた・かな)

170羸き(よわ・き)

<ワ行>
171孼い(わざわ・い)
172纔かに(わず・かに)

 漢字検定、脳トレーニングに役立ちましたか?実生活には、まったく役立たない字ばかりだったと思います。一生のうち「醇ら藜を啖いて頤わるる」なんて文を読み書きすることもないでしょう。

 でもね、役には立たないけれど、1億人もいる日本語を読み書きする人のうち、漢字検定1級合格者は、まだ2000人ちょっと聞いて、挑戦してみようという人出てくるかな。今ならまだ希少価値がある。来年の試験目指してみるのもいいかもね。脳トレには最適です。

 この「読めない漢字シリーズ」は、水村美苗の『日本語が亡びるとき』を、1890円出して買うか、いや、これだけ売れたら(アマゾンでは一時品切れ状態になった)すぐにブックオフに出回るだろうから、100円になるまで待っていてもいいか考えながらブックオフの書棚をめぐって歩いたとき、『漢字検定1級準1級練習問題』、なんてのを百円で買ってしまった結果、書いているのです。
 
 『日本語が亡びるとき』は、発売されたときから「すぐに読むべきか、もうちょっと待つか」と、思案の本でした。だって、私、日本語教えてカツカツの生活費得ているのに、日本語ほろびちゃったら、おマンマ食い上げですから。ニホンゴ、マジ、ヤバイッスもんね。

 とりあえず、書評と要約だけネットであさった結果、「ブックオフ100円になったとしても読む時間の無駄」という評価に納得。ツーカ、私もともと英語圏で暮らしていたバイリンガルの人って、苦手なのよね。ダンナが東大教授の経済学者ってのも、う~ん。
 万年赤字会社のダンナ持っちゃって、英語もできず、漢字も読めない三重苦の私としては、ヒガミネタミソネミでいるしかなく、、、、、ココロザシ低くてごめん、、、、

 「英語は知的上層社会に属するエリートだけが学べばいい、一般ピープルは国語を身につけるべく近代文学を読め」という水村美苗の主張、そう言いたくなる気持ちもわかるような現在のニホンゴ環境ではあるのだけれど。ま、とりあえず、「英語からっきしできない一般ピープル」であるワタクシは、難読漢字クイズなんぞを続けます。

<つづく>
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2008/12/28
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(14)年の終わりに、1年間の失敗をかんがみる

 漢字画数問題、最後の出題。
 常用漢字の範囲でもっとも画数が多いのは、「鑑」23画。音読みは「カン」。「鑑」を使った熟語は、鑑賞、鑑札、図鑑など。
 クイズその6:「鑑」の訓読みは? これは、常用漢字ですから、送りがなをつけてお答え下さいマシ。

答え:「鑑」の訓読みは「かんが・みる」

 就活をめざす学生には、「漢字検定試験2級以上は、就職活動の履歴書に書けるよ」とすすめていますが、「漢検チャレンジは準1級まででいいよ」と、日本語教師志望者にも言っています。1級問題挑戦は、退職引退してからの趣味の脳トレで十分。

 脳トレーニングに漢字練習は最適です。
 屋内すす払いが済んだら脳内すす払いのために、ぜひ、漢字練習に挑戦を。年内は忙しいとおっしゃる方、冬休みや正月休み中の惚け防止にぴったり。年末年始の酒の肴がわりに、漢字検定問題をつまんでください。ただし、1級問題が読み書きできるようになったからといって、景気上昇するわけでもなし。

 以上、古本屋の100円駄本コーナーにあった「漢字検定1級準1級練習問題」という本などを参考にして出題しました。 たった百円でこんなに遊べるものはない。(出題した四字熟語の例文は春庭の作例です)

 ア行からワ行までの「漢字検定1級難読漢字訓読み」一覧表。
 ながめて「あれも読めないこれも読めない」と、情けない思いをするために出題したのではありません。読めないのは当然です。1級問題は常用漢字の範囲外から出題されているのですから。読めないのは当然だからよしとして、このような表からも日本語のさまざまな特徴がわかるなあ、と感慨深く百円本のありがたさをかみしめたゆえのご紹介でした。
 この1級訓読み一覧表からわかる日本語の特徴については、次回シリーズで。

 さて、年末にあたって、一年間の数々の失敗に鑑みて、来年への反省点とし、、、、、たとしても、来年はまた来年の失敗を重ねるのが我が一年の総決算。

<おわり>

春庭のあいうえおクイズ1

2011-05-22 00:00:00 | 日本語教育
2008/12/23
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(9)海海海海海アイウエオ

 カフェ友の皆様におかれましては、ニホンゴへの志も高く、以下のような質問をいただきました。お答えします。

t******(2008-12-17 11:35:06)さんからのご質問に回答しました。

質問その1:海海海海海をアイウエオと読むということですが>
回答 「海海海海海と書いてアイウエオと読む」言葉遊びのひとつです。
「海」音読みは「カイ」訓読みは「うみ」ですが、当て字に用いた場合、さまざまな読み方にあてられる。ただし、この当て字は熟字訓というもので、アマという言葉に「海女」を当てたからといって、海に「ア」という読み方があるわけではありません。あくまでも「海女」という二字の熟語の読み方が「あま」なのです。

あ─海女(アマ)、
い─海豚(イルカ)、
う─海胆(ウニ)、
え─海老(エビ)、
お─海髪(オゴ)または海藻(オゴノリ)をあわせたもの。

 「海松」と書いて「みる」と読む。海草の一首の「ミル」に当てた漢字です。こちらの場合、海を「み」と読むのは人名地名にも当てられていますね。青海の読みは「おうみ」「あおうみ」「せいかい」などあり。

 「海海海海海あいうえお」の言葉遊び、出典は「万葉集」という説もあるのですが、何巻の第何番の歌なのか、確認できておりません。

春庭の熟字訓クイズは、以下のURLにあります。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/kanji1118a.htm

慣用読みについては、こちら
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nipponia0502.htm


春庭のあいうえおクイズ2

2011-05-17 07:09:00 | 日本語教育
2008/12/24
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(10)あいうえお五十音について

質問その2:四字熟語国産品は、新しくつくったものは別にして、全て禅語では無いかと>
回答 「和製四字熟語はすべて禅語であるかどうか、について。中国の故事成語は、出典がわかっている熟語が多い。中国故事成語・四字熟語のほか、和製四字熟語もありますが、すべてが禅語というわけではありません。
 和製四字熟語のうち、「夜目遠目」などは、漢字を訓読みしているので、和製だとすぐにわかります。音読みにしている「和魂漢才」「和魂洋才」なども和製ですが、別段仏教語や禅語であるというわけでもなし。

 ひとつひとつの熟語がいつどのように成立したかは、語彙論の本にでもあたれば、書いてあるかもしれません。
 今のところ、和製四字熟語語彙史にあたる時間がないので、お答えはここまでとさせていただきます。

 漢字を使って、日本語の音韻を表現しようと苦心を重ねた万葉古事記の時代。
 仮名と発音について、また五十音表の成立についてお話しておきます。

myth21hideさんのコメントより( 2008-12-23 09:36)
質問その3:「いろは」ができる前に「あいうえお」?、いろはがあるのに「あいうえお」、国語として完成したのは明治時代。

春庭回答: 「いろは」ができる前に「あいうえお」?というコメントの趣旨は、江戸時代は「いろは」で手習い、明治からは「あいうえお」で仮名を習ったということから「あいうえお仮名表」明治時代からのものだ、という「一般的な誤解」について注意を喚起しているものと思われます。

 myth21hideさんは、江戸時代の国学者谷川士清が「あいうえお」配列の辞書を編纂したことをカフェ日記に記述し、明治政府が「いろは仮名」ではなく、「あいうえお仮名表」を採用したことについて書いていらっしゃる。

 ただ、「あいうえお」が梵語(サンスクリット語)研究から出発し、早い時代にすでに和語研究に取り入れられていることを見逃していらっしゃるので、補足したいと思います。

 共通語として「現代標準語」が作られたのは、明治政府の「国家語」「国民語」を作りたいという要望によってであり、上田万年ら国語学者が寄り集まって「江戸山の手語」その他を混ぜ合わせて作り上げたことは、「近代日本語の成立研究」によって知られています。

 国語教育史の上では、小学校教育用の「仮名表」の採用事情が研究されています。
 明治の国語学者たちは、江戸時代の教育との差別化をはかるために、江戸の手習いで普及していた「いろは」を捨てて、奈良時代平安時代の梵語(仏教語・サンスクリット語)研究で使われていた「あいうえお」の表を採用しました。

 江戸時代までは「いろは」、明治時代からは「あいうえお」というのは、こどもの仮名教育用にはそうであるけれど、「あいうえお」の起源は古く、文献で残されている限りでは平安時代初期にさかのぼります。「あいうえお表の成立」は「いろは歌の成立」より早いのです。
 なお「いろは歌」については、下記の春庭コラムをお読み下さい。
http://www2.ocn.ne.jp/~haruniwa/nippongoiroha0603a.htm

 「あいうえお」の表は、サンスクリット語の発音研究によって和語の発音にあてはめて作られたものです。
  文献でたどれる「あいうえお五十音表」は平安初期ですが、仏教や梵語、漢語が入ってきたときから、母音の「あいうえお」は、文字を読み書きする人たちには知られていたことでしょう。

 万葉集を編纂した大伴家持ら、奈良時代の知識人もおそらく知っていたことと思われます。彼らは、和語に漢字をあてること日本語を中国の文字で書き表すことと、日夜真剣に取り組んでいたのですから。
 ただし、奈良時代の母音は、朝鮮語など大陸系の母音発音の影響を受けて、八つの母音が書き分けられています。甲類と乙類合わせて八種類の母音があったことを、江戸国学者石塚龍麿らが気付いていました。この論をまとめたのは橋本進吉『上代特殊仮名遣(じょうだいとくしゅかなづかい)』
 橋本の説に異議を唱えたのは、松本克己、森重敏ら。私は松本説を支持しています。

 日本語研究は、漢字と漢文、儒教仏教の導入を行った大和飛鳥時代から連綿と続けられております。江戸時代の、本居春庭、富士谷御杖、富士谷成章、鈴木朖、東条義門ら、すぐれた国語学者の研究成果を、現代の私たちも注目してしかるべきです。

 明治期からの西洋文法を取り入れた文法研究は「国文法」として学校教育に取り入れられておりますが、奈良時代からの「和語研究」にもっと注目してよい。私は、日本語文法は西洋語(印欧語)とは別の観点で記述すべきだという立場に立っています。

 馬渕和夫『五十音図の話』などに、あいうえお五十音図について詳しいので、ご一読を。

 『ことばの散歩道』というサイトを運営している信太一郎さんは、五十音図の解説の末尾に、「私は大学に入るまで、五十音図というのは、ローマ字を教えるため、明治ごろに作られたものだと思っていた。このような精密な音の分析が古くから東洋で行われていたことは、学校でもっと早くから教えられてもいいことだと思う。」と、述べておられます。

 私も似たような誤解をしておりました。日本語学を学ぶまで、「いろは」は「あいうえお表」より古い、と信じ込んでいましたから、信太さんの感想に同感です。
http://homepage1.nifty.com/forty-sixer/50onzu.htm

<つづく>
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ぽかぽか春庭「はせをの母はパパだった」
2008/12/25
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(11)はせをの母はパパだった

 wxm68971さん(2008-12-21 08:26)からのご質問に回答しました。
質問その4:ひらがなの「は」はどうして「者」という字の略語になっているのでしょうか?最近芭蕉に興味を持っていて、「芭蕉」の石碑に「はせを」とあり、その草書体?行書体?「は」の文字が「者」を崩した「は」になっています。 >

春庭回答: 現代仮名遣いの「は」は、「波」という漢字の草書体をもとに字体が作られました。草書体から作られた仮名は、草仮名、平仮名とも呼ばれました。明治期に標準表記が定まるまでは、さまざまな草仮名が用いられており、明治以降つかわれなくなったこれらの仮名は「変体仮名」と呼ばれています。
 現在、私たちが日常生活で目にすることのできる変体仮名は、老舗の看板「しるこ」や「生そば」などのみであり、学校教育の場では無縁になっています。老舗の蕎麦屋や天麩羅屋、呉服店などに行ったら看板を眺めてください。読めない草書みたいな文字が書いてあったら、それが変体仮名です。

「Ha」にあたる仮名には、「波」「者」「盤」「八」の草書体があります。

 芭蕉は1681(延宝9)年までは「桃青」という俳号を用いていました。38歳の桃青が、谷木因にあてた書簡で初めて「はせを」の署名を使用しました。弟子に芭蕉の木を贈られて庭に植えたことからの俳号改名です。南方産の江戸には珍しい木が、桃青の心をにわかに動かし、俳号心機一転の気分を呼び起こしたのでしょうか。

 仮名文字で署名するとき、本来なら「芭蕉」の仮名文字は「はせう」となるはずです。しかし芭蕉は、わざわざ「はせを」と書いていました。芭蕉の「は」には、「者」の草書体からつくられた仮名をあてました。「者」の草書体は「む」を縦半分に切った左側だけのように見えます。
 芭蕉を仮名文字で書くと「はせう」です。おそらくは間違いであることを承知の上で「はせを」と書いたのは、芭蕉のこだわりなのでしょう。

 江戸時代の仮名遣いは、藤原定家が定めた「定家仮名遣い」が基本になっています。しかし契沖は、定家仮名遣いの誤り部分を訂正した仮名遣いを定め、これが現在では「旧仮名遣い」「歴史的仮名遣い」と呼ばれています。
 このように、江戸時代には仮名遣いの用例がかなり揺れている時期なので、芭蕉も「はせを」という表記でよしとしたのでしょう。

 変体仮名と平仮名の使い分けは、きっちり決まっているわけではないのです。概ね決まっている仮名として、たとえば、「春」の「ha」は、「者」の草書体が当てられますが、「花」の「ha」は「波」の草書体です。「波」から出来た「は」の音価は、もともとは「pa」であったのです。「花」の弥生時代以前の発音は「pana」であり、現在も八重山地方宮古島の古い方言では「花」は「pana」です。「母」は、昔むかしの発音では「パパ」でした。

 春庭担当の日本語学授業では、文法、音声、文字表記、方言など日本語の多様な内容を扱いますが、「日本語トリビアクイズをひとり一題作成すること」を課しています。
 私が学生に出したトリビアクイズ例題は、「後奈良院のなぞなぞ」として日本語史では有名なクイズ。

 クイズその1:「母を呼べば二度あうが、父を呼んでも一度もあわないものは、な~に?」というものです。日本語音声変遷史にとって重要なクイズです。

 答えは「唇」。
 このなぞなぞについて春庭コラムのどこかに書いたのですが、どこに書いたか見つかりません。どうして答えが「唇」になるのかの解説は、以下のURLページをお読みください。「昔むかしの母はパパだった」というお話。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/haruniwa/diary/d800#comment

<つづく>
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2008年12月26日


ぽかぽか春庭「牛の角文字で大丈夫」
2008/12/26
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>春庭の漢字検定(12)牛の角文字で大丈夫

 学生に課したニホンゴクイズの出題。
 教師例題が「後奈良院のなぞなぞ」だったので、日本語学受講生の2年生レイナさんは、吉田兼好が『徒然草』のなかに書き留めている「なぞなぞ」をトリビアクイズとして出題しました。兼好の時代に流行っていたなぞなぞのひとつ。昔の人もクイズは好きだったのですね。
 ある恋文に書かれた文面、ひらがなの書き方についてのなぞなぞになっています。

クイズその2:「ふたつ文字 牛の角(つの)文字 直ぐな文字 歪(ゆが)み文字とぞ 君は覚ゆる」と、書いてある手紙、いったい何を伝えたかったのでしょうか。

 答えは「恋しく」。ふたつ文字=「こ」、牛の角文字「い」、すぐな文字「し」、ゆがみ文字「く」。
 「い」を牛の頭の2本の角に見立てています。牛の角文字を「ひ」と解く答えもあります。「ひ」の下の丸い部分は牛の顔。左右の横に出ている部分を角に見立てた場合。この場合は「恋しく(こひしく)」となります。どちらにしても、手紙の相手への「恋心」を訴える文面と言うことになります。

 このクイズの解説として、教師が変体仮名の話をすると、日本人学生達「そんな文字があったなんて、初めて知った」と言います。高校で古文を選択しなくてもよい学校も増え、古文授業を選択したとしても古典文法と読解中心ですから、入試には出題されることのない変体仮名のことなど、授業では扱わないのです。

 日本語教師養成コースに在籍している中国人学生ルイさんは、「私は日本の小学校中学校高校に通い、中国語と同じくらいに日本語ができるから、すぐに日本語教師になれると思っていたけれど、まだまだ日本語について知らないことがたくさんあることに気づいた」と、授業の感想コメントを書いていました。
 そうです。まだまだ知らないことが山のようにあり、日本語の世界は奥深いのだと気づくことが日本語教師への第一歩。

 ルイさん出題のトリビアクイズは「日本語と中国語で意味が異なる漢字熟語」
 日本人が誤解しやすい中国語をクイズにしました。
例題)愛人→中国語では「配偶者・奥さん」。手紙→中国語では「トイレットペーパー」。

 では、次の漢字の語、中国語ではどんな意味になる?
クイズその3:1)大丈夫 2)工作 3)湯 4)走 5)飯店 6)汽車 7)娘 8)看病 9)経理 10)改行

答え:大丈夫→中国語では、強い夫。工作→中国語では仕事。湯→中国語ではスープ。走→中国語では歩く。飯店→中国語ではホテル。汽車→中国語では自動車。娘→中国語では、目上の既婚女性(母親も含む)。看病→医者による診察。経理→経営者。総経理→社長。改行→商売を変える・転職する。

 日本人学生たち、漢語は中国語から来ているので、筆談すれば中国人と会話できると信じていたので、まったく意味が異なる中国語もあるのだ、ということに興味を抱いていました。これは、日本語教師が中国人学習者に注意を呼びかける漢字熟語の例でもあります。中国出身の日本語学習者の中に、日本語の漢語は簡単に意味が覚えられると、甘く考えている学生もいるからです。
 かわいい日本の女性から「手紙ください」というメモをもらったのに、なぜトイレットペーパーなど欲しがるのか不思議だったので放って置いた、という失敗例を笑い話として紹介し、しっかり日本語の意味を覚えないと、せっかくの恋のチャンスも失うことになるよ、と注意するのです。

 さて、「注意」という語、日本語では「ちゅうい!」ですね。それではクイズです。
クイズその4:ベトナム語で「注意」にあたることばは何というでしょうか。

 答え:チューイ

 この一致は、偶然ではありません。ベトナム語語彙の70%は、漢語を基にしているのです。

<つづく>
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春庭のあいうえおクイズ3

2011-05-15 11:17:00 | 日本語教育
2008/12/29
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>日本語の発音と文字(1)ラララ、ニホンゴクイズ

 漢字クイズでだいぶ脳内活性化できたことと思います。年内最後のシリーズは日本語の発音と文字。ひらがなクイズです。
 春庭コラム、もう一度12/21と12/22の「訓読み一覧表」を眺めてみてください。ア行からワ行まで見て気付くことはなんでしょうか。

 仮名クイズその1:訓読み一覧表を見てわかる日本語(和語)の特徴は何か。

 答え:「ラ行」の訓読みの語がなかったこと。濁音で始まる語が少なかったこと。

 もともと「ラ行」が語頭にくる和語は、日本語語彙にありませんでした。古語辞典をひいてみると、和語らしき古語は「らうたし」だけ。「らうたし」は古語辞典では仮名書きされていますが、中国語由来の語であろうと見なされています。「朧たし」という当て字もありますが、これがもともとの字だったかどうかはわかりません。

 韓国語朝鮮語は「林lim」という漢字を自国に取り入れたとき、語頭の「L」を半母音「Y」に変えて「林yimイム」という発音にしました。ただし、アルファベット表記やハングル表記では「Li,m」のまま。「表記がLでも発音はY」これは英語の「Know」「Knight」の最初の音「K」は発音しないというような表記の問題。
 韓国語朝鮮語では、「ラ行音は語頭に立たない」という発音原則を守ることを選択しました。「龍ロンLong」は語頭の「l」を半母音に変えて「yongヨン」になります。韓流スターのパクヨンハは、「朴龍河Park Yong ha」です。留学は、「ユハク」になります。

 日本は、漢語が日本に入り込むまで和語にはなかった発音「ンn」も「拗音=キャキュキョなど」も取り入れてきました。相手に合わせて自身を変えていくというやり方を日本語は選択しました。
 従来は語頭に「r」「l」の音が立たないはずだった母語の発音でしたが、林は「リン」として取り入れ、「はやし」という訓読み(日本語にあてはめた読み方)を考えました。留学はリューガクです。

 現在ラ行で始まる語は、リンゴ林檎、リス栗鼠、ラシャ羅紗、ラッパ喇叭、ラッコ海獺、ラーメン拉麺、ラジオなど、ほとんどすべてが外来の語です。漢字の当て字が成立している語は外来語じゃないように見えますが、もともとの和語にはなかった語彙です。

 「難読訓読み1級一覧表」では、濁音で始まる訓読みも少なかった。一覧表では、龕(ずし)桴(ばち)くらいでした。「ずし」は、神仏を安置する小さい箱のこと。音読みはガン「仏龕ぶつがん」「啓龕けいがん」。普通は「厨子」と書きます。バチは、太鼓や鉦を鳴らすとき使います。どちらも、仏教用語に関わり、外来の語なので、もともとの和語ではありません。
 和語では、もともとは清音だけが語頭にきていました。

 韓国語朝鮮語は、現在も語頭にくるのは清音だけ。濁音が語頭に立つことはありません。
「チェ・ホンマン、大晦日にK-1ダイナマイトに出場か」というニュースで、Dynamiteは、「タイナマイト」と発音されます。学生は、ハクセン。
 母語の発音原則に保守派の朝鮮語韓国語に比べて、日本語は「変わり身」の早さで日本語を作ってきた。
 日本語に有声音が語頭に来る語彙をもたらした古代中国語。ただし、現代中国語には有声音と無声音は異音(発音は異なっても意味のちがいを生じない)です。現代中国語は有気音と無気音の違いを意味の対立に利用しています。北京の最初の音は、息を口から出さないようにして言う「ペ」と思ってください。ローマ字表記ではBeijinになりますが、有声音の「b」を発音しているのではありません。「息を出さないペ」です。

 日本語は、時代によってどんどん発音が変化してきた言語です。現在進行中の発音変化。小さい→チィセー。デカイ→デッケー。高い→タッケー。現在は若者の発する俗語っぽい響きがありますが、あと50年で、標準の発音になるでしょう。学習院父母会でも「あら、愛子さんのお母様、めっちゃデッケー石のリングですわね。タッケーお買い物ざあましょ」と、話している、、、、かも。

 発音の変化はどんどん進みます。昔々は朝早い行動を認め合って「おハヤい~」なんて言っていたのに、現在は「オハヨー」と、「ヤイ」が「ヨー」に変わっていますし。
 平安時代には少々を「セウセウ」と発音していたのに、現在の発音ではショウショウです。「蝶々」という語、古代日本語でテフテフと発音していたけれど、鎌倉時代にはテウテウと変化し、現代日本語ではチョーチョーです。

<つづく>
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2008年12月30日


ぽかぽか春庭「ことば遊び」
2008/12/30
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教師日誌>日本語の発音と文字(2)ことば遊び

 平安時代には「tefutefu」と発音していたから「てふてふ」と表記していた蝶々。現代仮名遣いが制定されるまで、発音が「チョーチョー」に変化しても、仮名表記は「てふてふ」のままでした。古い発音の表記を残したのです。しかし、現在は発音の通りに表記することが原則と決まりましたから、蝶々は「チョウチョウ」と発音通りに仮名文字を書きます。

 泥鰌(どじょう)は、もともとの発音は「どぢやう」でした。大言海を編集した大槻文彦は「泥津魚」を語源であるとみなしていました。どろづうお→どぢうお→どぢやう→どじょう」
 しかし、江戸時代の泥鰌屋のオヤジが三文字の看板にしたいからと「どぜう」と表記するようになったのが広まりました。現代語では「どぢよう」でも「どぜう」でもなく、発音の通りに「ドジョウ」と仮名書きするのです。このように表記と発音の歴史は、語彙によって様々です。

 日本語が「子音+母音」の音節によってすべての語を組み立てており、仮名の発音すなわち「音節文字」の発音は日本語の基礎です。この基礎を小さな子供が学ぶにいちばんよい遊びのひとつがシリトリです。
 お正月に小さいお子さんとシリトリをしたとき、少々大人げないことですが、子供に絶対に勝って、大人はすごいなあと思わせる「シリトリ必勝法」を伝授しましょう。

 ラ行音のことばは外来の語であって、日本語には数が少ない、と申し述べました。つまり、シリトリで自分の順番になったとき、必ずラ行音がおしりにくるような語を選べばいいのです。
 蟻、色、衿、裏、俺、蛙、霧、栗、経理、氷、猿、尻、菫、芹、橇、鱈、ちり取り、釣り、テロ、鳥など、らりるれろがつくことばを相手に返していき、同じことばを使えるのは一度だけというルールにしておくと、相手はラ行の語がだんだんなくなって、シリトリを返せなくなるのです。

 最近の子どもたちは、お正月といっても、たこ揚げも独楽回しも羽つきもしなくなりました。家のなかでゲームばかり。ピコピコとコントローラーを動かす遊びでは、年よりはなかなか参入できません。たまには、カルタなどで「ことば遊び」の楽しさも知ってほしいと思います。いろは歌留多、百人一首など、子供の知力鍛錬にもなりますよ。

 私は「上毛歌留多」で育ちました。
い 伊香保温泉日本の名湯(私の生まれた市に編入されました)
ろ 労農船津伝治平(飛鳥山公園に顕彰碑があります)
は 花山公園ツツジの名所(一度しか行ったことないけれど)
に 日本で最初の富岡製糸(世界遺産に申請中)

 そのほかの「ことばあそび」として、回文もおもしろいです。「トマト」「しんぶんし」「ミルクとクルミ」のような例題を出しておくと、小さなお子さんでも作れます。そのあと、大人の回文として、江戸時代の詩を紹介しましょう。

 ネットに出ているもっとも長い回文は、1197文字のものがあります。文字数はすごいですが、残念ながら、読んだときの情趣に欠ける。この1197文字回文はあちこちのサイトで検索できるので、探してみてね。
 江戸時代に「最長」とされていた回文「時は秋」は、単に回文になっているだけでなく、優れた情景描写の詩になっています。逆からも読んでみてね。

 「紅葉」の仮名表記が「こうへふ」になっているのは、泥鰌を「どぜう」と表記したり、芭蕉が自分のサインを仮名文字でするときに「はせを」と書いたりしたのと同じように、「仮名表記のゆれ」を利用したものと思えるので、あまり目くじらたてずにすぐれた回文としてあじわってください。

時は秋(ときはあき)
この日に陽たづねみむ(このひにひたづねみん)
紅葉錦の葉が(こうへふにしきのはが)
龍田川の岸に殖へ(たつたがはのきしにふへ)
鬱金峰伝ひに(うこんみねづたひに)
陽の濃き淡きと(ひのこきあはきと)

 春庭、2008年もことばの楽しさを追求してまいりました。来年もことばで楽しくすごしたいと思います。