2009/04/01
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(1)1万年の漢字文化
シリーズタイトルの「ニーハオマ?」は、中国語の手紙の冒頭などに使われる挨拶のことばです。「お元気ですか」という意味で「你好[ロ馬]」と書きます。ふだんの挨拶では「ニーハオ你好」だけですが、手紙などでは疑問詞の[ロ馬]を付け加えるのです。さて、「手紙」とは、中国語でトイレットペーパーを意味する、ということは、最近日本人の間でも知られてきました。中国からのニーハオ春庭通信、漢字の話ウンチクシリーズ。最初の漢字シリーズは日本語と中国語で意味の違う漢字のあれこれ。
まずその前に日本語における漢字の復習から。
漢字は、日本語にとって大切な表記文字です。日本語は漢字ひらがなカタカナアルファベットを取り混ぜて表記する、世界でも少数派の表記システムを持っています。
ひらがなカタカナは、日本語にあわせて発達した文字ですが、元になっているのは平仮名も片仮名も漢字です。漢字は日本語の自立語の多くを表記し、ひらがなは文法上の機能を表すことを主にしています。非自立語、すなわち付属語・接尾辞・助詞、動詞形容詞など用言の活用語尾を表記します。
にほんで つくられた かんじ(こくじ)も あるし、にほんで そうさくされた じゅくご(みんしゅ じんみん てつがく やきゅう きょうわこく など)もあり、かんじは にほんごに かかせない もじと なっています。 かなだけで ひょうきする てんじなどの ひょうきほうも ありますが、いっぱんてきには かんじかなまじりぶんが ふきゅうしており かんじを つかわない ひょうきは たいへん よみにくいものに かんじられます。
日本で作られた漢字(国字)もあるし、日本で創作された熟語(民主、人民、哲学、野球、共和国など)もあり、漢字は日本語に欠かせない文字となっています。仮名だけで表記する点字などの表記法もありますが、一般的には漢字仮名交じり文が普及しており、漢字を使わない表記は、たいへん読みにくいものに感じられます。
現在までの研究で最古の漢字とされるのは、「中国寧夏回族自治区の大麦地区で発見された岩壁に描かれた絵文字」です。(2005年10月5日新華社)
中国大使館HPに新華社発表の記事があります。
http://jp.china-embassy.org/jpn/zgly/t215151.htm
大麦地区岩壁の初期の岩画は、今から1万6千年から1万年前のものと測定され、その岩絵の図形から1500余りの絵文字が、漢字の起源とみなされています。(文字として解読されたのは一部分だけですが)
殷時代(商王朝)の甲骨文字などと同様の文字体系がすでに1万年前から存在していたことがわかり、これまで紀元前5千年ごろから使われていたという漢字の歴史が大きく塗り替えられたました。
この漢字は、紀元前600年頃から始まったという稲作の伝来とともに随時日本に伝えられてきたと思われます。AD50年~800年の間に、つたわったことの証拠として、剣や鏡に残された文字があります。剣や銅鏡に残された文字から、漢字伝播の過程が研究されてきました。
木簡の出土も相次ぎ、日本がどのように漢字を受け入れ、日本語に合わせて使いこなすようになったのか、明らかにされてきました。
銅鏡や銅剣の文字は呪術的なマークとしての使用が多く、実質的に「日本語を表記する文字」として使用されるようになったのは大和飛鳥時代より以後のことになります。
<つづく>
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2009年04月02日
ニーハオ春庭「万葉仮名とハングル」
2009/04/02
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(2)万葉仮名とハングル
日本と同じように古代朝鮮や越南(ベトナム)も中国からの漢字文化を受け入れました。古代朝鮮では、吏読(りとう)と呼ばれる表記方法がありました。日本語と同じ文法(ことばのしくみ)がある朝鮮語では、名詞や動詞語幹を漢字で書き表し、付属語を付け加えるやり方で表記されていました。一部の漢字を仮名のように用いる読み方で自国語と中国語の相違を補う方法が考え出されていました。
三国時代(高句麗、百済、新羅の三国が鼎立した時代)から新羅統一時代にかけてまとめられたというこの「吏読」は、日本語の万葉仮名成立の先駆と考えられます。
しかし、日本語の万葉仮名が平仮名に発達したのに対し、朝鮮半島での文字は、15世紀のハングル成立まで、独自の文字は発達しませんでした。
日本の漢文は、初期には半島出身の知識人が吏読を加えた漢文として伝えたものを踏襲し、遣隋使遣唐使の時代になると中国本場の漢文を習得し、全面的に中国語に翻訳する「漢文・化」が可能になりました。『日本書紀』『懐風藻』など、正式な漢文とはやや異なる文体ながら、中国人にも読める漢文で書かれています。
古代日本人が自由に漢文を読み書きできた以上に、古代朝鮮の官吏や貴族達は漢文を読み書きできたと思われます。古代朝鮮は、自国のことばを発音のままに表記することをせず、漢文及びその補助的な手段として付属語吏読によって表記してきたので、古代朝鮮語がどのようなものだったのか、今では再現することができません。現代韓国語朝鮮語の遠い祖語は新羅語だろうということが研究されていますが、その新羅語はどのようなものだったか、一部分しかわかっていません。自国語を発音通りに記録せず、中国語に翻訳された形でしか記録されていないからです。
漢字を発音するとき、日本語は「音読み」「訓読み」の二通りを使い分けました。一方、古代朝鮮語は「音読み」だけを用いたのです。「古代」という語をかんがえてみましょう。日本語は「古」に対して「コ」という音読みの発音と「ふる」という訓読みの発音の両方を用いたので、現代日本語の「ふる」は、古代日本語でも「ふる」と発音したことがわかるのですが、古代朝鮮語では「古」に対して「コ」という音のみをつかったので、新羅語で「古い」に当たる語をどのように発音したのか、わからないのです。
朝鮮語を発音のとおりに表記する方法は、15世紀の世宗大王によるハングル創作を待たねばなりません。古代朝鮮語を復元するためには、わずかに中国文献や日本文献に古代朝鮮語の断片が残されているのを研究していかなければならないのです。
千年前の日本語は文献によって確認できるけれど、千年前の朝鮮語は書き残されていないのです。古代朝鮮語は全部古代中国語に翻訳されて記録されたからです。
<つづく>
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2009年04月03日
ニーハオ春庭「こもよみこもち万葉仮名」
2009/04/03
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(3)こもよみこもち万葉仮名
ハングルは、15世紀に作られた非常に合理的な文字で、韓国語朝鮮語を表記するのに適したすぐれた文字です。しかし、古代朝鮮語の表記は残されていませんから、15世紀以前の中世朝鮮語古代朝鮮語を復元することはむずかしい。
4~5世紀から8世紀の日本語が復元できるのは、発音通りの日本語が万葉仮名によって『古事記』『万葉集』などに残されているからです。
泊瀬朝倉宮御宇天皇(後代に雄略天皇と名付けられたオホキミ)を作者として伝承された古代の婚姻歌謡は、漢字だけで表記されていますが、日本語として読み解くことができます。賀茂真淵や本居宣長のおかげですが、その後、万葉仮名の研究は著しく進んでいます。
籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒
家吉閑名 告<紗>根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居
師<吉>名倍手 吾己曽座 我<許>背齒 告目 家呼毛名雄母
籠(こ)もよ み籠持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串もち
この岳(おか)に 菜摘ます児
家聞かな 告(の)らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ 居れ
しきなべて われこそ座せ われにこそは 告(の)らめ家も名も
古代日本語の発音が、万葉仮名表記によって再現できます。そして、音韻変化の研究によって「掘串 ふくし」の発音は飛鳥奈良以前には「pu ku shi」であったこともわかっています。
現代韓国語朝鮮語では、漢字をほとんど使わない社会生活になっているので、カムサハムニダ(ありがとう)の、「カムサ」が中国語由来の「感謝」と共通する語彙であることに気づかない子供も育っています。
日本語の漢字教育をうけた層は、「ごこうじょうにかんしゃします」と発音したとき、頭の中には「御厚情に感謝します」という文字が浮かびます。同音文字、「ご厚情に」を交情、向上、工場、口上、恒常、攻城、荒城、甲状、攻城、高城に置き換える間違いはでるかもしれないけれど、「かんしゃします」の場合、官舎はスル動詞にならないので、「かんしゃします」ということばを聞いたとき、「官舎します」と間違えることはない。
日本語は、漢文での読み書きのほかに、「漢字をつかって日本語を書き残す方法=万葉仮名」の方式を採用し、200年ほどの間に「日本語表記につごうのよい平仮名片仮名」を広く用いるようになりました。漢字を「ほんとうの文字=真名」とし、それを崩した草書体の文字を「仮の文字=仮名」として、日本語を日本語のまま表記できるようにしました。平安文学の開花は、平仮名の発達による、ということは、土佐物語、源氏物語、古今集仮名序に記されているところです。
日本の漢字は、現代でもなお「隣の国から伝わった文字」という意識を残している点で、世界の表記システムの中で特異な地位を占めています。アルファベットを使う言語の国では、だれも「古代フェニキア文字を変化させて使っている」などと考えもせずにアルファベットで自国の言語を書き表しています。アルファベットによって母語を書き表している国の人々が、アルファベットの由来などまったく知ることもなく文字を使っているのに比べると、日本は1500年たっても、子どもたちに漢字を教えるとき、それが中国由来のものであることを意識しています。
私たちは「漢字は中国から来た」ということを、当然のように知りつつ母語を表記する文字として使っています。母語を表す文字のよってきたる所を1500年以上も忘れることなく使い続けているのは、音読み(中国語読み)訓読み(和語の読み)という「ひとつの文字に2種類の言語の読み方」を1500千年間変わらずにつづけてきたからでしょう。
<つづく>
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2009年04月04日
ニーハオ春庭「我的中国的工作」
2009/04/04
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(4)我的中国的工作
中国の「中」という文字を見たとき「チュー」という音声が頭に浮かびますが、「中」ひとつだけあったら、日本語母語話者は「チュー」のほか、「なか」という発音も頭のなかに思い浮かぶるはずです。そして、文脈によって「チュー」と読んだり「なか」と読んだりします。私たちはこのことを当たり前のことのように感じていますが、これは世界的には特殊なことがらなのです。
「人中で」というときは「ひとなか」で「なか」と読み、「会議中」「食事中」というときは「チュー」、「一日中」のときは「ジュー」と、ひとつの文字の発音を何種類もつかいわける技術を身につけていることは、世界の言語文字表記でほかにあまり例のないことです。漢字ひらがなカタカナ3種類の文字を混ぜて使い、しかも漢字にはひとつの文字に数種類の発音があり、和語か漢語か、という語彙の種類別によって、文字の読み方を変える。
「きのう、コーエンに行ったんだよ」という話を聞いたとき、前後の話の続きから、「公園に行った」のか、「講演に行った」のか、「公演に行った」のか、文字を思い浮かべて判断しています。私が以前続けていた視覚障害者のための朗読ボランティアでは、よく同音異義語の説明を求められました。前後の文脈から判断できないとき、「コーエンにイッタ」と朗読した場合、意味がわからないからです。
私の仕事の大切な部分として「日本語学習者への漢字教育」があります。主として非漢字圏の学習者に、漢字に興味を持たせて漢字の成り立ちなどを解説しながら日本語語彙を導入する、という授業を行っています。「漢字のなりたち解説授業」の実際については、また別のシリーズ「春庭の漢字授業」で実況中継記録をお伝えします。
さて、私は現在、いつもの年なら春休みを楽しんでいる時期なのに、中国で仕事を続けています。「日本の大学院で博士号をとるために留学する大学院修士号取得者」たちに、日本語を教える仕事。これから中国での日常生活の報告のほか、授業報告もしていくつもり。まず、日本と中国の漢語の話題から。
今回の中国滞在では、中国人学生、しかも大学院修士号取得者対象ですから、漢字教育といっても、日本語語彙の漢字読み方の中で、留意すべき読み方や意味を解説するにとどめることになります。
中国語で教育を受けてきた層には「漢字なら中国が本場だから意味も書き方もよくわかる」という思いこみがあります。漢字教育をなおざりにする学生もいるので、中国語と日本語の字体の違い(簡体字との違い)と読み方使い方の違い、また、同じ漢字でも意味の異なるものに留意させます。
三月末、中国人学生に日本語の漢字テストを実施しました。皆よくできます。文法項目としては日本語初級の学習をしているのですが、漢字語彙は日本語能力試験2級レベルの語彙をどしどし教えていく教科書を使っています。『実力日本語』という「日本の大学院に留学する中国人留学生」を対象にして開発された教科書です。
<つづく>
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2009年04月05日
ニーハオ春庭「中国的漢字ふりがな」
2009/04/05
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(5)中国的漢字ふりがな
中国人大学院修士課程修了学生への漢字テスト。漢字にひらがなで読み方をふらせる「ふりがな試験」です。
長音、濁音と清音、促音(つまる音)、拗音(きゃきゅきょなど)の聞き取りが弱い学生が多いので、仮名をふらせると、この発音の間違いがよくわかる。また、地方の方言によって、RとN、RとTの音の区別がむずかしい学生がいるので、この発音のまちがいも、ふりがなでわかります。熱心に「れっしん」と仮名をふった学生、RとNの区別がつかない中国南方の出身者と思われます。日本人にはRとLの音の区別がわからず同じ音に聞こえるように、中国南方地域ではRとNの音が「同じ音」に聞こえるからです。
文法の試験でも、発音の間違いによって、×にされてしまう学生もいます。たとえば、「もし、都合が< >たら、遊びに来ませんか」という文の< >に「いい」という形容詞を活用させて記入する問題で、正解は「いい」を活用させ「もし都合がよかったら、遊びに来ませんか」なのですが、促音の聞き取りを苦手とする人たちは、しばしば「もし、都合が よっかたら~」と、書いてしまう。促音の聞き取りと発音はむずかしいので、なかなか促音を正しく発音できないのです。母音の聞き取りも「ん」も難しい。
ふりがなの間違いを書き出してみると。
合格こうかく 兄弟きゅうたい 出発しゅぱつ・しょうぱつ 条件じょけん 条件じょっけん 事故じこう 給料きゅうりょ 税金ぜきん・ぜんきん 熱心ねしん・れっしん 趣味しゅうみ・しゅっみ 種類しょうるい 長所ちょうしょう 迷惑めんわく 種類しゅうるい・しょうるい 平均点へいけんてん・へいきんてい
朝鮮族の学生は、文法はよくできます。朝鮮語は日本語と同じ文の並べ方だから。でも、発音が苦手です。漢字ふりがなでは、朝鮮族の苦手な発音がよくわかります。朝鮮語は語頭には必ず清音になり、語の中では濁音になりますから、合格を「こうがく」と書く学生もいるし、条件を「ちょうけん」と書く学生もいる。税金せいきん 洗濯物せんだくもの、など。清濁(無声音と有声音)の聞き分けはたいへん難しい。
日本の小中学生高校生への漢字読み仮名テストは、漢字の読み方を覚えたかどうかをチェックするテストなのですが、中国人大学院学生への漢字テストは、「発音のまちがい」をチェックするテストになります。もちろん、漢字の読み方そのものを覚えていなくて、「税金を納める」に「ぜいきんを なめる」「ぜいきんを のうめる」と書いた学生は音読みの「納」ナッ、ノウを覚えていて、訓読みを忘れたのだということがわかります。
間違える人もいますが、ほとんどの学生が、ふりがながよくできており、さすがエリート中のエリート大学院生だと感心しています。
非漢字圏学生への漢字テストだと、「兄弟あにいもと」とか、「出発ではつ」などはまともなほうで、どうしてこんな読み仮名をつけるかなあという笑えるふりがなが多い。非漢字圏の漢字学習者たち、知恵をふりしぼってユニークな読み方をひねりだすので、講師室ではいつも漢字担当者たちが「本日の笑えるふりがな」を披露しあって楽しんでいました。
現在担当の中国人大学院生たちのふりがなには、「笑える」ものはなくてつまらないですが、発音の間違いがよくわかる結果を見て、今後の発音教育に生かしていこうと思っています。
<漢字の話は四月中旬へつづく>
2009/04/10
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(6)トイレットペーパーで手紙を書く
日本語と中国語で同じ漢字熟語、意味内容が、(1)まったく異なる。(2)意味が共通している部分もあるが、微妙にずれている部分もある、(3)ほとんど同じ、
という3つに分類できます。
(3)のほとんど同じ、という場合は誤解も起きず、問題はないでしょう。
「手紙」のようにt中国語ではトイレットペーパーの意味になるなど、まったく異なる場合も、最近では意味の違いに興味を持つ人も増え、気をつけることができます。問題になるのは、(2)の、「微妙に異なる」場合です。
「収集」は、中国では「宝石を収集する」「古代中国絵画を収集する」とは言えるけれど「粗大ゴミは火曜日に収集する」などには使えません。「収集」は「貴重なものを集める」という意味だからです。そのため、中国人留学生は、「粗大ゴミの収集日」などの表現に違和感を感じます。
私は日本で「先生」と呼ばれる職業についていますが、中国では「先生」は、主としてあらたまった場で男の人につける敬称で、日本語なら「~さん」にあたる言葉です。日本では、教師、医師、弁護士、議員など、一定の職業の人にのみ使う、ということを知っておかないと、日本滞在の中国人も、中国滞在の日本人も誤解することがあります。
中国人学生に推奨する「日本語と中国語 漢字語の意味のちがい」を学ぶための参考書があります。大阪府立大学教授の張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)。張麟声先生のホームページURL
http://www.lc.osakafu-u.ac.jp/staff/zhang/lin_index.htm
また、同様の中国語と日本語の漢字語の意味のちがいを解説している本は、彭飛『中国語虎の巻』(東方書店)金若静『同じ漢字でも』(学生社1987)があります。
以下、日本語と中国語で意味の異なる漢字熟語のリストを掲載します。
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを、春庭が再編集したリストです。
=======
<1:人をあらわす語>
1-1愛人(あいじん)
日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男
中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
日本語――外国人。
中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい)
日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。
<つづく>
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2009年04月11日
ニーハオ春庭「可憐な少女はかわいそう」
2009/04/11
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(8)可憐な少女はかわいそう
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版200)から引用したものを編集したリストつづき。
<3:人やモノの状態、ようすをあらわすことば・日本語の場合「形容動詞・ナ形容詞」になることが多い>
3-1清楚
日本語(せいそ)――女性や花の清らかな美しさをいう。
中国語――「はっきりとしている」という形容詞と「分かる」という動詞。
3-2可憐
日本語(かれん)――いじらしい、かわいい。「可憐な花、可憐な少女」
中国語――かわいそうな。可憐的老人(孤独でかわいそうな年寄り)
3-3元気
日本語(げんき)――健康で勢いがよいこと。挨拶用語として「げんきですか?」
中国語――人だけでなく、社会、組織などの生命力、活力、精気の意味。
3-4怪我
日本語(けが)――(1)負傷 (2)失敗、思いがけないこと「深入りすると怪我をするよ」「怪我の功名」
中国語――単語としての意味はない。「我(私を)責める」「私のせいだ」という主語述語をもつ文。「怪」は「とがめる、責める、人のせいにする」という動詞。
3-5緊張
日本語(きんちょう)――失敗が心配で心や身体が引き締まること、両者の関係がうまくいかず、今にも争いが起こりそうな状態。
中国語--日本語と同じ用法のほか、物に関する用法がある。「最近鋼材緊張(さいきん、鋼材が不足している)」
3-6得意
日本語(とくい)――(1)ある種の成功を収めて満足している人の気持ち。「大学に合格して得意になっている」(2)「得意なスポーツ、得意な料理」のように上手にできる事柄、「得意先」(ひいきにしてくれる客)
中国語--(2)の用法は中国語にはない。(1)のみが使われる。
3-7快楽
日本語(かいらく)――ここちよい、楽しい(日本語では肉体的感覚が強い)「男の快楽」というと、異性関係を含む身体的快楽の意味合いが強くなる。
中国語1--主に精神的なものについての心地よさ。「快楽的単身漢」という中国映画のタイトルの意味は「家族親戚など係累がなく自由気ままに暮らす独身男」という意味
3-8上品・下品
日本語(じょうひん・げひん)――日本語では人の言動を評価することば。上品な婦人、下品な言葉など。語源の仏教用語では極楽浄土に往生する人が9段階に分けられ、上の3段階を「上品」、下の3段階を「下品」ということに由来する。
中国語――人ではなく、物についていう。
3-9馬鹿
日本語(ばか)――(1)知能の働きがにぶいこと(人)。「無知」の意の梵語mohaから来たらしく、「馬鹿」は当て字。(2)ナ形容詞「ばかな」は「愚かな」「有り得ないほど意外な」の意。「そんなバカな!」
中国語――「馬」のような「鹿」、鹿の一種。
3-10恰好
日本語(かっこう)――体裁(ものの形、姿、様子)がちょうどよい。「恰好がいい男性」「この服は恰好はよくないけれど、暖かいよ」さらに、「恰好の値段」(値段がちょうど手ごろであること)、「50恰好の女性」(だいたい50歳くらいの女性)
中国語――ちょうどそのとき、おりよく。「恰」は「ちょうど」、「好」は「よい」の意だから、「ちょうどよい」ことが中国語では「ちょうどよいとき」
3-11結構
日本語(けっこう)――(1)満足のゆく状態であること(すばらしい)。「結構なお住まいですね」(2)まずまず満足の状態(かなり)。「この店の料理、結構いけるね」(3)現在の状態で満足しており、それ以上を必要としない様子(丁重に断る言葉)。「もう結構です」は、いろいろなニュアンスがあり、前後関係などから判断する必要があり、日本語学習者は要注意。「この文章、けっこう良い出来だね。(思った以上によく書けている場合につかう)」
中国語――構造、構成。「この文章、結構良い」というと、中国語では、「この文は(表現はそれほどではないが)構造が良い」となる。
<つづく>
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2009年04月12日
ニーハオ春庭「下水を通り悪の道へ」
2009/04/12
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(7)下水を通り悪の道へ
ことばの変化について。
和語の「かなしい・かなし」を考えてみましょう。古語辞典にある「かなし(愛し)」は、「強く心が動かされる、しみじみとした感動を覚える、心にしみていとしい」とあります。切ないまでに、しみじみと心のひだに感情が集まってくる、という意味です。切ないまでにしみじみするところから、「悲しい」という意味が派生してきて、現代語としては、「愛し・かなし(いとしい)」という意味がなくなり、「かなしい我が子」と聞くと、「愛しい(いとしい)我が子」ではなく、「悲しい我が子」という意味に受け取ることになります。
このように、言葉の意味はどんどん変化します。元は中国語であった漢字熟語が日本社会に移入されたとき、意味変化がおこるのは当然のことです。今ではまったく異なる意味で使っている語も多いのですが、今回のテーマは「意味が重なり合う部分を残しているが、、微妙にある部分ではずれている日本語中国語」の対照です。
<2:「人」以外の名詞>
2-1下水
日本語(げすい)――家庭などから出る汚水。上水の対義語
中国語――日本語と同じ意味のほかに、豚など家畜の内臓(もつ)(水に下げて煮る)、船が進水する、悪の道にはいる(普通の暮らしを営む陸から通常は暮らさない水へ下っていく)、布を水につける、など。
2-2階段
日本語(かいだん)――人が上がり下がりするための段になった通路。中国語では「台階、楼梯」
中国語――日本語の「段階」の意味。物事が進む過程のひとくぎり。時間的な概念で、例えば、封建社会から資本主義社会に移行したことを社会が新しい「階段」に入った、という。
2-3趣味
日本語(しゅみ)――読書、音楽鑑賞など、余暇の楽しみ。中国語では「愛好」に相当。
「私の趣味は薔薇の栽培です」
中国語――人生観(古代中国語、古典語のみ)
2-4手紙
日本語(てがみ)――書状、レター。手で書く文字「手」手で習う文字→手習い
中国語――トイレットペーパー。「トイレに行くこと=解手(手を解く)」手は用便の隠語。
2-5情報
日本語(じょうほう)――インフォーメーション、中国語の「信息」。
中国語--「軍事情報」のように、国家の機密や安全にかかわる事柄。
2-6案件
日本語(あんけん)――処理されるべき事柄。「外交案件」「予算案件」外交・予算に関して検討や処理すべき事案。日本語の「案」は、「アイデア」または「考える」という意味。考案、思案、妙案。日本語独自の漢字語「腹案、思案」。日本から中国へ伝わった漢字語「草案、提案」
中国語――事件。中国語の「刑事案件、民事案件」は、日本語では「刑事事件、民事事件」。「案」は昔は机の意味。古代中国の役人たちが「案」の前に座って処理するさまざまな問題が「案件」。古代中国の役人たちが処理していた問題の多くは訴訟事件だから、「案件」は実質的に「事件」だった。
2-6縁故
日本語(えんこ)――血縁、縁戚などの縁続き、人と人とのかかわり・つて。「東京には一人も縁故がない」「縁故をたよって就職した」
中国語――理由、原因
2-8今朝
日本語(けさ)――今日の朝「今朝は早起きしたので眠い」日本語の朝は日の出前後から数時間。
中国語――今日、または今現在。中国語にはmorningのほかに「一日」の意味もある。
2-9顔色
日本語(かおいろ)――顔の色。「今日は顔色がよくないね。どうかしたの」
中国語――顔だけでなく、いろいろなものの色。
<つづく>
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2009年04月13日
ニーハオ春庭「教養つけて強制労働」
2009/04/13
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(9)教養つけて強制労働
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
<4:中国語では動詞が主な意味を担う語>
4-1覚悟
日本語(かくご)――困難や不利な結果が出るかもしれないと予測して、心を決めること。「どんなに難しくてもあきらめないで、感性させる覚悟です」
中国語――(理論や政策に)めざめる、自覚する。「有覚悟」「覚悟高」の人とは、「中国共産党の理論、路線、政策に対する意識や理解が高い人の意味。
4-2教養
日本語(きょうよう)――学問・文化に関する広い知識を身につけることで得られる心の広さ。
中国語――人のよくない習慣やくせを強制的な手段によってなくす、という意味の動詞。
また、「しつけ」という意味の名詞。「労働教養院」=強制労働収容所
4-3作風
日本語(さくふう)――作品に表れる作者特有の個性。「彼の作風は少年時代の生活環境が深く関係している」
中国語――人の思想、生活態度をいう。中国語で「作風がよい」というと、その人の異性関係が潔癖で、逆に「作風がよくない」というと、まず異性関係がだらしないというイメージが浮かぶ。
4-4勉強
日本語(べんきょう)――(1)学問や技術に励み努めること。(2)無理して商品の値引きなどをする
中国語――無理をして何かをする、自分の意に反してしぶしぶ何かをすること。
4-5出世
日本語(しゅっせ)――昇進、栄達すること。「彼は取締役に出世した」
中国語――語源は仏教用語「世」は俗世間のことで、「出世」は、「世に出る」つまり、(1)生まれること、(2)「世を出る」つまり、出家する。
4-6作為
日本語(さくい)――よく見せようとして、わざわざ仕組んだり、手を入れたりする
こと。「データを作為的に変更した」
中国語――業績、貢献。日本では基本的に「無作為」をよしとし、中国では「有作為」をよしとする。
4-7収集
日本語(しゅうしゅう)1--「集める」「火曜日には粗大ゴミを収集する」
中国語1--では収集
の対象は価値あるもの、有用なものに限られるが、日本語では「ごみ」にも「収集」が使われる。
4-8暗算
日本語(あんざん)――「筆算」の反対語。紙・鉛筆や計算機などを使わないで頭でする計算。中国語では「口算」「心算」
中国語――だまし討ち、ひそかにたくらんで人を殺す、または陥れる。日本語では「暗殺」。
4-9遠慮
日本語(えんりょ)――他人に気を使って言動を控えめにすること。「ここではタバコ
はご遠慮ください」「遠慮なく頂きます」中国語では「ご遠慮無くどうぞ」は「不客気」
中国語――将来のことを深く考えること。
4-10温存
日本語(おんぞん)――何かを使わないで大事に保存しておくこと。「試合に備えて体力を温存する」日本語は「副詞+動詞」、「暖かく(大切に)保存する」、
中国語――人、ことに異性に対して大変優しい。中国語は「主語+述語」、「温かみが存在する」から、思いやりがある、やさしい、という意味になる。
4-11合算
日本語(がっさん)――数字を合計する。
中国語――(1)合計する (2)「考えてみる」「相談してみる」
4-12我慢
日本語(がまん)――辛抱強く耐える、こらえる。「疲れたけれど、我慢して走った」
中国語――「主語+述語」、「私は遅い」。
<つづく>
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2009年04月14日
ニーハオ春庭「工夫を続けるヒマはない」
2009/04/14
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(10)工夫を続ける暇はない
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
4-13工夫
日本語(くふう)――いろいろと考えてよい方法を得ようとすること。「なにかうまい工夫はないか」
中国語――何かをするのに要する時間、暇。「没有那样的工夫 そんな暇はない)」
4-14無心
日本語(むしん)――(1)雑念や邪心がないこと。「彼は無心に仏像を彫っている」「少女が無心に笑っている」(2)金や物をあつかましくねだること「友だちに金を無心した」
中国語――「無心」の「心」は意図性。わざとしたことではない、なにかをする気が起こらない。「この事故は無心で起きたことだ」
4-15留守
日本語(るす)――(1)家を空けること、不在。「旅行するのでしばらく留守にします」(2)(他のことに気をとられて)すべきことをしないで放っておくこと「ほかのことを考えていたので、頭がお留守になっていた」(3)中国語と同じ使い方「留守番」
中国語――留まって守ること。軍隊や各種の団体の本体が移動して現地を離れた時、少数の人が残ってその留守を守ること。
4-16結束
日本語(けっそく)――人間を結ぶ、人々を束ねる。同じ志の者が力を合わせて団結すること。「賃上げのため結束して交渉する」
中国語――終わる、終結する。人間の手に持っている武器、道具。道具や武器を「結び束ねてしまう」ことは、仕事や戦が終わる、終結する時のこと
4-17裁判(審判)
日本語(さいばん)――法に基づいて訴訟を裁くこと。中国語では「審判」
中国語――スポーツ競技で勝ち負けや反則の有無を判断すること。日本語では「審判」
4-18翻案
日本語(ほんあん)――既成の作品の大筋を生かしながら、作り変えてゆく作業。「この映画は、シェークスピアのハムレットの翻案です」
中国語――ある人に関するそれまでの判決や歴史的な評価を覆して、新しい決定をくだすこと。「修正主義者として失脚した小平は3度の翻案を経験した」
===============
中国語の漢字熟語と日本の熟語の意味のちがいについて対照してきました。言語学では、日本語と中国語のような、文法構造が異なる言語を比べて研究することを対照言語学と呼びます。韓国語朝鮮語モンゴル語トルコ語など、文法構造が同じ系統の言語を比べて研究することを比較言語学と呼びます。
現在の春庭コラムのテーマは、「日本語語彙中国語語彙の意味・対照言語学」です。こう書くとなんだか高尚なことを論じているような気分になりますが、違う言語を並べて異同をしらべてみるのは、楽しい遊びにもなります。
日本語では祖母・祖父・は父方も母方もおなじに「おじいさん・おばあさん」と呼びますが、中国語では、父方のおじいさん、書き言葉では「祖父」で、呼びかけるときは「爺爺(爷爷)ジエジエ」、父方のおばあさん、書き言葉では「祖母」、呼びかけるときは「奶奶ナイナイ」、母方のおじいさん書き言葉では「外祖父」、呼びかけるときは「老爺(老爷)ラオジエ」、母方のおばあさん、書き言葉は「外祖母」、呼びかけるときは「姥姥ラオラオ」と、呼び方が違います。
おじさんおばさんとなると、父方か母方か、両親より年上か年下かで、それぞれ呼び方が異なる。
中国では、父方と母方は厳密に区別します。そのため、嫁いできたヨメの名字は変わることがありません。王さんのところにヨメにきた李さんは、結婚後も李の名字を持ち続けます。王家に生まれた者ではないからです。
一方、日本語では年齢が上か下かで区別する「兄・弟」が英語ではまとめてブラザーbrotherですし、「姉・妹」は、まとめてシスターsisterです。
日本語では、外で見かけた年老いた人を「今日、電車の中で、手をつないでいるおじいさんとおばあさんを見た」と表現できますが、英語では、grandmother grandfatherは、自分の祖父母にだけ用い、よそのおばあさんならold woman, old ladyなどと表現します。
アフリカのある言語では、母の姉妹は全部「ママ(という意味のことば)」で呼ぶため、文化人類学者のなかには、姉妹がそろって一人の男にとつぐ一夫多妻社会だと誤解したこともありました。
ことばは文化を反映しており、ことばの異同を調べることは、その社会をより深く理解することにつながります。
<つづく>
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2009年04月15日
ニーハオ春庭「博士的愛情算式」
2009/04/15
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(11)博士的愛情算式
以上、今回のテーマ、中国語と日本語で意味が異なる漢語のリスト、日本語学習をする中国人にも、中国語を習う日本人にとっても、間違いやすい語を掲載しました。
日本と中国ことばのちがい、挨拶語の微妙なちがいについて。
学生達、廊下ですれ違うときの挨拶ことばとして、教師にむかって「センセー!」と言います。これは、中国挨拶文化では、教師に向かって「老師ラオシー!」と呼びかけるのが、朝でも昼でも夜でも共通の挨拶語として通用しているからで、老師をそのまま「センセー」と、日本語に置き換えているのです。
中国ではそれで挨拶用語になるけれど、日本の大学で教師にむかって「センセー」と呼びかけたら、教師は質問でもあるから声をかけたのかと思うだろう、と、そのうち教えておかなければなりません。
挨拶語、「ニーハオ你好」は、いつでも使えると思っていました。「你好」を直訳すれば「あなたの調子は好調ですか」という問いかけです。挨拶のこたえは「ハオ!好!調子いいですよ」となります。そのため、毎日顔を合わせていて、調子がいいことがわかっている人に、毎日「調子は好調か」と質問するのはやや不自然になる、と最近になって知りました。調子が悪ければ「你好ニーハオ」の返事は「不好ブーハオ」です。
日本語では、正午過ぎに起きてきたような人が、家族にむかって、もう朝ではないからと「こんにちは」と挨拶するのは不自然になります。挨拶用語も使うべき時と場所がある。相手の調子が「好ハオ」であることがわかっている場合なら、「ニーハオ」ではなく、朝なら「早上好」「你早ニーザオ」また、相手が教師なら「老師!」と呼びかけるほうが自然だと、教えて貰いました。
では、日本語と中国語の違いについて、最後の一語。
4-19愛情
日本語(あいじょう)--日本語の「愛情」は広い「愛」の意味で使われている。学生に対する教師の愛情、父親と娘の間の愛情、犬への愛情など、愛する対象は誰でもよい。
中国語(àiqíng)--男女間の愛情関係。恋愛、ロマンス
小川洋子『博士の愛した数式』をフランス語訳すると「La Formule Preferee du Professeur」で、「愛した」は「愛好した」という語に翻訳されています。「プロフェッサーの愛好した数式」という訳です。
しかし中国語翻訳書では、漢語を並べて「博士的愛情算式」というタイトルです。日本人が中国語を学習する場合の「中国語学習用教材」として発行された中国語読み物で、日本人を対象とする本だから、このタイトルでよいとしてつけられたのかもしれません。しかし、中国人がこのタイトルを見たら、博士は人間の女性に興味がなくて、数式と恋愛するような「数学フェティシズム」男性に思えるかもしれません。
私の場合?もちろん見目良き男性へも愛情を感じますが、何より愛しているのはやっぱり「食べること」ですね。3月に紹介した緑豆餅、すっかりファンになり、よく買って食べています。「春庭的愛情緑豆餅」
4月15日、中国に赴任して一ヶ月たったところです。春庭的愛情の深さによって、体重が、、、、、不好(ブーハオ)、、、、
<おわり>
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(1)1万年の漢字文化
シリーズタイトルの「ニーハオマ?」は、中国語の手紙の冒頭などに使われる挨拶のことばです。「お元気ですか」という意味で「你好[ロ馬]」と書きます。ふだんの挨拶では「ニーハオ你好」だけですが、手紙などでは疑問詞の[ロ馬]を付け加えるのです。さて、「手紙」とは、中国語でトイレットペーパーを意味する、ということは、最近日本人の間でも知られてきました。中国からのニーハオ春庭通信、漢字の話ウンチクシリーズ。最初の漢字シリーズは日本語と中国語で意味の違う漢字のあれこれ。
まずその前に日本語における漢字の復習から。
漢字は、日本語にとって大切な表記文字です。日本語は漢字ひらがなカタカナアルファベットを取り混ぜて表記する、世界でも少数派の表記システムを持っています。
ひらがなカタカナは、日本語にあわせて発達した文字ですが、元になっているのは平仮名も片仮名も漢字です。漢字は日本語の自立語の多くを表記し、ひらがなは文法上の機能を表すことを主にしています。非自立語、すなわち付属語・接尾辞・助詞、動詞形容詞など用言の活用語尾を表記します。
にほんで つくられた かんじ(こくじ)も あるし、にほんで そうさくされた じゅくご(みんしゅ じんみん てつがく やきゅう きょうわこく など)もあり、かんじは にほんごに かかせない もじと なっています。 かなだけで ひょうきする てんじなどの ひょうきほうも ありますが、いっぱんてきには かんじかなまじりぶんが ふきゅうしており かんじを つかわない ひょうきは たいへん よみにくいものに かんじられます。
日本で作られた漢字(国字)もあるし、日本で創作された熟語(民主、人民、哲学、野球、共和国など)もあり、漢字は日本語に欠かせない文字となっています。仮名だけで表記する点字などの表記法もありますが、一般的には漢字仮名交じり文が普及しており、漢字を使わない表記は、たいへん読みにくいものに感じられます。
現在までの研究で最古の漢字とされるのは、「中国寧夏回族自治区の大麦地区で発見された岩壁に描かれた絵文字」です。(2005年10月5日新華社)
中国大使館HPに新華社発表の記事があります。
http://jp.china-embassy.org/jpn/zgly/t215151.htm
大麦地区岩壁の初期の岩画は、今から1万6千年から1万年前のものと測定され、その岩絵の図形から1500余りの絵文字が、漢字の起源とみなされています。(文字として解読されたのは一部分だけですが)
殷時代(商王朝)の甲骨文字などと同様の文字体系がすでに1万年前から存在していたことがわかり、これまで紀元前5千年ごろから使われていたという漢字の歴史が大きく塗り替えられたました。
この漢字は、紀元前600年頃から始まったという稲作の伝来とともに随時日本に伝えられてきたと思われます。AD50年~800年の間に、つたわったことの証拠として、剣や鏡に残された文字があります。剣や銅鏡に残された文字から、漢字伝播の過程が研究されてきました。
木簡の出土も相次ぎ、日本がどのように漢字を受け入れ、日本語に合わせて使いこなすようになったのか、明らかにされてきました。
銅鏡や銅剣の文字は呪術的なマークとしての使用が多く、実質的に「日本語を表記する文字」として使用されるようになったのは大和飛鳥時代より以後のことになります。
<つづく>
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2009年04月02日
ニーハオ春庭「万葉仮名とハングル」
2009/04/02
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(2)万葉仮名とハングル
日本と同じように古代朝鮮や越南(ベトナム)も中国からの漢字文化を受け入れました。古代朝鮮では、吏読(りとう)と呼ばれる表記方法がありました。日本語と同じ文法(ことばのしくみ)がある朝鮮語では、名詞や動詞語幹を漢字で書き表し、付属語を付け加えるやり方で表記されていました。一部の漢字を仮名のように用いる読み方で自国語と中国語の相違を補う方法が考え出されていました。
三国時代(高句麗、百済、新羅の三国が鼎立した時代)から新羅統一時代にかけてまとめられたというこの「吏読」は、日本語の万葉仮名成立の先駆と考えられます。
しかし、日本語の万葉仮名が平仮名に発達したのに対し、朝鮮半島での文字は、15世紀のハングル成立まで、独自の文字は発達しませんでした。
日本の漢文は、初期には半島出身の知識人が吏読を加えた漢文として伝えたものを踏襲し、遣隋使遣唐使の時代になると中国本場の漢文を習得し、全面的に中国語に翻訳する「漢文・化」が可能になりました。『日本書紀』『懐風藻』など、正式な漢文とはやや異なる文体ながら、中国人にも読める漢文で書かれています。
古代日本人が自由に漢文を読み書きできた以上に、古代朝鮮の官吏や貴族達は漢文を読み書きできたと思われます。古代朝鮮は、自国のことばを発音のままに表記することをせず、漢文及びその補助的な手段として付属語吏読によって表記してきたので、古代朝鮮語がどのようなものだったのか、今では再現することができません。現代韓国語朝鮮語の遠い祖語は新羅語だろうということが研究されていますが、その新羅語はどのようなものだったか、一部分しかわかっていません。自国語を発音通りに記録せず、中国語に翻訳された形でしか記録されていないからです。
漢字を発音するとき、日本語は「音読み」「訓読み」の二通りを使い分けました。一方、古代朝鮮語は「音読み」だけを用いたのです。「古代」という語をかんがえてみましょう。日本語は「古」に対して「コ」という音読みの発音と「ふる」という訓読みの発音の両方を用いたので、現代日本語の「ふる」は、古代日本語でも「ふる」と発音したことがわかるのですが、古代朝鮮語では「古」に対して「コ」という音のみをつかったので、新羅語で「古い」に当たる語をどのように発音したのか、わからないのです。
朝鮮語を発音のとおりに表記する方法は、15世紀の世宗大王によるハングル創作を待たねばなりません。古代朝鮮語を復元するためには、わずかに中国文献や日本文献に古代朝鮮語の断片が残されているのを研究していかなければならないのです。
千年前の日本語は文献によって確認できるけれど、千年前の朝鮮語は書き残されていないのです。古代朝鮮語は全部古代中国語に翻訳されて記録されたからです。
<つづく>
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2009年04月03日
ニーハオ春庭「こもよみこもち万葉仮名」
2009/04/03
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(3)こもよみこもち万葉仮名
ハングルは、15世紀に作られた非常に合理的な文字で、韓国語朝鮮語を表記するのに適したすぐれた文字です。しかし、古代朝鮮語の表記は残されていませんから、15世紀以前の中世朝鮮語古代朝鮮語を復元することはむずかしい。
4~5世紀から8世紀の日本語が復元できるのは、発音通りの日本語が万葉仮名によって『古事記』『万葉集』などに残されているからです。
泊瀬朝倉宮御宇天皇(後代に雄略天皇と名付けられたオホキミ)を作者として伝承された古代の婚姻歌謡は、漢字だけで表記されていますが、日本語として読み解くことができます。賀茂真淵や本居宣長のおかげですが、その後、万葉仮名の研究は著しく進んでいます。
籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒
家吉閑名 告<紗>根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居
師<吉>名倍手 吾己曽座 我<許>背齒 告目 家呼毛名雄母
籠(こ)もよ み籠持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串もち
この岳(おか)に 菜摘ます児
家聞かな 告(の)らさね
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ 居れ
しきなべて われこそ座せ われにこそは 告(の)らめ家も名も
古代日本語の発音が、万葉仮名表記によって再現できます。そして、音韻変化の研究によって「掘串 ふくし」の発音は飛鳥奈良以前には「pu ku shi」であったこともわかっています。
現代韓国語朝鮮語では、漢字をほとんど使わない社会生活になっているので、カムサハムニダ(ありがとう)の、「カムサ」が中国語由来の「感謝」と共通する語彙であることに気づかない子供も育っています。
日本語の漢字教育をうけた層は、「ごこうじょうにかんしゃします」と発音したとき、頭の中には「御厚情に感謝します」という文字が浮かびます。同音文字、「ご厚情に」を交情、向上、工場、口上、恒常、攻城、荒城、甲状、攻城、高城に置き換える間違いはでるかもしれないけれど、「かんしゃします」の場合、官舎はスル動詞にならないので、「かんしゃします」ということばを聞いたとき、「官舎します」と間違えることはない。
日本語は、漢文での読み書きのほかに、「漢字をつかって日本語を書き残す方法=万葉仮名」の方式を採用し、200年ほどの間に「日本語表記につごうのよい平仮名片仮名」を広く用いるようになりました。漢字を「ほんとうの文字=真名」とし、それを崩した草書体の文字を「仮の文字=仮名」として、日本語を日本語のまま表記できるようにしました。平安文学の開花は、平仮名の発達による、ということは、土佐物語、源氏物語、古今集仮名序に記されているところです。
日本の漢字は、現代でもなお「隣の国から伝わった文字」という意識を残している点で、世界の表記システムの中で特異な地位を占めています。アルファベットを使う言語の国では、だれも「古代フェニキア文字を変化させて使っている」などと考えもせずにアルファベットで自国の言語を書き表しています。アルファベットによって母語を書き表している国の人々が、アルファベットの由来などまったく知ることもなく文字を使っているのに比べると、日本は1500年たっても、子どもたちに漢字を教えるとき、それが中国由来のものであることを意識しています。
私たちは「漢字は中国から来た」ということを、当然のように知りつつ母語を表記する文字として使っています。母語を表す文字のよってきたる所を1500年以上も忘れることなく使い続けているのは、音読み(中国語読み)訓読み(和語の読み)という「ひとつの文字に2種類の言語の読み方」を1500千年間変わらずにつづけてきたからでしょう。
<つづく>
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2009年04月04日
ニーハオ春庭「我的中国的工作」
2009/04/04
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(4)我的中国的工作
中国の「中」という文字を見たとき「チュー」という音声が頭に浮かびますが、「中」ひとつだけあったら、日本語母語話者は「チュー」のほか、「なか」という発音も頭のなかに思い浮かぶるはずです。そして、文脈によって「チュー」と読んだり「なか」と読んだりします。私たちはこのことを当たり前のことのように感じていますが、これは世界的には特殊なことがらなのです。
「人中で」というときは「ひとなか」で「なか」と読み、「会議中」「食事中」というときは「チュー」、「一日中」のときは「ジュー」と、ひとつの文字の発音を何種類もつかいわける技術を身につけていることは、世界の言語文字表記でほかにあまり例のないことです。漢字ひらがなカタカナ3種類の文字を混ぜて使い、しかも漢字にはひとつの文字に数種類の発音があり、和語か漢語か、という語彙の種類別によって、文字の読み方を変える。
「きのう、コーエンに行ったんだよ」という話を聞いたとき、前後の話の続きから、「公園に行った」のか、「講演に行った」のか、「公演に行った」のか、文字を思い浮かべて判断しています。私が以前続けていた視覚障害者のための朗読ボランティアでは、よく同音異義語の説明を求められました。前後の文脈から判断できないとき、「コーエンにイッタ」と朗読した場合、意味がわからないからです。
私の仕事の大切な部分として「日本語学習者への漢字教育」があります。主として非漢字圏の学習者に、漢字に興味を持たせて漢字の成り立ちなどを解説しながら日本語語彙を導入する、という授業を行っています。「漢字のなりたち解説授業」の実際については、また別のシリーズ「春庭の漢字授業」で実況中継記録をお伝えします。
さて、私は現在、いつもの年なら春休みを楽しんでいる時期なのに、中国で仕事を続けています。「日本の大学院で博士号をとるために留学する大学院修士号取得者」たちに、日本語を教える仕事。これから中国での日常生活の報告のほか、授業報告もしていくつもり。まず、日本と中国の漢語の話題から。
今回の中国滞在では、中国人学生、しかも大学院修士号取得者対象ですから、漢字教育といっても、日本語語彙の漢字読み方の中で、留意すべき読み方や意味を解説するにとどめることになります。
中国語で教育を受けてきた層には「漢字なら中国が本場だから意味も書き方もよくわかる」という思いこみがあります。漢字教育をなおざりにする学生もいるので、中国語と日本語の字体の違い(簡体字との違い)と読み方使い方の違い、また、同じ漢字でも意味の異なるものに留意させます。
三月末、中国人学生に日本語の漢字テストを実施しました。皆よくできます。文法項目としては日本語初級の学習をしているのですが、漢字語彙は日本語能力試験2級レベルの語彙をどしどし教えていく教科書を使っています。『実力日本語』という「日本の大学院に留学する中国人留学生」を対象にして開発された教科書です。
<つづく>
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2009年04月05日
ニーハオ春庭「中国的漢字ふりがな」
2009/04/05
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(5)中国的漢字ふりがな
中国人大学院修士課程修了学生への漢字テスト。漢字にひらがなで読み方をふらせる「ふりがな試験」です。
長音、濁音と清音、促音(つまる音)、拗音(きゃきゅきょなど)の聞き取りが弱い学生が多いので、仮名をふらせると、この発音の間違いがよくわかる。また、地方の方言によって、RとN、RとTの音の区別がむずかしい学生がいるので、この発音のまちがいも、ふりがなでわかります。熱心に「れっしん」と仮名をふった学生、RとNの区別がつかない中国南方の出身者と思われます。日本人にはRとLの音の区別がわからず同じ音に聞こえるように、中国南方地域ではRとNの音が「同じ音」に聞こえるからです。
文法の試験でも、発音の間違いによって、×にされてしまう学生もいます。たとえば、「もし、都合が< >たら、遊びに来ませんか」という文の< >に「いい」という形容詞を活用させて記入する問題で、正解は「いい」を活用させ「もし都合がよかったら、遊びに来ませんか」なのですが、促音の聞き取りを苦手とする人たちは、しばしば「もし、都合が よっかたら~」と、書いてしまう。促音の聞き取りと発音はむずかしいので、なかなか促音を正しく発音できないのです。母音の聞き取りも「ん」も難しい。
ふりがなの間違いを書き出してみると。
合格こうかく 兄弟きゅうたい 出発しゅぱつ・しょうぱつ 条件じょけん 条件じょっけん 事故じこう 給料きゅうりょ 税金ぜきん・ぜんきん 熱心ねしん・れっしん 趣味しゅうみ・しゅっみ 種類しょうるい 長所ちょうしょう 迷惑めんわく 種類しゅうるい・しょうるい 平均点へいけんてん・へいきんてい
朝鮮族の学生は、文法はよくできます。朝鮮語は日本語と同じ文の並べ方だから。でも、発音が苦手です。漢字ふりがなでは、朝鮮族の苦手な発音がよくわかります。朝鮮語は語頭には必ず清音になり、語の中では濁音になりますから、合格を「こうがく」と書く学生もいるし、条件を「ちょうけん」と書く学生もいる。税金せいきん 洗濯物せんだくもの、など。清濁(無声音と有声音)の聞き分けはたいへん難しい。
日本の小中学生高校生への漢字読み仮名テストは、漢字の読み方を覚えたかどうかをチェックするテストなのですが、中国人大学院学生への漢字テストは、「発音のまちがい」をチェックするテストになります。もちろん、漢字の読み方そのものを覚えていなくて、「税金を納める」に「ぜいきんを なめる」「ぜいきんを のうめる」と書いた学生は音読みの「納」ナッ、ノウを覚えていて、訓読みを忘れたのだということがわかります。
間違える人もいますが、ほとんどの学生が、ふりがながよくできており、さすがエリート中のエリート大学院生だと感心しています。
非漢字圏学生への漢字テストだと、「兄弟あにいもと」とか、「出発ではつ」などはまともなほうで、どうしてこんな読み仮名をつけるかなあという笑えるふりがなが多い。非漢字圏の漢字学習者たち、知恵をふりしぼってユニークな読み方をひねりだすので、講師室ではいつも漢字担当者たちが「本日の笑えるふりがな」を披露しあって楽しんでいました。
現在担当の中国人大学院生たちのふりがなには、「笑える」ものはなくてつまらないですが、発音の間違いがよくわかる結果を見て、今後の発音教育に生かしていこうと思っています。
<漢字の話は四月中旬へつづく>
2009/04/10
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(6)トイレットペーパーで手紙を書く
日本語と中国語で同じ漢字熟語、意味内容が、(1)まったく異なる。(2)意味が共通している部分もあるが、微妙にずれている部分もある、(3)ほとんど同じ、
という3つに分類できます。
(3)のほとんど同じ、という場合は誤解も起きず、問題はないでしょう。
「手紙」のようにt中国語ではトイレットペーパーの意味になるなど、まったく異なる場合も、最近では意味の違いに興味を持つ人も増え、気をつけることができます。問題になるのは、(2)の、「微妙に異なる」場合です。
「収集」は、中国では「宝石を収集する」「古代中国絵画を収集する」とは言えるけれど「粗大ゴミは火曜日に収集する」などには使えません。「収集」は「貴重なものを集める」という意味だからです。そのため、中国人留学生は、「粗大ゴミの収集日」などの表現に違和感を感じます。
私は日本で「先生」と呼ばれる職業についていますが、中国では「先生」は、主としてあらたまった場で男の人につける敬称で、日本語なら「~さん」にあたる言葉です。日本では、教師、医師、弁護士、議員など、一定の職業の人にのみ使う、ということを知っておかないと、日本滞在の中国人も、中国滞在の日本人も誤解することがあります。
中国人学生に推奨する「日本語と中国語 漢字語の意味のちがい」を学ぶための参考書があります。大阪府立大学教授の張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)。張麟声先生のホームページURL
http://www.lc.osakafu-u.ac.jp/staff/zhang/lin_index.htm
また、同様の中国語と日本語の漢字語の意味のちがいを解説している本は、彭飛『中国語虎の巻』(東方書店)金若静『同じ漢字でも』(学生社1987)があります。
以下、日本語と中国語で意味の異なる漢字熟語のリストを掲載します。
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを、春庭が再編集したリストです。
=======
<1:人をあらわす語>
1-1愛人(あいじん)
日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男
中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
日本語――外国人。
中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい)
日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。
<つづく>
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2009年04月11日
ニーハオ春庭「可憐な少女はかわいそう」
2009/04/11
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(8)可憐な少女はかわいそう
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版200)から引用したものを編集したリストつづき。
<3:人やモノの状態、ようすをあらわすことば・日本語の場合「形容動詞・ナ形容詞」になることが多い>
3-1清楚
日本語(せいそ)――女性や花の清らかな美しさをいう。
中国語――「はっきりとしている」という形容詞と「分かる」という動詞。
3-2可憐
日本語(かれん)――いじらしい、かわいい。「可憐な花、可憐な少女」
中国語――かわいそうな。可憐的老人(孤独でかわいそうな年寄り)
3-3元気
日本語(げんき)――健康で勢いがよいこと。挨拶用語として「げんきですか?」
中国語――人だけでなく、社会、組織などの生命力、活力、精気の意味。
3-4怪我
日本語(けが)――(1)負傷 (2)失敗、思いがけないこと「深入りすると怪我をするよ」「怪我の功名」
中国語――単語としての意味はない。「我(私を)責める」「私のせいだ」という主語述語をもつ文。「怪」は「とがめる、責める、人のせいにする」という動詞。
3-5緊張
日本語(きんちょう)――失敗が心配で心や身体が引き締まること、両者の関係がうまくいかず、今にも争いが起こりそうな状態。
中国語--日本語と同じ用法のほか、物に関する用法がある。「最近鋼材緊張(さいきん、鋼材が不足している)」
3-6得意
日本語(とくい)――(1)ある種の成功を収めて満足している人の気持ち。「大学に合格して得意になっている」(2)「得意なスポーツ、得意な料理」のように上手にできる事柄、「得意先」(ひいきにしてくれる客)
中国語--(2)の用法は中国語にはない。(1)のみが使われる。
3-7快楽
日本語(かいらく)――ここちよい、楽しい(日本語では肉体的感覚が強い)「男の快楽」というと、異性関係を含む身体的快楽の意味合いが強くなる。
中国語1--主に精神的なものについての心地よさ。「快楽的単身漢」という中国映画のタイトルの意味は「家族親戚など係累がなく自由気ままに暮らす独身男」という意味
3-8上品・下品
日本語(じょうひん・げひん)――日本語では人の言動を評価することば。上品な婦人、下品な言葉など。語源の仏教用語では極楽浄土に往生する人が9段階に分けられ、上の3段階を「上品」、下の3段階を「下品」ということに由来する。
中国語――人ではなく、物についていう。
3-9馬鹿
日本語(ばか)――(1)知能の働きがにぶいこと(人)。「無知」の意の梵語mohaから来たらしく、「馬鹿」は当て字。(2)ナ形容詞「ばかな」は「愚かな」「有り得ないほど意外な」の意。「そんなバカな!」
中国語――「馬」のような「鹿」、鹿の一種。
3-10恰好
日本語(かっこう)――体裁(ものの形、姿、様子)がちょうどよい。「恰好がいい男性」「この服は恰好はよくないけれど、暖かいよ」さらに、「恰好の値段」(値段がちょうど手ごろであること)、「50恰好の女性」(だいたい50歳くらいの女性)
中国語――ちょうどそのとき、おりよく。「恰」は「ちょうど」、「好」は「よい」の意だから、「ちょうどよい」ことが中国語では「ちょうどよいとき」
3-11結構
日本語(けっこう)――(1)満足のゆく状態であること(すばらしい)。「結構なお住まいですね」(2)まずまず満足の状態(かなり)。「この店の料理、結構いけるね」(3)現在の状態で満足しており、それ以上を必要としない様子(丁重に断る言葉)。「もう結構です」は、いろいろなニュアンスがあり、前後関係などから判断する必要があり、日本語学習者は要注意。「この文章、けっこう良い出来だね。(思った以上によく書けている場合につかう)」
中国語――構造、構成。「この文章、結構良い」というと、中国語では、「この文は(表現はそれほどではないが)構造が良い」となる。
<つづく>
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2009年04月12日
ニーハオ春庭「下水を通り悪の道へ」
2009/04/12
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(7)下水を通り悪の道へ
ことばの変化について。
和語の「かなしい・かなし」を考えてみましょう。古語辞典にある「かなし(愛し)」は、「強く心が動かされる、しみじみとした感動を覚える、心にしみていとしい」とあります。切ないまでに、しみじみと心のひだに感情が集まってくる、という意味です。切ないまでにしみじみするところから、「悲しい」という意味が派生してきて、現代語としては、「愛し・かなし(いとしい)」という意味がなくなり、「かなしい我が子」と聞くと、「愛しい(いとしい)我が子」ではなく、「悲しい我が子」という意味に受け取ることになります。
このように、言葉の意味はどんどん変化します。元は中国語であった漢字熟語が日本社会に移入されたとき、意味変化がおこるのは当然のことです。今ではまったく異なる意味で使っている語も多いのですが、今回のテーマは「意味が重なり合う部分を残しているが、、微妙にある部分ではずれている日本語中国語」の対照です。
<2:「人」以外の名詞>
2-1下水
日本語(げすい)――家庭などから出る汚水。上水の対義語
中国語――日本語と同じ意味のほかに、豚など家畜の内臓(もつ)(水に下げて煮る)、船が進水する、悪の道にはいる(普通の暮らしを営む陸から通常は暮らさない水へ下っていく)、布を水につける、など。
2-2階段
日本語(かいだん)――人が上がり下がりするための段になった通路。中国語では「台階、楼梯」
中国語――日本語の「段階」の意味。物事が進む過程のひとくぎり。時間的な概念で、例えば、封建社会から資本主義社会に移行したことを社会が新しい「階段」に入った、という。
2-3趣味
日本語(しゅみ)――読書、音楽鑑賞など、余暇の楽しみ。中国語では「愛好」に相当。
「私の趣味は薔薇の栽培です」
中国語――人生観(古代中国語、古典語のみ)
2-4手紙
日本語(てがみ)――書状、レター。手で書く文字「手」手で習う文字→手習い
中国語――トイレットペーパー。「トイレに行くこと=解手(手を解く)」手は用便の隠語。
2-5情報
日本語(じょうほう)――インフォーメーション、中国語の「信息」。
中国語--「軍事情報」のように、国家の機密や安全にかかわる事柄。
2-6案件
日本語(あんけん)――処理されるべき事柄。「外交案件」「予算案件」外交・予算に関して検討や処理すべき事案。日本語の「案」は、「アイデア」または「考える」という意味。考案、思案、妙案。日本語独自の漢字語「腹案、思案」。日本から中国へ伝わった漢字語「草案、提案」
中国語――事件。中国語の「刑事案件、民事案件」は、日本語では「刑事事件、民事事件」。「案」は昔は机の意味。古代中国の役人たちが「案」の前に座って処理するさまざまな問題が「案件」。古代中国の役人たちが処理していた問題の多くは訴訟事件だから、「案件」は実質的に「事件」だった。
2-6縁故
日本語(えんこ)――血縁、縁戚などの縁続き、人と人とのかかわり・つて。「東京には一人も縁故がない」「縁故をたよって就職した」
中国語――理由、原因
2-8今朝
日本語(けさ)――今日の朝「今朝は早起きしたので眠い」日本語の朝は日の出前後から数時間。
中国語――今日、または今現在。中国語にはmorningのほかに「一日」の意味もある。
2-9顔色
日本語(かおいろ)――顔の色。「今日は顔色がよくないね。どうかしたの」
中国語――顔だけでなく、いろいろなものの色。
<つづく>
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2009年04月13日
ニーハオ春庭「教養つけて強制労働」
2009/04/13
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(9)教養つけて強制労働
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
<4:中国語では動詞が主な意味を担う語>
4-1覚悟
日本語(かくご)――困難や不利な結果が出るかもしれないと予測して、心を決めること。「どんなに難しくてもあきらめないで、感性させる覚悟です」
中国語――(理論や政策に)めざめる、自覚する。「有覚悟」「覚悟高」の人とは、「中国共産党の理論、路線、政策に対する意識や理解が高い人の意味。
4-2教養
日本語(きょうよう)――学問・文化に関する広い知識を身につけることで得られる心の広さ。
中国語――人のよくない習慣やくせを強制的な手段によってなくす、という意味の動詞。
また、「しつけ」という意味の名詞。「労働教養院」=強制労働収容所
4-3作風
日本語(さくふう)――作品に表れる作者特有の個性。「彼の作風は少年時代の生活環境が深く関係している」
中国語――人の思想、生活態度をいう。中国語で「作風がよい」というと、その人の異性関係が潔癖で、逆に「作風がよくない」というと、まず異性関係がだらしないというイメージが浮かぶ。
4-4勉強
日本語(べんきょう)――(1)学問や技術に励み努めること。(2)無理して商品の値引きなどをする
中国語――無理をして何かをする、自分の意に反してしぶしぶ何かをすること。
4-5出世
日本語(しゅっせ)――昇進、栄達すること。「彼は取締役に出世した」
中国語――語源は仏教用語「世」は俗世間のことで、「出世」は、「世に出る」つまり、(1)生まれること、(2)「世を出る」つまり、出家する。
4-6作為
日本語(さくい)――よく見せようとして、わざわざ仕組んだり、手を入れたりする
こと。「データを作為的に変更した」
中国語――業績、貢献。日本では基本的に「無作為」をよしとし、中国では「有作為」をよしとする。
4-7収集
日本語(しゅうしゅう)1--「集める」「火曜日には粗大ゴミを収集する」
中国語1--では収集
の対象は価値あるもの、有用なものに限られるが、日本語では「ごみ」にも「収集」が使われる。
4-8暗算
日本語(あんざん)――「筆算」の反対語。紙・鉛筆や計算機などを使わないで頭でする計算。中国語では「口算」「心算」
中国語――だまし討ち、ひそかにたくらんで人を殺す、または陥れる。日本語では「暗殺」。
4-9遠慮
日本語(えんりょ)――他人に気を使って言動を控えめにすること。「ここではタバコ
はご遠慮ください」「遠慮なく頂きます」中国語では「ご遠慮無くどうぞ」は「不客気」
中国語――将来のことを深く考えること。
4-10温存
日本語(おんぞん)――何かを使わないで大事に保存しておくこと。「試合に備えて体力を温存する」日本語は「副詞+動詞」、「暖かく(大切に)保存する」、
中国語――人、ことに異性に対して大変優しい。中国語は「主語+述語」、「温かみが存在する」から、思いやりがある、やさしい、という意味になる。
4-11合算
日本語(がっさん)――数字を合計する。
中国語――(1)合計する (2)「考えてみる」「相談してみる」
4-12我慢
日本語(がまん)――辛抱強く耐える、こらえる。「疲れたけれど、我慢して走った」
中国語――「主語+述語」、「私は遅い」。
<つづく>
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2009年04月14日
ニーハオ春庭「工夫を続けるヒマはない」
2009/04/14
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(10)工夫を続ける暇はない
張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。
4-13工夫
日本語(くふう)――いろいろと考えてよい方法を得ようとすること。「なにかうまい工夫はないか」
中国語――何かをするのに要する時間、暇。「没有那样的工夫 そんな暇はない)」
4-14無心
日本語(むしん)――(1)雑念や邪心がないこと。「彼は無心に仏像を彫っている」「少女が無心に笑っている」(2)金や物をあつかましくねだること「友だちに金を無心した」
中国語――「無心」の「心」は意図性。わざとしたことではない、なにかをする気が起こらない。「この事故は無心で起きたことだ」
4-15留守
日本語(るす)――(1)家を空けること、不在。「旅行するのでしばらく留守にします」(2)(他のことに気をとられて)すべきことをしないで放っておくこと「ほかのことを考えていたので、頭がお留守になっていた」(3)中国語と同じ使い方「留守番」
中国語――留まって守ること。軍隊や各種の団体の本体が移動して現地を離れた時、少数の人が残ってその留守を守ること。
4-16結束
日本語(けっそく)――人間を結ぶ、人々を束ねる。同じ志の者が力を合わせて団結すること。「賃上げのため結束して交渉する」
中国語――終わる、終結する。人間の手に持っている武器、道具。道具や武器を「結び束ねてしまう」ことは、仕事や戦が終わる、終結する時のこと
4-17裁判(審判)
日本語(さいばん)――法に基づいて訴訟を裁くこと。中国語では「審判」
中国語――スポーツ競技で勝ち負けや反則の有無を判断すること。日本語では「審判」
4-18翻案
日本語(ほんあん)――既成の作品の大筋を生かしながら、作り変えてゆく作業。「この映画は、シェークスピアのハムレットの翻案です」
中国語――ある人に関するそれまでの判決や歴史的な評価を覆して、新しい決定をくだすこと。「修正主義者として失脚した小平は3度の翻案を経験した」
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中国語の漢字熟語と日本の熟語の意味のちがいについて対照してきました。言語学では、日本語と中国語のような、文法構造が異なる言語を比べて研究することを対照言語学と呼びます。韓国語朝鮮語モンゴル語トルコ語など、文法構造が同じ系統の言語を比べて研究することを比較言語学と呼びます。
現在の春庭コラムのテーマは、「日本語語彙中国語語彙の意味・対照言語学」です。こう書くとなんだか高尚なことを論じているような気分になりますが、違う言語を並べて異同をしらべてみるのは、楽しい遊びにもなります。
日本語では祖母・祖父・は父方も母方もおなじに「おじいさん・おばあさん」と呼びますが、中国語では、父方のおじいさん、書き言葉では「祖父」で、呼びかけるときは「爺爺(爷爷)ジエジエ」、父方のおばあさん、書き言葉では「祖母」、呼びかけるときは「奶奶ナイナイ」、母方のおじいさん書き言葉では「外祖父」、呼びかけるときは「老爺(老爷)ラオジエ」、母方のおばあさん、書き言葉は「外祖母」、呼びかけるときは「姥姥ラオラオ」と、呼び方が違います。
おじさんおばさんとなると、父方か母方か、両親より年上か年下かで、それぞれ呼び方が異なる。
中国では、父方と母方は厳密に区別します。そのため、嫁いできたヨメの名字は変わることがありません。王さんのところにヨメにきた李さんは、結婚後も李の名字を持ち続けます。王家に生まれた者ではないからです。
一方、日本語では年齢が上か下かで区別する「兄・弟」が英語ではまとめてブラザーbrotherですし、「姉・妹」は、まとめてシスターsisterです。
日本語では、外で見かけた年老いた人を「今日、電車の中で、手をつないでいるおじいさんとおばあさんを見た」と表現できますが、英語では、grandmother grandfatherは、自分の祖父母にだけ用い、よそのおばあさんならold woman, old ladyなどと表現します。
アフリカのある言語では、母の姉妹は全部「ママ(という意味のことば)」で呼ぶため、文化人類学者のなかには、姉妹がそろって一人の男にとつぐ一夫多妻社会だと誤解したこともありました。
ことばは文化を反映しており、ことばの異同を調べることは、その社会をより深く理解することにつながります。
<つづく>
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2009年04月15日
ニーハオ春庭「博士的愛情算式」
2009/04/15
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(11)博士的愛情算式
以上、今回のテーマ、中国語と日本語で意味が異なる漢語のリスト、日本語学習をする中国人にも、中国語を習う日本人にとっても、間違いやすい語を掲載しました。
日本と中国ことばのちがい、挨拶語の微妙なちがいについて。
学生達、廊下ですれ違うときの挨拶ことばとして、教師にむかって「センセー!」と言います。これは、中国挨拶文化では、教師に向かって「老師ラオシー!」と呼びかけるのが、朝でも昼でも夜でも共通の挨拶語として通用しているからで、老師をそのまま「センセー」と、日本語に置き換えているのです。
中国ではそれで挨拶用語になるけれど、日本の大学で教師にむかって「センセー」と呼びかけたら、教師は質問でもあるから声をかけたのかと思うだろう、と、そのうち教えておかなければなりません。
挨拶語、「ニーハオ你好」は、いつでも使えると思っていました。「你好」を直訳すれば「あなたの調子は好調ですか」という問いかけです。挨拶のこたえは「ハオ!好!調子いいですよ」となります。そのため、毎日顔を合わせていて、調子がいいことがわかっている人に、毎日「調子は好調か」と質問するのはやや不自然になる、と最近になって知りました。調子が悪ければ「你好ニーハオ」の返事は「不好ブーハオ」です。
日本語では、正午過ぎに起きてきたような人が、家族にむかって、もう朝ではないからと「こんにちは」と挨拶するのは不自然になります。挨拶用語も使うべき時と場所がある。相手の調子が「好ハオ」であることがわかっている場合なら、「ニーハオ」ではなく、朝なら「早上好」「你早ニーザオ」また、相手が教師なら「老師!」と呼びかけるほうが自然だと、教えて貰いました。
では、日本語と中国語の違いについて、最後の一語。
4-19愛情
日本語(あいじょう)--日本語の「愛情」は広い「愛」の意味で使われている。学生に対する教師の愛情、父親と娘の間の愛情、犬への愛情など、愛する対象は誰でもよい。
中国語(àiqíng)--男女間の愛情関係。恋愛、ロマンス
小川洋子『博士の愛した数式』をフランス語訳すると「La Formule Preferee du Professeur」で、「愛した」は「愛好した」という語に翻訳されています。「プロフェッサーの愛好した数式」という訳です。
しかし中国語翻訳書では、漢語を並べて「博士的愛情算式」というタイトルです。日本人が中国語を学習する場合の「中国語学習用教材」として発行された中国語読み物で、日本人を対象とする本だから、このタイトルでよいとしてつけられたのかもしれません。しかし、中国人がこのタイトルを見たら、博士は人間の女性に興味がなくて、数式と恋愛するような「数学フェティシズム」男性に思えるかもしれません。
私の場合?もちろん見目良き男性へも愛情を感じますが、何より愛しているのはやっぱり「食べること」ですね。3月に紹介した緑豆餅、すっかりファンになり、よく買って食べています。「春庭的愛情緑豆餅」
4月15日、中国に赴任して一ヶ月たったところです。春庭的愛情の深さによって、体重が、、、、、不好(ブーハオ)、、、、
<おわり>