にっぽにあにっぽん日本語&日本語言語文化

日本語・日本語言語文化・日本語教育

対照言語学>中国語の漢字と日本語の漢字その1

2011-07-29 08:18:00 | 対照言語学
2009/04/01
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(1)1万年の漢字文化

 シリーズタイトルの「ニーハオマ?」は、中国語の手紙の冒頭などに使われる挨拶のことばです。「お元気ですか」という意味で「你好[ロ馬]」と書きます。ふだんの挨拶では「ニーハオ你好」だけですが、手紙などでは疑問詞の[ロ馬]を付け加えるのです。さて、「手紙」とは、中国語でトイレットペーパーを意味する、ということは、最近日本人の間でも知られてきました。中国からのニーハオ春庭通信、漢字の話ウンチクシリーズ。最初の漢字シリーズは日本語と中国語で意味の違う漢字のあれこれ。
 まずその前に日本語における漢字の復習から。

 漢字は、日本語にとって大切な表記文字です。日本語は漢字ひらがなカタカナアルファベットを取り混ぜて表記する、世界でも少数派の表記システムを持っています。
 ひらがなカタカナは、日本語にあわせて発達した文字ですが、元になっているのは平仮名も片仮名も漢字です。漢字は日本語の自立語の多くを表記し、ひらがなは文法上の機能を表すことを主にしています。非自立語、すなわち付属語・接尾辞・助詞、動詞形容詞など用言の活用語尾を表記します。

 にほんで つくられた かんじ(こくじ)も あるし、にほんで そうさくされた じゅくご(みんしゅ じんみん てつがく やきゅう きょうわこく など)もあり、かんじは にほんごに かかせない もじと なっています。 かなだけで ひょうきする てんじなどの ひょうきほうも ありますが、いっぱんてきには かんじかなまじりぶんが ふきゅうしており かんじを つかわない ひょうきは たいへん よみにくいものに かんじられます。 
 日本で作られた漢字(国字)もあるし、日本で創作された熟語(民主、人民、哲学、野球、共和国など)もあり、漢字は日本語に欠かせない文字となっています。仮名だけで表記する点字などの表記法もありますが、一般的には漢字仮名交じり文が普及しており、漢字を使わない表記は、たいへん読みにくいものに感じられます。

 現在までの研究で最古の漢字とされるのは、「中国寧夏回族自治区の大麦地区で発見された岩壁に描かれた絵文字」です。(2005年10月5日新華社)
 中国大使館HPに新華社発表の記事があります。
http://jp.china-embassy.org/jpn/zgly/t215151.htm

 大麦地区岩壁の初期の岩画は、今から1万6千年から1万年前のものと測定され、その岩絵の図形から1500余りの絵文字が、漢字の起源とみなされています。(文字として解読されたのは一部分だけですが)
 殷時代(商王朝)の甲骨文字などと同様の文字体系がすでに1万年前から存在していたことがわかり、これまで紀元前5千年ごろから使われていたという漢字の歴史が大きく塗り替えられたました。

 この漢字は、紀元前600年頃から始まったという稲作の伝来とともに随時日本に伝えられてきたと思われます。AD50年~800年の間に、つたわったことの証拠として、剣や鏡に残された文字があります。剣や銅鏡に残された文字から、漢字伝播の過程が研究されてきました。

 木簡の出土も相次ぎ、日本がどのように漢字を受け入れ、日本語に合わせて使いこなすようになったのか、明らかにされてきました。
 銅鏡や銅剣の文字は呪術的なマークとしての使用が多く、実質的に「日本語を表記する文字」として使用されるようになったのは大和飛鳥時代より以後のことになります。

<つづく>
04:22 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月02日


ニーハオ春庭「万葉仮名とハングル」
2009/04/02
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(2)万葉仮名とハングル

 日本と同じように古代朝鮮や越南(ベトナム)も中国からの漢字文化を受け入れました。古代朝鮮では、吏読(りとう)と呼ばれる表記方法がありました。日本語と同じ文法(ことばのしくみ)がある朝鮮語では、名詞や動詞語幹を漢字で書き表し、付属語を付け加えるやり方で表記されていました。一部の漢字を仮名のように用いる読み方で自国語と中国語の相違を補う方法が考え出されていました。

 三国時代(高句麗、百済、新羅の三国が鼎立した時代)から新羅統一時代にかけてまとめられたというこの「吏読」は、日本語の万葉仮名成立の先駆と考えられます。
 しかし、日本語の万葉仮名が平仮名に発達したのに対し、朝鮮半島での文字は、15世紀のハングル成立まで、独自の文字は発達しませんでした。

 日本の漢文は、初期には半島出身の知識人が吏読を加えた漢文として伝えたものを踏襲し、遣隋使遣唐使の時代になると中国本場の漢文を習得し、全面的に中国語に翻訳する「漢文・化」が可能になりました。『日本書紀』『懐風藻』など、正式な漢文とはやや異なる文体ながら、中国人にも読める漢文で書かれています。

 古代日本人が自由に漢文を読み書きできた以上に、古代朝鮮の官吏や貴族達は漢文を読み書きできたと思われます。古代朝鮮は、自国のことばを発音のままに表記することをせず、漢文及びその補助的な手段として付属語吏読によって表記してきたので、古代朝鮮語がどのようなものだったのか、今では再現することができません。現代韓国語朝鮮語の遠い祖語は新羅語だろうということが研究されていますが、その新羅語はどのようなものだったか、一部分しかわかっていません。自国語を発音通りに記録せず、中国語に翻訳された形でしか記録されていないからです。

 漢字を発音するとき、日本語は「音読み」「訓読み」の二通りを使い分けました。一方、古代朝鮮語は「音読み」だけを用いたのです。「古代」という語をかんがえてみましょう。日本語は「古」に対して「コ」という音読みの発音と「ふる」という訓読みの発音の両方を用いたので、現代日本語の「ふる」は、古代日本語でも「ふる」と発音したことがわかるのですが、古代朝鮮語では「古」に対して「コ」という音のみをつかったので、新羅語で「古い」に当たる語をどのように発音したのか、わからないのです。

 朝鮮語を発音のとおりに表記する方法は、15世紀の世宗大王によるハングル創作を待たねばなりません。古代朝鮮語を復元するためには、わずかに中国文献や日本文献に古代朝鮮語の断片が残されているのを研究していかなければならないのです。
 千年前の日本語は文献によって確認できるけれど、千年前の朝鮮語は書き残されていないのです。古代朝鮮語は全部古代中国語に翻訳されて記録されたからです。

<つづく>
04:40 コメント(4) 編集 ページのトップへ
2009年04月03日


ニーハオ春庭「こもよみこもち万葉仮名」
2009/04/03
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(3)こもよみこもち万葉仮名

 ハングルは、15世紀に作られた非常に合理的な文字で、韓国語朝鮮語を表記するのに適したすぐれた文字です。しかし、古代朝鮮語の表記は残されていませんから、15世紀以前の中世朝鮮語古代朝鮮語を復元することはむずかしい。

 4~5世紀から8世紀の日本語が復元できるのは、発音通りの日本語が万葉仮名によって『古事記』『万葉集』などに残されているからです。
 泊瀬朝倉宮御宇天皇(後代に雄略天皇と名付けられたオホキミ)を作者として伝承された古代の婚姻歌謡は、漢字だけで表記されていますが、日本語として読み解くことができます。賀茂真淵や本居宣長のおかげですが、その後、万葉仮名の研究は著しく進んでいます。

籠毛與 美籠母乳 布久思毛與 美夫君志持 此岳尓 菜採須兒
家吉閑名 告<紗>根 虚見津 山跡乃國者 押奈戸手 吾許曽居
師<吉>名倍手 吾己曽座 我<許>背齒 告目 家呼毛名雄母

籠(こ)もよ み籠持ち 堀串(ふくし)もよ み堀串もち 
この岳(おか)に 菜摘ます児
家聞かな 告(の)らさね 
そらみつ 大和の国は おしなべて われこそ 居れ
しきなべて われこそ座せ われにこそは 告(の)らめ家も名も

 古代日本語の発音が、万葉仮名表記によって再現できます。そして、音韻変化の研究によって「掘串 ふくし」の発音は飛鳥奈良以前には「pu ku shi」であったこともわかっています。

 現代韓国語朝鮮語では、漢字をほとんど使わない社会生活になっているので、カムサハムニダ(ありがとう)の、「カムサ」が中国語由来の「感謝」と共通する語彙であることに気づかない子供も育っています。
 日本語の漢字教育をうけた層は、「ごこうじょうにかんしゃします」と発音したとき、頭の中には「御厚情に感謝します」という文字が浮かびます。同音文字、「ご厚情に」を交情、向上、工場、口上、恒常、攻城、荒城、甲状、攻城、高城に置き換える間違いはでるかもしれないけれど、「かんしゃします」の場合、官舎はスル動詞にならないので、「かんしゃします」ということばを聞いたとき、「官舎します」と間違えることはない。

 日本語は、漢文での読み書きのほかに、「漢字をつかって日本語を書き残す方法=万葉仮名」の方式を採用し、200年ほどの間に「日本語表記につごうのよい平仮名片仮名」を広く用いるようになりました。漢字を「ほんとうの文字=真名」とし、それを崩した草書体の文字を「仮の文字=仮名」として、日本語を日本語のまま表記できるようにしました。平安文学の開花は、平仮名の発達による、ということは、土佐物語、源氏物語、古今集仮名序に記されているところです。

 日本の漢字は、現代でもなお「隣の国から伝わった文字」という意識を残している点で、世界の表記システムの中で特異な地位を占めています。アルファベットを使う言語の国では、だれも「古代フェニキア文字を変化させて使っている」などと考えもせずにアルファベットで自国の言語を書き表しています。アルファベットによって母語を書き表している国の人々が、アルファベットの由来などまったく知ることもなく文字を使っているのに比べると、日本は1500年たっても、子どもたちに漢字を教えるとき、それが中国由来のものであることを意識しています。

 私たちは「漢字は中国から来た」ということを、当然のように知りつつ母語を表記する文字として使っています。母語を表す文字のよってきたる所を1500年以上も忘れることなく使い続けているのは、音読み(中国語読み)訓読み(和語の読み)という「ひとつの文字に2種類の言語の読み方」を1500千年間変わらずにつづけてきたからでしょう。

<つづく>
04:57 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月04日


ニーハオ春庭「我的中国的工作」
2009/04/04
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(4)我的中国的工作

 中国の「中」という文字を見たとき「チュー」という音声が頭に浮かびますが、「中」ひとつだけあったら、日本語母語話者は「チュー」のほか、「なか」という発音も頭のなかに思い浮かぶるはずです。そして、文脈によって「チュー」と読んだり「なか」と読んだりします。私たちはこのことを当たり前のことのように感じていますが、これは世界的には特殊なことがらなのです。

 「人中で」というときは「ひとなか」で「なか」と読み、「会議中」「食事中」というときは「チュー」、「一日中」のときは「ジュー」と、ひとつの文字の発音を何種類もつかいわける技術を身につけていることは、世界の言語文字表記でほかにあまり例のないことです。漢字ひらがなカタカナ3種類の文字を混ぜて使い、しかも漢字にはひとつの文字に数種類の発音があり、和語か漢語か、という語彙の種類別によって、文字の読み方を変える。

 「きのう、コーエンに行ったんだよ」という話を聞いたとき、前後の話の続きから、「公園に行った」のか、「講演に行った」のか、「公演に行った」のか、文字を思い浮かべて判断しています。私が以前続けていた視覚障害者のための朗読ボランティアでは、よく同音異義語の説明を求められました。前後の文脈から判断できないとき、「コーエンにイッタ」と朗読した場合、意味がわからないからです。

 私の仕事の大切な部分として「日本語学習者への漢字教育」があります。主として非漢字圏の学習者に、漢字に興味を持たせて漢字の成り立ちなどを解説しながら日本語語彙を導入する、という授業を行っています。「漢字のなりたち解説授業」の実際については、また別のシリーズ「春庭の漢字授業」で実況中継記録をお伝えします。

 さて、私は現在、いつもの年なら春休みを楽しんでいる時期なのに、中国で仕事を続けています。「日本の大学院で博士号をとるために留学する大学院修士号取得者」たちに、日本語を教える仕事。これから中国での日常生活の報告のほか、授業報告もしていくつもり。まず、日本と中国の漢語の話題から。

 今回の中国滞在では、中国人学生、しかも大学院修士号取得者対象ですから、漢字教育といっても、日本語語彙の漢字読み方の中で、留意すべき読み方や意味を解説するにとどめることになります。 
 中国語で教育を受けてきた層には「漢字なら中国が本場だから意味も書き方もよくわかる」という思いこみがあります。漢字教育をなおざりにする学生もいるので、中国語と日本語の字体の違い(簡体字との違い)と読み方使い方の違い、また、同じ漢字でも意味の異なるものに留意させます。

 三月末、中国人学生に日本語の漢字テストを実施しました。皆よくできます。文法項目としては日本語初級の学習をしているのですが、漢字語彙は日本語能力試験2級レベルの語彙をどしどし教えていく教科書を使っています。『実力日本語』という「日本の大学院に留学する中国人留学生」を対象にして開発された教科書です。

 <つづく>
02:35 コメント(6) 編集 ページのトップへ
2009年04月05日


ニーハオ春庭「中国的漢字ふりがな」
2009/04/05
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(5)中国的漢字ふりがな

 中国人大学院修士課程修了学生への漢字テスト。漢字にひらがなで読み方をふらせる「ふりがな試験」です。
 長音、濁音と清音、促音(つまる音)、拗音(きゃきゅきょなど)の聞き取りが弱い学生が多いので、仮名をふらせると、この発音の間違いがよくわかる。また、地方の方言によって、RとN、RとTの音の区別がむずかしい学生がいるので、この発音のまちがいも、ふりがなでわかります。熱心に「れっしん」と仮名をふった学生、RとNの区別がつかない中国南方の出身者と思われます。日本人にはRとLの音の区別がわからず同じ音に聞こえるように、中国南方地域ではRとNの音が「同じ音」に聞こえるからです。

 文法の試験でも、発音の間違いによって、×にされてしまう学生もいます。たとえば、「もし、都合が<  >たら、遊びに来ませんか」という文の< >に「いい」という形容詞を活用させて記入する問題で、正解は「いい」を活用させ「もし都合がよかったら、遊びに来ませんか」なのですが、促音の聞き取りを苦手とする人たちは、しばしば「もし、都合が よっかたら~」と、書いてしまう。促音の聞き取りと発音はむずかしいので、なかなか促音を正しく発音できないのです。母音の聞き取りも「ん」も難しい。

 ふりがなの間違いを書き出してみると。
 合格こうかく 兄弟きゅうたい 出発しゅぱつ・しょうぱつ 条件じょけん 条件じょっけん 事故じこう 給料きゅうりょ 税金ぜきん・ぜんきん 熱心ねしん・れっしん 趣味しゅうみ・しゅっみ 種類しょうるい 長所ちょうしょう 迷惑めんわく 種類しゅうるい・しょうるい 平均点へいけんてん・へいきんてい 

 朝鮮族の学生は、文法はよくできます。朝鮮語は日本語と同じ文の並べ方だから。でも、発音が苦手です。漢字ふりがなでは、朝鮮族の苦手な発音がよくわかります。朝鮮語は語頭には必ず清音になり、語の中では濁音になりますから、合格を「こうがく」と書く学生もいるし、条件を「ちょうけん」と書く学生もいる。税金せいきん 洗濯物せんだくもの、など。清濁(無声音と有声音)の聞き分けはたいへん難しい。
 
 日本の小中学生高校生への漢字読み仮名テストは、漢字の読み方を覚えたかどうかをチェックするテストなのですが、中国人大学院学生への漢字テストは、「発音のまちがい」をチェックするテストになります。もちろん、漢字の読み方そのものを覚えていなくて、「税金を納める」に「ぜいきんを なめる」「ぜいきんを のうめる」と書いた学生は音読みの「納」ナッ、ノウを覚えていて、訓読みを忘れたのだということがわかります。
 間違える人もいますが、ほとんどの学生が、ふりがながよくできており、さすがエリート中のエリート大学院生だと感心しています。

 非漢字圏学生への漢字テストだと、「兄弟あにいもと」とか、「出発ではつ」などはまともなほうで、どうしてこんな読み仮名をつけるかなあという笑えるふりがなが多い。非漢字圏の漢字学習者たち、知恵をふりしぼってユニークな読み方をひねりだすので、講師室ではいつも漢字担当者たちが「本日の笑えるふりがな」を披露しあって楽しんでいました。

 現在担当の中国人大学院生たちのふりがなには、「笑える」ものはなくてつまらないですが、発音の間違いがよくわかる結果を見て、今後の発音教育に生かしていこうと思っています。

<漢字の話は四月中旬へつづく>


2009/04/10
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(6)トイレットペーパーで手紙を書く

 日本語と中国語で同じ漢字熟語、意味内容が、(1)まったく異なる。(2)意味が共通している部分もあるが、微妙にずれている部分もある、(3)ほとんど同じ、
という3つに分類できます。
 (3)のほとんど同じ、という場合は誤解も起きず、問題はないでしょう。
 「手紙」のようにt中国語ではトイレットペーパーの意味になるなど、まったく異なる場合も、最近では意味の違いに興味を持つ人も増え、気をつけることができます。問題になるのは、(2)の、「微妙に異なる」場合です。

 「収集」は、中国では「宝石を収集する」「古代中国絵画を収集する」とは言えるけれど「粗大ゴミは火曜日に収集する」などには使えません。「収集」は「貴重なものを集める」という意味だからです。そのため、中国人留学生は、「粗大ゴミの収集日」などの表現に違和感を感じます。

 私は日本で「先生」と呼ばれる職業についていますが、中国では「先生」は、主としてあらたまった場で男の人につける敬称で、日本語なら「~さん」にあたる言葉です。日本では、教師、医師、弁護士、議員など、一定の職業の人にのみ使う、ということを知っておかないと、日本滞在の中国人も、中国滞在の日本人も誤解することがあります。

 中国人学生に推奨する「日本語と中国語 漢字語の意味のちがい」を学ぶための参考書があります。大阪府立大学教授の張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)。張麟声先生のホームページURL
http://www.lc.osakafu-u.ac.jp/staff/zhang/lin_index.htm

 また、同様の中国語と日本語の漢字語の意味のちがいを解説している本は、彭飛『中国語虎の巻』(東方書店)金若静『同じ漢字でも』(学生社1987)があります。
 以下、日本語と中国語で意味の異なる漢字熟語のリストを掲載します。

 張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを、春庭が再編集したリストです。
=======

<1:人をあらわす語>
1-1愛人(あいじん)
 日本語--妻以外に恋愛関係を持っている女性で、とくに経済的に援助をしている女性をさす。
 中国語--配偶者。妻または夫。
1-2丈夫(じょうぶ)
 日本語――身体や物がしっかりしていること、頑丈で壊れにくい。「丈夫な身体、丈夫な椅子」 古代日本語では「丈夫(読み方は、ますらお)」=強い男   
 中国語――男の配偶者、妻に対していう夫のこと。昔の中国語では、堂々とした強い成人男子のこと
1-3大丈夫(だいじょうぶ)
 日本語――問題ない、心配することはない、という意味。
 中国語――立派な一人前の男、古代の漢語の「丈夫」と同じ意味=夫
1-4外人(がいじん)
 日本語――外国人。   
 中国語――家族や親戚以外の「他人」。或いは、自分の属する組織や範囲以外の人。「私は外人とはつきあわない」と言った場合、「自分の所属しているグループの外の人とは交際しない」という意味になります。
1-5先輩(せんぱい) 
 日本語――同じ学校や職場に先に入った人、或いは先に卒業・退職した人。
 中国語――自分より前の、つまり親の世代のこと。中国語の「後輩」は自分より後の子供の世代。「先輩は、文化大革命で苦労をした」と言うとき、日本語なら具体的なひとりの人を指すのですが、中国語では「親の世代の人は、文革で苦労した」の意味になります。

<つづく>
01:12 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2009年04月11日


ニーハオ春庭「可憐な少女はかわいそう」
2009/04/11
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(8)可憐な少女はかわいそう

 張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版200)から引用したものを編集したリストつづき。

<3:人やモノの状態、ようすをあらわすことば・日本語の場合「形容動詞・ナ形容詞」になることが多い>
3-1清楚
 日本語(せいそ)――女性や花の清らかな美しさをいう。 
 中国語――「はっきりとしている」という形容詞と「分かる」という動詞。
3-2可憐
 日本語(かれん)――いじらしい、かわいい。「可憐な花、可憐な少女」  
 中国語――かわいそうな。可憐的老人(孤独でかわいそうな年寄り)
3-3元気 
 日本語(げんき)――健康で勢いがよいこと。挨拶用語として「げんきですか?」 
 中国語――人だけでなく、社会、組織などの生命力、活力、精気の意味。
3-4怪我 
 日本語(けが)――(1)負傷 (2)失敗、思いがけないこと「深入りすると怪我をするよ」「怪我の功名」 
 中国語――単語としての意味はない。「我(私を)責める」「私のせいだ」という主語述語をもつ文。「怪」は「とがめる、責める、人のせいにする」という動詞。
3-5緊張
 日本語(きんちょう)――失敗が心配で心や身体が引き締まること、両者の関係がうまくいかず、今にも争いが起こりそうな状態。
 中国語--日本語と同じ用法のほか、物に関する用法がある。「最近鋼材緊張(さいきん、鋼材が不足している)」
3-6得意
 日本語(とくい)――(1)ある種の成功を収めて満足している人の気持ち。「大学に合格して得意になっている」(2)「得意なスポーツ、得意な料理」のように上手にできる事柄、「得意先」(ひいきにしてくれる客)
 中国語--(2)の用法は中国語にはない。(1)のみが使われる。
3-7快楽
 日本語(かいらく)――ここちよい、楽しい(日本語では肉体的感覚が強い)「男の快楽」というと、異性関係を含む身体的快楽の意味合いが強くなる。
 中国語1--主に精神的なものについての心地よさ。「快楽的単身漢」という中国映画のタイトルの意味は「家族親戚など係累がなく自由気ままに暮らす独身男」という意味
3-8上品・下品
 日本語(じょうひん・げひん)――日本語では人の言動を評価することば。上品な婦人、下品な言葉など。語源の仏教用語では極楽浄土に往生する人が9段階に分けられ、上の3段階を「上品」、下の3段階を「下品」ということに由来する。 
 中国語――人ではなく、物についていう。
3-9馬鹿
 日本語(ばか)――(1)知能の働きがにぶいこと(人)。「無知」の意の梵語mohaから来たらしく、「馬鹿」は当て字。(2)ナ形容詞「ばかな」は「愚かな」「有り得ないほど意外な」の意。「そんなバカな!」 
 中国語――「馬」のような「鹿」、鹿の一種。
3-10恰好
 日本語(かっこう)――体裁(ものの形、姿、様子)がちょうどよい。「恰好がいい男性」「この服は恰好はよくないけれど、暖かいよ」さらに、「恰好の値段」(値段がちょうど手ごろであること)、「50恰好の女性」(だいたい50歳くらいの女性)
 中国語――ちょうどそのとき、おりよく。「恰」は「ちょうど」、「好」は「よい」の意だから、「ちょうどよい」ことが中国語では「ちょうどよいとき」
3-11結構
 日本語(けっこう)――(1)満足のゆく状態であること(すばらしい)。「結構なお住まいですね」(2)まずまず満足の状態(かなり)。「この店の料理、結構いけるね」(3)現在の状態で満足しており、それ以上を必要としない様子(丁重に断る言葉)。「もう結構です」は、いろいろなニュアンスがあり、前後関係などから判断する必要があり、日本語学習者は要注意。「この文章、けっこう良い出来だね。(思った以上によく書けている場合につかう)」
中国語――構造、構成。「この文章、結構良い」というと、中国語では、「この文は(表現はそれほどではないが)構造が良い」となる。

<つづく>
00:12 コメント(6) 編集 ページのトップへ
2009年04月12日


ニーハオ春庭「下水を通り悪の道へ」
2009/04/12
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(7)下水を通り悪の道へ

 ことばの変化について。
 和語の「かなしい・かなし」を考えてみましょう。古語辞典にある「かなし(愛し)」は、「強く心が動かされる、しみじみとした感動を覚える、心にしみていとしい」とあります。切ないまでに、しみじみと心のひだに感情が集まってくる、という意味です。切ないまでにしみじみするところから、「悲しい」という意味が派生してきて、現代語としては、「愛し・かなし(いとしい)」という意味がなくなり、「かなしい我が子」と聞くと、「愛しい(いとしい)我が子」ではなく、「悲しい我が子」という意味に受け取ることになります。

 このように、言葉の意味はどんどん変化します。元は中国語であった漢字熟語が日本社会に移入されたとき、意味変化がおこるのは当然のことです。今ではまったく異なる意味で使っている語も多いのですが、今回のテーマは「意味が重なり合う部分を残しているが、、微妙にある部分ではずれている日本語中国語」の対照です。

<2:「人」以外の名詞>
2-1下水 
 日本語(げすい)――家庭などから出る汚水。上水の対義語  
 中国語――日本語と同じ意味のほかに、豚など家畜の内臓(もつ)(水に下げて煮る)、船が進水する、悪の道にはいる(普通の暮らしを営む陸から通常は暮らさない水へ下っていく)、布を水につける、など。
2-2階段 
 日本語(かいだん)――人が上がり下がりするための段になった通路。中国語では「台階、楼梯」
 中国語――日本語の「段階」の意味。物事が進む過程のひとくぎり。時間的な概念で、例えば、封建社会から資本主義社会に移行したことを社会が新しい「階段」に入った、という。
2-3趣味
 日本語(しゅみ)――読書、音楽鑑賞など、余暇の楽しみ。中国語では「愛好」に相当。
「私の趣味は薔薇の栽培です」
 中国語――人生観(古代中国語、古典語のみ)
2-4手紙
 日本語(てがみ)――書状、レター。手で書く文字「手」手で習う文字→手習い 
 中国語――トイレットペーパー。「トイレに行くこと=解手(手を解く)」手は用便の隠語。
2-5情報
 日本語(じょうほう)――インフォーメーション、中国語の「信息」。 
 中国語--「軍事情報」のように、国家の機密や安全にかかわる事柄。
2-6案件
 日本語(あんけん)――処理されるべき事柄。「外交案件」「予算案件」外交・予算に関して検討や処理すべき事案。日本語の「案」は、「アイデア」または「考える」という意味。考案、思案、妙案。日本語独自の漢字語「腹案、思案」。日本から中国へ伝わった漢字語「草案、提案」
 中国語――事件。中国語の「刑事案件、民事案件」は、日本語では「刑事事件、民事事件」。「案」は昔は机の意味。古代中国の役人たちが「案」の前に座って処理するさまざまな問題が「案件」。古代中国の役人たちが処理していた問題の多くは訴訟事件だから、「案件」は実質的に「事件」だった。
2-6縁故
 日本語(えんこ)――血縁、縁戚などの縁続き、人と人とのかかわり・つて。「東京には一人も縁故がない」「縁故をたよって就職した」
 中国語――理由、原因
2-8今朝
 日本語(けさ)――今日の朝「今朝は早起きしたので眠い」日本語の朝は日の出前後から数時間。
 中国語――今日、または今現在。中国語にはmorningのほかに「一日」の意味もある。
2-9顔色 
 日本語(かおいろ)――顔の色。「今日は顔色がよくないね。どうかしたの」
 中国語――顔だけでなく、いろいろなものの色。

<つづく>
07:35 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月13日


ニーハオ春庭「教養つけて強制労働」
2009/04/13
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(9)教養つけて強制労働

 張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。

<4:中国語では動詞が主な意味を担う語>
4-1覚悟
 日本語(かくご)――困難や不利な結果が出るかもしれないと予測して、心を決めること。「どんなに難しくてもあきらめないで、感性させる覚悟です」 
 中国語――(理論や政策に)めざめる、自覚する。「有覚悟」「覚悟高」の人とは、「中国共産党の理論、路線、政策に対する意識や理解が高い人の意味。
4-2教養
 日本語(きょうよう)――学問・文化に関する広い知識を身につけることで得られる心の広さ。 
 中国語――人のよくない習慣やくせを強制的な手段によってなくす、という意味の動詞。
また、「しつけ」という意味の名詞。「労働教養院」=強制労働収容所
4-3作風
 日本語(さくふう)――作品に表れる作者特有の個性。「彼の作風は少年時代の生活環境が深く関係している」  
 中国語――人の思想、生活態度をいう。中国語で「作風がよい」というと、その人の異性関係が潔癖で、逆に「作風がよくない」というと、まず異性関係がだらしないというイメージが浮かぶ。
4-4勉強
 日本語(べんきょう)――(1)学問や技術に励み努めること。(2)無理して商品の値引きなどをする
 中国語――無理をして何かをする、自分の意に反してしぶしぶ何かをすること。
4-5出世
 日本語(しゅっせ)――昇進、栄達すること。「彼は取締役に出世した」 
 中国語――語源は仏教用語「世」は俗世間のことで、「出世」は、「世に出る」つまり、(1)生まれること、(2)「世を出る」つまり、出家する。
4-6作為
 日本語(さくい)――よく見せようとして、わざわざ仕組んだり、手を入れたりする
こと。「データを作為的に変更した」
 中国語――業績、貢献。日本では基本的に「無作為」をよしとし、中国では「有作為」をよしとする。
4-7収集
 日本語(しゅうしゅう)1--「集める」「火曜日には粗大ゴミを収集する」
 中国語1--では収集
の対象は価値あるもの、有用なものに限られるが、日本語では「ごみ」にも「収集」が使われる。
4-8暗算
 日本語(あんざん)――「筆算」の反対語。紙・鉛筆や計算機などを使わないで頭でする計算。中国語では「口算」「心算」 
 中国語――だまし討ち、ひそかにたくらんで人を殺す、または陥れる。日本語では「暗殺」。
4-9遠慮
 日本語(えんりょ)――他人に気を使って言動を控えめにすること。「ここではタバコ
はご遠慮ください」「遠慮なく頂きます」中国語では「ご遠慮無くどうぞ」は「不客気」
 中国語――将来のことを深く考えること。
4-10温存
 日本語(おんぞん)――何かを使わないで大事に保存しておくこと。「試合に備えて体力を温存する」日本語は「副詞+動詞」、「暖かく(大切に)保存する」、
 中国語――人、ことに異性に対して大変優しい。中国語は「主語+述語」、「温かみが存在する」から、思いやりがある、やさしい、という意味になる。
4-11合算
 日本語(がっさん)――数字を合計する。
 中国語――(1)合計する (2)「考えてみる」「相談してみる」
4-12我慢
 日本語(がまん)――辛抱強く耐える、こらえる。「疲れたけれど、我慢して走った」
 中国語――「主語+述語」、「私は遅い」。

<つづく>
07:09 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月14日


ニーハオ春庭「工夫を続けるヒマはない」
2009/04/14
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(10)工夫を続ける暇はない

 張麟声『日中ことばの漢ちがい』(くろしお出版2004年)から引用したものを編集したリストつづき。

4-13工夫
 日本語(くふう)――いろいろと考えてよい方法を得ようとすること。「なにかうまい工夫はないか」
 中国語――何かをするのに要する時間、暇。「没有那样的工夫 そんな暇はない)」
4-14無心
 日本語(むしん)――(1)雑念や邪心がないこと。「彼は無心に仏像を彫っている」「少女が無心に笑っている」(2)金や物をあつかましくねだること「友だちに金を無心した」
 中国語――「無心」の「心」は意図性。わざとしたことではない、なにかをする気が起こらない。「この事故は無心で起きたことだ」
4-15留守
 日本語(るす)――(1)家を空けること、不在。「旅行するのでしばらく留守にします」(2)(他のことに気をとられて)すべきことをしないで放っておくこと「ほかのことを考えていたので、頭がお留守になっていた」(3)中国語と同じ使い方「留守番」 
 中国語――留まって守ること。軍隊や各種の団体の本体が移動して現地を離れた時、少数の人が残ってその留守を守ること。
4-16結束
 日本語(けっそく)――人間を結ぶ、人々を束ねる。同じ志の者が力を合わせて団結すること。「賃上げのため結束して交渉する」
 中国語――終わる、終結する。人間の手に持っている武器、道具。道具や武器を「結び束ねてしまう」ことは、仕事や戦が終わる、終結する時のこと
4-17裁判(審判)
 日本語(さいばん)――法に基づいて訴訟を裁くこと。中国語では「審判」
 中国語――スポーツ競技で勝ち負けや反則の有無を判断すること。日本語では「審判」
4-18翻案
 日本語(ほんあん)――既成の作品の大筋を生かしながら、作り変えてゆく作業。「この映画は、シェークスピアのハムレットの翻案です」 
 中国語――ある人に関するそれまでの判決や歴史的な評価を覆して、新しい決定をくだすこと。「修正主義者として失脚した小平は3度の翻案を経験した」
===============

 中国語の漢字熟語と日本の熟語の意味のちがいについて対照してきました。言語学では、日本語と中国語のような、文法構造が異なる言語を比べて研究することを対照言語学と呼びます。韓国語朝鮮語モンゴル語トルコ語など、文法構造が同じ系統の言語を比べて研究することを比較言語学と呼びます。
 現在の春庭コラムのテーマは、「日本語語彙中国語語彙の意味・対照言語学」です。こう書くとなんだか高尚なことを論じているような気分になりますが、違う言語を並べて異同をしらべてみるのは、楽しい遊びにもなります。

 日本語では祖母・祖父・は父方も母方もおなじに「おじいさん・おばあさん」と呼びますが、中国語では、父方のおじいさん、書き言葉では「祖父」で、呼びかけるときは「爺爺(爷爷)ジエジエ」、父方のおばあさん、書き言葉では「祖母」、呼びかけるときは「奶奶ナイナイ」、母方のおじいさん書き言葉では「外祖父」、呼びかけるときは「老爺(老爷)ラオジエ」、母方のおばあさん、書き言葉は「外祖母」、呼びかけるときは「姥姥ラオラオ」と、呼び方が違います。
 おじさんおばさんとなると、父方か母方か、両親より年上か年下かで、それぞれ呼び方が異なる。

 中国では、父方と母方は厳密に区別します。そのため、嫁いできたヨメの名字は変わることがありません。王さんのところにヨメにきた李さんは、結婚後も李の名字を持ち続けます。王家に生まれた者ではないからです。

 一方、日本語では年齢が上か下かで区別する「兄・弟」が英語ではまとめてブラザーbrotherですし、「姉・妹」は、まとめてシスターsisterです。
 日本語では、外で見かけた年老いた人を「今日、電車の中で、手をつないでいるおじいさんとおばあさんを見た」と表現できますが、英語では、grandmother grandfatherは、自分の祖父母にだけ用い、よそのおばあさんならold woman, old ladyなどと表現します。

 アフリカのある言語では、母の姉妹は全部「ママ(という意味のことば)」で呼ぶため、文化人類学者のなかには、姉妹がそろって一人の男にとつぐ一夫多妻社会だと誤解したこともありました。

 ことばは文化を反映しており、ことばの異同を調べることは、その社会をより深く理解することにつながります。

<つづく>
06:10 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月15日


ニーハオ春庭「博士的愛情算式」
2009/04/15
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国からニーハオマ?(11)博士的愛情算式

 以上、今回のテーマ、中国語と日本語で意味が異なる漢語のリスト、日本語学習をする中国人にも、中国語を習う日本人にとっても、間違いやすい語を掲載しました。 

 日本と中国ことばのちがい、挨拶語の微妙なちがいについて。
 学生達、廊下ですれ違うときの挨拶ことばとして、教師にむかって「センセー!」と言います。これは、中国挨拶文化では、教師に向かって「老師ラオシー!」と呼びかけるのが、朝でも昼でも夜でも共通の挨拶語として通用しているからで、老師をそのまま「センセー」と、日本語に置き換えているのです。
 中国ではそれで挨拶用語になるけれど、日本の大学で教師にむかって「センセー」と呼びかけたら、教師は質問でもあるから声をかけたのかと思うだろう、と、そのうち教えておかなければなりません。

 挨拶語、「ニーハオ你好」は、いつでも使えると思っていました。「你好」を直訳すれば「あなたの調子は好調ですか」という問いかけです。挨拶のこたえは「ハオ!好!調子いいですよ」となります。そのため、毎日顔を合わせていて、調子がいいことがわかっている人に、毎日「調子は好調か」と質問するのはやや不自然になる、と最近になって知りました。調子が悪ければ「你好ニーハオ」の返事は「不好ブーハオ」です。

 日本語では、正午過ぎに起きてきたような人が、家族にむかって、もう朝ではないからと「こんにちは」と挨拶するのは不自然になります。挨拶用語も使うべき時と場所がある。相手の調子が「好ハオ」であることがわかっている場合なら、「ニーハオ」ではなく、朝なら「早上好」「你早ニーザオ」また、相手が教師なら「老師!」と呼びかけるほうが自然だと、教えて貰いました。
 
 では、日本語と中国語の違いについて、最後の一語。
4-19愛情
 日本語(あいじょう)--日本語の「愛情」は広い「愛」の意味で使われている。学生に対する教師の愛情、父親と娘の間の愛情、犬への愛情など、愛する対象は誰でもよい。
 中国語(àiqíng)--男女間の愛情関係。恋愛、ロマンス

 小川洋子『博士の愛した数式』をフランス語訳すると「La Formule Preferee du Professeur」で、「愛した」は「愛好した」という語に翻訳されています。「プロフェッサーの愛好した数式」という訳です。
 しかし中国語翻訳書では、漢語を並べて「博士的愛情算式」というタイトルです。日本人が中国語を学習する場合の「中国語学習用教材」として発行された中国語読み物で、日本人を対象とする本だから、このタイトルでよいとしてつけられたのかもしれません。しかし、中国人がこのタイトルを見たら、博士は人間の女性に興味がなくて、数式と恋愛するような「数学フェティシズム」男性に思えるかもしれません。

 私の場合?もちろん見目良き男性へも愛情を感じますが、何より愛しているのはやっぱり「食べること」ですね。3月に紹介した緑豆餅、すっかりファンになり、よく買って食べています。「春庭的愛情緑豆餅」

 4月15日、中国に赴任して一ヶ月たったところです。春庭的愛情の深さによって、体重が、、、、、不好(ブーハオ)、、、、

<おわり>


対照言語学>中国語の外来語表記方法

2011-07-25 07:37:00 | 対照言語学
2009/04/16
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(1)中国語への外来語導入事情

 先週一時的に一気に気温があがり、最高気温27度という夏のような異常気象かと思うような温度になりました。桃の花が咲いてやっと春かと思ったら、今週はまた一気に気温が下がり、13日はとても寒く、14日午後は突風と砂嵐、15日は凍えそうな冷たい風。風邪を引いてしまいました。
 日本製の漢方薬で風邪をだましだまし仕事を続けています。私が飲んでいるのは、「改源」という粉薬です。苦いけれど、苦さをがまんすればよく効くだろうと思って飲んでいます。プラシーボ効果と気合いで風邪をなおすつもり。

 漢方薬は中国3千年の歴史を持ち、中国では「中医」と呼ばれて各地に専門の漢方医学大学があります。日本にも漢字文化とともに奈良平安の日本に入り込み、鑑真や空海(弘法大師)は、お経とともに薬草などを伝えた人として伝説が残されています。日本でも独自の漢方医薬が継承され、針灸のツボなどは、中国と日本とでは少々異なるツボが伝わっています。日本独自の漢方薬もさまざまに開発されてきました。
 薬草だけでなく、漢字も中国から伝わって以来、日本は独自の漢字文化を発展させてきました。
 
 日本で作られた漢字を、和製漢字「国字」と言います。「畑」「峠」「働く」などが代表的な和製漢字です。日本で作られた和製熟語、和製漢語もあります。
 日本語の中で使われている漢語のうち、和製漢語(新漢語)は1割程度。大多数の漢語は中国製です。本家はやはり中国ってことで、1万年前に漢字を発明した本家の顔を立てましょう。

 さて、「本家」の「本」ですが。この場合は、「本」は、字義「木の根本の太いところ、転じて根拠となることがら、中心となる場所など」の意味に合っています。
 また、日本語の「本」は1本2本と数えるときには、助数詞として使われています。
 でも単独で「本」といったときは、日本語では「書物」を意味する。
 中国語では、「書物」を意味するのは「書shu」「書籍shuji/」「書本shuben」など。この書本の書を略した「本」が、日本語では主に書物をさす語になりました。
 「本」はもともとは「書道のお手本」「筆写する元になる原本」を表していたのですが、古代には、本はすべて書写されたものですから、「本」と書物が同じ意味になったのです。

 「本」が日本語に取り入れられたのは、このような経緯がありました。これはおよそ1300~1400年以上も昔の出来事です。
 大昔に取り入れられた「本」については、みな「これは日本語である」と思い、「本ください、ほら、その赤い表紙の」などと発言するとき「本とは外国から来たことばである」という意識は持っていません。しかし、「そこなる書籍を賜りたい」というと、書籍には「漢語」という意識があります。

 さて、近年、日本語は「本」のかわりに「ブック」を取り入れ、「店」の代わりに「ショップ」「ストア」を取り入れました。複合語として、簡単に「ブックショップ」「ブックストア」が成立します。本屋、書店、ブックストア。和語、漢語、外来語をこだわりなく用いて、場面によって使い分けています。

 日本語は中国語からもその他の言語からも多くの語彙を取り入れてきました。日本語は外来語を取り入れやすい言語システムなのです。では、中国語はどのようにして外来語を取り入れているでしょうか。
 孤立語である中国語の外来語導入事情。漢字本家の中国語は、ちと外来語インストールがやっかいですが、日本から入り込んだ「和製漢語」については、何のこだわりもなく取り入れて、中国語として活用しています。こだわりもなくというか、和製漢語を、もともとの中国語だと思って使っています。

 けれど、英語や他の言語からの外来語を中国語に取り入れるには、少々事情がことなってきます。日本語が「ブックストア」を気安く取り入れているようには、中国語は「漢字表記ではない外来語」を取り入れることができないのです。

 日本語は、外来語を取り入れるとき、「日本人の耳に聞こえた音のとおりにカタカナで書けばよい」という単純な表記システムです。
 しかし、漢字には、文字ひとつひとつに意味があるため、音表記する漢字の意味合いを考えないと、おかしなイメージになったり、意味合いが誤解されたりしてしまいます。
 外来音を母語の音声に合わせて簡単に取り入れられる日本語のようには導入ができません。

 今回のテーマは、中国語はどのようにして外来語をとりいれるか、です。

<つづく>
05:59 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月17日


ニーハオ春庭「コカコーラとミスタードーナッツ」
2009/04/17
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(2)コカコーラとミスタードーナッツ

 英国から清王朝に西洋医学が伝えられたとき、blood vesselは、「血管」と翻訳されました。
 「ペンシル」が伝わったとき、中国は「鉛筆ヨンピー」と翻訳して取り入れました。

 (中国が、鉛筆という語を取り入れたのは、何の問題もなかったのですが、現代において「蝋筆小新ローピーシャオシン」を取り入れたときは、大問題勃発。本家本元、日本の「くれよんしんちゃん」の著作権は認められず、最初に商標登録した「蝋筆小新」が権利を獲得。日本の会社は、「しんちゃん」に関する中国国内の権利を法的に認めてもらえませんでした。っと、これはまた、別のおはなし。ドラえもんもキティちゃんも、こちらでは、バチもん天国です)。

 中国語は孤立語だから、単語ごとのインストールは、文法的には簡単です。しかし、表意文字を用いる中国語では、表記が問題になります。
 ペンシルという音をそのまま取り入れることはむずかしいので、翻訳して鉛筆にしました。
 音をそのままとりいれる外来語は、中国では少数派です。では、その少数派の紹介を。

 中国語の漢字は、すべての文字に意味がある表意文字ですから、発音が同じ文字だからいいというわけにはいきません。日本語のように、外国語の音を自分たちの発音に合わせて言いやすく変え、表音文字のカタカナで表記できるのとは事情がことなります。

 中国語に入った外来語のうち音訳したことばの例。
 「コカコーラ→可口可楽」
 口に入れると楽しくなるという意味になる可口可楽は、たちまち中国の町を席巻しました。
 ケンタッキーフライドチキンは「肯徳基(ケン デー ジー)」、 マクドナルドが「麦当労(マイ ダン ラオ) 。

 ミスタードーナッツも音訳して「美仕唐納滋」。漢字の意味がドーナッツに合っていて、いいイメージです。さて、コカコーラと同じほど、ミスドが普及するかしら。

 中国語への外来語導入、音訳が増えてきたとはいえ、まだ少数派。
 音を取り入れる場合、発音が原音に合っていても、意味がふさわしくないとダメなので、音訳はむずかしい。
 ほとんどの外来語は、翻訳して意味をとりいれることになります。

 意訳した外来語の例。コンピュータは「電脳」。
 会社名も意訳。マイクロソフトは、「微軟」。
05:30 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2009年04月18日


ニーハオ春庭「一番好きなショッピング」
2009/04/18
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(3)一番好きなショッピング

 「日本語は外来語を取り入れやすい言語である」ということについては、2008年初頭の「てれすこ」というシリーズで、お話しました。今回の「中国語が外来語を取り入れる場合」について、中国の町の中や学生たちのことばから探っていきたいと思っています。

 現代中国語における音訳の傑作例、可口可楽は、すっかり中国社会に定着しました。そのほか、まだ定着しきっていない最新の「外来語からできた新しい中国語」をクイズにしました。意味と発音両方とも取り入れた語になっています。
 以下の2問、どんな意味でしょうか。三択です、当ててください。

第1問 日本語を翻訳した中国語 一級棒(イージーバンyi4 ji1 bang4 数字は声調)の意味は?
①ホールインワン(ゴルフ一打で穴にいれること)
②一番(ナンバーワンの品 すばらしい一級品)
③飛び級で上級クラスへ進む秀才

第2問 英語を音訳した中国語 血[オ弁][払-ム+弁](手偏に弁)=シュエピンの意味は?
①bloody Maryブラッディマリー(洋酒カクテルの名前)
②brother in lowブラザーインロー義兄弟(英語ではblood brotherともいう)
③shoppingショッピング(買い物) 

 第一問の正解 ② 一番
 解説:中国語の「一番」は「一通り」という意味になる。
 日本語の意味で「第一番の、ナンバーワン」という中国語は「第一(ディーイー)」「最高権威」などの語があるが、ナンバーワンの一品というニュアンスとは異なってしまう。

 そこで、日本語の「一級」と同じ意味である「一級」を用い、「棒」を付け足した。
 「棒棒鶏バンバンジー」でおなじみの「棒バン」は、「すばらしい」という意味の形容詞です。「太棒了タイバンラ」で「すばらしいねぇ」という褒め言葉になる。
 そこで、「一級」「棒」を組み合わせた「一級棒」を日本語の「一番」の訳語にした。日本語の「イチバン」と似通った発音「イージーバン」になります。
 「这朵花是我最喜欢的花この花は私のナンバーワン」を「这朵花是 我的一級棒的花」と表現できるかどうか、確かめて見ます。
 台湾で放映されていたテレビ番組、「生活一級棒」は、生活情報番組として人気が高かったそうです。

 4月15日に提出させた途中入学の新入生の自己紹介作文。彼女は2007年にインターンシップで東京に滞在し、日本語がある程度できたので、これまでの初級日本語学習を免除され、初級後半の今の時期になってクラスにやってきました。
 彼女の自己紹介作文。「東京タワーとかデスニラントとかいろいろな場所で遊びました。そしで、東京が好きます。私の一級棒好きな日本のドラマは『東京ラブストーリー』」
と、書いてありました。中国人に苦手なカタカナ語の表記のまちがいや、文法上の誤用はあるものの、自分の趣味や経歴をうまくまとめて書いていました。
 一級棒(イージーバン)の用例を見て、「おお、実際に使われているんだなあ」と思いましたが、おそらく、彼女は「一級棒」を日本語だと思って日本語作文の中に書いたのだと思います。他の学生達は「一級棒」という単語を使ったことはないと言っていました。
 台湾や上海では使われだした一級棒が、標準語の中に取り入れられるのは、まだ先かもしれません。
 
 第二問の正解 ③ ショッピング
 解説:中国語で「買い物」は、「買東西マイドンシー」という語があるが、こちらは日常品の買い物のニュアンスがある。ちょっと高級なファッション用品やバッグを買いあさる若い女性の「ショッピング」には、違うことばを当てたい。
 そこで、ショッピングの音訳「シュエ=血」ピン=[才弁](手偏に弁・払-ム+弁)が造語された。
 [才弁]は、命掛けて必死でやる、という意味。
 [才弁]命は、死にものぐるいで命投げ出してことにあたります。
 「必死になって買いまくるショッピング」「血を振り絞っても買いたい」というニュアンスが出てきます。

 この英語からの外来語「血[才弁]」を新聞コラムに紹介した莫邦富さんは、「(女性達が)必死になってショッピングする後姿に、命を投げ出してもやってやるという気概が漂っていないだろうか?そして、あなたの心はどこかで血を流すような悲壮感に襲われていないだろうか。」と、シュエピン(ショッピング)という語を評しています。

 「血[才弁]」と、「一級棒」については、朝日新聞2008/03/15莫邦富の随筆を出典とし、春庭がクイズを作成)

<つづく>
07:12 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月19日


ニーハオ春庭「一級棒好きなラブストーリー」
2009/04 /19
ぽかぽか春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(4)一級棒好きなラブストーリー

 女子学生たち、ショッピングが大好きな人も多いですが、毎日の勉強に必死で、学生寮と教室を往復するだけの日々。大学の外の店に買い物にでるのは、週末のほかはあまりできません。その週末もたっぷり宿題があるので、みな、宿題をこなすだけでフウフウ息切れ中です。今週末の宿題。1.日本語作文『私の趣味』400~600字。2.文法問題プリントが両面コピーで3枚。3.漢字テストの読み仮名問題、間違えたところを訂正して書いてくる。4.ディクテーションの間違えた部分を書き直し。5,会話の暗誦。

 みんな、宿題をよくやってきます。宿題をやってくるほうもたいへんだとは思いますが、クラス18人分のプリントを添削して作文にコメントを書いてやるほうもたいへんです。国内、国立大学での初級文法クラスは10以下という恵まれたクラス編成での授業がほとんど。18人クラスだと、会話の発表も全員するのには時間がかかる。

 作文のコメントもひとりひとりちがう褒め言葉を考え、違うコメントを書き込むのに苦心。
 新入生の作文に『東京ラブストーリー』が「一級棒」好きなドラマだと書いていました。教師からのコメント「わたしも東京ラブストーリー大好きでした。私は柴門ふみのマンガで愛読していました。東京に留学したら、すてきなラブストーリーの主人公になりたいですね。日本語を一生懸命習得して、日本語ドラマを字幕に頼らずに理解できるようになるまで、がんばって学習していきましょう。」

 コメントを記入するとき、既修文型だけをつかい、未修得の文型はつかってはならない、というのが、日本語教師コメントの勘所です。現在のところ、「~ずに~する」「~できるようにする」「~たら~したい」などは既修。受身形は未習。希求内容を表す「~ように」もまだ習っていないので、「愛されるように」という文は書くことができません。
 「誰かに愛されて、二人でカラオケでうたうのも楽しいはず」なんて書くと、「愛される」「~はず」のところが未習なので、文の意味が学生にわかってもらえません。

 石原裕次郎がデュエットした「銀座の恋の物語」という歌のタイトル。カップルが仲良くカラオケでデュエットするのにいい歌ですね。
 でも、柴門ふみの「東京ラブストーリー」が「東京の恋の物語」だったとしたら、漫画もテレビドラマもこんなにヒットしなかったかもしれません。「ラブストーリー」と「恋物語」は、ニュアンスが異なるのです。
 小田和正の『ラブストーリーは突然に』カラオケでうたうもよし、キーボードで演奏するのも鍵盤で華麗に弾きこなすもまたよいでしょう。

 さて、カラオケは、英語では「karaoke(発音はカラオッキ、カラオウクなど)」。中国語では「卡拉OK」。「私はカラオケで、歌った。」は、「我在卡拉OK,唱歌了」
 カラオケはスシと並んで、海外へ輸出され広まった数少ない日本語。「アニメ」も海外に進出している日本発信の文化です。日本語「アニメ」が通用する国も多くなってきました。
 
 中国語は、ほとんどの外来語を翻訳して導入するので、日本語カラオケがそのまま中国語「卡拉OK」になったのは少数派の例です。アニメは「動画片」。

 中国語では、ピアノ(鋼琴gangqín)鍵盤も、コンピュータ・キーボード電脳鍵盤も、同じく鍵盤。
 しかし、日本語では、ピアノやオルガンは鍵盤ですが、シンセサイザーなど電子の楽器では「鍵盤」といわずに、キーボードと言っています。
 
 鍵盤という日本語があるのに、同じことばをキーボードなんぞと、カタカナで言おうとしてけしからん、という方もいらっしゃいます。
 日本語は、「電気・電子」を利用した場合は、「キーボード」と呼び、従来の鍵盤とは別のもの、新しいものと意識している、と考えることができます。

 日本語は、数々の外来語を母語に取り入れながら、取捨選択を行っています。なにもかもを取り入れてしまっているわけではありません。
 ことばの意味、発音(音節とリズム)を勘案しながら日本語の体系に合う語を取り入れてきたのです。

 日本語に合わない外来語は一時流行しても、すたれていくし、発音その他で気に入らないと感じる語があったら、言わなくてもすむので、自分たちの従来のことばを大切にしていればいいのではないかと思います。
 スシ、カラオケ、アニメのほかにも、もうちょっと日本語が海外進出を果たすようになるといいなと思います。頑張れ日本語。

<つづく>
06:05 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月20日


ニーハオ春庭「歌曲串焼と空白鍵」
2009/04/20
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(5)歌曲串焼と空白鍵

 外来中国語のクイズ、第2回。次の外来中国語は、どんなことばを漢語訳にしたものでしょうか。
(1)空白鍵
(2)米奇老鼠と鼠標
(3)歌曲串焼

 先日同僚とでかけたカラオケ店は、あまり日本語の歌を置いてなかったので、とにかく日本語の歌詞がでる曲をみなで順番に全曲うたいました。なぜかジェロが去年ヒットさせた『海雪』が入っており『千の風になって』もありました。でも、中国で大ヒットした『昴』やキロロの『后来ホーライ(未来へ)』がありません。
 『后来ホーライ』は、タイトル翻訳がとてもうまくいった例だと思います。日本語の歌詞のでだしが「ほうら、足下をみてごらん」なので、中国語で「♪ホーライ~」と歌い出すと、曲のイメージがぴったりです。

 全然異なる歌詞になって歌われているのもあります。『北国の春』は、昔ヒットして、今では「この歌は中国のオリジナル曲」と思っている人も多いのですが、歌詞は日本語直訳のものより、テレサテンなどが「我愛你」というラブソングに変えた歌詞のほうがおなじみです。
 『夜桜お七』とか、『ラブラブラブ』とかは入っており、どういう基準の選曲なのかわからないラインナップでしたが、私は『恋のバカンス』と『学園天国』を熱唱!
 食べた分のカロリーを歌って消化せねば。

 カロリー消化のために、昼休みにちょっと体を動かすことにしました。同僚の中国人女先生たちから、いろいろなダンスを習っています。先週は「チベットのダンス」と「ベリーダンス」を教わりました。カラオケもいいけれど、ダンスはやっぱり楽しいです。
 先日、学生主催の「日本人教師歓迎学芸会」が開催されました。中国の先生たち、そろってチベットのダンスやアイリッシュリバーダンスの披露をしてくれました。

 中国には54の民族が住み、それぞれの民族に独自の踊りがあります。チベットの踊りを習うのも楽しいですが、残念なのは、日本では見ることができていたユーチューブでの「チベットの踊り」などが、今は見ることができないこと。中国からユーチューブが開けないのです。情報遮断政策のひとつと思います。西洋文化も貪欲に取り入れている中国ですが、今はまだ、情報完全自由化というわけにはいきません。

 外来語の中国語への取り込み事情、翻訳の場合のおもしろい言い方をご紹介しましょう。
 中国語において外来語の多くは、普通、漢字表意の意味を重視して翻訳して新しいことばを取り入れることになります。
 歓迎学芸会のプログラムの中で、日本人教師達が「この中国語おもしろ~い」と気に入ったことば「歌曲串焼」です。「串焼き?歌の串焼きって何?」と思ったら、それは「メドレー」のことでした。

 USBメモリ(ユーエスビーメモリ・Universal Serial Bus )を中国語翻訳では「通用串行総線、通用串口総線」という訳語も使われていることを知ると、「串」の使われ方がわかり、なんとなく「歌曲串焼」の意味も納得できます。ヒットメドレーは「 串 焼 歌 ( chuan/4 shao/1 ge/1 )」(数字は声調)

 電脳関係の語をいえば、ハードウェア:硬件、ソフト:軟件、フォーマット:格式化・格式制定 、USB:通用串行総線、スキャナ:掃描機、キーボード:鍵盤、スペース・キー:空白鍵、マウス:鼠標,滑鼠  (別訳もあります)

 そうか、スペースキーは空白鍵なのかあ。
 マウスなんて、わざわざ「鼠」という訳語をいれなくてもよさそうなのに、忠実にネズミを翻訳して「鼠標」。

 かって小平は、「白猫であれ黒猫であれ、鼠を捕るのが良い猫である」という「白猫黒猫論」によって経済発展をはかりました。パソコンのマウスであれ、ディズニー社のマウスであれ、中国はどんどん取り入れています。
 ディズニーのミッキーマウスは、「米奇老鼠」。ミッキーが音訳「米奇」で、マウスは意訳「老鼠」。
 ばちもんミッキーマウス、アメリカからのクレームがあって取り締まりが厳しくなったせいか、ドラエもんやキティちゃんのバチもんよりは、町で見かける頻度が少ないです。


<つづく>
04:58 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月21日


ニーハオ春庭「翻訳新漢語」
2009/04/21
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(6)翻訳新漢語

 日本語の会社名、漢字ならそのまま採用されるかというと、中国語での意味が問題になります。意味がOKなら、「松下」はそのままの文字でソンシャァと読まれるし、「東芝」はトンジー。

 しかし、イトーヨーカ堂は、中国進出にあたって、日本語漢字表記の「伊藤羊華堂」を採用しませんでした。「羊華」だとイメージがよくないというのです。中国や中華をイメージする「華」に「羊」を組み合わせたのがあまりよくないのかもしれません。あえて悪いってものを選ぶことはなく、「華堂商場」という表記にしました。
 中国語は、外来の語を導入するには、日本語ほど自由にはいかないことがわかります。人名地名は音訳ですが、その他はほとんど漢語に翻訳して取り入れます。

 室町時代末期に、ポルトガル語が日本語に入り込み、いくつかのポルトガル語由来のことばが現在も使われていることを紹介しました。タバコ煙草、カルタ歌留多、テンプラ天麩羅、などでした。これらは、ポルトガル語の発音をそのまま取り入れていますが、明治時代、西洋語を取り入れたときは中国方式でした。
 開国近代化にあたって、欧米の物品・思想の導入が急務でしたから、つぎつぎと翻訳語が考案されました。明治の日本人は、欧米語の翻訳に苦心奮闘したのです。
 日本語としての翻訳漢語(新漢語)成立について。

 スピーチを演説、ディベートを討論と訳したのは、福沢諭吉である、など、翻訳した人の名が分かっている語が多い。
 サイエンスを翻訳して「科学」、フィロソフィを翻訳して「哲学」、ベイスボールを翻訳して「野球」。デモクラシィを翻訳して「民主」「民本」

 その他、「郵便」「社会」「運動」「意識」「進化」「唯物論」「左翼」「階級」「主義」「共産」「共和」などなど、多くの西欧思想、西欧の物品の名が翻訳されて明治の世に導入されました。
 これらの和製漢語(新漢語)は、中国へ輸出されました。清朝から明治日本に留学していた魯迅らが伝えたのです。

 「大型ブックストアとして代表的な本屋である紀伊國屋書店にもときどき行きますが、私がよく買いにいくブックショップは、駅前にある個人経営の書店です」と、並べて書いても混乱がなく、ちゃんと理解できます。

 本屋(ほんや)は和語です。書店は漢語です。ブックショップは英語由来カタカナ語です。
 ことばのニュアンスを使い分け、どの語も文脈に合わせて使えますし、ブックストアなんて語は使いたくない、と思えば、使わずにすみます。

 日本語の「本屋」は中国語では「書店」です。ただし、日本語で「書店」と表記されたものは、多くの場合、中国語では「出版社」を意味します。「紀伊國屋書店」と表記されていると、中国語では、店売りの本屋としてより「出版社」として受け取られます。

 同じ漢語でも日本語と中国語で意味合いの異なる熟語があることはすでにお話しました。
 同じ動きをやっても、ある人がやればセクシーで、ある人がやれば、???!!!になることもある。
 春庭のベリーダンス練習、第2回目を20日の昼休みに行いました。ビヤ樽ベリーダンス、本来のベリーダンスとはまったく意味合いが異なっておりますが、、、はい、笑いのとれる日本語教師。
 
<つづく>
04:04 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2009年04月22日


ニーハオ春庭「ファッションホテルと时尚旅館」
2009/04/22
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(6)ファッションホテルと时尚旅館

 「kiss→接吻せっぷん」も、明治時代の日本語翻訳語が、近代中国語に取り入れられました。ま、接吻という語がない時代にも、中国でも日本でもキスはしていましたけどね。中国ではキスは「吻」と呼んでいました。
 「彼は彼女に軽くキスをした」→「他軽軽吻了她」

 和製漢語の「接吻」がキスの翻訳語として定着する前、日本語ではその行為を「口吸い」と表現しておりました。明治時代に「接吻」が使われるようになると「口吸い」は流行らなくなりました。
 息子がかわいくてたまらない豊臣秀吉は、茶々(淀の方)に「若君の口吸いは、自分以外のだれにも、させたらだちかんがね」という手紙を書き送っています。愛する者の唇を独占したいのは、古今東西、同じです。
 現在、ブログ日記に「彼と接吻した」と書く女性はレアものでしょうね。現代では「キスした」なのか「チューした」なのか。

 みなみな様におかれましては、和語・口吸い、和製漢語・接吻、外来カタカナ語・キス、どれでもお好きなのを実践してください。
 いずれを実践なさるにあたっても、おふたりが仲良くすごすには、和語「おんやど御宿」、漢語「リョカン旅館」、カタカナ語「ホテル」。どれでも、好きなところにお泊まりください。

 「連れ込み宿」「曖昧旅館」「ラブホテル」どこでもOK。
 と、いっても、一番はっきり泊まる目的がわかるのは、カタカナ語の「ラブホテル」のほうになっているのではないでしょうか。
 現代では「連れ込み宿」というと「え~、ペットをいっしょに連れて行ってもいいホテルのこと?」と思われるし、曖昧旅館と言っても、いったい何をあいまいにするのやら、わかってもらえない。ほら、だから、ナニをナニすることをあいまいに、、、、

 「ラブホテル」も、和製英語であり、英和辞典をひいてもでてこない単語ですが、「メイクラブmake loveを実施するためのホテル」である、と言えば通じます。メイクラブ、愛を作る?ホテルです。
 宿泊している「大学外国人専門家宿舎」のまわりに、「時尚旅館」が何軒もできています。2007年にはそれほど多くはなかった看板「時尚旅館」なので、気になっていましたが、時尚(时尚)=流行する、ファッションの、と訳してみると、そうか、ファッションホテルかあ、と納得。

 「ラブホテル」略して「ラブホ」または、「ファッションホテル」「レジャーホテル」なんてコトバも最近は使われている、とは、この業界に詳しい知人からの又聞きでして、春庭自身が泊まり歩いたわけでは、決してない、、、、、これから先、泊まってみるあてもなく、、、、って、一人で泊まってもいいわけでして。中国时尚旅館報告ができたらいつかまた。
 あは、中国生活もそろそろ慣れてきたらしく、いつもの春庭的オチが復活です。

<おわり>
01:03 コメント(2) 編集 ページのトップへ
2009年04月23日


ニーハオ春庭「中国と外来語(番外編)孤立語」
2009/04/23
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>中国と外来語(番外編)孤立語

投稿者:k********* 2009-04-17 20:14
 中国語は孤立語なんですか?
 という疑問に答えて、言語学基礎復習。

 世界の言語は3000~5000もの言葉が通用しています。方言を別の言語と数えるかどうかによって、言語の数は学者によって説が異なっています。インドネシアのインドネシア語とマレーシアのマレー語のように、名古屋弁と大阪弁というほどの違いしかない言語でも、二カ国語と数えれば数が多くなります。ノルエー語とスエーデン語もほぼいっしょ。モルドバ共和国のモルドバ語は、ルーマニア語とほぼ同じ。
 日本にはアイヌ語と日本語の二言語がありますから、言語はひとつの国に二語存在します。しかし、日本語のなかの琉球方言を区別して三つの言語があると数える学者もいます。

 5000種類もある言語ですが、大きく種類を分けると、文法的な構造のちがいによって、膠着語、屈折語、孤立語、抱合語の4種類に分類することができます。

 日本語は、単語に助詞を膠着させて、文法的な意味を変えて行きます。「私」という名詞に「が」「を」「に」などの助詞をつければ、「わたしが」「わたしを」「わたしに」と、文法上の性格が変わります。このような、「膠にかわ」で助詞(文法的機能語)をくっつけたように変化させる言語を膠着語(こうちゃくご)とよびます。

 英語は、文法的機能を変えたいとき、「I my me」と、単語の形を変えて表現します。このように単語の形を変えていく言語を屈折語と呼びます。英語の動詞は過去や過去分詞で形を変え「go went gone」となります。名詞の形が変わらない日本語も、動詞は「いく、いか(ナイ)、いき(マス)、いけ(バ)、いこ(ウ)」など、形が変わりますので、動詞は屈折語的であるといえます。

 一方、中国語の単語は動詞も名詞も、どんな場合も単語の形は変わりません。単語はいつも独立しています。このような種類の言語を孤立語と呼びます。
 文法的な機能は、文の中の位置で決まります。日本語では「私はあなたを愛している」というのを「あなたを私は愛している」と、主語ではない「あなた」を文頭にもってきても、助詞の働きによって「愛する」という動詞の主体は「私」の方だとわかりますが、中国語で「我 愛(爱)你」の語順を変えて「你 愛 我」としてしまったら、「あなたは私を愛している」というように、意味が変わってしまいます。屈折語である英語も、語順に関しては孤立語的です。英語の単語屈折が不完全になっているためです。

 日本語と英語、日本語と中国語のように、文法的な種類が異なる言語を比べてみる研究を対照言語学といいます。トルコ語とモンゴル語と韓国語朝鮮語というように、文法構造が同じ系統の言語を比べる研究を比較言語学といいます。

 今回のテーマ、「外来語の導入」は、私の担当授業のなかで、「社会のなかでどのように言語が使用されているか」を考える「社会言語学」の取り扱い項目のひとつです。私は文法の専門家であって、社会言語学は専門外なのですが、授業で取り扱う以上、自分でもテーマを決めて勉強しようと思っています。この「にわか勉強」のひとつが、「中国に入ってきた外来語」です。社会言語学を担当するようになってまだ4年目ですが、春庭学生時代あまり勉強していなかった、方言、外来語、言語政策など、社会言語の分野も知れば知るほど興味深いです。

 言語政策、たとえば、常用漢字の数を決めるなんていうのも、国家による言語政策のひとつです。
 言語は思考の道具であり、国家を統一する重要なアイテムですから、国家が言語を管理しようとする力は大変強いです。しかし、国家の統制にもかかわらず、言語というのは常に変化していく。ことばは生きているからです。

 中国語の中にもどんどん増えていく外来語。しかし、漢字に置き換える限り、中国人にとって、「外来語」という意識はあまりないようです。日本人が、仮名で表せる和語と漢字を使う漢語と、カタカナで書く外来語を常に意識しているのは、世界の中でも少数派みたい。
 国家による言語や情報の統制。国によって事情がそれぞれなのはわかりますが、とりあえず、ユーチューブは解禁してほしい、、、、

<おわり>


対照言語学>日本語の漢字vs中国語の漢字

2011-07-22 07:53:00 | 対照言語学
2009/04/24
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(1)和製漢語のはなし
 
 有栖川宮熾仁親王が錦の御旗を押し立てて江戸へ入城し、時代は明治。文明開化は疾風怒濤で世を変えていきました。
 明治時代、西欧の思想や科学・産業がどっと日本に入ってきました。福澤諭吉、西周らは、それらの新しい概念の語を、苦心して日本語に翻訳しました。日本語へ翻訳したといっても、和語ではなく、「和製漢語」を案出したのです。

 日本語が漢字表記を取り入れて以来、千年の間に「日本製漢字語」がぽつぽつと生まれて定着してきました。
 その中には、やまとことばでは「おほね」だった野菜に「大根」という当て字を用いたために、現在では音読みの「ダイコン」が定着している漢字語や、「ひのこと」の当て字「火事」が「カジ」として広くもちいられている「和語→漢字語」もあるし、日本で漢字の造語法を利用して作られた漢字語もあります。たとえば、芸を仕事とする者だから「芸者」、三本の糸を用いる楽器「三味線」など、中国の漢語にはなかった漢字語を用いてきました。

 幕末から明治時代にかけて、英語その他の西洋語から「科学」「哲学」「郵便」「野球」などが翻訳されました。日本語では「野球」と翻訳したBase ballは、中国では「棒球」と翻訳するなど、日中でことなる翻訳をした語がそれぞれに定着した語もありますが、多くの和製漢語がそのまま中国語にも定着しました。明治時代以後に来日した「清国留学生」たちが、日本製漢語を中国へ持ち帰ったためです。
 幕末以降、西欧由来の新概念や事物、個人・社会・主義などの翻訳された和製漢語を逆輸入した中国の人々は、もともと中国の漢語だったと信じて使っています。

 もともとあった中国の漢語、「自由」「観念」「福祉」「革命」などに、西洋の概念をあてはめて、新しい意味を持たせた語もあります。「自然」は日本語も「じねん」と読むときは仏教用語であり、「万物が現在あるがままに存在しているものであり、因果によって生じたのではないとする無因論」「ひとりでに、おのずから為す」という意味を持っていました。英語のnatureの翻訳語として「自然しぜん」が採用されました。

 そのため、中国語母語話者は、「革命など、もともと中国語にあった語彙だ」と思っています。もともとの「革命」の意味は、「命(天命)を革(あらた)める」という意味でした。王朝の交替などの場合に使われていた語を、英語のrevolution(語源は「回る、回転する」)にあてはめた語です。現在の中国では、現在古代中国語の意味としてより、日本が意味を改編した「revolution」の意味で使っています。

 言葉が社会に定着して使われるようになれば、その語がどこからやってきたかなどと言うことは、まったく気にせずに、もともとある言葉として根を下ろします。これは、日本人が煙草や天麩羅を、ポルトガルから来たなどと意識せずに「もともとの」日本語」と信じて使っているのと同じです。

<つづく>
00:02 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月25日


ニーハオ春庭「チャイナ・ピープルズ・リパブリック「中華人民共和国」って70%日本語です」
2009/04/25
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(2)チャイナ・ピープルズ・リパブリック「中華人民共和国」って70%日本語です

 「中華人民共和国」の「人民」「共和国」も和製漢語です。明治の日本人は、the people→人民、republic→共和国と、翻訳しました。
 中国からの留学生のなかで、「日本の漢字は、中国から輸出したものですよ。日本の語彙のほとんどは中国からの借り入れじゃないですか」と、いばる学生がいると、私は反撃します。

 「中華人民共和国」のうち、自前の語は「中華」だけだよ。人民も共和国も、日本人が作った言葉なんだからね。あんたたちの国名は、7文字のうち5文字が日本製だ!
 「中華人民共和国」という国名の70%は、日本語(和製漢語)です。

 上海外国語大学日本語学部の教授をされていた陳生保『中国と日本――言葉・文学・文化』(麗澤大学出版会2005年)の中に、毛沢東の『実践論』の分析があります。
 陳教授が「日本で作られた漢語なしには、中国人の思想を書き表すこともできない」例としてあげている毛沢東の論文「実践論」の中、< >をつけた語彙は日本から中国へ伝わった漢字語です。毛沢東の原文では< >がついていませんが、同じ漢語で中国語を書いています。
========
 マルクス以前の<唯物論>は、人の<社会性>を無視し、人の歴史的発展を無視したもので、認識<問題>を観察した。それがために、認識と<社会>実践との依存<関係>、すなわち、<生産>と<階級><闘争>にたいする認識の依存<関係>を了解することができなかった。
 まず第一に、マルクス<主義>者は、こう思う。人類の<生産活動>は、最も基本的な実践<活動>であり、その他のすべての<活動>を決定するものである。人の認識は主として、<物質>の<生産活動>に依存し、しだいに、<自然>の<現象>・<自然>の性質・自然の法則<性>・人と<自然>との<関係>を了解する、その上、<生産活動>をとおして、各種の、ことなる程度で、しだいに人と人の一定の相互<関係>を認識する。
これらの一切の<知識>は、<生産活動>をはなれては得ることができない。<階級>のない社会では、どの人も<社会>の一員という資格でその他の<社会>のメンバーと協力し、一定の<生産関係>を結び、<生産活動>に従事して人類の<物資>生活の問題を解決する。いろいろな<階級社会>では、各<階級社会>のメンバーは、やはりいろいろ違った方式で一定の<生産関係>を結び、<生産活動>に従事して人類の<物資>生活の<問題>を解決する。これが人の認識発展の基本<的>なみなもとである。
============

 いかがですか。毛沢東も己の思想を著すために、語彙の25%は、日本で創作された漢字語彙を使っているのです。

 私がここで言いたいことは、この語はどっちが本家か、なんていう「本家・元祖・家元」争いではなく、ことばというものは、持ちつ持たれつ、交流しあうなかで語彙をふやしていくものだ、ということです。

<つづく>
05:35 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2009年04月26日


ニーハオ春庭「リーチ一発第三元」
2009/04/26
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(3)リーチ一発第三元

 結婚式に「新郎」と向きあう女性を中国語では「新娘」と呼びます。「娘」というのは、母親の世代の女性を意味しており、「新娘」といえば、これから母親になっていく新しい女性のこと。「我的娘」を日本語に訳すと「私の母」という意味になります。
 「新娘」という古来の中国語があるのに、brideの和製漢語「花嫁」はブライダル産業の発展とともに、中国でもおおいに知られる語彙となりました。
 lost loveの和製翻訳語「失恋」も、中国恋愛事情において、よく見かける語になりました。

 日本へ入ってきた中国語は、時代によって発音が変わっています。飛鳥奈良以前に入って来た発音は呉音といいます。中国の南方の発音に近いです。「行」という字を例にすると、修行(しゅぎょう)、行者(ぎょうじゃ)など、仏教関係の語に呉音「ギョウ」が多く残されています。平安の遣唐使らが伝えた発音を漢音といいます。「旅行」「行動」など、一番多いのが「コウ」と発音される漢音です。鎌倉以後に日本へ入った発音を「唐宋音」と呼びます。これは、熟語の数が少なく、「行灯(あんどん)」「行脚(あんぎゃ)」など、ごく一部です。唐宋音がない漢字がほとんどです。現代中国標準語(普通話)で「行」の発音は「シン」です。
 近世近代以後に、新しく日本へ入ってきた中国語は、できるだけ原音に近く発音されることが多いので、漢字の音読み(呉音・漢音)とはちがう読み方がされています。表記は漢字もありますが、カタカナ表記されることも多い。

 中国語の餃子(ヂャオズ)。
 日本でも餃子という漢字を用いますが、日本での読み方は「ギョウザ」。漢字表記もカタカナ表記もどちらも使われています。

 中国では、ほとんどが水餃子(茹で餃子)であるのに比べ、日本では焼き餃子が、ラーメンと並ぶ「国民食」として普及しました。おいしいギョウザ大好きです。
 (「毒入りギョウザ」のメタミドホス、いやなカタカナ語が耳になじんでしまいましたが、これはまた別のおはなし)

 麻雀マージャンも近代に入った読み方です。「立直」も、音読みのリッチョクではなく「リーチ」という中国発音のまま、日本語になりました。 
 マージャンパイのひとつ、白板(パイパン)。文字や絵が描かれていない白いマージャンパイです。
 白い部分に黒い文字がないところから、現在日本語としては、別の意味が備わり、使われています。別の意味を知りたい方は、ウィキペディア検索をどうぞ。
 黒いモジャモジャがなくて、つるっと白いのがいいという方に好まれるパイパン。

 あ~、私、マージャンはギョウザと同じくらい好きですが、パイパンは、大三元のときくらいしかご縁がなくて、、、、。
 パイパンプレイがお好きな方、「中チュン」や「發ファー(はつ)」とも仲良くしてやってね。3つずつ集めれば、大三元よ!って、ちがうプレイだよね。お好きにどうぞ。

 さて、漢字本家の中国では、外来語をどのように取り入れているのか、次回以降、お伝えします。
 日本で作られた漢字語はすんなり中国へ入りますが、英語など日本語ならカタカナで書いている語を、中国語はどのように書き表し、どのようにして自国語へ取り入れているのか、というテーマです。

<つづく>
03:14 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月27日


ニーハオ春庭「中国語で書く国名人名」
2009/04/27
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(4)中国語で書く国名、人名

 中国語での外来語表記方法のついで。
 中国語の人名地名表記とオノマトペ(擬声語擬音語擬態語)の表記方法について質問をいただきました。掲示板に昨年書いた回答を再録します。
==============
質問です
kotosuzume (2008-06-21 00:55:31)
 今晩は。
 寝て忘れないうちに書き込みします。
 先ほどまで、馴染み連と飲んでいたのですが、そこで、擬音の話題になったのです。
 と言うのも、東南アジア系の店員が居たり、フランス勤務経験者が居たりで、ロシア人の名前を中国ではどの様に文字で書くのだろうか、犬の鳴き声は、中国、東南アジアではどう言うのだろう、時計の音は、電話の呼び出し音は・・と、尽きません。
 そこに春庭さんが居ればなあと思ったしだいです。
 どのように発音し、文字に表すのでしょうか。  古都雀

Re:中国の人名地名表記について回答
haruniwa (2008-06-21 11:10:02)

1)中国語外国の地名人名表記

 1994年に中国に滞在したとき、町のメインストリートは)、「斯大林大路」でした。「スターリン大通り」です。2007年に滞在したときは、自由大路に変わっていました。
 本国ロシアでもそうでしょうが、中国でもスターリンの名を冠した建物や通りの名がめっきり減りました。

 国会図書館で推奨している「中国語での外国人人名表記」の本は
『世界地名人名辞典 : 中日欧対照』竹之内安巳著 国書刊行会 1978 (G64-5)
です。ご参照ください。

 ニュースで見聞きしているロシア人ほか西欧人の名前、中国語表記の一例
 普京プーチン 布什ブッシュ 薩科斉サルコジ 道格拉斯・麥克阿瑟ダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur) 希特拉ヒットラー 本拉登または本拉丹ビンラディン

 地名表記で注意すべきは、日本語で外国地名を漢字表記したものと、中国語表記が異なる場合があることです。

 フランス:日本語漢字表記「仏蘭西」、中国語漢字表記「法蘭西」
 ドイツ:日本語「独逸国」、中国語「徳意志国」など。アメリカは、日本では米国(ベイコク 阿米利加)、中国では美国(メイグォ 亜美利加)です。

 北京オリンピックの入場行進での204の国とオリンピック委員会設置地域の表記をみることができました。
 入場行進の国名プラカードは簡体字表記でしたので、日本の漢字におきかえた国名表記を、春庭掲示板に掲載しておきました。(春庭bbs2008/08/09を2009/04/27に再録)
 中国の漢字表記では国名はこうなるということを、お暇なおりにでも、ながめてくださいませ。

http://page.cafe.ocn.ne.jp/member/userbbs.cgi?ppid=haruniwa&mode=comment&art_no=1030986

<つづく>
06:13 コメント(4) 編集 ページのトップへ
2009年04月28日


ニーハオ春庭「中国語で書くオノマトペ」
2009/04/28
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(5)中国語で書くオノマトペ

 4月18日に、桃の花が咲きだした中を、近所の南湖という人工湖の公園の一部分だけ散歩しました。日本の上野公園とか代々木公園などに比べるととても広いので、湖の周りを一周するのは無理ですが、「やれ、うれしや、今年は春が早い」と思ったのは、気が早かった。先週1週間はまた冬に逆戻り。夜には最低気温が零下にもなりました。しまおうかと思ったコートを羽織っても寒い。夜はヒーターをつけています。

 氷のような冷たい風と、冷たい雨。雨は、気温改善のための人工雨だ、という話も聞きました。農業のために、当地では、雨が必要な時期には飛行機を飛ばして人工雨を降らせることがよく行われるという話です。
 雨は中国語で「雨ユィ」です。「雨が降る」は、「下雨シャァユィ」。発音を聞いていると、シャァユィ、シャァユィ、シャヮシャァと、雨が降る擬音(オノマトペ)のように感じます。
========

投稿者:w*******(2009-04-27 09:49)
雷の音はどのように表現しますか?日本語で「ピカッ!ゴロゴロ!」
水に飛び込む音「ザッブーン」または「ドボン」古池やかわず飛び込む水の音の音「トポン」は?
========
というご質問をいただきました。
 去年、掲示板に記した同様の質問に対する春庭回答を再録して上記のご質問のお答えとさせていただきます。
 日本語は、たいへんオノマトペが豊富な言語です。他の言語で、日本語と同じほどオノマトペの種類が多く、あらゆる現象の音を言語音として表現しているということばは、多くありません。
 英語にも中国語にもオノマトペは存在しますが、翻訳しようとすると、日本語の精密多彩なオノマトペを翻訳することが困難です。

 上記の質問の「サッブーン」「ドボン」なども、的確な中国語をさがすことはむずかしい。似たオノマトペがあるとしても、たとえば、雷鳴の「ゴロゴロ」にあたる音は中国語でも表すことができます。隆隆(longlong)ロンロンというのが、雷鳴のオノマトペです。

 しかし、オノマトペのうち擬態語となると、「ゴロゴロところがる」のと「コロコロところがる」の微妙な違いを、的確に翻訳することは難しい。
 音を聞き分けて「雨がシャーシャー降る」と「ジャージャーと降る」の違いを中国語のオノマトペ(象声詞)で表すことは難しいです。
 
 以下、掲示板に描いた中国語オノマトペの例について回答です。haruniwa (2008-06-21 12:12:3)
中国語オノマトペ(象声詞) 象声词=模拟自然界声音的词。

犬 汪汪(ワンワン)
鳥の一種 啾啾jiujiu(ジュージュー)
雷声 隆隆(longlong)ロンロン [口古]隆(gulong)グーロン
鈴の音 鈴鈴lingling(リンリン)
など。

<つづく>
05:42 コメント(0) 編集 ページのトップへ
2009年04月29日


ニーハオ春庭「中国語の動物鳴き声」
2009/04/29
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(6)オノマトペを書き表す方法

 オノマトペについて回答つづきharuniwa (2008-06-22 21:23:07)
1)オノマトペ(擬態語擬声語擬音語)は、副詞の乏しい日本語にとって、副詞的表現を豊かにするために欠かせない語です。
 多くのオノマトペ研究者が存在しています。

2)鶏の鳴き声、日本語では「コケコッコー」と聞き取っています。しかし、英語では「コッカドゥルドゥルドゥ」と聞いている。人の耳は音の聞き取りも多様ですね。

 セミの鳴き声を聞いたときの脳波。
 日本語母語話者には「ミーン、ミーン」や「ジージー」と、聞こえますが、この鳴き声を「言語野」の脳が受け持って認識します。
 ところが、英語圏など、印欧語母語話者は、セミの鳴き声は、ノイズ(言語音以外の雑音)を認識する分野の脳によって認識するという脳波研究がでています。
 オノマトペが豊富な日本語、きっとさまざまな音を言語野によって認識しているんでしょうね

2)擬声語擬音語
 各国語それぞれに、動物の鳴き声や音をあらわした擬音語が存在します。
 でも、ことばが違えば、聞き取る音も異なります。
 日本で授業をしているとき、春庭のクラスにはさまざまな国の留学生が集まるので、ときどき「この音はどう表現するか」という擬音語擬声語を教えあう時間を作ったりします。
 異文化理解の一環です。
 韓国語、中国語をはじめ、いろんな国の犬や猫の鳴き声の言い方、音の表現が集まって、楽しいですよ。
 いろんな鳴き声のなかで、各国語でこれだけはみな同じ音にきこえる、という鳴き声は、「カッコウ」ですが、中国語でカッコウは「ブーグー」。ちょっとちがいますね。

 以下、中国語(普通話)での鳴き声(簡体字が表示されない漢字を作字してありますが、口偏がついた文字が多いです)
犬 汪汪(ワンワン)
猫 [ロ苗 ロ苗](ミャオミャオ)
牛 [ロ牟 ロ牟] moumou(モウモウ)
羊 [ロ羊 ロ羊] miemie(ミェミェ)
アヒル 呱呱 guagua(グアグア)
蜂 [ロ翁 ロ翁] wengweng(ウェンウェン)
豚 [ロ古]噌 gulu(グールー) 
鳥 啾啾でjiujiu(ジュージュー) [ロ査 ロ査] chacha(チャーチャー)
カッコウ 布谷bugu(ブーグー)
にわとり 雄鶏 [ロ屋 ロ屋] oo(オーオー)雌鳥 咯咯[ロ達](グーグーダー)

 私のオノマトペ対照調査は、各国留学生から聞き取り調査したものです。日本語のオノマトペを授業で紹介するついでに、留学生にオノマトペに興味を持ってもらうために「この音をあなたの国のことばではどう言い表すか」とたずねた「教室活動」の一環ですから、本格的なオノマトペ対照ではありません。
 本格的な研究書として、呉川(日本大学教授)の『オノマトペを中心とした中日対照言語研究 』などがあります。

<つづく>
04:04 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2009年04月30日


ニーハオ春庭「だれが決めるの?外来語表記」
2009/04/30
ニーハオ春庭ニッポニアニッポン語教室>漢字の国のアリス革の宮(7)だれが決めるの?外来語表記

=========
オノマトペ2弾
kotosuzume (2008-06-23 10:59:36 )
 先日の続編です。
 島さんに春庭さんのご解説を紹介すると、「私の興味は、中国で地方の発音が違うのにスターリンとかプーチンとかの中国語表記を誰が決めるのか?ということです。これを中国人に質問して話題にすることがよくあります。動物の鳴き声などの表現方法は、低学年向け教科書や漫画の作者が使った表現が一般化したのかと思っています。」と、まだかかえている物がありそうな口調です。
 確かに、発音が異なる民族が沢山いて、お互い言葉が通じないと言われる大国で、どうやって外国の固有名詞を対応付するのでしょうね。これを考え始めるとまた頭の中がぐるぐるしそうです。ご解説その2、よろしくお願いします。  古都雀
==========
Re:オノマトペ2弾回答
haruniwa (2008-06-23 22:32:26 )
 中国では、ひとつの漢字に、標準語(北京官話=マンダリン)の発音は一つだけです。
 しかし、地方では方言の差がおおきく、名前などでも、南方で「陳=チェン」さんだった人が、北京の大学に入ったときは、「陳=チン」さんと呼ばれます。
 地名では、広東地方の「広東」を例にとると、広東地方では「Gwong・dung」という発音ですが、北京語では「Guǎngdōng」になります。

 外国人の人名は、最初は文字がないのですから、発音が優先されます。
 国営新聞社である「新華社」などが、もっとも早く、報道などで人名表記をするので、おおよそは新華社報道の表記が優先的に広まります。
 しかし、古い人名表記などでは、そのような中央優先ではなかったので、スターリンの表記も)、「斯大林」、「史達林」の2種類(ほかにもあるでしょう)が流通しました。

========
Re:オノマトペ2弾
kotosuzume (2008-06-24 23:32:12)
早いもの勝ちですかね。それにしても、やはり言葉は心の組立て材料でしょうから、この材料選び、組み合せの妙というな詩情を感じますね。面白いものです。
時間を見つけて、ご案内の記事を読んでみます。ありがとうございました。 当の社長が言っていました。「これを追及すると一冊の本が出来るねえ」って。酒席の雑談に花が咲き、実が生った気がします。 古都雀
===========

 以上、掲示板での「中国語の外国人名表記オノマトペ表記」についての質問と回答、再録でした。古都雀さん、ひでさん、ご質問をよせていただき、ありがとうございました。あちゃさんからの「日本の地名は自然の状態を表していることが多いですが、中国はどうですか」という質問にはのちほどお答えします。

<おわり>


語彙をふやそう2008年4月

2011-07-17 08:02:00 | 日本語学
2008/03/26 
ぽかぽか春庭・ことばの知恵の輪>毎日であう新しいことば(1)浦じまい

 新聞では、常用漢字外の漢字の場合、ルビがふられています。
 それで、読めない漢字には出会うことが少ないけれど、たまに漢字クイズ番組などで「この字、読めない、こんな熟語はじめて見た」という言葉に、まだまだ出会います。

 2月のテレビ番組の「漢字クイズ」では「沙蚕」を「ごかい」と読むのだと知りました。
 釣りの餌のゴカイ。ちゃんと漢字変換で出てくるのに、釣りをしないし、使ったことがなかった。

 金田一秀穂教授が読めなかった「雲梯うんてい」を、私も子供たちも伊集院光も読めたので、子供たちと「金田一先生、きっと校庭のうんていで遊んだことなかったんだね」と、言い合いました。

 もっとも私が子供のころあの遊具を「ウンテ」と呼んでいました。
 横に渡した梯子の横棒を手でつかんで移動していったので、ウンウンと手に力を込める「ウン手」と思いこんでいました。
 雲のはしご、雲梯であることを知ったのは大人になってからです。

 「家業が国語学」の家に育ち、京介、春彦に続く日本語学三代目の金田一秀穂先生でも、読めない漢字があるみたいですから、春庭、まだまだ知らないことばに出会うチャンスがあるってことでしょう。

 和語で新しいことばに出会うのは、方言だったり、専門用語だったり、古語だったり。一般には使われていないことばが多い。
 2008年2月に新しく知った、いくつかの和語。
 たとえば、ニュースで知った「浦じまい」

 「浦じまい」は、「清徳丸捜索打ち切り」で、行われた勝浦漁民の儀式がニュースとなり、はじめて知りました。

 イージス艦あたごと漁船清徳丸衝突事故のあと、勝浦の浜の人々が、海の無事を祈る儀式を行い、つぎに清徳丸家族の申し出によって、漁船群による捜索打ち切りの儀式が行われました。
 この儀式を「浦じまい」と呼ぶのだと、ニュースではじめて聞いたのです。

 「浦じまい」、悲しく厳粛な儀式を、ニュースが映し出していました。
 清徳丸の親子が無事であることを祈りつつ、浜の人々は心を残しながらも、魚をとる日常のなかに戻らねばならない、悲痛な儀式でした。

 2008/03/24付け朝日歌壇入選作
凪の海へ名を叫びつつ酒を振る<浦じまい>とう儀式せつなし(巻桔梗)
先人の哀しき知恵か浦仕舞怒り諦め祈りにつつみ(稲葉みよ子)

 この事件で、多くの人が「浦じまい」ということばをはじめて知ったと思います。
 そのひとつをご紹介します。chiyoisozakiさんのエッセイです。
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/chiyoisozaki/diary/200802#28

<つづく>



00:15 コメント(6) 編集 ページのトップへ
2008年03月27日


ぽかぽか春庭「今月の新カタカナ語・レトロポゾン&エッジワースカイパーベルト」
2008/03/27 
ぽかぽか春庭・ことばの知恵の輪>毎日であう新しいことば(2)今月の新カタカナ語・レトロポゾン&エッジワースカイパーベルト

 日本語教師修行、ことばの仕入れとして、毎日、新聞は第一面から最終面(テレビ欄)まで、全紙面を読みます。全紙面といっても、株式欄は見出しだけ、数字は見ない。スポーツ欄は気になった記事だけ読みあとは見出しだけ。
 広告欄も求人欄も見渡します。

 カタカナ語だと、1週間にひとつは新しい語に出くわす。ときには、一日に数語も。
 1月2月に連載した、「カタカナ語」の番外編として、2月3月に出会った新しいカタカナ語を紹介します。

①エッジワースカイパーベルト」

 2008/02/28の新聞で知ったことば。
 「イージス艦あたご漁船衝突事件で、防衛省事務次官が謝罪会見を行い、あたご艦長が、沈没漁船「清徳丸」親子の家族に謝罪した、という記事が一面トップの新聞にあった。
 その記事の下に、新鮮に見えたカタカナ語がありました。
 「エッジワース・カイパーベルト=太陽系外縁部にある氷の小天体群の帯」。

 太陽系9番目の新惑星が「計算上は存在する」という記事の中でした。
 天文オタクには周知の語だったでしょうけれど、私はそんなベルト、知らなかった。

 一回配達される新聞のなかに、どっと知らない単語を発見する日もあります。
 2008/03/24の新聞で知った「レトロポゾン」「テラヘルツ波」「ALA(5アミノレブリン酸)」

②レトロポゾン
 ヒトの遺伝子(DNA)数は2万~2万7千個であるという。多くは、人の体の根本であるタンパク質の設計図となる遺伝子。
 
 タンパク質をつくる設計図とは無関係なDNAは、「がらくた」としてひとくくりにされてきた。
 はたらきが分からず、がらくた扱いされてきたDNAのうちのひとつ「レトロポゾン」の役割がわかった。
 がらくたどころか、脳の進化に関わる重要な役割をはたしてきたのが、レトロポゾンだった。

 レトロポゾンは、約2億年前からほ乳類の脳の進化に関わってきたと見られ、現在では胎児期に特定の遺伝子にスイッチを入れる役割を果たしている。

 へぇ!
 「がらくた」と呼ばれていても、それは決して役立たずだから「がらくた」なのではない。ただ、今のところは全体の中での働きがわかっていないだけ。

 こんな語を知るとうれしくなる。きっちりと設計図のとおりに働き、きちんと役割がわかっているものだけが働きものってわけじゃない。

 「がらくた」に見えたり「役立たず」に見えたりしているものも、必ず全体のなかで必要とされるからそこにいる。そこにある。

<つづく>


02:24 コメント(5) 編集 ページのトップへ
2008年03月28日


ぽかぽか春庭「今月の新カタカナ語テラヘルツ波&5アミノレブリン酸」
2008/03/28 
ぽかぽか春庭・ことばの知恵の輪>毎日であう新しいことば(3)今月の新カタカナ語テラヘルツ波&5アミノレブリン酸

 2008/03/24の新聞で知った新しいことば紹介つづき。「テラヘルツ波」「ALA(5アミノレブリン酸」

③テラヘルツ波

 電磁波は目に見えなくても、大きな役割を果たすことが明らかになっています。
 一番わかりやすい電磁波活用の例が、電磁波調理器「電子レンジ」。火も電熱コイルも見えないのに、電磁波がモノを加熱する。

 電子レンジが利用する電磁波は、周波数2.45GHz(ギガヘルツ)のマイクロ波=マイクロウェイブ。 電子レンジの英語名はそのまんま、microwave oven マイクロウェイブオーブン。

 この周波数は、無線LANなどでも利用されている特別な周波数であり、電子レンジを動作させると、無線LANや、アマチュア無線などに影響を与える場合もある。
 ケータイやパソコンも電磁波を利用する。

テラヘルツ波という電磁波は、周波数1 THz (波長300 μm) 前後の電磁波を指します。
 光波と電波の中間領域に当たり、光学測定系の構築が可能と言う特長を持つ。そのため、文化財などを破壊することなく、内部を調べることができます。

 これまで日常生活では「キロ」くらいの単位を知っていれば、生活に不自由なかったけれど、パソコンメモリーが日常生活に入って以来、キロ(K)バイト、メガ(M)バイト、ギガ(G)バイト、テラ(T)バイトなどの莫大な単位を使うようになりました。
 ギガはメガの約千倍。ギガの約千倍がテラ。テラの約千倍がペタ。

 波長に関していうと、電子レンジのギガ・ヘルツとテラヘルツ波のテラ・ヘルツでは、1秒間の振動数が千倍違い、波長の長さが千倍違う。
 ああ、こんな単位の話も、パソコンや電子レンジを知るまでは縁遠かった。

 ちなみに、1秒間に1回振動するのが1ヘルツ。
 NHK第一ラジオ放送の電波は、594Kヘルツ。これは1秒間に594000回振動する波を利用しているということ。

 脳波のうち、アルファ波 α(アルファ)は、8~13Hz(1秒間に10回程度振動する)。β(ベータ)波は14~30Hz。ガンマ波 γ(ガンマ)は30~64Hz。
 ゆっくりした振動のアルファ波がでているときは、脳がリラックスしています。

 「へぇ!テラヘルツ波ね」と思ったときは脳が活動したので、1秒間に50回くらい振動したはず。しっかり覚えたか、「テラヘルツ波とはなんぞや」を。

 しかるに、テラヘルツは1秒間に1000000000000000回振動する短い短い波長の波。
 私の脳波との相性でいうと、覚えたと思っても脳をすり抜けていく波長かもしれませんが、、、、

 光も音も波です。
 女性の平均的な声は、1秒間に約300回空気を振動させます。波長は約1mなので、人の声は、1秒間に300mほど先まで進んでいきます。

 音がどれくらい進むかという問題は、中学校の理科の時間に雷の光と音の関係を教わって、雷が光ってから4秒後にごろごろという音が聞こえてきたときは、音は1秒間に340m進むから、340×4=1360m以上遠くに雷のもとがあるから、大丈夫、ってな計算をさせられました。

 光や音は、知覚できるので、それほど不安に思いません。しかし、目に見えないものに対して、人は不安になります。

 目に見えなくて不安になるのをいいことに、「電磁波健康被害」や「電磁波犯罪」などと、人の不安をかき立てて、なにやら儲け話につなげようとするおかしな連中も出てくる。
 まずは、知ること。電磁波とは何なのか、きちんと知れば目に見えなくても不安がることはありません。

 電磁波のひとつ、テラヘルツ波を知ったことで、波のいろいろ、光波、音波、ラジオ周波数、電子レンジなどいろんな波について、復習できました。
 理数系に弱い私としては、ひさしぶりに脳波が振動したかんじ。


④ALA(5アミノレブリン酸)コスモ石油の企業広告より

 アミノ酸とは、一般的な意味としては(特に生化学の分野などでは)、生体のタンパク質の構成ユニットとなる「α-アミノ酸」を指します。栄養学では、動物の体内でつくりだされず、栄養として補うアミノ酸を「必須アミノ酸」と呼んでいます。

 5アミノレブリン酸は、36億年前に地球上に表れました。植物の葉緑素、動物の血液を作り出す物質のひとつです。
 植物の生長を促進し、条件の悪い環境に耐える力を育てるアミノ酸のひとつが5アミノレブリン酸。商品名ALA。
 たとえば、塩分の強い土壌であっても、このALAが塩に耐えて生長する力を作り出します。

 コスモ石油の広告によれば、この5アミノレブリン酸を作り出す微生物を利用して、大量に安価にALAを作れるようになったので、沙漠の緑化に役立つそうです。

 中国黄土地帯で、西北農林科学大学がALA利用の緑化計画を始めているという広告を読んで、「ああ、緑が根付けば、黄砂の飛来も減るだろう」と思いました。

 同時に、昨2007年、私が教えたクラスで最年長(35歳)だった教え子、チァン紅さんを思い出しました。(国費留学生の年齢制限は35歳までなので、35歳が一番年上になる)
 チァン紅さんは、西北農林科学大学で、バイオテクノロジーの研究をしていた女性研究者です。

 年齢が高くなるにつれ、新しい言語を覚えることが難しい。紅さんも日本語の習得に苦戦していました。
 でも、なかなか上達しない日本語をやりくりして、なんとか自分の専門について日本語で説明しようとしていました。
 専門を語るときの目の輝きは、ほんとうに「くれない」の情熱に燃えていました。
 紅さん、研究がんばってね。 

⑤コーチングやカウンセリング用語の「ストレスコーピング」「コーピングスキル」
 ストレス対処法、問題解決手法をいう。
 Copingという言葉も今月初めて知りました。

 レトロポゾン、テラヘルツ、5アミノレブリン酸。コーピング。
 専門的にこれらの語を用いている人にとってはなじみの語なのでしょうが、私には、今年になって、はじめて見かけた語でした。
 さて、脳の中に定着するやいなや。カタカナ語。

<つづく>

05:42 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2008年03月29日


ぽかぽか春庭「しっくい引き物」
2008/03/29 
ことばの知恵の輪>毎日であう新しいことば(3)しっくい引き物

 私の父方の祖父は「鳶の頭」でした。
 父方親族の多くが、建築関係の仕事をしています。
 叔父が祖父から引き継いだ「○○建設」は、田舎の小さな建設会社ですが、叔父も10余年前に亡くなり、今は父方の従弟が経営しています。

 叔父の望み通り、大学の建築科を出た従弟は、なかなか野心的に会社を大きくしていっているようですが、私には、親戚一同が鳶、左官、大工などの仕事を分担しつつ一軒の家を建てていく親方子方の昔がなつかしい。

 親戚のひとり、父の妹のご亭主は、左官さんで、去年2007年に亡くなりました。
 顔がとても大きくて四角いので、みなが「カクさん」と呼ぶのかと、子供の頃の私は思いこんでいたのですが、名前が「角元カクモト」さんでした。
 職人気質というものを、このカクさんや他の左官さん大工さんたちに教えてもらいました。

 カクさんは、左官職人であることに誇りをもっていて、法事のあつまりで顔を合わせたときなど、仕事の話をしてくれました。
 「今は新しい建築素材ばかりになって、左官のほんとうの腕をみせることがなくなってしまい寂しいよ。
 たまに、真壁(しんかべ)を塗ってくれって頼まれると、とても手間賃にはみあわないけれど、何日も腕をふるってしまう」
と、杯を片手に話していました。

 真壁(しんかべ)は、荒壁(あらかべ)→乾燥→大直し→乾燥→中塗り→乾燥→上塗りと仕上げていき、とても手間がかかります。
 荒壁は、シュロ縄で編んだ竹の網に、藁を混ぜた赤土を両面から塗りつける。この壁下地が乾くまでじっと待ちます。

 大直しと中塗りの材料(土壁)は、土、砂、すさ、を混ぜて作りますが、その都度配合を変えます。(すさ=壁の亀裂防止のため使用する繊維質の材料。藁の葉、茎、穂の部分)
 この配合の妙は、長年の修行と左官の勘によります。左官の腕のみせどころ。
 現代では、土に限らずモルタルやそれ以外の材料を使用することもあります。

 中塗りの後、屋外は外壁用上塗り材の砂壁、漆喰など。屋内は内壁用上塗り材の、漆喰、珪藻土、聚楽壁(じゅらくかべ)などで仕上げます。

 聚楽壁は、和風建築の代表的な塗り壁の一つ。安土桃山時代に完成した聚楽第(じゅらくだい)の跡地付近から出た土で作られたことから、この名がつきました。茶褐色の土を混ぜ、茶室などに広く用いられてきましたが、最近は「聚楽壁風の新しい壁」も、このように呼ばれることがあります。

 壁塗りひとつをとっても、ほんとうにいろいろな専門用語があります。
 しっくい引き物は、天井や梁の部分の仕上げなどに用いられる技法です。

 「漆喰引き物」は、建築関係のお仕事をなさっている方が写した、「関西の近代建築」シリーズの建物写真の解説のなかにありました。
 漆喰天井と壁の間に、この「漆喰引き物」の左官の技が使われていました。

 この漆喰引き物を仕上げた左官の名、調べれば分かることなのかも知れませんが、一般の人がこの建物を見たときにその名を知ることはありません。
 無名の左官の技が、美しい建物の内部を引き締めています。

 ひとつのものを作り上げるとき、表舞台にたち名を残す設計士だけでなく、多くの職人の確かなワザが、できあがりのすばらしさを支えていることを「漆喰引き物」の語で思い出しました。

 私の趣味のひとつは、さまざまな建築を見ること。
 できあがった建築の、形や姿の美しさばかりに気をとられてしまう私の見方ですが、「しっくい引き物」ということばを見かけて、おのれの仕事に誇りをかけて取り組んでいた職人さんたちを思い出すことができました。
 左官さん大工さんの技術のひとつひとつに、長年の修練と、仕事への情熱があるのです。

 無名のままの人生のなかで、しっかりと自分の仕事を誇りをもって仕上げていった職人たちの矜持を、見習いたいと思います。

<おわり>


検索スキル

2011-07-14 06:05:00 | 日本語言語文化
2008/05/18
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(1)検索くん

 夢にむかって、虹の架け橋を渡っていくにも、毎日毎日、一歩一歩足を運ばなければなりません。
 ことば修行の架け橋は、日々の地道な探求によっています。

 商売柄、国語、漢和、古語、類語、外来語、英和・和英、独和、仏和、日中などの事典をパソコンの上に並べてあります。
 ほかに、歴史事典、色名事典、植物図鑑、鳥図鑑、コンパクト六法など。

 何を書くにも、「ウラをとる」のは、日本語教師も、事件記事のウラをとる新聞記者と同じ。
 自分の思いこみが間違っていることもあるからです。
 ことばのチェックには、辞書が欠かせません。

 辞書をひいたり、ときにはまるごと一冊辞書をを読んだりするのが好きですが、百科事典の利用は、昔に比べて減りました。
 それから、『知恵蔵』『イミダス』のたぐいも。この2冊は紙での出版中止。ウェブのみになりました。

 さもあろう。最近は、たいていのことは、パソコンの検索で調べがつくようになっています。
 グーグルでもウィキペディアでも、「ひとつの記述を丸ごと信じたりしない。必ず、複数の記述をみる」ということを肝に銘じておくことは必要ですが、手っ取り早く調べるには、あちこち何冊もの辞典類をひっくり返すよりもずっと便利。
 検索が好きでよく利用するし、「検索名人」と人に言われて得意になっています。

 「私のブログのURLは秘密」と、教えてくれなかった日本語教育の若い同僚がいました。でも、彼女が書きそうなキーワードを三つ推察し、3語をアンド検索したら、ぴったりHPに行き着きました。
 早速ブログにコメントを書き込みました。「かくれんぼしても、見~っけっ」と。

 ふっふっふ、私に秘密にしようなんて、百年早いっツーの。だいたい、人に読まれるのがいやなら、ブログに書くなって。お仲間だけでやり取りしたいなら、mixiとかのSNWをやって、「友達にだけ公開する設定」にするのがよい。

 と、言っても、私も日本語関係の知りあいには自分のサイトを秘密にしているのだけれど。
 誤変換やら駄文ばかりのサイトみられたら、「よくもこんなことで日本語学おしえてるね」と言われるのがオチ。

 ウェブ友とオフ会をして顔を知ったのではなく、もともと私を知っていた人のなかで、サイトを読んだひとは今のところふたりだけ。

 中国での同僚のうち、大阪から派遣されてきた人は、日本に帰ればいっしょの職場になることはないと思ってHPのURLを告げました。
 URLを知らせても、たいていの人は他人の書く文章などに興味はないので、読みはしません。

 万が一読まれたとき、「あの人の書いてることなんて、こんな程度だ、たいしたことない」と思われる程度のことしか書いていませんから、そんなこんなで、めったにヒトサマにURLを教えません。
 それでいて、ワカゾーのサイトには押し掛けていって、コメント残してくる、いやみなバーさんです、私。

 仕事の本同僚や友人からのメールで、「博学」と言われたので恐縮しています。
=============
(元同僚から)
先生のブログを拝見しました。毎日更新してらっしゃるようですが、あのアイディアと題材はどこからやって来るのですか?
それにしても先生の博学多識ぶりには驚嘆します!(Sun, 23 Mar 2008 17:43:55 )

(友人K子さんから)
いつも昼休みにHP等を拝見させていただいております。
本当に博学且つエネルギッシュで、同じ人類(?)でありながらこうも違うものかとわが身を反省しています(2008 03/28 22:34)
==============

 博学とか博覧強記というのは、南方熊楠みたいな人にこそ使うべきで、私は少しも博学なんかじゃありません。
 ウンチク好き、蘊蓄語りが好きなヤツに対しては、とりあえずハクガクと煽てておけばいいだろうってことで、友人は「博学」ということばを使っているのですが、私は博学ではなく、たぶん、検索上手なんだろうと思います。

<つづく>
08:57 コメント(1) 編集 ページのトップへ
2008年05月19日


ぽかぽか春庭「つちふる」
2008/05/19
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(2)つちふる

 最近のお楽しみのひとつ。わからないことがあったら、徹底的に検索ケンサク。
 たいていのことは調べがつきます。

 3月31日の新聞、読めない漢字がありました。「霾」
 ドット数節約で、ネットでは省略文字しか出ませんが、雨冠の下左は、「豹ひょう」や「貂てん」の左側と同じムジナヘンの「豸」で、下右側は「里」です。

 朝日新聞朝刊「俳壇」のコーナーにあった漢字です。
 音読みはすぐわかりました。「霾天(ばいてん)のアルプス晩景なせりけり(平出和衛)」
 こちらの句には、ひらがながふってある。私も、歳時記で見たことがある。

 しかし、中国在住の人の句「霾や店主イスラム教と云ふ(中村昭義)」にはふりがながありません。
 文字数からいったら、上5句ですから、「○○○○や」で、ひらがな四文字のはず。さて、なんと読むのだろう。
 俳人なら、ふりがななしでも読める字なのでしょうが、たまに季語を引く程度の私には読めませんでした。

 漢和辞典の「バイ」から「霾」をさがし、訓読みがわかりました。訓読みは「つちふる」でした。
 「つちふる」も音読みの「霾天ばいてん」も、私の持っている旧版広辞苑にはない言葉。
 大修館現代漢和には「つちふる。砂埃。突風が土砂を巻き上げて降らせる。また、そのために空が曇る」と説明があります。

 雨冠の下は埋と書く異体字もありました。
 「霾」とは、中国大陸で、地上のものが埋まるほど、土が雨のように降る気象現象を指しました。
 中国大陸に降る土砂が、上昇気流にのって日本まで来たものを、「黄砂」と呼びます。
 黄砂でくもった空が「霾天」で、春の季語。

「霾天や小さく古き一城市(遠藤梧逸)」
「霾天に面を包みうつくしき(田村了咲)」
「霾の中礫のごとき雨交り(林周平)」

 私が持っている角川歳時記に、ちゃんと「霾つちふる」と、読み方が書いてありました。
 これまで「春塵」という季語ばかり使ってきて、漢語っぽい「霾天」を使ったことがなかったので、「霾つちふる」がまったく目に入っていませんでした。

 辞書では、ここまでわかりました。これ以後は、ネット検索です。

 「霾天」「霾つちふる」は、江戸俳諧の季語にはありませんでした。
 明治以後、森鴎外や夏目漱石など、漢詩に造詣の深い人々が、俳句の作者でもあったことから、春塵、春埃と同じ意味で、「霾風」「霾天」が用いられるようになりました。
 大正末年の歳時記から春の季語として採用されています。

 「霾天」という語、どんな用例があるのか、ネットで検索したら、中国最古の詩歌集「詩経」(詩經 国風 邶風)に出ている、とわかりました。

 「終風」と題した詩の二句めに「終風且霾」と書かれている。

終風且暴 顧我則笑 謔浪笑敖 中心是悼
終風且霾 惠然肯來 莫往莫來 悠悠我思
終風且曀 不日有曀 寤言不寐 願言則嚏
曀曀其陰 虺虺其雷 寤言不寐 願言則懷

 この詩の解説は以下のとおり。
===========
「終風且霾<與理同>、惠然肯來。莫往莫來、悠悠我思。比也。霾、雨土蒙霧也。惠、順也。悠悠、思之長也。
○終風且霾、以比莊公之狂惑也。雖云狂惑、然亦或惠然而肯來。但又有莫往莫來之時、則使我悠悠而思之。望其君子之深、厚之至也。
【読み】
○終風且つ霾[つちふ]<理と同じ>る、惠然として來り肯ず。往くも莫く來るも莫く、悠悠として我れ思う。比なり。霾は、土を雨[ふ]らして蒙霧なり。惠は、順うなり。悠悠は、思うことの長きなり。
○終風且つ霾るとは、以て莊公の狂惑に比すなり。狂惑と云うと雖も、然れども亦或は惠然として肯えて來る。但又往くも莫く來るも莫きの時有れば、則ち我をして悠悠として之を思わしむ。其の君子を望むことの深き、厚きの至りなり。
============

 ハァ、解説を読んでもますますわからないのだけれど、一日中、強い土ぼこりが降る日の情景なのだろうなあと思って読めない字面を眺めました。
 「曀曀其陰 虺虺其雷 寤言不寐 願言則懷」の、「曀曀」って何?どう読むの?「虺虺」ってなんのこっちゃ。
 
 検索をしたために、ますますわからないことが増えてしまいました。

<つづく>
06:12 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2008年05月20日


ぽかぽか春庭「桜木の家」
2008/05/20
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(3)桜木の家

 ネットのアンド検索とは、うろ覚え事典と言ってもいい。
 たとえば、「樋口一葉が幼少期に住んでいた家」の、となりにあったお寺の名前を思い出せないとする。

 一葉はその家を「桜木の家」と呼んでいた、ということは覚えているし、東大赤門の前にあった、ということも覚えている。
 一葉、桜木の家、東大赤門、これを並べて検索を掛ければ、お寺の名前は「法真寺」と見つかります。

 アインシュタインは、学校の勉強が暗記中心主義だったことに反発して「本を調べれば書いてあることを、いちいち丸暗記しなくてもよい」と言いました。

 ほんとに、この検索機能をつかえば、何もかも丸暗記しなくたって、ウロ覚えの数語があれば、たいていのことは調べがつくのです。
 便利な時代になりました。

 昨年のこと。
 yokochannさんの日記を読んでいたら、「死」と題したコラムに映画の話が出てきました。(2007/10/02)

 『 昔、こんな映画があった。青年と言うにはまだ早いティーンエイジャーの男の子。趣味は墓場の散歩で、人生は厭世観でイッパイ。所詮 人は死ぬ そんな気分で毎日を送っているのだが ある日その墓場で 一人の初老の女性と出会う。で 彼は すっかり変わるのだが・・・』

 yokochannさんの日記にあるのはこれだけで、映画のタイトルも主人公の名前も書いてありません。

 うん、私も昔、こんな内容の映画を見たことあるなあ、なんて言うタイトルだったっけなあ、主人公の名前も思い出せない。

 主人公もタイトルもわからず、今回は検索に失敗してしまったのです。
 私が気になったのは、yokochann「戯言」コラムにあった「青年が一人の初老の女性と出会う」というところ。
 私の記憶では、ティーンエイジャーの男の子と出会う女性は80代なのです。ユダヤ人収容所に入っていたつらい記憶を持つ女性だったと思います。

 初老というと昔なら40,代50代。「後期高齢者制度」がはじまった現代でも、60代をいう感じ。80歳では初老とは言えないだろうと思うので、私が見たのとyokochannが見たのが同じ映画だったのかどうか、検索してみようと思いました。

 初老だったのか、それとも80歳だったのか、気になって、映画のタイトルを思い出そうとしましたが、寄る年波、さっぱり思い出せません。私もすでに初老の域ををすぎ、本格的に「物忘れ」世代になったらしい。

苦心惨憺でやっとタイトルが見つかりました。

<つづく>
05:35 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2008年05月21日


ぽかぽか春庭「ハロルドとモード」
2008/05/21
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(4)ハロルドとモード

 こんなとき役にたつのが、ネット検索機能。当該の語句を思い出せなくても、その周辺の覚えていることを並べてアンド検索すると、たいていのことはひっかかって出てくる。

 ところが、この青年と老女が出会う映画、うろ覚えの言葉さえ出てこない。主人公の名前はたしかモーゼと言ったように記憶する。しかし、青年の名が思い出せない。
 モーゼをキーワードにして、いくつかのアンド検索をかけてもわからない。

 「青年と老女の恋 モーゼ」「80代 老女 青年 恋愛」「モーゼ 墓場 青年」映画のいくつかのシーンを思い出しながら、いろんなパターンを組み合わせて入れてみました。
 出てきません。

 今回ばかりはあきらめて、「昔、自分が見た映画のはず」という記憶から、調べました。
 ありました!2003年、「老いをむかえる心の冬支度」について書いていた「おい老い笈の小文」のシリーズ。

 2003/11/05のコラムに『ハロルドとモード・少年は虹を渡る』の文字が書かれていました。
 そうか、主人公の女性はモーゼじゃなくて、モードだったのね。相手の青年の名はハロルド。

 主人公のモードは、yokochannさんが覚えていた「初老の女性」でもなく、私が覚えていた「80代の女性」でもなく、「もうすぐ80歳の誕生日を迎えようとしている、すなわち79歳の女性」、でした。

 そっか、「現代では70代を初老、80代90代を中老、100以上を大老という」というふうに考えれば、79歳のモードは初老でいいのかも知れない。

 「40、50はハナ垂れ小僧、60壮年、70初老」。
 「後期高齢者」という75歳以上をさす用語が気に入らない、という方もいらっしゃり、「老」という文字そのものが嫌いという方もいる現代です。

 漢字のもともとの「老」は、「腰を曲げて杖をついて歩く人」という象形文字からできています。
 「老」は、経験を積み、物事を深く理解している人への敬称でもありました。
 黄門様の呼び名、「水戸の御老公」の「老公」は、敬意を込めた呼び名です。

 また、江戸幕府の大臣にあたる「老中」とは、年功序列で年取ってからなるものではなく、経験と知識が豊かな人材であれば、若くしてなることもありました。「老」は、単に年取っているという意味ではなく、「経験と知識が豊富でみなのリーダーになれる人」という意味だからです。

 大奥の役職「老女」も同じ。本丸老女は、老中と対等の地位を持っていました。
 (大奥について、いろいろな本が出ていますが、新しいところでは、山本博文『大奥学事始め・女のネットワークと力』NHK出版2008年2月発行、が、とても面白かった)

 現代のように「老」を嫌う風潮は、高度成長期以後の日本だけのこと。「老」に尊敬の念を呼び戻してほしいです。

 私は、野上弥生子(1885~ 1985 99歳)、宇野千代(1897~1996 98歳)石井桃子(1907~2008 101歳)にあやかりたい。「大老」をめざします。

 次回は『ハロルドとモード少年は虹を渡る』のあらすじから。

<つづく>
02:11 コメント(3) 編集 ページのトップへ
2008年05月22日


ぽかぽか春庭「少年は虹をわたる」
2008/05/22
ぽかぽか春庭ことばのYa!ちまた>検索は虹を渡る(5)少年は虹を渡る

 世間で、老女と青年の結婚が話題になることはありますが、ほとんどの場合、金持ちの老女と貧しい美青年の組合わせ。多くは、遺産目当てと推測されるケース。
 青年は、世間からの「遺産目当て」との非難に耐えつつ、遺産相続の日まで待ちます。まあ、10年くらい待つうちには、なんとかなるでしょう。

 「ハロルドとモード」で、世間は、「老女が青年の財産目当てに惑わしたのだ」と、非難します。

 ハロルドはモードのために、80歳の誕生日を祝います。ふたりきりで、心ふれあう時間をすごし、その翌朝に、、、、

 貧しく苦しい人生なのに心豊かに生きてきたモードと、金持ち坊ちゃんなのに生きる気力を失い人生を投げてきたハロルドの恋物語。

 私も、同じ年を取るのなら、ハロルドに結婚を申し込まれるような、魅力的な80歳になりたい。

 さて、モードのように、60歳年下の子から結婚申し込まれるということになると、私の未来の恋人はまだ生まれていないんですね。

 ま、年齢は60歳年下とかじゃなくても、結構です。
 資産100億円以上の方でしたら、体重、歯のあるなし髪の毛の有無、いっさい関係なく申し込むことができます。お気兼ねご遠慮なさらずに。
年齢制限はありませんので、どなたでも結婚お申し込みください。求婚ありしだい、今の「ショーモナシ夫」とは離婚しますから。

 と、100億円長者からの求婚を待っているけれど、聞こえてくるのは「母よ、いいかげんに換気扇のアナをふさいで!」という娘息子の苦情。

 壊れた換気扇をとりはずしたあとの四角い穴を、ビニール袋でふさいでから早3年。すきま風は、容赦なく入ってまいります。
 80歳までに、換気扇を買って壁の穴をふさぐことができるのかどうか、、、、。
 もうちょっと生きて見ます。

  まだ、再婚相手(予定)に巡り会っていないのは残念なことですが、社会のなかで、さまざまな出会いをつなげて今日まで生きてきた春庭です。
 雨上がりの青空にかかる虹を、何時の日か60歳年下のハロルドと眺める日がくるのを夢見つつ、今日はパソコン相手に、検索、検索、、、、。

<おわり>