MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

「当たり前」に追われながら「当たり前」を創り出す

2017-03-16 | 雑記
『GM(ゼネラル・モーターズ) 巨大企業の経営戦略』という本を読みました。(山崎清著、中公新書)
前回の記事と同じ、自動車つながりです。
20世紀初頭からの自動車産業の歴史を、GMを中心に解説しています。

一つ面白かったのが、GMの戦略とクライスラーの戦略の好対照。
両社は、製造業の二つの普遍的な勝ちパターンを示していると思います。

GM=「売る」ことのイノベーションで勝負:
・買収による商品ポートフォリオ拡大(当時の群小自動車会社を次々買い、それを商品ラインとしてそのまま使う)
・販売金融やディーラーの整備と規模の経済の追求
・その起点は、馬車事業で起業して成功し資産を築いた投資家としての視点、創業者ウィリアム(ビル)・デュラント

クライスラー=「作る」ことのイノベーションで勝負:
・工場生産性の最大化
・それによるコストダウンと価格破壊
・その起点は、ビジネスを科学的に捉える科学者としての視点、創業者ヘンリー・フォード

まあこの違い自体は、自動車業界の人にはただの常識かもしれませんが。

一方で、現在と当時を比べると、大きな違いがあります。

今:
・自動車会社は大企業の代表で、顔ぶれも固定
・どこの会社も似たような組織構造で、どこで車を買うにもプロセスは大同小異

100年前:
・自動車は全く新しい発明で、有象無象のベンチャーが滅茶苦茶に競争
・どこが勝ち組か、業界がどの位成長するかも不透明でやり方も千差万別

この違いを考えると、フォードやデュラントら企業家の活躍が、数十年かけてスタンダードを創り出したように思います。
このような、世界規模で「当たり前」を作る、または変える社会変革が、そして個人がそこに足跡を残すことが、技術革新のスピードアップで20世紀前後から可能になっていると思います。
もっと昔であれば、個人の名前で分かる業績はほとんどなく、また変化は数百年かけて起きていたものなので。

これは大きなチャンスも意味しますが、同時に人生がますます慌ただしくなることも意味すると思います。
新しい「当たり前」が年単位で次々に生まれ、「これが新しいスタンダードだ」と新しい正当性を次々に主張する。
人も組織も、自分の頭で考えているつもりでも、いつしかその新陳代謝に追われる。
外から来る正義や「当たり前」に埋め込まれ、他人が作った正当性や規準に追われる。

そうした中で、どうやって冷静な視点を保ち、また自らも逆に新しい「当たり前」を創造して世界に価値を生めるか。
現代の企業家には、そのような資質が求められるように思います。


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