志情(しなさき)の海へ

かなたとこなた、どこにいてもつながりあう21世紀!世界は劇場、この島も心も劇場!貴方も私も劇場の主人公!

池上永一『テンペスト』をめぐってーー琉球史研究応用特論クラス

2010-11-11 21:23:38 | 表象文化/表象文化研究会
琉球史のテーマで修論に取り組んでいる松川莉奈さんがとてもいい報告をした。修士の学生たちにいつも関心している。学部時代から卒論を通してよく鍛えられている。彼女が発表のために用意した資料は新聞のコピー資料も含めてA4用紙の12枚に及ぶ。凄いですね。

琉球史特論のクラスは討議があるからいい。受け身的に学生の声を響かせない授業は面白みがない。大学院の授業には討議を必然とした方がいいですね。ことばの響きのない授業のつまらなさがある一方で、高良倉吉研究室には個々の声が響く。それはいい!ポリフォニーの良さがここにはある!

2007年1月から2008年12月まで『野生時代』に連載され、2008年に角川から刊行されベストセラーになった小説の背景や粗筋、また主に書評を県外と県内に分けて論じた。具体的な資料がいい。そうか、こんな批評がでていたのだと、納得した。

私自身も上下二巻を夢中になって読んだ記憶がある。骨太の物語構成は非常に惹きつけられた。その物語を編み出した魅力は、どこにあったのか?琉球王府の最後のステージに登場させた秀才の美少女真鶴が宦官に変身して華麗に男(孫寧温)として琉球王府の政治の中枢でその才能と美貌を思う存分振るうのである。男としての才能と女としての美貌、その両面が物語の中で大きなうねりとなって首里城の内部で軸となって動き回る。彼女の明晰な頭脳は科挙の試験を易々と乗り越え、国難をも乗り越える。さらに女としての魅力で王の側室になり、子をもうける。一方、薩摩の美男子の在番雅博に恋し、終幕では二人の恋は実る。

今思い出すと、ぐいぐい物語の中に引き込まれて読んだ。奇想天外な筋立てにも思えたが、女性を主人公とする物語は薩摩と清、そしてペリー提督の来琉の嵐の中で首里王城の中でその英知を発揮し、かつ女としても王に寵愛され、その王国を解体する薩摩の男を恋し、恋を全うする。美しすぎる波乱万丈の物語に、また読んでみたいという気にさせる。女の表象の在り方がいかにも多くの女たちに感情移入しているかのような展開なのである。甘美なエロスが満ち満ちているのだ。おそらく源氏物語のように色恋の推移と国の推移が絡まるところに、また一人の人間が男性と女性の両性を生きるという果敢な、ありえそうでありえない筋立てに、魅惑される。

松川さんが論議に提供した『テンペスト』の批評は、大城立裕、佐藤優、山里勝己、平敷武蕉、比屋根薫、大城武、本浜秀彦、また県外では佐藤亜紀、北上次郎、大塚英志。

これらの方々の批評の中では、平敷武蕉の論が優れているようだ!ナルシト的なナルシズムだけではないものがあると、言えまいか?琉歌の分かち書きはそれほど大きな問題でなく、表記の問題で、それゆえに8886のリズムや沖縄の韻文や言語が衰退するというのは、大げさだろう!この小説は女性を主人公にして、ある面女性たちにエールを送っているとも言える。また美と愛をテーマにしているゆえに、甘美でありすぎるが、それこそがまた人が求めている心象でもありえる?!

松川さんのコメントがいい。「大城立裕の批判、琉歌の正しい表記のしかたは論争を引き起こした。エンターテイメント小説における歴史認識への問題提起もある。小説を読んで沖縄文化や歴史に興味をもった読者がそれらに積極的にアプローチをかけ、問い直し、自分なりの沖縄像を構築していけばいい。『テンペスト』は歴史に興味を抱くきっかけを大衆に与えてくれる。魅力的な作品だ」

池上永一のコメントがいい。「琉球史の第一人者でしかも首里城を復元された方が、首里城で遊べと、仰った。それで高良先生の脳内の声を盗聴したのです。そしたらやっぱり「美」と「教養」を人生のテーマにされていた。僕の中にこれで『テンペスト』が書けるという確信が生まれたんです」

高良氏が、小説の中の琉歌の創作を一部されていたことや、また候文の科挙の問題など、その史的創作に大きく係わっておられたことなど、マル秘の情報が心にしみてきた。この小説を読んでいて国の大きな試練の場における科挙の問題、その漢文(候文)の読み解きはある種、謎解きのスリルに満ちていたのだ。それらを解釈し、国の至難に立ち向かう寧温の才気に富む情念とアクションは魅力的なのである。知的スティミュレーションでもあった。読む快楽が知的快楽と混ざり合う喜びがあったのは確かだ。花風と鳳凰木は時代考証の上で疑問を覚えたがーー。フィクションとしては何でもありでいいかとも感じていたが、できるだけ基本的な所は史実に沿った方がいいに違いない?!

(秋のススキ、いつもいつの間にかススキが満開の秋)


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。