ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

殺し文句

2017年06月12日 | 日記
  紅一点のボーカルにバンド脱退を宣告され、Aは困り果てていた。
ボーカル、ギターのA、ベースのB、ドラムスのCの4人で3年前にやっとCDデビューまでこぎつけ、その後も精力的に続けていたライブハウスツアーから火がついて、今年に入りシングル曲がチャート上位に顔を出した矢先の出来事だった。
あとから加わったボーカル以外はM大の軽音部時代からの仲間だったが、ベースのBはこれを機に音楽から足を洗って就職するつもりだ、とさっき電話で話していたし、ドラムスは最近スタジオミュージシャンの仕事が忙しくなっており、またそちらの方がギャラがいいこともあって、以前からその方向を真剣に考え始めていた。
  結局決まっていないのはオレだけか。
苦笑しながら行きつけの貸しスタジオでデモテープを作っていると、珍しい来客があった。
ライバルバンドのリードギターのDだった。
Aは顔をこわばらせながら毒づいた。
「ウチの窮状を確かめに来たのか?」
まあな、とDはあいまいに答え、Aの前のソファに座った。
オレも経験があるけど、大変だな。
Dは一つ大きく息を吸い、続けた。
お前のバンドが解散するかもしれないと聞いて、慌ててやってきたんだ。
なあ、ウチに来ないか。いや、ぜひ来てくれないか。
「来いって、お前もオレも、リードギターじゃないか。」
ウチは近々ベースが辞めることになっていてな、オレがベースに回るから、お前にギターを弾いてほしいんだ。
Aは驚いて声が大きくなった。
「いいのか?それはオレのためになのか?」
ああ。オレたちは学生時代からのライバルバンドだ。
でも、お前にはセンスでもテクニックでもかなわないのはオレ自身が一番よくわかってる。
ただし、ウチの方が先に売れたけどな(笑)
噂を聞いて、オレは真っ先に思った、お前と一緒にやりたいって。
ウチのドラムスも気難しいヤツだけど、ここへ来る前に相談したら、お前とならぜひって言ってた。
頼む、オレのところへ来てくれ。
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