劇作家クリフォード・オデッツが脚本をリライトした映画「成功の甘き香り」(1957年)は、忘れられないエピソードやセリフ満載だが、その中の一つはその後の僕の行動様式にまで影響を与えた。
いつも金欠のプレス・エージェント(トニー・カーティス)が狭く寒々しいオフィスから外出しようとすると、若い秘書にコートを持っていきなさい、と声を掛けられる。
するとカーティスは笑って言う、クローク代がかかるからいらないよ、と。
自分のネタを使ってくれない大物芸能コラムニスト(バート・ランカスター)を21クラブに訪ねたカーティスはさんざん愚弄された上がりに店の出口で皮肉られる。
「なんだ、コートを持ってきてないのか、おおかたクロークでのチップをケチってのことだろう。」
そう見られるのか。
田舎に行けば行くほど車社会で、ロングコートは無用の長物に等しいのだが、それでもなお、僕がしっかりコートを持ち歩くのは、この映画を十代の頃に深夜テレビで観たからだ。
でも、(これは言わない方がいいのだが)いいコートやいい車はいいところに置いてもらえるのも、長い経験上の厳然たる事実だ。
クロークのシーンは6分から。