ミューズの声聞こゆ

なごみと素敵を探して
In search of lovable

夢十夜(六)

2019年08月30日 | ハリウッド

 キャサリン・アン・ポーターの長編小説を映画化した「愚か者の船」(1965年)は、第二次大戦が始まる直前、大型客船に乗り合わせたさまざまな人種、階層の客たちの人間模様を描いた、いわゆる(トーマス・マンの小説)「魔の山」、映画でいえば「グランドホテル」形式の作品である。

こういったシリアスな白黒映画は日本では全く人気がなく、DVDも、600ページの邦訳も発売されているものの、ほとんど語られることがない。

かろうじてビビアン・リーの遺作として記憶されている程度だ。

 作品自体は、異才スタンリー・クレイマー監督にしては凡庸なのだが、その中に忘れることができないセリフがあった。

心臓病を患っている船医(「突然炎のごとく」のオスカー・ウエルナー)が船長へ以前見た悪夢について語る。

「発作の最中に、僕は自分が死んだ夢を見た。棺に入れられ、体中から汗が噴き出している。

僕は叫んだ、『待ってくれ、まだ本当に生きていないんだ!』と。」

二十代に初めて日本語吹き替え版をテレビで観て以来、本当に生きるとはどういうことなのか、時々考えてきた。

考えなければ、ずっとラクだったのだろうが。

 

                                    「突然炎のごとく(ジュールとジム)」のジュール役は最高にチャーミングだった。

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« つむじ風 | トップ | 世界征服 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。