11年ほど前、自費出版で自分の本を一冊作った。
ある程度、知人等へ献呈したあとに残された大量の在庫が、今でも段ボール箱に入って眠っている。
思い切って自費出版をしてみたところ、出版物に対して新しい基準を持てた。
経験が基準・尺度となって、その本に注がれた情熱、努力、あるいは欠けているもの、怠慢などが手に取るように感じられるようになった。
自費出版は自分の限界を知ることだった。
自分にできること・自分にできないことのボーダーラインを明確にしてくれた。
この著者は自分と比べて実力もないのに、であったり、誰にも評価されていないのだから自分の書いたものを本にするなんて、といった根拠のない慢心や卑下がなくなった。
本を作ることはとても大変だが、少しの勇気と余分なお金があれば、本を作り、さらには売ることすらできる。
この絶妙なバランスが、自分の中に長くあった書物や作者に対する盲信や批判や敬意を、もっと普通のものにしてくれた。
自費出版をしても、日常はまったく変わらない。わかっていたはずなのに、それも驚きだった。
それでも、自費出版をしてみて本がさらに好きになった。
そして書き続けたいと思った。
大切なことは、書くよろこび、文字にする楽しさで、出版は手段にすぎない。
ともあれ、自費出版は、こんな風に自分の気持ちをとてもシンプルにしてくれた。