脳辺雑記帖 (Nohhen-zahts)

脳病と心筋梗塞を患っての独り暮し、Rondo-Nth の生活・世相雑記。気まぐれ更新ですが、気長にお付合い下さい。

儀式嫌い

2008年04月25日 13時53分40秒 | 近況
今週の土・日に、父方の法事と母方の葬式が重なってしまった。
私の父は養子であり、東海地方に実家がある。
法事は父の長兄の三回忌であるが、実家近辺には高齢の姉がおり、
市民病院に入院中なので見舞いを兼ねて、帰郷する予定だった。
ところが、昨年末より末期状態であった隣区在住の、百歳を超える大伯父が、
二日前に他界し、葬儀の段となり、日程が重なってしまったのである。

父は、大伯父の一家には、我が家の祖父・祖母の葬儀の際に世話になっているので、
帰郷を取り止めて、こちらの葬儀に行くと言うのだが、
私が父の代わりに大伯父の通夜と告別式に行くことにして、父には予定通り、
実家に帰って、法事とお見舞いを済ましてもらうことにした。

このような提案は、仕方なく私がしたものだが、私は葬儀や法事などの儀式、
世俗の習い事が、大嫌い、大の苦手である。
人が大勢一堂に会する所や、しかも親戚や近所関係などが集う機会は出来るだけ
避けたいタイプの人間である。今でも映画館でさえ嫌って入らない位なのである。

       *       *       *

だいたい、父からして人間関係の付き合いが下手で不器用な人間である。
人前でスピーチなどとなると、最初の一言の後の、二言目が出てこない、
普段でも、どもる喋り方をする。
そのせいか、人前で喋る役割は、なりふり構わず逃げようとするのである。

私が法事を嫌いになったのは、
中学生の頃、母方の法事に、父と二人で行った折のことだった。
父は法事の挨拶はお前がやるんだぞ、と行きの電車の中で繰り返し、
念を押していた。
そのときの私は、法事というものを理解しておらず、
既に死んだ人間のために親戚が集まるもので、
それは、悲しむべき物事に属するのか、
それとも仏様になったので喜ぶべき事柄なのか、考え方が判らないでいた。
また、父の口にする「挨拶」という言葉に含まれる特別な意味も不明であった。
父親は、私のこれらの疑問について、何も教えてくれなかった。

その法事は、田舎の公民館のような場所に、テーブル席が設えられていて、
酒や料理が並べられ、参席の親戚筋は農家を営むような人が大半だった。
司会役(司会も親戚の人だったのだろう。)が私の名前を呼び、
マイクの前に来るように言われ、「挨拶」をするように求められた。

私は、自分の素性、学校名や学年、氏名を名乗り、よろしくお願いします、
と言って、席に戻ろうとしたのだが、法事の「挨拶」なるものをしろと言われ、
再びマイクの前に立たされた。

何を喋ったら良いのか、さっぱり分からない。
一同はシーンとしている。
意地の悪そうな司会者は、さぁ、さぁと盛んに促す。
そして突然、私の口から出たのは、
「月日は百代の過客にして、行きかう年も又旅人也。」であった。
私は続けた。
「舟の上に生涯を浮かべ馬の口とらえて老いをむかうる者は、
 日々旅にして、旅をすみかとす。」と。

そして、人の一生なんてむなしいものですが、成仏できるということは、
おめでたいことなのだと思います、みたいなことを口走ったような気がする。
場がざわつき、舌打ちやら、みんな異物でも見るような感じだった。
一人のおばさんだけが、何故か熱烈に拍手をしていた。
私は、サッサッと席に戻ると、拍手をくれたおばさんが「今のはナンなの?」
と訊くので、芭蕉の、「おくのほそ道」‥、とボソッと応えた。

司会者は非常に激怒して、誰が「芸」をやれと言ったか、法事を台無しにした、
などとわめいて、私と父のそばに詰め寄り、父に、親が代わりに挨拶をしろと
言ってきた。父は、自分は「挨拶」をする役ではないかのようなことを言い、
拒んでいたが、子供にこんな役を押し付けて、自分は出来ないのかと言われ、
子供の不躾を詫びるでもなく、短い当り障りのない定型的な「挨拶」をした。

私はこれ以上、こんな場所に居たくはなかった。
父に、今すぐここから帰ろう、と言ったが、父にその気がないようなので、
自分だけで帰ろうと思ったが、交通手段がないことに気づいて、
仕方なく、吐き気がする程うんざりした気分で、
世間の「法事」なるものの、速やかな終わりを待った。

だいたい法事とは、子供たちが亡くなった親を偲んで催されるものであり、
その基本形に周辺縁者が交じり、「挨拶」も故人にゆかりの者がするものである。
故人さえ知らない、縁も関係も薄い中学生が、「挨拶」する場ではないのである。
全く、イナカの法事だから、ああゆうものだったのか、
自分の苦手は他人任せな、私の父親だから、ああなったものか‥。

話が長くなり過ぎた。
とにかく、私は、世俗の儀式も、付き合いも大嫌いである。


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