坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

ブリヂストン美術館所蔵展示:なぜ、これが「傑作」なの?

2011年01月26日 | 展覧会
なぜ、これが傑作なの?という問いは、近代美術以降20世紀初頭から抽象表現へと移っていく作品の中には、どなたも感じられたことがあるのではないでしょうか。写実表現や具象表現ですと、〈これは良く描けている〉とか描く対象にどこまでせまっているかが基準になったりしますので、(写実表現といっても絵画では光と影の微妙な演出で現実とは異なる奥行きの世界が広がっているのですが)分かりやすいという点があるかもしれません。
本展は、近代美術の優品のコレクションで名高いブリヂストン美術館のいわゆる常設展示のシリーズになるのですが、展覧会のタイトルによって、一つの絵画の物語が開けそうです。
・掲載作品ポール・セザンヌ「サント=ヴィクトワール山とシャトー・ノワール」1904-06年
セザンヌの故郷、エクスにそびえたつエクス=アン=プロヴァンスはその村の象徴ともいえる山であり、故郷に引きこもったセザンヌは、この山をモチーフに連作に取りかかります。印象派から影響を受けて出発したセザンヌは、明るい色を画面に大きな筆触で塗りこんでいきます。眼前にそびえる山の稜線は特徴をなす形を残していますが、空のタッチの境界は曖昧です。濃い緑の樹林の森から見える古城は細部が省かれ面として表わされています。この作品はシリーズの最晩年に制作されたもので、画面の奥行きは消され平坦な画面として構成されています。印象派のシスレーの風景作品などと比較すると明らかでしょう。
この作品では、対象のモチーフを忠実に写していくのではなく、画面全体の調子や、その大自然の骨格、リズムを画面構成に取り入れていくのが分かります。構築的な力強さを目指したセザンヌの実験的な姿勢があらわれています。
他には、ピカソの「腕をくむサルタンバンク」、藤島武二、クレー、マネ、マティスなど近代美術の傑作12点が選択され、どのように画期的な作品であったかを解説していきます。
他に、150点が併せて展示され大きな流れを構成しています。

◆所蔵展示:なぜ、これが傑作なの?/開催中~4月16日/ブリヂストン美術館(東京・丸の内)

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