我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

続・地球防衛艦隊2199 後編

2012-08-19 13:49:19 | 地球防衛艦隊2199
【続・地球防衛艦隊2199 後編】



 五月三日、地球軌道上で集結を完了した地球船団“ミッキーマウスII”は、一路タイタンへ向けての航宙を開始した。
 船団隊列は、最前方にピケット艦(前路哨戒艦)として改カゲロウ型一隻を配し、他の同型艦五隻が四隻の輸送船の直衛(直接護衛隊)、一一戦隊は更にその後方を不揃いな陣形で追随していた(間接護衛隊)。




 一一戦隊各艦は航宙の間、頻繁に小刻みな軌道修正を繰り返し、しかも僅かずつ船団本体から遅れ始めた。木星軌道を過ぎる頃にはその傾向は一層顕著となり、がっちりと密集隊形を取っていた“ミッキーマウスI”船団とは対照的に、“ミッキーマウスII”船団の隊列は前後に長く伸びていた。
 ようやく特設指揮艦から隊列修正の命令が下り、ピケット艦が速力を落そうとした時――“彼ら”は突如として現れた。

 その第一撃は、凄まじいばかりのバレージジャミングだった。ピケット艦、特設指揮艦共に、全レーダーが完全にホワイトアウト、懸命な対抗措置――ECCMも全く効果が無かった。
 しかし、船団に向けられた悪意と害意はまだ序の口だった。ガミラス軍フェーザー砲にのみ許された力強いオレンジ色の光芒が、直前までピケット艦が存在していた虚空を薙ぎ払ったからだ。
 幸いピケット艦“アウダーチェ”は事前の取り決めに従い、ジャミング感知と同時に緊急回避機動(あまりに突然且つ急激であった為、艦内負傷者すら出した)を取っていた為、一先ず虎口を脱することができた。しかしその背後を、フェーザー砲を連射しながら一隻のミザイラー級が喰らいつき、そのまま二隻はまるでドッグファイトのような機動戦に突入する。
 そして、前衛を排除された船団本隊にも危機が迫っていた。
 熱感探査と僚艦からの通報によって、本隊に迫る艦影が確認されていたのである。“熱紋”解析によって判明した敵艦級はミザイラー級二隻、クルーザー級一隻、そして最も恐るべき――デストロイヤー級戦闘艦一隻であった。



 デストロイヤー級戦闘艦は地球防衛艦隊にとって、常に恐怖の象徴だった。より巨大且つ強力な旗艦級戦闘艦も存在が知られていたが、こちらは滅多に戦場に姿を現すことはなく、しかも大抵は戦場後方に位置し、戦闘正面にまで出てくることは殆どなかった。
 しかし、デストロイヤー級は違った。一〇隻を超えるような艦隊であれば必ず一隻以上が含まれていたし、砲撃力・防御力も他級より高いことから積極的に戦闘前面に押し出してきた。
 “デストロイヤー”というあまりに直截的過ぎるネーミングこそが、人類、いや、地球防衛艦隊が本級に対して抱いた恐怖を最も切実に表した結果なのかもしれない。
 本級最大の恐怖は、他級とは異なり、地球防衛艦隊が誇る宇宙魚雷でも“一発”では撃沈することができなかったことだ。 『命中には、天文学的確率を乗り越えられるだけの幸運が必要』とまで言われる宇宙魚雷一発では撃沈できない――言いかえると、撃沈はほぼ不可能ということになる。事実、地球防衛艦隊が長いガミラス戦役の中で本級を撃沈できたのは僅か一度、『“静かの海”直上会戦』において、ガミラス艦隊の混乱に乗じる形で放たれた宇宙魚雷が二本同時に命中した際のみであった。

 デストロイヤー級戦闘艦が存在する――地球船団全体に強い戦慄が走った。それは彼らにとって、本作戦前に無数に想定した戦術状況の中でも最悪の事態だったからだ。
 ガミラス残存艦隊にデストロイヤー級が含まれているか否かは、ヤマトが太陽系を旅立った後の地球防衛艦隊にとり最大の関心事であり、最優先確認事項とされていた。しかし――存在ヲ確定スル兆候無シ。サレド最悪一隻ヲ含ム可能性ハ否定デキズ――という不確か極まりない判断しか得られていなかった。
 その“最悪”が、今や現実の存在となって地球船団に牙を剥こうとしていた。
 しかも、船団隊列が伸び切った瞬間を狙い澄ましたような奇襲、電子戦による索敵装置の無効化、前衛(ピケット艦)の排除、間髪入れない本隊強襲――腹立たしいほど堅実で、それ故に隙のない戦術構成。間違いなく、目前のガミラス軍は“本気”だった。
 ピケット艦を追尾中の一隻を除く四隻のガミラス艦は、早くも船団本隊に対する砲撃を開始していた。地球艦のそれに比べて圧倒的に長射程のガミラス軍フェーザー砲であっても未だ有効射程圏外であり、完全な牽制砲撃だった。その目的が、地球駆逐隊の宙雷突撃阻止であるのは言うまでもなく、実際に駆逐隊は船団本隊に釘付けにされていた。
 突撃動作に入るには、さすがにガミラス艦隊との間合いが遠過ぎた。今この瞬間に突撃を開始しても、敵の有効射程内に飛び込んだ瞬間、狙い撃ちにされるのがオチであり、駆逐隊としては、ビーム擾乱剤を封入したロケット弾を船団周囲に間断なく放ちながら、突撃のタイミングとチャンスをひたすら待つしかなかった。
 当然、ガミラス艦隊も事態を十分に承知していた。彼らの接近は急速であったが、慎重さまでは失っていなかった。その艦隊進路は船団に対して反航しつつも、絶妙な半弦曲線を描いていたからだ。それは、自艦の有効射程までは急ぐが、地球艦に“短剣”を振るわせてやるほどには決して深入りしないというガミラス艦隊指揮官の意思の表れでもあった。




 後に、この瞬間こそが“ミッキーマウスII”最大の危機であったとされる。
 前衛を務めたピケット艦は未だミザイラー級に追い回されており、完全に戦力外。本隊直衛の駆逐隊は遠距離からの牽制射撃で自慢の脚を封じられ、“本命”であるはずの第一一戦隊はこの時、船団後方からようやく速度を上げ始めたところであった。
 地球艦艇が唯一ガミラス艦に打撃を与え得る宇宙魚雷の特性と射程を考えれば、この瞬間の地球艦隊は完全に分断され、各個撃破される脆弱な対象でしかなかった――あくまでガミラス側の視点では。
 ガミラス艦隊はクルーザー級のフェーザー砲有効射程に船団を捉えたところで、速度を二〇宇宙ノットに落とした。最低限度の即応性を維持しつつ、腰を据えた砲撃戦を行うには最適な速力だ。未だ船団を有効射程に捉えていない二隻のミザイラー級は周囲に漂わせておくしかないが、唯一の脅威である敵駆逐隊の突出に対する牽制と備えであると考えれば、決して遊兵ではない。
 この時、船団後方から(ガミラス艦隊にとっては正面から)第一一戦隊がようやく脅威対象と認識される距離に達しつつあったが、その距離は未だ船団本隊よりも遥かに遠く、ガミラス軍フェーザー砲の(もちろん、より短射程の地球側艦砲・宇宙魚雷にとっても)完全な射程圏外だった。それこそ、彼らの本拠地と親部隊である太陽系侵攻艦隊を殲滅した“謎の地球戦艦”でもなければ、何ほどの脅威にもならない距離だった。
 それに現在は最大出力でジャミングを実施中。もちろん熱感知などのパッシブ観測は可能だが、地球艦が精密射撃を行うには必須のアクティブな電波兵器に関しては、完全に耳目を奪っている。
 接近中の艦が過去データにない“新型艦”であることは、地球船団が木星圏に至るまでの偵察活動とその後の分析で判明していた。しかし、艦の規模は既存の“短剣の使い手”突撃駆逐艦をやや大きくした程度であり、“謎の地球戦艦”のような異常に強力な砲装備を有しているとはとても考えられなかった。また、航宙過程における新型艦の挙動が明らかな訓練不足、もしくは機械故障を感じさせる安定を欠いたものであったことも、彼らの軽視を一層助長していた。
 その結果、一一戦隊の現時点における脅威度評価は突撃駆逐艦程度とされ、少なくともこの時点では無視されていたのも同然だった。
 しかしその“無視”を、第一一戦隊は強烈極まりない“自己主張”で吹き飛ばすことになる。
 最初の兆候は極めてささやかなものだった。デストロイヤー級の逆探知装置が捉えた敵性エネルギー波の感知情報。しかし、それは電波ではなかった。極めて指向性の強いタキオン波、ガミラス軍の基準でも充分な精度で射撃管制が行えるであろうほどの――。
 次の瞬間、真正面からするすると伸びてきた野太く青白い光芒が、ガミラス艦隊を掠めて後方へと飛び去っていった。それも、拡散限界に達して消滅寸前のような弱々しい光などではなく、触れた瞬間、問答無用にエネルギー流に呑み込まれてしまいそうな獰猛極まりない蒼光の奔流。それが四本、内一本は光弾がうねるような螺旋を描いており、直径も最大だった。
 幸い、“蒼い光弾”は一本たりとて命中コースを辿っておらず、ガミラス艦隊に実害はなかった。しかし、それがもたらした衝撃はあまりに鮮烈だった。
 彼らは冥王星から脱出したガミラス艦艇の僅かな生き残りであり、“謎の地球戦艦”の放つ主砲射撃をその目で目撃していたからだ。今、彼らに向けられているのが、まさに“それ”であり、これを喰ったガミラス艦は、クルーザー級であれデストロイヤー級であれ、一撃で爆沈しかねないことを彼らは“知って”いた。
 しかも、地球人たちは“タキオン・レーダー”まで実用化し、それを射撃管制用レーダーとして用いている。
 ガミラス艦隊の判断に誤りはなかった。今、彼らに対して放たれている蒼い火矢は、“謎の地球戦艦”と同種・同径のエネルギー兵器だった。




 一八インチ・ショックカノン――地球防衛艦隊が新たに手に入れた火矢はそう呼ばれていた。第一一戦隊を構成する四隻のハント型フリゲートは、この砲を二門並列に“元”波動砲口内に設置、艦首軸線砲として運用していた。
 宇宙戦艦ヤマトの主砲と全く同径ながら、軸線砲という特徴を活かしてヤマト以上の砲身長を誇り、威力・射程共にヤマトのそれすら上回る。当然、その有効射程は本会戦におけるガミラス艦艇中最大のデストロイヤー級フェーザー砲の二倍以上であり、現在の状況は完全な“アウトレンジ”だった。
 また、ここまでの航宙では、その存在を気取らせない為に、一度も“火を入れなかった”タキオン・レーダーも今や全力で稼働、精度の高い敵性情報を射撃管制システムにリアルタイムで送り続けていた。ガミラス艦隊のジャミングはあくまで電波や電磁波に対してのものであり、タキオン・レーダーまでは考慮されておらず、少なくとも現時点では一一戦隊の射撃管制に全く影響を与えていなかった(そして、射撃管制用の指向性の強い高出力タキオン波は、その性質上、ガミラス軍でさえ妨害困難であった)。

 しかし、ガミラス艦隊に“ミッキーマウスI”時のような恐慌は発生しなかった。寧ろ、戦意を掻き立てられたように全艦が一斉に速力を上げた。デストロイヤー級は最大戦術速度である三〇宇宙ノットで第一一戦隊への接近軌道を取り、単縦陣を組んだクルーザー級とミザイラー級は三五宇宙ノットで先行、適宜ランダム回避を織り交ぜつつ、一一戦隊への距離を急速に詰め始めた。




 ガミラス艦隊が本会戦で示した各種の戦術判断や艦隊運動は、彼らの士気と練度の高さを窺わせるに十分なもので、第一一戦隊を指揮していた土方竜提督をして、“あいつらなら、俺の下でもやっていけるぞ”と会戦中に呟かせたほどだった(戦隊砲術参謀の回想)。
 これに対し、一一戦隊の砲撃には、後の“太陽系外縁会戦”で魅せるような鮮やかさはどこにもなく、その第一〇射まで、一発たりとてガミラス艦を捉えることはできなかった。しかも、並列二門を一斉に放つ“斉発射撃”を行っていた三番艦『エクスモア』は、本型最大の欠点である小さな艦サイズに起因する蓄熱容量の限界に達し、早くも砲撃停止を余儀なくされてしまう。他の三艦は、並列二門を交互に放つ“交互射撃”であった為、未だ砲撃戦の継続が可能であったが、タイムリミットが近づいているという事実に変わりはなかった(三番艦の斉発射撃は艦独自の判断ではなく、斉発と交互、それぞれの砲撃効果を比較する為、戦隊命令にて実施されていた)
 それは明らかな練度・錬成不足がもたらした結果であったが、決してそれだけでもなかった。戦隊には、遠距離精密砲撃に不可欠な各種データが圧倒的に不足していたからだ。
 この時まで、一一戦隊は満足な一八インチ・ショックカノンの“実”砲撃訓練を行っていなかった。ガミラス軍からその存在を秘匿する為、砲撃は地球大気圏“内”から無人の地表に向かって僅か数度行われたのみであり(しかも最低出力で)、全力砲撃、それも戦隊全力の砲撃など、これが完全に初めてであった。
 訓練制限は、確かにガミラス軍にショックカノンの存在を悟らせなかったという意味では非常に効果的であったが、こと砲撃効果に関しては完全に逆効果であった。一一戦隊は連続砲撃によって発生する“熱”による照準への影響、その照準修正データすら満足に準備できないまま、この超遠距離砲撃戦を継続していたからである。
 しかし、彼らにも意地があった。艦への習熟度はともかく、基本技量に関しても、できるだけ多くのヴェテランを選抜したメンバーだけに、十分以上のものを有していた。
 故に――ガミラス艦隊の先陣を切るクルーザー級が一一戦隊を搭載フェーザー砲の有効射程に捉える直前、その第一一射が遂に有効弾となった。
 記念すべきハント型フリゲート初の命中弾は四番艦『キリサメ』が達成、クルーザー級の艦首を直撃したショックカノンは、命中部周辺を大きくひしゃげさせつつ艦内へ浸透を継続、そのまま一気に艦尾までを刺し貫いた。そして次の瞬間、蒼い光芒に串刺しにされたクルーザー級は内側から無残に弾け飛んでいた――爆沈、である。
 まさに“剛槍”一閃、しかし命中の瞬間を目撃した『キリサメ』艦橋内に歓声は上がらなかった。むしろ半ば呆然と、自らが達成した眼前の光景に魅入られていた。
 その光景は、彼らにとって八年間越しの願望であり、胸を削られるような切望であり、血を吐くような渇望の筈だった。いや、“半ば以上諦めていた”という点に於いては、最早“夢”や“幻”という次元にまで至っていたかもしれない。特に、この甘美極まりない光景を遂に目にすることなく、無念の内に逝ってしまったあまりにも多くの戦友たちのことを想えば――。

『――次弾、まだか』

 そんな艦橋要員たちを我に返らせたのは、『キリサメ』女性艦長が発した、低くも鋭い声だった。それは、彼女一流のプロフェッショナリズムが発せさせたものであったが、そんな彼女自身も、その美しい唇の端を凄愴に――実に魅力的に歪めていた。
 しかし、プロ意識という点で、彼女の更に上を行く人物が戦隊に存在していたのも事実だった。この時、既に旗艦『ハント』から戦隊砲撃目標の変更を告げる命令が発せられていたからだ。

――戦隊砲撃目標デストロイヤー級ニ変更。各艦、腰ヲ据エテ撃テ――

 命令の後半部分は明らかな“叱責”だった。そして“鬼竜”の“叱責”に恐怖を覚えない者など、この戦隊には只の一人も存在しなかった。
 まさに人馬一体、三隻のハント型のショックカノンが俄然として吠える。仕切り直しの第一射はまたしても全弾空振りであったが、目標変更直後の一射目にしては、測的は悪くなかった。しかも、この砲撃はデストロイヤー級の接近速度を低下させるという結果をももたらした。これまでは砲撃を受けていなかった気楽さで、最短コースを直進してこられたものが、ランダム回避を行う必要が生じたからである。
 ミザイラー級二隻は無視する格好になるが、ここが我慢のしどころというのが一一戦隊を率いる土方の判断だった。ミザイラー級の無力化に拘っている間に、デストロイヤー級の大口径フェーザー砲射程にまで捉えられてしまえば、お世辞にも防御力が高いとは言えない一一戦隊にも確実に喪失艦が発生してしまう。デストロイヤー級はアウトレンジで確実に仕留め、接近を許すことになるミザイラー級にしても二隻程度ならば――。
 土方に他隊(駆逐隊)の支援を受けるつもりは毛頭なく、むしろ未だ格闘戦じみた戦闘でミザイラー級一隻を拘束し続けている(追い回され続けている)ピケット艦の救援に、至急一個駆逐隊を向かわせるよう特設指揮艦に意見具申していたほどだった。
 そして遂に、一一戦隊の第一八射がデストロイヤー級を捉えた。
 命中は、土方の“気合”が最も強く入った(本人が乗艦しているのだから当然だ)戦隊旗艦『ハント』だった。しかし、クルーザー級とは異なり、デストロイヤー級はショックカノン一発では屈しなかった。被弾直後に、未だ有効射程外と理解しつつも、大型フェーザー砲の一斉射撃を行ったほどだ。だが、続く第一九射が二発同時に直撃したことで、嘗ての地球防衛艦隊の恐怖の対象――デストロイヤー級の抵抗も遂に潰えた。
 しかし、今度もまた一一戦隊に歓喜する暇は与えられなかった。放置したミザイラー級二隻は既に至近にまで迫り、この時、地球のものより大型の宇宙魚雷計八本が発射された直後であったからである。更に、ミザイラー級自身も一一戦隊に対する斜行突進を継続、近接砲戦を挑んできた。




 之に対し、一一戦隊は艦首ショックカノンによる特別砲撃を停止、即座に通常砲戦態勢へと移行した。艦首を宇宙魚雷に正対させつつ、本来の主砲である五インチ・ショックカノンをミザイラー級に向ける。だが、それらが火を噴くよりも早く、艦後部に設置された三インチ・ショックカノン連装四基八門、戦隊全体で実に三二門に達する副砲群が一斉に火蓋を切った。
 その威力は艦首の一八インチに比べれば非力極まりないが、それでも従来の地球艦フェーザー砲よりも格段に強力であり、何より発射速度が尋常ではなかった。各砲が毎秒一発以上のペースで極小サイズの空間歪曲現象を吐き出し続ける。正にガントレットとも言うべきキルゾーンに飛び込んだ八発の宇宙魚雷は、いずれも一一戦隊に達することなく砕け散った。
 そして最後の脅威、二隻のミザイラー級は――実にしぶとかった。戦隊四隻から雨霰と浴びせられる五インチ・ショックカノンを巧みにかわしつつ、嫌になるほど的確にフェーザー砲を撃ち込んでくる。
 一一戦隊にも被弾が相次ぐ。しかし、彼女たちが従来の地球艦のように一撃で爆沈することはなかった。各部の艤装品が次々に吹き飛び、全身傷だらけになりながらも、戦隊は驚くほど頑強に砲火を放ち続けた。
 この時、第一一戦隊は姿勢制御ロケットによる回避運動以外の推進機動を停止しており、全力運転中の波動機関が絞り出す出力は、全てショックカノンへの供給とエネルギーシールド展開に振り向けられていた。未だ一一戦隊に致命傷が生じていないのは、最大出力で展開したエネルギーシールドの効果と、開隊以来、何よりも優先して(砲術訓練以上に)錬成が急がれたダメージコントロールの賜物だった。艦首の四連装発射管内にあった中型宇宙魚雷などは、ミザイラー級からの初弾飛来と同時に、半ば投棄同然に発射されたほどで、その被害極限対策は徹底していた。
 ハント型フリゲートの設計時点における能力目標は、ガミラス・クルーザー級戦闘艦を単独“砲撃戦”によって撃破可能というものであったから、より戦闘能力に劣るミザイラー級、しかも数においても二対一の優勢であれば、決して撃ち負けない筈であった――それを操る者達が、艦のスペックを十全に発揮できさえすれば。
 そして、自艦のフェーザー砲の威力をシールドによって減殺され、宇宙魚雷も全弾射耗という手詰り状況の中で、冴えに冴えていたミザイラー級の操艦機動にも遂に息切れが生じた。ほんの僅かな時間許した直線機動――その瞬間を一一戦隊の全力砲撃が押し包んだ。
 それは、一八インチ・ショックカノンによるものとはまた別種の“死”であった。一八インチ・ショックカノンによるものが、大型肉食獣による豪快な捕食行為であったとすれば、五インチ・ショックカノンによるそれは、ピラニアの群れに食い荒らされる大型魚のような無残さがあった。
 ミザイラー級二隻は、既に亡きデストロイヤー級やクルーザー級のように爆沈することこそなかったが、その艦首から艦尾までを原型を留めないまでにズタズタにされ、虚空を空しく漂っていた――無残な死骸として。

 後に第三次木星沖会戦とも呼ばれる戦いはこうして終結した。勝者は、戦略的にも戦術的にも間違いなく地球艦隊であった。
 しかし、それは決して“完勝”ではなかった。会戦初頭に奇襲してきたミザイラー級一隻を会戦終盤まで拘束し続けたピケット艦『アウダーチェ』が失われていたからだ。その復仇は、本隊から急行した駆逐隊が果たしていたが、ラテン的陽気さで八年以上にも及ぶ戦役をしぶとく生き抜き、本作戦における最も危険なポジションであるピケット艦任務にも自ら志願したヴェテラン・イタリア人艦長とそのクルーたちの死は、勝者である筈の地球艦隊に暗い影を落とした。
 しかし、彼らがその場に立ち止まり、頭(こうべ)を垂れることはなかった。彼らの使命、“ミッキーマウスII”の完遂が為されるまでは、それは絶対に封印されなければならかった。
 なぜなら、それは艦隊全乗員が固く心に誓っていたからだ――仮に自らが、愛すべき『アウダーチェ』乗員たちと同じ運命を辿ったとしても、生き残った僚艦乗組員たちに対して同じ振る舞いを求める――と。

 “オレら(あたしら)の時も、そうしろよ(そうしてよ)”

 その想いは、実の言葉としては一度たりとも発せられたことは無かったかもしれない。しかし、その誓いの存在を疑う者は地球防衛艦隊という組織に名を連ねた男女の中には一人として存在しなかった。

 ――数十年後の未来、大規模な戦乱がすっかり遠くなった時代、この時代の防人たちの気概を指して、『長く続いた苛酷な戦役の中、兵士たちは自暴的狂気に魅入られていた』『そうした狂気に陶酔することで、辛うじて自身を律していた』と評した者がいた。確かに、それはある一面では事実であったかもしれない。しかし同時に、極めて独善的且つ偏狭な評価であるとも言わざるを得ない。
 その時代、その場にいなければ、決して到達することができない境地が存在する――たったそれだけのことを認める“謙虚さ”を失った時点で、その人物こそが偏狭な自意識の虜囚と化していることは明らかだからだ。

 そして、“自暴”や“狂気”という言葉から縁遠いという意味では、ガミラス艦隊もまた同様だった。少なくとも彼らは、最後の一隻が殲滅されるその瞬間まで、決して自棄を感じさせるような振る舞いを見せなかった。
 一発でも喰らえば轟沈必至と理解しながら、突撃の先頭に立ったクルーザー級。ショックカノンの青い業火に砕かれ、焼かれながらも主砲を放ったデストロイヤー級、自艦に残された火器では有効打足りえないことを既に理解しつつも、それでも絶妙且つ執拗な襲撃運動を繰り返し続けた二隻のミザイラー級。
 ミザイラー級には、確かに撤退するという選択肢もあった。しかし一一戦隊から距離を取った瞬間、あの強烈極まりないショックカノンで背後から狙い撃ちされると分っている以上、現実的選択としてはあり得なかっただろう(実際は、一一戦隊によるこれ以上の特別砲撃は蓄熱容量的に困難であったが)。寧ろ、自らを生き残らせる確率としては、目前の敵を殲滅する方が高い――たとえそれがどれほど困難で、数パーセントにも満たない低確率であったとしても。
 そうしたガミラス艦隊の姿から汲み取れるのは、どこまでも純粋な戦意と、緻密で冷徹な戦術判断だけ。所属本隊も根拠地を失い、敵勢力内に孤立した彼らの内面に、恐怖や絶望が無いわけがなかった。あるいは狂気すら忍ばせていたかもしれない。しかし、ガミラス人たちは最後の最後まで、決してそれを地球人たちに窺わせなかった。
 侵略者にかける情けなどない、それは確かだ。しかしそれでも、地球艦隊の人々の一部は、自らが葬ったガミラス艦隊にも敬意を払った――喪われた『アウダーチェ』乗員たちに手向けたものと同等の敬意を。

 隊列を組み直した“ミッキーマウスII”船団が船足を上げた。目指すはタイタン。そして、母なる地球。
 船団全艦から次々に放たれる艦砲の眩い煌めき。戦闘艦艇だけでなく、守られるべき存在である輸送船ですら防塵カバーを取り払って特設砲を撃ち放つ。しかし――それは決して“弔砲”ではない、あくまでも“訓練射撃”であった。
 そしてその最中、第一一戦隊 『キリサメ』から“艦内持込禁品”の艦外廃棄が艦長命令で実行された。
 地球防衛艦隊内の愛飲家(酒豪)の間では、 “手に入れるのはガミラス艦を沈めるより難しい”とまで言われるほどの貴重品――2125年物の“バローロ・ブルナーテ”。
 この、イタリア・ピエモンテ州産ワインを艦内に持ち込んでいたのは――他ならぬ『キリサメ』女性艦長、その人であった。

――おわり。


さて、如何でしたでしょうか?
・・・・・・我ながら・・・・・・恐ろしく地味ですね、何と言いますか“肉の入っていないスキ焼”のような有様w
登場する艦艇はガミラス艦三兄弟、地球艦は所謂“古代艦(2199では磯風型)”と護衛艦(さらば/2)、民間輸送船と、その輸送船に“毛”の生えた特設指揮艦・・・・・・以上オワリ(汗)
最大規模の艦艇がガミラスのデストロイヤー級(2199ではデストリア級)で、しかもそれが地球防衛艦隊にとっての『恐怖の象徴』。
太陽系に侵攻したガミラス艦隊の規模にしても、元々が『2199』世界の三分の一程度(四〇隻)しか存在しなかったという独自世界なので、その残存艦隊同士の戦いともなれば、一〇隻以下の小部隊同士の戦いになってしまう訳で、貧乏くさい事この上ない・・・・・・(^_^;)
でも多分・・・・・・私はそういう、地味で貧乏くさいくらいの状況が好きみたいです。
“追い詰められた者たちの必死さ、気魄”みたいなものが地球防衛艦隊だけでなく、残存ガミラス艦隊の方にも感じていただければ本当に嬉しいのですが。

えーーー、第一一戦隊四番艦『キリサメ』の女性艦長は、もちろん“あの方”をイメージしています。
死んでしまったイタリア人艦長も大の酒豪(外観:典型的陽性中年、赤ら顔、出っ張った腹、ぶっとくて毛深い腕、制服は常に腕まくりw)で、そのイタリア人気質から、酒保(PX)で偶然後ろを通りかかった某女性艦長に口笛とか吹いてみたものの、その後当然、マダオさんからエライ目に遭わされたりとか、でもその後は“最悪から〇番目”などと呼ばれる飲み友達になったりとか・・・・・・そんなことも考えていました。
“我が家世界”にて、女性艦長が二番艦ではなく四番艦の艦長に抜擢されたのも、このイタリア人艦長が少なからず関係しているのかもしれません。元々、四番艦艦長に選ばれていたのはこのヴェテラン・イタリア人艦長でしたが、『長官、新しい艦(フネ)は、若い元気なモノに任せるべきでしょ』とか言って。
女性艦長が自分ではあまり呑みそうにない超貴重な赤ワインを用意していたのも、それを知っていたからかもしれません。
“鬼竜”の異名と合せて、またも、お借りしてしまいました、EF12様m(__)m
お借りして文章を書くのは、すっごく楽しいのですが、でも・・・・・・私が書いてもキャラが全然魅力的にならないんだよなぁ・・・・・・(-ω-;)ウーン
コメント (7)
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たまには、普通の話など、、、の続き

2012-08-18 12:55:25 | 雑談など

先日の某国の某選手ですが、まだメダルの件は未決ですが、とりあえず兵役免除は間違いないようですね。
正直、その後の“事件”の衝撃が大きすぎて、こんな覚悟も理性もない愚か者のことなんて、もうどうでも良くなっているのが正直なところですが、自分から振ったネタですし、一つ二つだけ。

まず、前回の記事で『この選手は一生後悔するだろう』と書きましたが、どうやらそれは無さそうです。
他の選手と同様に兵役の免除が決定され、政府、マスコミ、国民のいずれも、本人を英雄扱いする向きが非常に強いようですので(“こうした現状”を懸念する声は多少あるようですが、当該選手に対して何らかの懲罰を求める声までは全く聞きません)
本人は今はさすがに静かにしているようですが、ほとぼりが冷めた後には『あれは自分自身の強い決意で行った“英雄的”行為』とか、恥ずかしげもなく自分で吹聴していそうです。

某国は、今回の愚行を“一罰百戒”とするせっかくのチャンスをみすみす喪ってしまいました。
近代以降、世界中で時間をかけて醸成され、浸透し、今や世界の常識となったスポーツマンシップを、国民一般に広く周知するチャンスを喪ってしまったと私は思います。
政府、所管大臣が『あれはスポーツの大会では絶対行ってはならない恥ずべき行為だ。よって、本選手の兵役免除は決して行わない』としていれば、短期的には激高したマスコミ・国民から叩かれるでしょうが、その後、時間をかけてスポーツマンシップに係る民度の向上に取り組めば、評価はきっと変わっていた筈です。
本来、政治家というのはそうした大局的見地に立って、滅私奉公しなければならないのですが・・・・・・。
でも、それは到底期待できないでしょう。
何しろ、その大ボスが“アレ”では・・・・・・。

某国大統領が教育関係者との会合の中で行ったとされる発言を聞いた瞬間、本当に絶句しました。
某国とのあれこれについては、ウンザリとかゲンナリという程度の発言に留めるのを旨としていましたが、今回の事件だけはダメでした。
吐きそうなくらいの嫌悪感と殺意にも似た憎悪を覚えました(もちろん私は理性を備えた文明人なので、直接危害でも受けない限りは本物の殺意なんぞ抱いたりしませんが)。

もちろん、いつものように“察する”“斟酌する”ことも可能です。
この大統領は、今現在極めて深刻な恐怖に囚われています。
純然たる“死”への恐怖です。
あと数ヶ月で任期が終わると、この男は非常に高い確率で不正蓄財や収賄で立件されます(与党が政権を維持した場合はこの限りではありませんが、野党に政権交替すれば、それがたとえ何年後のことであれ、ほぼ確実にそうなります)。
地縁・血縁が非常に強い某国の風土と、既に実兄までが逮捕されている状況では、当人に後ろ暗いところが皆無とは決して主張できないでしょうから。
また歴代某国大統領の末路は亡命、暗殺、逮捕、自殺などの悲惨な運命のオンパレードです(寧ろ普通に過ごしている人が“只の一人も”いない)。
前大統領にしても、立件が避けられないと知るや自殺してしまいました。
当然、前大統領の立件捜査には現政権が深く係っている訳ですから、『次は自分がやられる』という思いは非常に強いでしょう。
最高権力者としての地位も名誉も財産も全て奪われ、社会的どころか生物的(某国では元大統領が死刑判決を受けたこともある)にも抹殺されるかもしれないとなれば、その恐怖は筆舌に尽くし難いと思われます。
とはいえ、それは単なる自業自得に過ぎないのですが、この男はそんな自愛的恐怖から逃れる為“だけに”とてつもない愚行に走りました。
この影響は数年を経なければ解消は見込めないでしょうし、完全解消には恐ろしいほど長いスパンが必要でしょう(少なくとも私は一生忘れないと思う)。
この愚かな男は、“自身の生命を守る為だけに”、二国間関係に深い傷を作ってしまったのです(次の大統領ですら、愚かと分っていても前任者の行為に引っ張られてしまいます)。
大統領や議員という職業が、広義でいえば公僕だと考えれば、私利の為に国民に害悪をまき散らした最低最悪の愚物とまで言えると思います。
唯一の救いであると同時に最大の皮肉は、このような愚行に走ったところで、立件による収監若しくは自殺という悲惨な末路は変わらないことなのですが。
日本の二つ前の首相も、『首相として最低の愚物だ』と当時思いましたが、それでもまだ某国のに比べればマシです(最低と言う評価に変わりはないにしても)。
某国の愚物は『人間』として最低だから。
そんな物(“者”という漢字すら最早使いたくない)には、この本をお奨めします。


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その破廉恥極まりない自愛的恐怖を、この本を読んでなんとか克服していただき、残りの任期を何もせずに、何も言わずに終えていただきたいものです。
最早いかなる釈明(する訳ないけど)もこの半年程度の間では全て逆効果にしかならないでしょう。
ならばせめて、愚物なら愚物なりに身動き一つしない“愚(置)物”でいて下さい。

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続・地球防衛艦隊2199 前編

2012-08-16 14:59:52 | 地球防衛艦隊2199
【前書き】
以下の文章は、1974年にテレビ放映が開始された『宇宙戦艦ヤマト』及び1978年放映開始『宇宙戦艦ヤマト2』の設定をベースにしています(『宇宙戦艦ヤマト2199』の設定には基づいていません)。
また、かなりの部分で独自設定が入り混じっており、その世界観を御理解いただく為に(たいした世界観でもありませんが)、前作『地球防衛艦隊2199』を先にご覧いただいた方が良いかもしれません。


【続・地球防衛艦隊2199 前編】



 勃発から実質的終結まで凡そ九年を要したガミラス戦役において、科学技術的にも軍事的にも終始圧倒され続けた地球防衛艦隊が、それでも最後まで抗戦を継続することができた理由や原因は、それこそ無数に存在する。
 しかし、その理由の一つに、当時の地球防衛艦隊が金科玉条としていた『宇宙魚雷戦術』『空間宙雷戦術』を挙げるのは極めて妥当と思われる。なぜなら、“圧倒的”という言葉ですら不足するほど強力な大ガミラス帝国宇宙軍艦艇に、地球人類が唯一突き立てることが可能であった“牙”が、この宇宙魚雷だったからだ。

 “宇宙魚雷”の実態は、当時最新の核融合反応弾頭――純粋水爆弾頭――を装着した、直径二〇インチ以上の超大型誘導弾である。その威力は凄まじく、人類側の放つフェーザー砲にはほぼ無敵のガミラス軍クルーザー級やミザイラー級でも一撃で撃沈、より大型のデストロイヤー級戦闘艦であっても中破以上の損害を与えることが可能であった。

 但し、それには条件があった――命中させる、という最難事が。

 ガミラス戦役時の地球防衛艦隊において、宇宙魚雷戦術の担い手は“カゲロウ型突撃駆逐艦”であった。しかし、当時の防衛艦隊最速艦でもあった本型にしても、最大戦術速力は一五宇宙ノットが精々であり、三〇宇宙ノット以上の快速で巧みな艦隊運動を行うガミラス艦隊が相手では、“頭を抑える”どころか追尾すら非常に困難、言い換えれば、殆ど不可能だった。
 確かに、未だ人類が母星の海洋上で覇権争いをしていた頃の水雷戦術と、対異星人戦争における宙雷戦術とでは多くの点が異なる。しかし、決して変わらない原則もあった。たとえば、目標対象の直近にまで肉薄しなければ必中至難という嘗ての水雷戦の原則は、その最たるものと言えるだろう。
 しかし当時の人類には、ガミラス艦へと詰め寄る手段(脚)がなかった。最大戦術速力に、実に二倍以上もの開きがあっては如何ともしがたく、正攻法では必殺の宇宙魚雷を投じえないのは誰の目にも明らかであった。
 その現実故、2195年以降の地球防衛艦隊が選択した戦術はある意味極端だった。それを極論すると、以下の二つになる。

 “囲む”か“待伏せる”か。

 追いつけない以上、逃げられないように包囲するか、向こうから近づいてくるのを待つ、という訳だ。至極簡単に聞こえるが、現実はそれほど甘くも無かった。
 囲んだ相手が自らより強力であれば、逆に分散した状態で各個撃破されてしまうし、待伏せるにしても、敵が“運よく”そこを通りかからなければ、自らを遊兵化してしまう――戦術的イニシアティヴを最初から放棄しているも同然だったからである。
 その為、地球防衛艦隊司令部は、『落伍した独航艦を狙う』『攻撃は戦術的奇襲が成立する状況に限る』という原則を麾下部隊に徹底させることで、この困難な状況に現実を適合させようとした。しかし、その実行には多くの時間と労力が必要だった。
 “地球防衛艦隊”と名乗ってはいても、その実態は各国宇宙軍(それも、長期に渡る戦役を生き残った残余)の寄せ集めに過ぎず、それらを統一指揮することが法制上定められた防衛艦隊司令部とて、発足から未だ間がなく、各部隊(旧各国軍部隊)との信頼関係も著しく不足しているのが実情だった。また、装備面での圧倒的劣勢、打ち続く損害、日々荒廃していく母星――そんな生き地獄のような状況においても、ガミラス戦役は紛れもない“祖国防衛戦争”であるだけに、防人(さきもり)たちの士気が非常に高かったことも、原則を徹底させる上では寧ろ障害になった。
 それでも、防衛艦隊司令部の定めた原則に従った部隊が、確実に戦果を(しかも自らの損害は最小に留めて)挙げていくことで、この原則は徐々に各隊に浸透し、2196年を迎える頃には、完全に防衛艦隊の常套戦術として定着することになる。また、この結果を受けて、防衛艦隊司令部と各部隊の信頼関係も醸成されるという副産物まで得られた。
 その後、2197年の『“静かの海”直上会戦』、2199年の『冥王星会戦』という二つの“決戦”が生起した結果、地球防衛艦隊は奮戦空しく遂に壊滅する。会戦の結果は、いずれも地球艦隊の完敗(少なくとも戦術的には)であった。
 しかしそれでも、地球艦隊の放つ宇宙魚雷という名の“牙”はその鋭さを失わず、地球側の英雄的活躍やガミラス側のミスといった僥倖が重なって命中を果たしたならば、どのような状況であろうとも確実にガミラス艦を引き裂いた。
 事実、後のヤマト型宇宙戦艦――宇宙戦艦ヤマトの登場まで、大ガミラス帝国が地球側装備において唯一脅威と見なしていたのは、この宇宙魚雷のみであった。後のガルマン・ガミラス帝国との交流によって開示された当時のガミラス軍の記録には、地球艦の放つ宇宙魚雷は“野蛮な短剣”としばしば表現されていた。之は“懐に飛び込まれて繰り出されれば、致命傷足り得る”ということをガミラス側も十分に理解していたが故の表現であったと思われる。




 悪戦の末の壊滅、その終末的状況に変化が訪れたのは2199年9月以降のことだった。遠くイスカンダル王国からの技術供与によって画期的機関技術――波動エンジン――が実用化されたことにより、地球防衛艦隊を取り巻く状況は一変する。
 その筆頭は、言うまでもなく『宇宙戦艦ヤマト』であった。しかし彼女は就役(進宙)と同時にイスカンダルへの長期航宙を開始し、大ガミラス帝国軍冥王星基地の壊滅と在太陽系ガミラス艦隊主力の殲滅という空前の大戦果を残して、外宇宙へと旅立っていった。
 そしてその戦果に後押しされるように、太陽系に残る地球防衛艦隊も、再建への道を歩み出す。その端緒の一つは、数少ない残存艦への波動機関(機能を限定した簡易型)搭載改装であった。
 その効果は劇的、いや、長年その艦に乗り続けた防人たちにしてみれば、最早一つの奇跡だった。
 これまでは延々と加速を継続しても一五宇宙ノットが精々だったカゲロウ型突撃駆逐艦の速力が、何の苦も無く(それこそ慣性制御による耐Gを考慮しなければならない程の勢いで)一気に三〇宇宙ノットを超えたのだ。その“感動”は、滅多に感情を表さないことで有名だった、とある英王立宇宙軍出身士官が『我らの愛すべき“農耕馬”が“駿馬”へ生まれ変わった』と声を震わせて評した程だった。
 波動機関は、初起動時の立ち上げにこそ外部からの膨大な電力供給(日本人たちはそれを“呼び水”と称した)を必要としたが、製造された簡易式波動機関はヤマトのそれに比べれば遥かに小型小容量であり、各行政管区単独の電力供給能力でも辛うじて立ち上げ可能であった。また、最初の一基の立ち上げにさえ成功してしまえば、後はその一基の発する電力で以って後発機を立ち上げることもできた。
 更に、一度立ち上がった波動機関は即席の“無限発電機”としても非常に有用だった。事実、最初期に製造された簡易式波動機関の内の二基は“波動発電機”として、深刻なエネルギー不足に喘いでいた地球の電力事情改善に貢献している。実際のところ、地球上(しかも地下都市内)に設置された波動機関は、宇宙空間を航行する艦船に比べてタキオン粒子の収集効率が著しく劣る為、極めて非効率という側面もあったが、それでも発揮される電力は当時の地球にしてみれば破格の大出力であり、慈雨以外の何物でもなかった。

 波動機関という新たな心臓と“健脚”を手に入れ、極めて小規模ながらも再建された地球防衛艦隊は、2200年に入って活動を再開する。
 当時、冥王星基地と侵攻艦隊主力を失ったことで、太陽系内における大ガミラス帝国の活動域は著しく縮小、それどころか殆ど観測されなくなっていた。少なくとも、火星軌道より内側にガミラス艦艇が侵入してくることは皆無となり、地球―月―火星間の連絡・交通線は、ほぼ完全に復活(自然回復)していた。
 しかし同時に、様々な観測と分析によって、木星圏以遠にはガミラス艦隊残存戦力が分散、潜伏していることも確認されていた(具体的な艦数は一〇隻以下と推測)。また、木星以遠の各惑星やその衛星群にも未だ小基地・拠点が存在し、残存艦への補給支援等の活動を継続しているものと推測された。
 つまり、ガミラス軍は活動域を自ら大きく後退・縮小させただけであって、仮に人類が木星圏以遠にまで足を踏み込めば、相応のリアクションを呼び込むであろうことが確実視されていた。
 しかも残存勢力は、現在こそ作戦能力を低下させているものの、仮に太陽系外から増援や支援が得られた場合、当然その活動が再開・活発化するであろうことも想像に難くなかった。故に地球防衛艦隊としては是が非でも、太陽系外ガミラス軍による増援・支援が行われる前に、太陽系内残存勢力を各個撃破する必要があった。
 2200年初頭に取り急ぎ再建された地球防衛艦隊の戦力は、波動機関を搭載したことで『改カゲロウ型』に改称された突撃駆逐艦が二個駆逐隊(六隻)であった(後に、同じく改装に伴って『アドバンスド・カイザー型指揮戦艦』へと改称された“エイユウ”と“ジョゼッペ・ガリバルディ”の二隻が加わる)。
 しかし、当面の戦力強化が、この二個駆逐隊で打ち止めであるのも事実だった。
 地球―月―火星の連絡交通線が復活し、各種資源の確保や流通の部分的回復、更に“波動発電機”の稼働で電力事情にも多少の安定が得られるようになった為、特に各種工業生産については半年前とは比べ物にならないほど状況は改善していた。にもかかわらず、地球防衛艦隊の戦力強化は停止を余儀なくされていた。
 肝心要の波動機関製造に必要な希少鉱物資源がこの時点でほぼ払底し(完全にゼロではなかったのが、残分は“新型艦艇用”に割り当てられていた)、既存戦力を利用した戦力強化が不可能になっていたのである。
 件の鉱物資源は『コスモナイト』と呼ばれる高機能特殊合金の原料であり、その最終製錬物は、高圧高濃縮下のタキオン粒子にも耐久し得るほどの耐熱性と耐食性を有する――高濃縮型波動機関製造には不可欠のものであった。しかし悩ましいことに、太陽系広しといえど、コスモナイトの存在が確認されていたのは土星の衛星『タイタン』のみであった。
 つまり、これ以上の戦力強化にはタイタンでのコスモナイト回収が必須であり、それは同時にガミラス軍勢力圏への侵入を意味していた。
 その為の戦力が僅か二個駆逐隊、たった六隻の突撃駆逐艦。非常にささやかな、一年前であれば、投入するよりも“逃げる”か“隠す”ことを考えなければならないほどの小戦力であった。しかし――“彼ら彼女ら”の考えは、一年前とは一八〇度異なっていた。

 敵に先んずることができる“脚”がある。しかも、敵はまだそれを“知らない”。

 すなわち、ガミラス戦役勃発後初めて、戦術的イニシアティヴを握ることができるかもしれないという期待と確信はそれほどのものだった。そして、常に絶対的劣勢下での戦闘を強いられ続けた(そして生き残ってきた)彼ら彼女らにとっては、それだけで充分だった。侵略者どもが“野蛮な短剣”と恐れる彼らの“牙”は――変わらずそこにあるのだ。




 2200年1月、六隻の突撃駆逐艦と二隻の中型輸送船からなる小規模な地球船団は、土星の衛星タイタンを目指す航路を進んでいた。
 作戦名称は『ミッキーマウス』。
 作戦目的は、波動機関及びその関連設備の製造に不可欠な希少鉱物資源(コスモナイト)の回収と輸送。
 その航宙速度は、中型輸送船の空荷時巡航速度に合わせた五宇宙ノット。現在の視点に立てば、情けなくなるほどの低速であったが、非波動機関の民間徴用バルクキャリア―(バラ積み運搬船)ではこれが限界だった。
 しかし、ほぼ同速力で並進しながら護衛を続ける駆逐隊側に焦りの色は全くなかった。さすがに緊張の色は隠すべくも無かったが、そこには悲嘆も絶望もなく――寧ろ皆、祭りの前日のように嬉々として“その瞬間”を待ち侘びていた――と、後にある駆逐艦乗員が自らの著作の中で述懐することになる。

 そして遂に、待望の“瞬間”がやってきた。

 船団が、タイタンへと至る最終軌道調整を完了した直後の地球標準時一月二九日二〇時〇二分。その兆候を最初に捉えたのは、船団中央に位置した輸送船の一隻“パサディナ・スター”であった。
 大型レーダーシステムと指揮区間を増設し、広域索敵兼指揮艦として臨時改造された特設艦である。もちろん、充分な資材も時間も無い中、無理やり仕立てられた艦であるだけに、一たび攻撃を受ければ生存性など皆無であったが、乗員の士気は駆逐隊と同様に高かった。
 本来ならば、指揮艦としては前述したアドバンスド・カイザー型指揮戦艦を編制に加えたいところであったが、ヤマトに比べればささやかとは言え、仮にも戦艦級艦艇の波動機関の製造と換装には、本輸送任務の成功による希少資源の大量確保が絶対に必要だった。また、オリジナルの状態で出撃させるという選択肢もあったが、“エイユウ”“ガリバルディ”共に損傷と消耗がひどく、一度徹底した修理かオーバーホールを行った後でなければ、足手まといにしかならないとして断念されている。
 “パサディナ・スター”の増設レーダーが捉えたのは、大ガミラス帝国宇宙軍主力軽艦艇――ミザイラー級戦闘艦二隻からなる小部隊であった。ガミラス軍艦艇としては最小クラス、しかも僅か二隻とはいえ、彼我の個艦戦力差と最終軌道調整完了直後というタイミング(つまり逃げられない)を思えば、絶望を覚えさせるに充分な状況であった――もしそこにいたのが、一年前の彼ら彼女らであったなら。
 ミザイラー級二隻は、船団に対するレーダー妨害すら行わず、二五宇宙ノットという速度で側面から船団に接敵しようとしていた。最速三五宇宙ノットを叩き出す快速艦を操りながら、何故そのように中途半端な速度で接近を図ったのかは分からない。油断があったのか、あるいは冥王星基地壊滅によって補給と整備を絶たれ、艦の機能に不調があったのか――しかしそれは永遠の謎となった。
 “パサディナ・スター”から、二隻のミザイラー級以外に後続する敵戦力が存在しないという戦術情報と共に、開隊から僅か数年で早くも地球防衛艦隊の伝統となった感のあるシンプル極まりない突撃命令――全軍突撃セヨ――が下された瞬間、機関換装を悟られないよう機関出力を絞りに絞っていた駆逐隊が一斉に動いた。
 まるで、ロールを打った軽戦闘機のような小気味良い転舵と同時に、弾かれたように加速を開始した改カゲロウ型の速力は、瞬く間にミザイラー級の最大戦術速力すら凌駕する三七宇宙ノットにまで達した。
 嘗ての所属軍も艦齢も全く異なる六隻の突撃駆逐艦は、それぞれが別個のコースを取りつつ、しかし完璧に調和の取れた六つの光跡を閃かせ、その名が示す通りの“突撃”を敢行していた。




 目前で展開されている異常極まりない(信じ難い)光景へのあまりの驚愕故か、ミザイラー級二隻は対応機動すら見出せないまま、闇雲にフェーザー砲を閃かせたものの、その照準計算は従来のカゲロウ型の機動性能データ(最大一五宇宙ノット)を元に算出されたものであり、その二・五倍もの速力を突如として発揮されては、命中弾など発生する訳がなかった。
 そして襲撃機動最終段階に入った六隻の駆逐艦は、各駆逐艦長が自ら信じる必中距離とタイミングで宇宙魚雷を撃ち放った。高度な宙雷撃戦管制機能を有するカイザー型が存在すれば、完全な統制宙雷撃戦が可能であっただろうが――少なくとも本会戦における結果に変わりはなかった。
 至近距離から発射された宇宙魚雷は各艦二発、計一二発。内三発が機能不全で脱落したものの、残る九発が僅か二隻のミザイラー級に襲い掛かった。それでも混乱の中、近接対空防御で四発の宇宙魚雷を叩き落としたガミラス軍将兵の技量こそ賞賛すべきかもしれない。しかし、残る五発は悉く命中(一番艦に二発、二番艦に三発)、核融合反応の純白のヴェールが消え去った後には、それが嘗てガミラス艦であったことを感じさせる存在は皆無であった。

 ――四八時間後、徴用輸送船、特設指揮艦(輸送船を小改装した艦である為、十分な積載能力がある)、そして六隻の突撃駆逐艦に至るまで、希少鉱物資源を詰め込めるだけ詰め込んだ(さすがに駆逐艦だけは艦内積載ではなく輸送用コンテナを曳航した)輸送船団はタイタンを後にした。懸念されたガミラス艦隊の追撃も遂になく、船団は一隻も欠けることないまま未だ赤い地表を晒し続けている地球へと無事帰還を果たす。
 無傷で帰還した船団の姿と『ミッキーマウス作戦』成功の報は、未だ高濃度放射能の脅威に苛まれ続けている全人類に対して大々的に宣伝された(二隻ほぼ同時に爆沈するミザイラー級の光学映像すら公開された)。

 本作戦の名称に“ミッキーマウス”を提案したのは、防衛艦隊司令部付の若い女性士官であったという。実は、作戦立案時に実施部隊から提案された“別の”作戦名称がほぼ内定していたのだが、作戦成功後の市井に対する宣伝効果を考えれば本名称の方が相応しいとして、作戦実動直前に急遽変更が行われたという経緯があった。
 結果的に、その変更は英断となった。作戦結果と世界的に有名なキャラクター名への親しみやすさから、“ミッキーマウス作戦”は世界各地の地下都市で逼迫を続ける市民たちの士気高揚にも大いに貢献したからである。
 だが、あまりにメディアで“ミッキーマウス”が連呼されたため、一時は著作権者(企業)から地球防衛軍に対して法的クレームと無許可名称使用に対する賠償請求が行われた。しかし、その事実が明るみ出るや、今度は市民側から企業に対して凄まじいほどの非難が殺到、慌てた企業が急いで告訴を取り下げ、“地球防衛軍に対してのみ”名称の無許可使用を認めて謝罪する騒ぎにまで至っている。
 それは、種としての滅亡すら目前に迫った戦時であっても、そこに人間が集団で存在し、社会生活が営まれている限り、“日常”は存在し得るということを示す何よりのエピソードであったのかもしれない。
 尚、“ミッキーマウス”作戦の改称前の名称は“ネズミ輸送”であったという。その名称を提案した、ある女性駆逐艦長は作戦開始直前の名称変更と新作戦名を知らされると、天を仰いで軽く嘆息し――自艦の主計士官に、規定量以上の宇宙魚雷の確保を指示したとされる。

 2200年1月はミッキーマウス作戦の成功以外にも、新たな兆し(きざし)があった。
 土星圏で地球駆逐隊が初めてガミラス艦を正面から粉砕していた頃――地球軌道上では待望の新造艦艇の公試が行われていた。小粒ながらも地球防衛艦隊の切り札として完成した“ハント型フリゲート”である。




 人類初の波動機関搭載艦である宇宙戦艦ヤマトの完成、カゲロウ型突撃駆逐艦の簡易波動機関換装工事、そして火星に不時着したイスカンダル王室専用船の調査分析を経て建造が開始された、初の量産新造艦艇であった。何より特筆すべきは、設計時点から波動機関の搭載が考慮された初めての宇宙艦艇であるという点だ(“あの”ヤマトですら、建造中艦艇に波動機関を強引に搭載したのが実情であり、設計時から考慮されものではない)。
 完成に至るまでには様々な苦難・苦闘があったが、公試において一番艦『ハント』は目標を上回る性能を発揮、関係者全員を安堵させた。また、第一ロットとして並行建造されている二番艦から四番艦も既に竣工直前であり、新編が決定した戦隊司令・司令部スタッフはもちろん、各艦艦長や幹部乗員の選抜も最終段階に至っていた。

 ミッキーマウス作戦に続く、『ミッキーマウスII』は本型四隻の就役を待つ形で2200年5月の実施が決定された。
 参加戦力は前回のものに加えて、第一一戦隊と命名されたハント型フリゲート四隻、そして輸送力として民間徴用貨物船が更に二隻加わっていた(アドバンスド・カイザー型は未だ波動機関及び主兵装換装工事中であった為、本作戦にも不参加)。
 新編の一一戦隊については、訓練期間の点で未だ完熟には程遠い状態であったが、宇宙戦士訓練学校長から同戦隊司令に転じた土方竜提督が、自らの異名である“鬼竜”の名に恥じない猛訓練を麾下部隊に課すことで、辛うじて戦力化に成功していた。
 尚、本作戦は地球防衛艦隊(地球防衛軍)の上部組織である国際連合から、より早期の発起が希望されていた。しかし、防衛艦隊司令部がこれに強く反対し、この時期まで作戦開始を引き延ばした経緯があった。
 地球防衛艦隊司令部にしてみれば、“たかが”一度の小さな勝利で浮かれるつもりは毛頭なかった。八年にも渡り戦い続けているガミラス軍は確かに強大であったが、同時に狡猾でもあった。『ミッキーマウスI(ミッキーマウスII実施が確定した時点で、前作戦名には“I”が冠せられた)』における地球艦艇能力の“激変”は、既に残存ガミラス軍内で周知されているものとして行動すべきだった。
 事実、“ミッキーマウスI”において撃沈されたミザイラー級は、その断末魔に地球艦艇の機動性能データを最大出力で発信していたし、土星圏のガミラス基地も観測した戦術データを残存戦力間で共有を図っていた。
 だからこその第一一戦隊参加であり、更に地球防衛艦隊司令部はこの作戦によって太陽系内に潜伏するガミラス残存艦隊を可能な限り誘出、まとめて殲滅する意図であった。
 もちろん、おびき出した敵戦力が予想より遥かに巨大であった場合、逆にこちらが殲滅されてしまうリスクもあったが、元々の在太陽系ガミラス艦隊の規模(各種戦闘艦約四〇隻)と、ヤマトから報告のあった戦果報告を照らし合わせれば、その可能性は極めて低いと判断された。
 残存ガミラス艦隊は、“ミッキーマウスI”実施以前ですら一〇隻以下という判定評価であったし、それらにても一箇所に集結している訳ではなく、整備能力の限界から拠点ごとに分散展開しているものと見られていた。
 故に、“ミッキーマウスI”立案時には、残存ガミラス艦隊が全力で迎撃に出ることはないと判断された。補給にも支援にも事欠く孤立した状態で、戦力の過剰投入を行うなど、戦力の経済的運用と戦術原則の徹底ぶりでは地球防衛艦隊司令部以上とまで評されるガミラス軍が行う訳がない――そう考えられたからだ。
 その点で言えば、“ミッキーマウスI”において襲撃してきたのが“僅か”二隻のミザイラー級であったのは、決して偶然や僥倖ではない。過去の地球艦隊との戦闘結果、それに基づく戦力評価からすれば、ミザイラー級二隻は極めて妥当な戦力投入量だった(もし地球駆逐隊が従来のままの能力であれば、ミザイラー級は無傷の内に地球船団を全滅させていたであろう)。
 しかし、この“ミッキーマウスII”では状況が大きく異なる筈だった。
 地球艦艇の“激変”を考慮した戦力の再評価が為されていることは最早必至であり、更に地球艦隊が前回以上の戦力(戦闘艦艇一〇隻)で出撃すれば、必ずガミラス軍も稼働全戦力(最大でも八隻程度)を投入してくるものと予想された。
 著しく強化された地球艦隊を完全に殲滅するには、未だ個艦戦闘能力では確実に優越するガミラス艦艇を以ってしても、それだけの数が絶対に必要であったし、また、補充が期待できない状況下では、投入戦力量を最大化することで相対的に損害を最小化させる必要もあった。
 もちろん、残存ガミラス軍指揮官が戦力の保全を図り、迎撃そのものを断念するという可能性もゼロではなかったが、それならば“ミッキーマウスII”は何の障害もなく無事に完遂されることになり、回収した資源を活かした更なる戦力強化後に、改めて討伐作戦を実施すれば良い――。
 ともかく今は、ガミラス軍にとっては未知の存在であるハント型フリゲートを投入することで確実に得られるであろう衝撃力(奇襲効果)を、最大まで引き出す作戦構想が必要だった。
 これから始まる戦いのリングに上がる両者は、どちらも“後”が無かった。一方は母星ごと滅亡寸前にまで追い詰められ、もう一方はその国是的価値観――勝利か、然らずんば死か――から撤退・帰還を許されない者たちであった。
 地球艦隊、ガミラス艦隊共に敗北によって戦力を失ってしまえば、それが補充される望みは限りなくゼロであり、故に両者は戦闘前から知力を絞り、その準備に死力を尽くした。
 その点で言えば、既に戦(いくさ)は始まっていた。それぞれの根拠地で、工廠で、補給処で、司令部で、限られた物資とエネルギー・人員をやり繰りし、出撃する艦の整備と維持に全力を注ぎ、敵戦力の分析に寝食を忘れて没頭する――そんな後方要員同士の戦いはとっくに開始されていたからだ。

 これから起きる戦い――ミッキーマウスII作戦――は、後に地球防衛艦隊が戦うことになる幾多の大規模会戦に比べれば非常に小規模なものであった。参加艦艇数や艦の規模で言えば数一〇分の一、いや、百分の一にも満たない、極めてささやかな戦いであった。
しかし、互いの存亡を賭けているという点では――紛れもなく“決戦”であった。




――つづく。

えーーー実は、この文章の元々のタイトルは『リヴァモア級突撃駆逐艦』でした。
はい、“我が家”世界における『さらば/2』の“駆逐艦”です。
地球防衛艦隊宙雷戦術の申し子のような艦ですから、やっぱりガミラス戦役時の駆逐艦の活躍から触れなければいかんよなぁ・・・・・・と思って書き始めてみれば・・・・・・止まらない止まらないガミラス戦役・・・・・・(;´Д`A ```
気が付けば“ミッキーマウス作戦”とか名づけて悦に入り、しかも“Ⅱ”ってどうなんよ・・・・・・(汗)
で、結局『リヴァモア級突撃駆逐艦』用妄想としては完全ボツとなり(そちらは改めて書きます)、この『続・地球防衛艦隊2199』に生まれ変わった(?)訳ですw

先日の予告の際には『戦術局面にまで踏み込んで・・・・・・』と書いておきながら、今回の前編はほぼ情勢説明に終始してしまいました(唯一の戦闘局面は突撃駆逐艦のダイブだけ^^;)
次回後編はほぼ一〇〇パーセント戦術状況で行きますので・・・・・・どうかもう少しだけお付き合いください(^_^;)
後編の公開は、日曜日の予定です。
それでこの入院中に書き溜めた文章はカンバンです、はい。

ところで昨夜のNHKスペシャル「終戦 なぜ早く決められなかったのか」は非常に考えさせられる番組でしたね。
『組織』というものが根源的に持っている危うさと、それに呑まれてしまった『個人』がいかに愚劣足り得るのかということを非常に際立たせる内容でした。
そしてそれは、悪し様に言われることの多い軍部のみならず、文民組織である外務省とて同じことでした。
もちろん私は『組織』というものを否定する者ではありません。
いつ登場するか分らない天才に頼らずに、常人だけで社会を健全に維持していく為には『組織』は不可欠なものです。
ただ、『そこには常に危うさが潜んでいる』ということを認識できているかいないかで、『組織』構成員たる『個人』は随分と変わってくると思います。
昨晩あの番組を見て、自らが所属する組織のことのみを考え、決断を先延ばしにし続けた軍人や政治家、外務官僚の姿に、震災後の原発に係る政府や某電力会社の対応を重ねてしまった方も多いのではないでしょうか?
少なくとも私はそうでした。
その点、この国は本当に歴史の教訓を活しているのか?と思い知らされた夜でありました。
いや、もちろん『NHKという“組織”にそんなことを言う資格があるのか』という、いつもながらの御意見もあるでしょうが、それはまた別次元の話だと思いますねw

本当はもっと言及したい事件があるんだけどなぁ・・・・・・でも、それはまた後日にします。

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退院いたしました♪ヾ(〃^∇^)ノ♪

2012-08-15 11:52:36 | 雑談など
昨日、予定より一週間以上早くに退院することができました(^_^)
入院していた病院は大阪市内にあったのですが、いつものように朝五時に目覚めてみると、窓の外がとんでもない雨で絶句してしまいました。
全国ニュースになる程のひどい水害で、鉄道・道路交通も大混乱、一時はどうなることかと思いましたが、幸い、自宅のある神戸の方は被害や影響も殆どなく、お昼前には退院して帰宅することができました。

で・・・・・・今なぜか家に新1/1000ヤマトが二つも・・・・・・。


一つは、退院が決まった日に私がamazonでポチッて着日指定の本日到着したもの。
もう一つは、昨日家に帰ったら、私の机の上に置いてありました。
妻からの退院祝いでした(^^;)
私が入院中に欲しい~~~って言いながらHJや電ホビを読んでいたのを覚えていたらしいです(その時には、病人がガタガタ言うんじゃない!と一喝されましたが・・・・・・)
電機屋さんのオモチャ売り場で『新しいヤマトのプラモデルはどれですか?』と店員さんに聞くのは死ぬほど恥ずかしかったのだそうです。
いや、ホンと、君は良い奥さんだよ、本当にありがとう。
でも・・・・・・amazonでもう注文していたなんて知れたら、恐ろしい目にあわされそうなので(妻が今日は仕事で本当に良かった!)、そっと隠しておきます・・・・・・[岩蔭|] '')そぉ-

えーーー(恥)、『続・地球防衛艦隊2199』退院前に無事書き上がりました。
明日前編を公開しようと思っています。


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たまには、普通の話など。

2012-08-13 11:51:14 | 雑談など

なんでも、オリンピック某スポーツの某国選手の銅メダルが頂戴できるのか、試合後に行った“ある政治的主張”を含んだパフォーマンスの結果、大変怪しくなっているのだそうです。
スポーツと平和の祭典であるオリンピックにおいて、政治的パフォーマンスが禁じられている・・・・・・どちらかというと“常識”に近い感覚で知っていましたが、ちゃんと憲章にも明記されているっていうのは、恥ずかしながら初めて知りました。

で、その政治的主張を行った理由は、興奮しすぎて・・・・・・なんだそうです。つまりは、勢いで、と。
その理由はちょっと残念ですね。
『メダルが剥奪されることは分かっていました。でも、それでも主張したいくらい、我々には重要なことなのです。もちろん、他の選手や監督、コーチも皆同じ考えです』くらい言ってくれれば(そして実態がそうであれば)、また違った見方ができたかもしれません。

主張及び手段の是非はともかく、少なくともそこには、手に入れたメダルを失う“覚悟”があるから。

でも、どうやらそんなたいした物(者)ではなかったみたいです。
あくまで現時点でのものですが、『覚悟もなく勢いだけで行った、周囲(チームメイト含む)にまで多大な迷惑をかける愚劣な行為』というのが私の感想です。

あーーー、でも日本人にも間接的に責任の一端があるかもしれません。
もしこれがオリンピックという衆人(世界)環視のシチュエーションではなく、某国と日本だけのシチュエーションであったなら、あのような行為があっても、日本はうやむやの内に済ましてしまった可能性が高いと思います。
某国の方々は“それ(日本相手の行為は、何時でも何所でもナーナーで済まされる)”に慣れ過ぎておられるのかもしれません。
その点を思えば、我々日本人も反省が必要かもしれませんね(もちろん半分以上イヤミですけど)。
世界の人々は、公に定められたルールに安易な例外を認めてくれるほど甘くもありませんし、日本人のようには斟酌もしてくれませんから。
もはや弁解の余地はありませんが、多分ご本人は一生後悔されるんだろうなぁ・・・・・・もう取り返しはつかないですけど。

あくまで私の勝手な想像ですが、某国のそんなところ(スポーツの場にまで政治的ウンヌンを持ち込む)は、殆どの某国の人も内心では恥ずかしい、下品なことだと思ってらっしゃるのではないかと思います(むしろ、そうであって欲しいです)。
ただ、日本に関することについては、それを“恥ずかしい”と言えない雰囲気が国全体にあるのかもしれません。
もし自分が、そんな窮屈な世界に生きていたら・・・・・・と思うと、大変気の毒にも思いますが。

でも・・・・・・これで本当にメダル剥奪とかになったら、某国の(一部の過激な)人々はオリンピックの旗を燃やしたり、IOC会長の写真を破ったり、踏み付けたりするのでしょうか・・・・・・。
本当にそれはやめといた方がいいですよ、いや、ホンとに、特にアングロサクソンの方々にシャレや“伝統芸能”は通用しないどころか、逆効果ですから。

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