むらぎものロココ

見たもの、聴いたもの、読んだものの記録

ほんとうの空色

2005-07-15 13:29:00 | 本と雑誌
balazs
 
 
 
 

Bela Balazs(1884-1949)


ベラ・バラージュ「ほんとうの空色」(岩波少年文庫)

「最初の色彩映画を見たときの私の興奮は、最初の飛行機が空へ昇って行くのを見たときの興奮にたいへんよく似ていた」(ベラ・バラージュ「視覚的人間」)

ベラ・バラージュは映画草創期の理論家として知られているが、ジェルジ・ルカーチとともに設立した「タリア協会」において新しい演劇の上演をめざしたり、コダーイを通じて知り合ったバルトークのバレエ「木製の王子」やオペラ「青ひげ公の城」の台本を手がけたりするなど、演劇人としての活動がそもそものベースにあった。

第1次大戦終結後の1919年にバラージュはハンガリーからウィーンに亡命する。この亡命時代に彼はマルクス主義を本格的に学ぶようになるが、その一方で新聞に鋭利な映画評を書くなど映画批評家としても活動するようになった。映画美学を確立しようと試みた「視覚的人間」はこの時期に書かれたものであり、彼が最も気に入っていたという童話「ほんとうの空色」が書かれたのもこの時期だ。

お昼の鐘が鳴る頃にたった1分間だけ咲く花から絞った青い汁で絵を描いたら、太陽も照れば月も輝き、雨も降れば雷も鳴る。それは「ほんとうの空色」だった。
屋根裏部屋にある大きな道具箱のふたをその「ほんとうの空色」で塗ったことにより、主人公の少年は自分だけの世界と秘密を手に入れる。ここには、暗い部屋の中で映画という新しいメディアの可能性にうちふるえたに違いないバラージュの悦びが見事に定着されている。
この物語は少年期の終わりを刻んで閉じられるが、フェルコーがジュジの青い眼に見たものこそ、色彩を用いた映画がさらに高い段階へ達する可能性だったのである。