59話 恩 （サンジ登場-18）

（1）東の海編--→⑤サンジ登場--→［ドン・クリーク海賊団.5］



ゼフへの恩返しの為に命を投げ捨てようとするサンジに、ゼフは「サンジ!!余計なマネするな！」と止めるも、サンジの決意は固い。あの日からずっと、ゼフから受けた”恩”に報いることを考えていたのだから、その思いがそう簡単に覆るわけがない。

サンジはふらふらになりながらも「余計なマネはどっちだよ、その右足さえ失ってなきゃ、こんな奴らになめられることはなかった。」と悔しそうに言う。

他のコック達はここで初めて気が付いた。サンジがこの店に拘っている理由は、ゼフへの恩返しであることを。
必死で立ち上がってくるサンジが、ギンにはもどかしかった。命の恩人の命を助けたいのに、なぜ伝わらない！意地さえ捨てれば助かるというのに、なぜわからない！？
ギンに「なぜ、立ち上がる?」と聞かれたサンジは、ニッと笑って力強く答えた。
「一時でも長く、ここがレストランで在るためさ」


その言葉にサンジの覚悟がつまっていた。
自分の命より、ゼフの夢であるレストランの方が大事なのだ。助けられた命を、ゼフの為に使おうという覚悟で生きてきたのだ。
ゼフは、悔しそうにうなった「クソガキが・・・」
ギンもまた、そんなサンジの意地が悔しくて歯軋りした。



ゼフの身を案じて一切の抵抗せず、一方的に殴られて死を待つばかりのサンジを黙って見ていたルフィは「この船、沈める。」と言うと、【ゴムゴムの戦斧】で思いっきり伸ばした足をバラティエのヒレに叩きつけて、ヒレを叩き割ってみせた。

これにはサンジもコック達も、船を奪う気でいたクリーク海賊団も驚いたが、只一人、ゼフだけはふっと笑っていた。
「てめぇ正気か?おれが今まで何のためにこの店で働いてきたと思ってんだ!」と激怒するサンジに、ルフィは「だって、船ぶっ壊せばあいつらの目的なくなるじゃん」と答えた。



「てめぇが、おれの受けた恩のでかさとこの店の、何を知ってるんだ!!」と怒り心頭でルフィに詰め寄るサンジに、ルフィは心からの怒りでサンジの胸ぐらを掴んだ。
「死ぬことは、恩返しじゃねぇぞ!!!そんなつもりで、助けてくれたんじゃねェ!!!」


ルフィの脳裏には、海王類から自分を助けるために、左腕を犠牲にしてくれたシャンクスの事があった。シャンクスは、そんなために自分の身を犠牲にしたわけでない、生かしたかったんだ、それはゼフも同じはず。

「生かしてもらって死ぬなんて、弱ェ奴のやることだ!!!」
サンジにはルフィの怒りがわからなかった。サンジだって死にたいわけではない、だけどこうする他に恩を返す道がないのだ。



二人のケンカをよそに、パールの攻撃が始まった。
だが、サンジよりもルフィよりも先に動いたのはギンだった。ギンはゼフから離るとその手に持つ鉄球の武器の一撃で、パールの鉄壁の防御を砕いて沈めた。


「ギン、てめェ!!裏切るのか!!!!」怒りのドン・クリークの叫び声が響き渡ったが、ギンは「申しわけありません、ドン・クリーク。おれ達の命の恩人だけは、おれの手で葬らせてください」と答えた。

ギンは、「東の海」を制した大海賊艦隊　ドン・クリーク海賊団の”戦闘総隊長"であり、その非情さから”鬼神（きじん）”と呼び畏れられた存在だったのだ。