もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記・32 ・・・ 「わかる」ってどういうこと?

2018-10-25 14:45:41 | E市での記憶
アタシ、4年生ぐらいのころ
みんなの前で大泣きしたことある。

日曜日、お仕事もお休みで
遅めの朝ご飯食べてたのかもしれない。

おとうちゃんもおかあちゃんも
茶の間に一緒にいたと思う。

おねえちゃんは、もう中学生で
遠くの町に「げしゅく」してて
お休みだけど帰ってきてなかったのかな。
そのときはいなかったと思う。


アタシはどうしても聞きたいことがあって
思い切っておとうちゃんに聞いてみた。

「ねえ、わかるってどういうこと?」

おとうちゃんは一瞬
目が大きくなった。

「・・・どんな時のこと、言ってるのかな」


アタシはつっかえつっかえ
それでも説明しようとした。

「あのね、誰かと話するでしょ」

「そのとき、相手の子が言ってること
アタシほんとにわかってるのかな」

「相手の子もアタシの言うこと
ほんとにわかってるのかどうか
どーしたらわかるの?」


おとうちゃんはなかなか
返事してくれなかった。

「うーん・・・」って。


アタシはアタシの説明が悪いんだと思って
もっとくわしく言ってみた。

「たとえばね・・・」

「相手の子とアタシとで
おんなじ言葉使ったとしても
意味はおんなじなのかなあ」

「相手の子は、アタシの言うこと
わかってるみたいに返事するけど・・・
で、アタシもまた、それわかったつもりで
もっとしゃべるけど・・・」

「でも、ほんとにアタシの言うコト
相手の子に通じてるんかなあ」

「アタシも相手のいうコト、ほんとは
ようわかってないんやないかなあ」

そのあたりから
もう涙が込み上げてくる。


おとうちゃんが黙ってると
集まってきたカンゴフさんたちが
代わりに返事してくれた。

「きっとお友だちはわかってるんよ」
「ねねちゃんもわかってるんだよ」
「そこまで考えなくていいのよ」


おとうちゃんがいるときは
おかあちゃんは答えてくれない。
おとうちゃんにまかせてあるみたい。

おとうちゃんはいつも
何か聞いたら必ず答えてくれる。


でも、そのときは結局
おとうちゃんは、はっきりとは
返事してくれなかった気がする。

お父ちゃんの顔には
ねねに何か答えてやりたいって
書いてあるみたいに見えたのに。


アタシはアタシで
カンゴフさんたちの言ってることは
アタシの聞いてることとは
違ってる気がして
聞けば聞くほど、言えば言うほど
だんだん怖くなってきて・・・

最後は、わあわあ泣いてしまった。


なんだか誰にもわかってもらえない気がした。


でも、とにかく口に出せたし
泣くだけ泣いたら気が済んだのかな。

その後のこと覚えてないのは
その場がそれでおさまったからだと思う。



アタシは「わからない」が苦手だった。
なんだかとっても
悪いことみたいな気がして。

「わからない」と
不安で不安でしょうがなくなって
誰かに聞こうとしても、すぐ
涙ナミダになっちゃって
なかなかうまく聞けなかった。


それでも、あのときのおとうちゃんの
うつむいて考え込んでる顔は覚えてる。


カンゴフさんたちは優しかったけど
おとうちゃんは優しさより
たぶん正確さを優先したんだ・・・って
もっと大きくなってから思った。

もしかしたら、おとうちゃんも
そーゆーこと考えたこと
あったのかも。







(「さよなら クリストファー・ロビン」(高橋源一郎)を読んで思い出したので)


   https://blog.goo.ne.jp/muma_may2/e/5c8df7dcced514def8d3a57cba91f0a1(ねねの日記⑯「なぜ? どーして?」)
 
   https://blog.goo.ne.jp/muma_may2/e/ec782d067ad7b1b6a8cc4c3afb9ca4ac(ねねの日記⑰「おとうちゃんのカマクラ」)


   
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