もうひとつの部屋

昔の記憶に、もう一度会える場所にしようと思っています。

ねねの日記・38 ・・・ 「トーダイ」と地図と音楽と  

2019-05-27 15:08:06 | E市での記憶
おとうちゃんもおかあちゃんも
エーガが好きだったんだと思う。


アタシ、初めてみたエーガ
ダイメイぜんぜんおぼえてない。

誰が連れてってくれたのかも
おぼえてないけど・・・

とにかくおねえちゃんは
一緒にいた!

アタシはほんとに小さかったから
きっとおかあちゃんも
いたんだと思う。


うちの裏のエーガカン行って
た~くさんある椅子にすわって
前みるとすごーくおおきなマクがあって

エーガってそこにうつるんだよ。

アタシが初めてみたエーガは
水色の上に黒い線の
ヨクワカラナイ絵があって
そこでおんなじ音楽がなるの。

げんきみたいな
かなしいみたいな
さびしいみたいな音楽。

なんどもなんども
そんな絵と音楽が出てきて
その間にオトナとかコドモとか
いろんなヒトがいたと思う。

アタシは何がどーなってるのか
ぜんぜんわからなかった。

でも・・・絵と絵の間で
みんな汽車とか船に乗ってた。

あちこちおひっこし
してるんだと思った。

アタシもそのとき
おひっこししてきたばっかだったし。


どこに行っても
トーダイが出てくる。

青い海と白いトーダイ。
きれえだよね。いいよね~

音楽きいてるうちに
アタシ寝ちゃったみたい。


次の日の朝、おねえちゃんと
カンゴフさんたちが話してた。

それ聞いてて
アタシはぜんぜん
わかってなかったんだって
わかった。


あの絵は「地図」っていって
あの丸の真ん中に黒い点があって
トゲトゲのついてるのが「灯台」で
あの映画のオトウサンは
そこの灯りが消えないように
番をする人だったんだって。

で、日本中の灯台を回って
旅をしてたんだって。


あのオカアサンが泣いてたのは
きっと悲しいことがあったんだろな。

アタシは何が悲しいのかも
わからなかったけど
みんな「よかったよね~」って。

アタシも早く大きくなって
みんなと一緒に
「よかったねえ」って言いたい。


でも、あとで聞いたら
おねえちゃんも
「お話のすじはようわからんかった」って。

アタシだけじゃなかったんだ。





(ずっと後になって『喜びも悲しみも幾年月』(1957年10月公開)と知った。当時私は3才?姉は5~6才)
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