むじな@金沢よろず批評ブログ

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偽りの友に気をつけろ 「小林村」を日本の「村」にあたると勘違いしている日本の報道について

2009-08-22 22:26:06 | 台湾その他の話題
台風8号による土砂崩れ災害で集落全体が埋まり壊滅した「高雄県甲仙郷小林村」について、日本の報道では「人口1000人の小さな村」という表現が散見されるが、もしかして「中華民国」の地方制度でいう「村」がそのまま字の通り日本の「村」と同格だと勘違いしているんだろうか?

これは日本でいえば、村の中の「字」にあたるんだよ、おおまかにいえば。

もし「小林村」が日本でいう「村」だったら、「甲仙郷」はなんなんだよ!

これは「偽りの友」といって、欧州語でも同系言語の間によくみられる。語源は同じで似たような形をしているが、意味がまったく異なって、誤解が生じるのだ。
日本語、中国語、朝鮮語、ベトナム語、台湾語など、漢字文化圏の言語は、たまたま同じような漢字を使っているからといって、違う意味になることはよくあること。そしてそこに気をつけるのが、日本人の中国語学習の一つの鉄則でもある。
(もっとも、日本の中日・日中辞典でも、あまり頻出しない単語については、意外に胡乱な対訳をつけていることが多いけどね。今まで辞書が間違っていると思った例はけっこうあった。卑近な例でいえば「痛感」だが、少なくとも台湾の中国語では「痛感する」=「痛感」にならない)

もちろん「中華民国」の法制度は、中国大陸時代に日本の戦前の法体系をほとんどぱくって作ったので、用語や概念が日本語そのまま、というのはよくある。しかし、こと地方制度法については、中国歴代王朝伝統のものが流れこんでいるので、かなり違っていて、同じ漢字でもレベルがずれている(中国だともっとすごくて、「市」の下に「県」があったりする)。
台湾の地方制度における「県」「村」はその典型だ。いずれも国民党が広大な中国大陸を運営していたときの制度と名称をそのまま台湾に持ち込んだもの。実際にはいろいろ齟齬が生じているし、権限などの面で必ずしも日本のものと対応するとは限らないが、おおよそ

台湾の「県」=日本の「郡」
台湾の「村」=日本の「字」

にほぼ相当する。

もちろん、日本では郡は、郡制がしかれた明治・大正の一時期を除けば、独自の行政機関が存在せずに、単なる地理的名称になっているから、わかりにくいかもしれないが、郡役所が存在した時期の郡の権限や予算規模を考えれば、台湾の制度にいう「県」は、ほぼ「郡」に相当する。決して「県」ほどの権限はない。

もっとも、台湾の「県」については民主化以降に台湾省の機能を停止して、若干権限を拡大させたことから、1990年代前半以前の日本の「県」に近い機能を果たしているといえ、今となっては、台湾の「県」を日本の「県」と勘違いしても、大きな間違いだとは言えない。
しかし台湾の県を日本の県だと単純に同列視してしまうと、最近決まった台北県などの「行政院直轄市への昇格」の意味がわからなくなってしまう。
また、今回の救援活動でも、「県」ではほとんどどうにもならず、だからこそ中央政府の対応の遅さに非難が集中したように、台湾の県の権限や予算は、いまだに日本の県と比べれば圧倒的に小さいことがわかる。予算は二桁は違うだろう。だから、やっぱり台湾の県は郡程度なのだ。

それに台湾の「市」は台北市と高雄市のような「行政院直轄市」(日本の政令指定都市にあたる)から、「県」と同等の権限と地位を持つ「省直轄市」(現在の台中市や台南市など)、それから「県直轄市」(台北県永和市など)の三つの異なる意味をもったものを含んでいる。

だから、「高雄県甲仙郷小林村」は日本の概念に当てはめれば「高雄郡甲仙村字小林」となる。

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