むじな@金沢よろず批評ブログ

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台湾マスコミの政治傾向(11・16一部修正)

2007-11-15 05:22:27 | 台湾その他の話題
台湾マスコミの政治傾向
中国時報がアホな報道を紹介したついでに、ここで最近の台湾マスコミの政治傾向について紹介しておこう。
緑(独立派あるいはリベラル派)寄り (新聞)自由時報、台湾時報;(テレビ)民視、三立、台視?
中立系:華視、客家テレビ、原住民族テレビ
青(統一派あるいは反動派)寄り (新聞)聯合報、中国時報、リンゴ日報;(テレビ)中視、年代、東森、中天、TVBS

ただし、それぞれ若干微妙に違うし、それぞれの新聞やテレビ局が完全に論調が統一されているわけではない。

個別に見てみると、

自由時報:80年代まではわりと保守的な地方紙だったが、90年代に台北県三重市の李登輝支持の土建屋集団に買収されてからは、本土派色が徐々に強まった。90年代末期は李登輝を熱烈に支持。2000年総統選挙では李登輝の後継者の連戦を支持したが、陳水扁が当選すると、すぐに陳水扁支持になった。ただし、独立派の正統というよりは、対中投資している他の業種への敵愾心から「反統一」というべきだ。年号は西暦を使い、中国を大陸とはせずに中国と呼称している。土建屋が裏についているだけに、本質はきわめて保守的、右派的、時には反動的ですらある。2003年のイラク戦争も米軍の活動を大絶賛していたのをはじめ、2005年ごろに、身分証受領について指紋押捺が強制される問題に対して、自由時報は熱烈に指紋押捺を鼓吹して、民進党系のリベラルな人権団体や法学者からは批判を浴びた。その後も民進党政権の大枠は支持しているわりには、記事や投書欄でも、反原発や楽生院保存などの市民運動には敵対的、ないしは冷淡な態度を取っている。また、2007年の民進党総統選挙予備選挙では、新潮流が嫌いなはずなのに、台北県の土建屋だけに、元台北県長の蘇貞昌を支持、今でも謝長廷には批判を加えている。
だから、はっきりいって、私は好きになれない。反統一の唯一の有力紙だから、他よりマシというだけで、時々買うこともあるが、はっきりいって困った新聞である。
その意味では2006年に倒産して廃刊になってしまった「台湾日報」が惜しまれる。同紙は最初は台湾プラスチック資本だったが、2004年ごろから台湾本土派資本の共同出資および社員持ち株で、台湾独立もはっきりしていて、なおかつリベラルで、市民運動の動向や投書もよく載せていた。

台湾時報:高雄市を中心とした地方紙だが、最近台北でもよく見かける。今年1月まで台聯主席だった蘇進強が社長を務め、台湾独立派の学者もよく寄稿しており、紙面も緑を主体にするなど、緑寄りなのは間違いなく、今は亡き「台湾日報」を継ぐものかと期待したが、蘇進強は2006年に陳水扁罷免の動きを示すなど、緑派としての立場に疑問な点も多い。年号も中華民国暦を主体にして、一面だけ西暦を括弧にしているだけで、市民運動にも冷淡なので、台湾日報ほどのリベラル性は見出せない。そういう意味で、「台湾日報」がなくなったことは、返す返すも非常に残念である。

民視(全民民間テレビ):蔡同栄ら民進党系が主体となって1996年に開局したもので、当初から台湾語ニュースを行ったり、ニュースの伝え方も基本的には民進党寄り。しかし社長クラスには陳剛信という国民党員を使っており、さらに記者など現場レベルでは8割が国民党・青陣営寄りだと言われている。ニュース処理も、明らかにTVBSに引きずられている部分もある。もっとも、2006年の陳水扁打倒運動の際には、この局だけが、ほとんど同運動の動きは伝えず、冷静さを保っていた点はよかった。ただ、全般的にニュースの質はまだまだ。討論番組「頭家来開講」はかつて国民党寄りの胡婉玲がやっていて緑支持層から不評だったが、昨年になって童仲生という深緑に交代して若干持ち直したが、童の司会があまりうまくないことと、民進党の公式見解に引きずられていることもあって、「大話新聞」の後塵を拝している。

三立テレビ:経営者は本来カラオケビデオの配給会社だったが、有線テレビ時代になってテレビに投資した。台湾語専門チャンネルの「三立台湾台」は人気。しかしニュースチャンネルは経営者の外省人妻が管理していたこともあって、長い間宋楚瑜寄りだった。しかし2006年秋の陳水扁打倒運動を契機として、突如緑寄りに転向した。ただし同運動をほとんど無視した民視とは違って、同運動のニュースばかりを流していたが、マイナス面を探して流すという手法だった。ニュースの質はあまり高くなく誤報もはっきりいって多いが、躍動的なつくりで、人気がある。台湾現代史に関するドキュメンタリはわりと良くできている。民進党関係者や支持層も今や主に三立を見ている。ただし、まだまだ青寄りだったころの尻尾は残っており、特に昼間から夕方についてはその傾向が強く、中国のことを「大陸」ということも多い。中正記念堂については民進党政府の方針に沿って「台湾民主記念館・民主公園」と伝えている。

台視(台湾テレビ):台湾で最も古いテレビ局で、60年代に米国情報機関などの肝いりでできた。その関係で、韓国の独裁政権の御用局・文化放送(MBC)、日本のフジテレビなどと姉妹提携関係があり、日本企業も20%ほど持ち株があり、大株主は台湾省政府だった。90年代には伝統局の中では比較的報道は公平なほうだった。また、韓国のMBCが進歩政権成立でむしろ最も進歩的になったように、2000年の民進党政権成立で、伝統的な3局の中では最もリベラルになった。とはいえスタッフレベルでは9割が国民党系。2006年に政府持ち株の民間払い下げの過程で李登輝系が取得。今のところまだまだ本土派だが、今後李登輝の統一派傾斜につれてどうなるかは要注意。

華視(中華テレビ):もともとは軍と教育部が株をもつ保守的な局だった。しかし民進党政権下で徐々にリベラルなものとなった。とはいえまだまだ保守的な軍や教育部の人脈があるので、同じ伝統局の中では台湾テレビほどリベラル化は進んでいない。2007年に公共放送網の一つになった。

公共テレビ・客家テレビ・原住民テレビ:政府機関傘下のテレビ局で、2007年1月から公共放送網(TBS)に所属している。民進党政権になってからできた少数エスニシティのためのテレビ局なので、基本的には中立もしくはリベラルである。しかし、原住民族テレビは一部に統一派原住民団体の系統がもぐりこんでいる。ちなみにNHKにあたる公共テレビはニュースについてはリベラル寄りだが、ドラマ部門などは国民党系が多い。

蘋果日報(リンゴ日報):ジョルダノなどももつ香港のリバタリアンな資本家黎智英の出資で2003年に創刊。カラーや写真を多用した派手な紙面で一躍自由時報と対抗する有力紙に躍り出た。当初は宋楚瑜寄りの傾向が目立ったが、編集局には緑系も青系もそれぞれ拮抗していることから、現在はそれほど強い政治傾向は見られない。中国を大陸などと呼ばず中国と呼び、中華民国年号を使わず西暦を使っていたり、「蘋論」という社説はやや緑寄りの陳裕[金*3]や卜大中が書いている。しかし、並んで載っている評論「司馬観点」は一時民進党政権にもいたが今は反陳水扁色が強い論調。バランスを取ったつもりなのかも知れないが、やっぱり若干青寄りだと思う。ただし、2006年の陳水扁打倒運動のときは、かなり抑制された報道をしていた。

中国時報:90年代までの伝統紙。創業者の余紀忠は国民党幹部ながら80年代までは比較的開明派で知られたこともあって、比較的高級感のある中立的な紙面づくりだった。日本の読売新聞を模範にしていたという。しかし2002年ごろから宋楚瑜など青系保守派に大きく傾斜。2006年には統一派系週刊誌「新新聞」編集長の王健壮になってからは常軌を逸した国民党保守派系煽動新聞となり、同年の陳水扁打倒運動ではその機関紙の様相を呈して、毎日この運動に7-8面を割く異常ぶりだった。その後も国民党機関紙と目されるほど偏っているが、しかし意外に謝長廷にはそれほど悪くはない(謝長廷の当選を予想していて、保険をかけているのか?)。90年代までに日本人で台湾に携わった人の間では、そのころの「中立高級」イメージから中国時報をとる傾向が残っているが、それは過去のものであって、現在の中国時報ははっきりいって読む価値はない。中国資本が流入している。

聯合報:90年代までの伝統紙。創業者の王吾は国民党幹部で、中国時報よりも保守的。その立場は一貫して変わらず、現在でも深藍・大中国・反動主義の立場を頑固に堅持している。しかし中国時報が何かと策略を用いた意図的な誤報や情報操作が多いのと比べると、素直に保守反動的であまり策略はない。その素直の姿勢から意外に緑陣営からの評価は高い。年表や一覧表など使える資料づくりもうまい。そういう意味では今や下手に中国時報を読むくらいなら、聯合報のほうが良い。中国資本が入っていると見られる。

中視(中国テレビ):伝統的3局の一つだが、これだけは政府機関ではなく、国民党本部直系だった。今も国民党系メディア事業者が経営しており、国民党反動派の立場を露骨に代弁している。TVBSや中天よりもさらに偏っている。しかも、夜8時台のドラマは2000年以降に多くの局が視聴者に人気がある台湾語になったのに、この局だけは北京語ドラマを流し続けて、視聴者を呆れさせた。そのため一番人気も低い。中国資本が入っていると見られる。

TVBS:90年代前半の有線テレビ開放の火付け役の一つとなった香港TVB系のテレビ局。当初は国民党政権批判で人気を高めたが、2000年の民進党政権以降は反台湾独立の反動的な立場を鮮明にした。特に夜の一連の討論番組。しかし当初のリベラルな気風で集まった若手の現場スタッフの中には意外と緑寄りの人間も少なくないとされ、一時期昼夕には台湾語ニュースなどもやっていた。蘇宗怡は個人的には好みだ。

中天:経歴は複雑で、開局当初は局名通りに「中国」系香港資本が介在し、その後李登輝寄りの財閥辜家の「和信」グループの傘下となったことで民進党などにも好意的となった。しかし2000年前後には国民党系企業が買収し、スタッフには宋楚瑜シンパが多くなった。その後中国時報が買収したので、立場的には中国時報と同じ反動的。いまだにニュースでは桃園空港のことを「中正」空港と称しているくらい。ただし英BBCやアルジャジーラなどと提携していることもあって、海外ニュースはけっこう良い。中国資本が入っている。

年代:TVBSに関わっていた親中派台湾人資本家・邱復生が作った局。台湾人とはいえ親中派なので、立場は当然反動的。ただし、スタッフには緑系もかなりいるし、時々立場がブレる。中国資本が入っていると見られる。

東森:外省人財閥王一族の「力覇」グループ系だが、王一族の中では最も台湾人に理解がある王令麟が所有する。青系テレビ局の中では、唯一台湾資本とはいえる。ただし、立場のブレは激しく、ほぼ一ヶ月くらいのスパンで、陳水扁寄りになったかと思えば、陳政権罵倒が最も激しくなったりしている。何が原因なのかわからない。2006年の陳打倒運動の時には一番積極的に運動に肩入れしていた。


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