むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

映画「プライドと偏見」

2006-02-04 19:16:38 | 芸術・文化全般
先日、こちらの農暦元旦に映画「プライドと偏見」と「シリアナ」を見てきた。
この日は日本からの友人と会うための時間つぶしも兼ねて、前から見ようと思っていたこの二つを西門町の「絶色」で見た。絶色は、わりと芸術映画を上映する「総統」と同じ系列だけに、ちゃんとエンドロールも全部上映してくれるので、わりと気に入っている映画館。台湾の映画館の中には、本編が終わったら客がみんな帰ることを見越して、私がちゃんと見ているにもかかわらずエンドロールをきちんと流さない酷いところが多いけど、「絶色」はちゃんと流してくれる数少ないところ。

それはそうと、「プライドと偏見」(中国語題名:傲慢與偏見、原題:Pride and Prejudice)は、英国女流作家ジェーン・オースティン(1775-1817年)の同名の小説(1813年)をいちおう原作に忠実に(つまり設定を現代に変えたりせずに)映画化したもの。
1995年に英国BBCが5時間のドラマに仕立てて高い評価を得ている。
内容としては、上流の下階層に属する田舎紳士ベネット家の5人の娘で、最も理知的な次女のエリザベスを主人公として、結婚にまつわる心理の揺れをややコミカルに描いたもの。

映画としてのできばえは、まあまあといったところ。10段階では6か7か。ということはそれほど何回も見たいものではないが、見ておいても損はないというところ。BBCドラマ版のほうが数倍よかったというか、BBCドラマ版はTVドラマとして史上1,2を争う名作といえる。
というのも、ドラマ版では、エリザベスのダーシーへの感情と心理の微妙な変化が、たくみに描かれていたのに対して、映画版ではそれがあまりうまく描ききれず、飛躍があり、消化不良な感じを受けたからである。
また、設定でなんとなくイメージに反していたいのは、ベネット邸がわりと古くておんぼろで、ベネット氏も風采が上がらない人物に描かれていたが、ダーシー邸との対比としてわからないではないが、大金持ちのダーシー家とは収入にして5倍程度の開きで、そんなに悪いわけではないので、あの描き方は誇張しすぎだろう。
エリザベスの親友のシャーロット役に関して、ドラマ版では原作に忠実にわりとブスを配していたが、映画ではわりとかわいい役を配していた。おかげで最初はシャーロットだとはわからなかった。でも顔のいいシャーロットではコリンズ牧師のコミカルさが伝われないと思うが?
ドラマ版が合計5間、映画は合計2時間強という、映画のほうには時間的なデメリットがあるとはいえ、なんとなく心理変化に関係ない無駄ともいえるシーンも多く、そういう点でやはりドラマのほうがよい。
ただ、個人的にはエリザベスの配役に関していえば、ドラマ版より映画版のほうがよかった。顔も好みだし、見た目も原作の年齢設定に近い感じがしたから。ドラマ版は「理知的」という設定そのまんまの顔なんだが、たかだか20歳前後の女性という年齢設定よりは大人びておばさんくさい。それに比べたら、映画版のほうが20歳前後に見えるし、顔もわりとかわいい感じ。

ちなみに、原作の日本語訳はいくつか出ているが、Prejudiceの部分は「偏見」で一定しているが、Prideの部分を「高慢」「傲慢」「自負」「プライド」と訳者によって分かれる。ただ原作のニュアンスとしては「自負」とするのが一番近いようだ(大島一彦「ジェイン・オースティン」中公新書、1997年、p.192-193参照)。
ところが、あきれたことに、今回の映画版、日本で上映するときの邦題がなぜか「プライドと偏見」となっているようだ。「プライド」ってあんたねえ・・・それじゃあ、なんだかスポ根モノを連想して、間抜けなだけだろう。配給会社の人間は、もしかして原作を読んだことがないアフォではないだろうか?
原作は、英米では現在でも最も読まれていて、さらに内容についても評価が最も高い小説になっているくらいなのにね。
私自身、邦訳は新潮文庫の中野好男訳「自負と偏見」と中国語訳で読んだ。
原典のほうはというと、残念ながら途中までしか読んでいない。オースティンの文体は、時代がやや下ったジョージ・エリオットよりも読みやすいんだが、英語でしかも小説系はさすがに骨が折れる。歴史・政治・社会・言語学系だと読めるんだけどな。
エリオットといえば、「ミドルマーチ(Middlemarch)」のほうがオースティンの「自負と偏見」よりも内容的には評価は良いようなのだが、いかんせんあれは長すぎる。邦訳も講談社文芸文庫から出ている、文庫としては値段が高いものの4分冊しかないし、原文はかなり難解で私は1ページで投げ出してしまった。エリオットといえば、翻訳も多く人口に膾炙している「サイラス・マーナー(Silas Marner)」で有名だが、私は、世間ではマイナーで評価が低い「急進主義者フィーリクス・ホルト(Felix Holt: the Radical)」がなぜか好きだ。しかもさすが翻訳大国日本、フィーリクスですら邦訳がある!(冨田成子訳、日本教育研究センター、1994年)

日本の公式HP
http://www.pride-h.jp/

映画の森てんこ森の解説
http://www.coda21.net/eiga3mai/text_review/PRIDE_AND_PREJUDICE.htm

原題:PRIDE AND PREJUDICE
製作:2005年イギリス
上映時間:127分
監督: ジョー・ライト Joe Wright
原作: ジェーン・オースティン Jane Austen  『高慢と偏見』
脚本: デボラ・モガー Deborah Moggach
音楽: ダリオ・マリアネッリ Dario Marianelli
出演: キーラ・ナイトレイ Keira Knightley エリザベス・ベネット
マシュー・マクファディン Matthew MacFadyen ダーシー氏
ドナルド・サザーランド Donald Sutherland ベネット氏
ブレンダ・ブレシン Brenda Blethyn ベネット夫人
ロザムンド・パイク Rosamund Pike ジェーン・ベネット
ジュディ・デンチ Judi Dench キャサリン夫人
サイモン・ウッズ Simon Woods ビングリー氏
ルパート・フレンド Rupert Friend ウィッカム氏
トム・ホランダー Tom Hollander コリンズ牧師
クローディー・ブレイクリー Claudie Blakley シャーロット・ルーカス
ジェナ・マローン Jena Malone リディア・ベネット
キャリー・マリガン Carey Mulligan キティ・ベネット
タルラ・ライリー Talulah Riley メアリー・ベネット


BBCドラマ版については、
BBCの公式ページ
http://www.bbc.co.uk/drama/prideandprej.shtml

ドラマ版の紹介
”>http://www.imdb.com/title/tt0112130/

Pride and Prejudice
First transmitted in 1995 on BBC ONE.
Premiered September 1, 1995
Show Category: Movie/Mini-Series , Drama
Directed by
Simon Langton
Writing credits
Jane Austen (novel)
Andrew Davies
Runtime: 300 min
Country: UK
Language: English
Color: Color
Sound Mix: Stereo
Complete credited cast:
Colin Firth .... Mr. Fitzwilliam Darcy
Jennifer Ehle .... Miss Elizabeth Bennet
David Bamber .... Mr. Collins
Crispin Bonham-Carter .... Mr. Charles Bingley
Anna Chancellor .... Miss Caroline Bingley
Susannah Harker .... Miss Jane Bennet
Barbara Leigh-Hunt .... Lady Catherine de Bourgh
Adrian Lukis .... Mr. George Wickham
Julia Sawalha .... Lydia Bennet
Alison Steadman .... Mrs. Bennet
Benjamin Whitrow .... Mr. Bennet


ちなみに、同じくオースティン原作の「分別と多感」は、台湾出身の監督李安(アン・リー)によって1995年に映画化されている。
李安が手がけたためだろうか、「分別と多感」についてだけは、翻訳大国日本でも邦訳があまりない半面、中国語訳「理性與感性」がいくつか出ていて入手しやすい。

映画の邦題
『いつか晴れた日に』 Sense and Sensibility (米・英/1995)
監督:アン・リー(Ang Lee)
☆第68回(1995)アカデミー脚本賞受賞(エマ・トンプソン)
☆第46回(1996)ベルリン国際映画祭金熊賞(アン・リー)


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