むじな@金沢よろず批評ブログ

台湾、国際情勢、アニメなどについて批評

【一部追加】アラブ唯一の完全自由選挙レバノン国会議員選挙結果(コメント可)

2005-06-21 00:29:24 | 中東
 アラブ諸国としては唯一の完全自由選挙で実施された定数128議席のレバノン国会選挙が19日、最終の北部地域の投票が実施され、隣国シリアによる監視と支配に反対していた穏健派ハリーリー連合が北部のすべての議席を奪取、全国合計で72議席と圧倒的多数を確保した。レバノンのハリーリー派系日刊紙アル・ムスタクバル(未来)などが伝えた(といっても、わたしはアラビア語は見出しが読める程度だが)。

 レバノンでは宗派ごとに議席、主要職位の割り当てがあり、首相はハリーリー派の主体であるイスラーム教スンナ派から選ばれていることになっている。レバノン内戦が勃発した1975年以降シリアの影響力が強い人間が政局主導権を握ってきたレバノン政治は、シリアの意向に左右されない首相が30年ぶりに選ばれることが確実になった。
 レバノン在住の日本人が運営するサイト「ベイルート通信」、キリスト教勢力に近いレバノンの英字紙ザ・デイリー・スター(選挙特集)や日本の各紙などによると、今回のレバノン国会選挙は、5月29日から毎週日曜日に4地区に分けて順次投票を行った。2月14日に反シリアの有力者ハリーリー元首相が暗殺されてから、親シリアのイスラーム教シーア派を除く、ほとんどのすべての勢力がシリア撤退と民主化を要求して連日のデモを開催、シリア軍・情報機関の撤退が完了し、自由が回復した中で行われた。
 選挙では、宗派割り当てプラス選挙連合が絡み合う。宗派別の割り当てがあっても、ベイルートなどで弱いキリスト教徒はハリーリー派が作った連合の傘下に入ることになる。

 宗派別の割り当ては、
 Maronites・キリスト教東方典礼カトリック・マロン派 (34),
 Sunnites・イスラーム教スンナ派 (27),
 Shiites・イスラーム教シーア派 (27),
 Greek Orthodox・キリスト教ギリシャ正教派 (14),
 Greek Catholics・キリスト教ギリシャカトリック派 (8);
 Druzes・イスラーム教ドルーズ派(多くのムスリムはイスラームの枠にあると考えない) (8),
 Armenian Orthodox・キリスト教非カルケドン系アルメニア正教派 (5),
 Alaouites・イスラーム教アラウィ派(多くのムスリムはイスラームの枠にあると考えない)(2);
 Armenian Catholics・キリスト教アルメニアカトリック派 (1);
 Protestants・キリスト教プロテスタント (1),
 Christian Minorities・その他キリスト教少数派 (1)

 実際の勢力分布は、今回の選挙連合の勢力による。選挙連合は主に3派ある:
 (1)民主化運動を主導した反シリア穏健派のハリーリ派(スンナ派)・ジュンブラート(イスラームのドルーズ派で社会主義)・CS(キリスト教勢力の一部で、LF・レバノンの力、カターイブ改革運動ジュマイエル派などを含む)・左派民主運動などで作る「ハリーリー連合」が72議席、
 (2)元反シリア強硬派野党ながら今回ハリーリー派に対抗して親シリア勢力と手を組んだミシェル・アウン将軍率いるキリスト教反主流派連合21議席、
 (3)南部で強いイスラーム教シーア派による反イスラエル親イラン・シリアの抵抗勢力ヒズボッラー・アマル連合が35議席というすみわけとなった。
 毎度、レバノン政治史を読んでいると、そのめまぐるしく合従連衡や立場の変遷が行われていることに目眩を覚えるのだが、今回も内戦時代から反シリア強硬派として知られたアウンが反体制のお株をハリーリー派に奪われたためか今回は親シリア勢力と組み、反政府・反シリア派に乱れが生じたりしている。
 シリアとの関係でいっても、「反シリア派」も大なり小なり親シリア派のヒズボッラーの協力も必要とする関係もあり、またシリア軍が撤退した以上はそれほど親・反の区別が明確にあるわけではない。キリスト教徒の一部は、イスラーム化を心配してか、世俗的なシリアと組んだほうがマシという発想もないではない。そういう意味でも、レバノン政治は奇奇怪怪である。
 これと比べたら、まだまだ台湾政治はわかりやすいし、こんなに節操なく立場がころころ変わることもないとはいえる。
 ただし、いずれにしろ、現在アラブ諸国の中で自由選挙が行われるのは、レバノンだけであり、その意味で選挙後、各勢力がいかに知恵を絞って、民主主義の定着と発展を進めていけるか、注目されるところである。

 レバノン国会のアラビア語名は مجلس النواب, Majlis al-Nuwab、英訳 Assembly of Representatives、フランス語訳 l'Assemblée Nationale HPは http://www.lp.gov.lb/ だが、死ぬほど重い、英語版は工事中で、フランス語版もあてにならない。
 選挙結果については、各国の選挙結果をまとめている Electionworld.org / Elections around the world のレバノン部分: http://www.electionworld.org/lebanon.htm が便利だが、6月22日現在ではまだ前回2000年の選挙結果のままで、最新情報に更新されていない。