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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

豆乳ソフトクリーム~シーちゃんのおやつ手帖107

2009年09月11日 | 味わい探訪
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さすらいー地球岬 7

2009年09月11日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
        7
 苫小牧の夜の商店街は、巨大な駅ビルとビジネス
ホテル以外は、シャッターをしっかり閉じてベッド
の中に沈んでいた。
 オレは、できるだけ人通りのある方へ走った。
あの蓬莱軒のラーメン屋のおやじが追っかけて来な
い距離まで逃げる必要があった。無賃飲食だし、商
売道具の包丁泥棒だし。駅が近くなって居酒屋の明
るい看板が並んでいる路地に終電へ急ぐ人たちが屯
していた。その群れに紛れ込んで来た道を振り返っ
たら、ラーメン屋の禿げ頭ジジイどころか誰も追っ
てくる者はいなかった。
オレは、タオルで巻いた包丁をシャツのボタンを外
してヘソのベルトへ差し込んで又ボタンを留めてお
腹に隠した。
 夜十一時をまわった。オレは拾ったコインを競馬
ゲームの賭け口に入れてベットボタンを押して椅子
に座って暇つぶしにレースを見守ったが瞬く間にハ
ズれた。そしてそのまま椅子に座ってゲームセンタ
ーのガラス窓から向かいのパチンコ店を覗いた。
ちょうど閉店の音楽が流れて疎らな客が残った出球
を清算機に運んでいるところだった。かなりこの店
は、渋いと見えて大当たりは、二人しかいなく最後
まで粘っていた客も数人だった。
 オレは、大当たりしたヤンキーズの帽子を被った
作業服の五十男の後をつけた。
 景品交換所は、線路沿いの駐車場の隅にあった。
外灯と防犯カメラに見守られたプレハブの交換窓口
に五六人並んでいる列のしっぽにヤンキーズ帽のお
っさんはくっ付いた。
 線路沿いに停めてあった250ccのバイクに跨
ってオレは、人を待っているフリをして時間をつぶ
した。室蘭へ向かう液化窒素のタンクを載せた貨物
車両が真横を通り過ぎて行った。鉄の巨大な芋虫が
何匹も連なって行進して行くように長々とつながっ
て王子製紙ののっぽ煙突の彼方へ轟音とともに疾走
して闇夜に消えていった。
 景品交換の客がいなくなると同時に一台のワゴン
車が駐車場を横切って交換所のプレハブの脇に停め
た。中から腕に歌麿の浮世絵の刺青をした坊主頭の
デブが降りてきて、ベルトにつけたキーホルダーか
ら一本のカギを選び出すと交換所の裏口の扉を開け
て、中で景品の仕分けをしていたおばちゃんに「今
日もシケテル?」と軽口をたたいて入っていった。
まあ、おばちゃんと言っても三十代後半か若く見え
なくもない。
 オレは、まわりをキョロキョロ見回しながら防犯
カメラを避けて遠回りにワゴン車に近づいて行った。
 どうやらここのシマは、全体に渋いのと儲けのア
ガリがそんなに多くないらしく景品の引き上げに刺
青のデブの組員一人でやらせているようだ。
 デブがワゴン車のリアハッチを開けて景品を積み
込み始めたのでオレは、ワゴン車の前に回ってバン
パーと同じ高さまで屈んで隠れると交換所の裏口を
覗った。
交換所の中では、化粧の濃いおばちゃんが手提げの
金庫に一万円札を数えながら押し込んでいた。馴れ
た手つきで十枚一束に並べているが早く帰りたいの
かやたら腕時計を気にしていた。
「おばちゃん。間違えるなよ。子供が家でひとりで
待ってるからってすっ飛ばして数えるんじゃねえぞ」
「わたしはね。一度だって計算間違いはないのよ。
社長さんに聞いてみたらわかるって。」
「そりゃ。わるかった・・・ねえ。ガキはもうとっ
くに寝てるって。これ終わったら、呑み行かないか」
「誘惑してるの。ダメダメ。わたし、堅気の人じゃ
ないと付き合わないことにしてるの。プライベート
は。」
するとデブは、捲り上げていた長袖シャツの袖をす
るすると手首まで戻してひひひひぃぃぃと猿みたい
な笑い声を立てた。
「冗談って冗談。おばちゃん。」
そういうとデブは、景品のプレートをものすごい速
さで積み終えて集計現金の入った手提げ金庫をおば
ちゃんから譲り受けて車に乗った。
 オレは、車の助手席のドアを開いて中に入るとデ
ブに包丁を突きつけて金庫を渡せと低い声で脅した。
「てめい。やめろ。タダじゃスまねえぞ。」
とくるくると袖を巻き上げて筋肉隆々の刺青の腕を
振りかぶって狂犬病の犬みたいな目で睨みつけて来
た。
近くで見るとこのデブの坊主顔は、かなり迫力ある。
しかしオレは、知ったことじゃない。すぐにデブの
腕で笑っていた歌麿の首を撥ねた。ストンと落ちた
金庫を掴み取るとデブの腰のキーホルダーごと切り
取って逃げた。
デブは、バカヤロウと怒鳴って追おうとしたが血の
吹き出る腕を押さえて地面に倒れた。
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