まさか今日がこんな日になるとは・・
何も言いたくないよ。
「めんちゃん、いい子だね。」
っておやつ見せられて、
台の上でその気になったら、
ブチュ!
痛いよ。大嫌いな注射。
騙された。
予防のためってわかるけど
嫌いなモノは嫌い。
もう。こうなったら、公園で裸で騒いじゃうぞおー。
ふぅぅぅぅぅ。。。。
(頑張れ、つよぽん。)
何も言いたくないよ。
「めんちゃん、いい子だね。」
っておやつ見せられて、
台の上でその気になったら、
ブチュ!
痛いよ。大嫌いな注射。
騙された。
予防のためってわかるけど
嫌いなモノは嫌い。
もう。こうなったら、公園で裸で騒いじゃうぞおー。
ふぅぅぅぅぅ。。。。
(頑張れ、つよぽん。)
幽霊屋敷 作者大隅 充
10
秀人が見つけたシルバーの鍵は、タツヤ兄ちゃんの
手で開かずの書斎の扉の鍵穴に差し込まれたが、何
回試みてもカタリとも開かなかった。
僕が兄ちゃんのでかいサーチライトを代わりに持っ
て、その引っ掻き傷だらけの分厚い扉を照らして、
タツヤ兄ちゃんが秘密の部屋を開けてくれるのを待
ったがあれやこれや長い時間かけてやったがダメだ
った。だんだんでかいサーチライトが重くなって両
手で支えているのがつらくなった。
おかしいな。やっぱりこれじゃないのか。
兄ちゃんは舌打ちして鍵を僕が照らした明りの中に
かざしてマジマジと見つめた。
グラグラと目眩するような地震の揺れが起きた。
ぐぐうううこくんーーーー
今度はぼくの後で唾を飲み込むびっくりするくらい
大きな音がして、僕とタツヤ兄ちゃんとが振り返る
と階段の下の方でか細い僕のライトをもって秀人が
喉を鳴らしながらぶるぶる震えていた。
「どうしたん?秀人。」
「・・・・・・・」
僕が秀人に声をかけても唇が真っ青になってガタガタ
震えるばかりで言葉の入った箱を全部ひっくり返して
しゃべる日本語を川に落としてしまった人みたいに尖
った舌を突き出すだけで言葉が出て来ない。
「ヴヴヴヴ・・・・・・ブブブ・・」
そう呟いている秀人がどういうわけかみるみる背が高
くなっていった。
確かに僕より下の階段にいたはずなのに目の高さまで
一緒になって、さらに目線より上に昇っていった。
タツヤ兄ちゃんと僕は、秀人が天井へ浮き上がってい
くような錯覚にとらわれた。
幽霊屋敷の魔法にかかって、オバケに捧げる生贄の子
豚として秀人がこのまま天井を突き破って夜空へ消え
ていってしまうのではないかと僕は本気で心配した。
しかし秀人は、天井へは届かず僕より頭ひとつ上にな
って止まった。
駿!
タツヤ兄ちゃんが後から僕の両肩を大きな手で掴んで
小さく叫んだ。
ふりかえると僕よりずっと背の高かったタツヤ兄ちゃ
んが僕より下になっていた。
いったいどうしたのか。目の奥の方でクラクラする痛
みが走って、回りすぎたメリーゴーランドに乗って平
衡感覚がすっかりなくなってしまった時と同じ吐き気
がした。
駿!動くな・・・・じっとしてろ!
タツヤ兄ちゃんは、今度はしっかりと僕を背中から抱
きしめた。
そしてガタンと足の下で突き上げるような振動音がし
て、止まらないエレベーターに乗っていたようなフラ
フラした気持ち悪い感じが止まった。
僕は、目の中にものすごい量の埃が入って来て目を開
けていられなくなった。
目を開けるな。下を向いてろ。
兄ちゃんも顔を伏せているみたいだった。
わわわわああああー、階段がー。
秀人がやっと日本語の落し物を拾い上げたようにカイ
ダンとはっきりと発音した。
床下から風が吹いているのか咳き込むような埃がみる
みるガラスの割れたバルコニーの外へ流れていく。
背の高くなった秀人がようやく見えるようになると、
棒のようにカチカチに硬くなって階段のステップで立
ち尽くして僕を見下ろしながら正面を指差している姿
が目に入ってきた。
「駿ちゃんー。階段が落ちたー。」
僕とタツヤ兄ちゃんは、明らかに床下に落ちていた。
床上の階段にいるのは、秀人だけだった。
起きた事が一瞬だったので状況がつかめなかったが、
兄ちゃんのサーチライトで辺りを照らして見ると僕
の立っていた階段のステップを基点にしてシーソーの
ように階段が反対側に持ち上がって、下だった秀人が
上に、僕より上だったタツヤ兄ちゃんが真下に入れ替
わったのだった。
「やっと止まったべ。びっくりしたあ。このまま地獄
へ落ちていくか思った。」
タツヤ兄ちゃんは、僕から離れて僕の手に握られたサ
ーチライトを僕の手首ごと、後ろの階段の上だった書
斎の扉のあるところに明りのレンズを向けた。
それは見上げるような天井すれすれの位置にあって階
段がずり落ちた分、埃りやクモの巣のないまっすぐな
長方形の新鮮な形が壁できていた。
つまりその遥か上に書斎の分厚い扉が天窓のようにに
乗っかっていたのだ。
「兄ちゃん。こっちにも扉がー。」
声を震わしながら上から秀人が小さいライトで指さし
て言った。
見ると、床下のタツヤ兄ちゃんの後ろの壁に新しい扉
があった。
「あったべな。こんなところによ。」
タツヤ兄ちゃんは、振り返ってシルバーのあの鍵をそ
の扉の鍵穴に差し込んだ。
10
秀人が見つけたシルバーの鍵は、タツヤ兄ちゃんの
手で開かずの書斎の扉の鍵穴に差し込まれたが、何
回試みてもカタリとも開かなかった。
僕が兄ちゃんのでかいサーチライトを代わりに持っ
て、その引っ掻き傷だらけの分厚い扉を照らして、
タツヤ兄ちゃんが秘密の部屋を開けてくれるのを待
ったがあれやこれや長い時間かけてやったがダメだ
った。だんだんでかいサーチライトが重くなって両
手で支えているのがつらくなった。
おかしいな。やっぱりこれじゃないのか。
兄ちゃんは舌打ちして鍵を僕が照らした明りの中に
かざしてマジマジと見つめた。
グラグラと目眩するような地震の揺れが起きた。
ぐぐうううこくんーーーー
今度はぼくの後で唾を飲み込むびっくりするくらい
大きな音がして、僕とタツヤ兄ちゃんとが振り返る
と階段の下の方でか細い僕のライトをもって秀人が
喉を鳴らしながらぶるぶる震えていた。
「どうしたん?秀人。」
「・・・・・・・」
僕が秀人に声をかけても唇が真っ青になってガタガタ
震えるばかりで言葉の入った箱を全部ひっくり返して
しゃべる日本語を川に落としてしまった人みたいに尖
った舌を突き出すだけで言葉が出て来ない。
「ヴヴヴヴ・・・・・・ブブブ・・」
そう呟いている秀人がどういうわけかみるみる背が高
くなっていった。
確かに僕より下の階段にいたはずなのに目の高さまで
一緒になって、さらに目線より上に昇っていった。
タツヤ兄ちゃんと僕は、秀人が天井へ浮き上がってい
くような錯覚にとらわれた。
幽霊屋敷の魔法にかかって、オバケに捧げる生贄の子
豚として秀人がこのまま天井を突き破って夜空へ消え
ていってしまうのではないかと僕は本気で心配した。
しかし秀人は、天井へは届かず僕より頭ひとつ上にな
って止まった。
駿!
タツヤ兄ちゃんが後から僕の両肩を大きな手で掴んで
小さく叫んだ。
ふりかえると僕よりずっと背の高かったタツヤ兄ちゃ
んが僕より下になっていた。
いったいどうしたのか。目の奥の方でクラクラする痛
みが走って、回りすぎたメリーゴーランドに乗って平
衡感覚がすっかりなくなってしまった時と同じ吐き気
がした。
駿!動くな・・・・じっとしてろ!
タツヤ兄ちゃんは、今度はしっかりと僕を背中から抱
きしめた。
そしてガタンと足の下で突き上げるような振動音がし
て、止まらないエレベーターに乗っていたようなフラ
フラした気持ち悪い感じが止まった。
僕は、目の中にものすごい量の埃が入って来て目を開
けていられなくなった。
目を開けるな。下を向いてろ。
兄ちゃんも顔を伏せているみたいだった。
わわわわああああー、階段がー。
秀人がやっと日本語の落し物を拾い上げたようにカイ
ダンとはっきりと発音した。
床下から風が吹いているのか咳き込むような埃がみる
みるガラスの割れたバルコニーの外へ流れていく。
背の高くなった秀人がようやく見えるようになると、
棒のようにカチカチに硬くなって階段のステップで立
ち尽くして僕を見下ろしながら正面を指差している姿
が目に入ってきた。
「駿ちゃんー。階段が落ちたー。」
僕とタツヤ兄ちゃんは、明らかに床下に落ちていた。
床上の階段にいるのは、秀人だけだった。
起きた事が一瞬だったので状況がつかめなかったが、
兄ちゃんのサーチライトで辺りを照らして見ると僕
の立っていた階段のステップを基点にしてシーソーの
ように階段が反対側に持ち上がって、下だった秀人が
上に、僕より上だったタツヤ兄ちゃんが真下に入れ替
わったのだった。
「やっと止まったべ。びっくりしたあ。このまま地獄
へ落ちていくか思った。」
タツヤ兄ちゃんは、僕から離れて僕の手に握られたサ
ーチライトを僕の手首ごと、後ろの階段の上だった書
斎の扉のあるところに明りのレンズを向けた。
それは見上げるような天井すれすれの位置にあって階
段がずり落ちた分、埃りやクモの巣のないまっすぐな
長方形の新鮮な形が壁できていた。
つまりその遥か上に書斎の分厚い扉が天窓のようにに
乗っかっていたのだ。
「兄ちゃん。こっちにも扉がー。」
声を震わしながら上から秀人が小さいライトで指さし
て言った。
見ると、床下のタツヤ兄ちゃんの後ろの壁に新しい扉
があった。
「あったべな。こんなところによ。」
タツヤ兄ちゃんは、振り返ってシルバーのあの鍵をそ
の扉の鍵穴に差し込んだ。
あなたの近くにこんな奴いませんか?
いつもあなたを見つめて
いつもあなたの後をついて廻り
いつもあなたにおねだりして
食いしん坊で
気がつよくて
ときどき駄々っ子になり
怒られるとシュンとして
淋しがり屋で
よく寝てばかりいて
世界で一番あなたのことを頼りにしてる。
とってもわがままで変な奴。
そんなおかしな、おかしな君だけれど
おかげで毎日の生活からタイクツが逃げていった。
君に逢えたことに感謝しよう。
いつもあなたを見つめて
いつもあなたの後をついて廻り
いつもあなたにおねだりして
食いしん坊で
気がつよくて
ときどき駄々っ子になり
怒られるとシュンとして
淋しがり屋で
よく寝てばかりいて
世界で一番あなたのことを頼りにしてる。
とってもわがままで変な奴。
そんなおかしな、おかしな君だけれど
おかげで毎日の生活からタイクツが逃げていった。
君に逢えたことに感謝しよう。
公園の橋。
今日最初のご挨拶。
なんとかあの対岸のワンちゃんに会いたいよ。
いい奴そうー。
会ってクンクンして、お互いのりっこ。
でも結局対岸は対岸のまま。
会えなかったよ。
あれだけ期待して急いだのに・・・
散歩のたのしみは、匂いつけと出会い。
超えられない川が世の中の現実っていうなら、
たまたま渡れる橋に行きついて出会えるって
貴重なんだね。
今日最初のご挨拶。
なんとかあの対岸のワンちゃんに会いたいよ。
いい奴そうー。
会ってクンクンして、お互いのりっこ。
でも結局対岸は対岸のまま。
会えなかったよ。
あれだけ期待して急いだのに・・・
散歩のたのしみは、匂いつけと出会い。
超えられない川が世の中の現実っていうなら、
たまたま渡れる橋に行きついて出会えるって
貴重なんだね。
いつの間にか渋谷に新しい駅スペースができていた。
ハチ公口と反対側の宮益坂に
地下鉄副都心が出来て、埼玉県和光市とつながった。
ただそこにまるで未来都市のような渋谷駅ができた。
ちょうど昔の東急文化会館のあった真下。
東急文化会館といえば屋上にプラネタリウムがあり、
一階は、日本で最大級の映画館渋谷パンテオンがあった。
ユーハイムの喫茶店で待ち合わせした人もいるでしょう。
この駅は、これから東横線とつながる予定だそうで、
現在の高架の東横渋谷駅はなくなり、地下化するそうです。
改札出てまっすぐ東横のれん街に入るってことができなくな
ります。銀座線も高架でなくなるらしい。
現在の渋谷駅の宮益坂からの眺めは、60年ぐらい
つづいていたがガラリと変わります。
また新駅の通路には、ハチ公側の岡本太郎に対抗して
絹谷幸二のレリーフが飾られています。
こっちで待ち合わせすると、新渋谷通って
感じがするかも。
逆に古い渋谷各駅を今のうちに見ておくのもいいかもしれません。
絹谷幸二に関するサイト
ハチ公口と反対側の宮益坂に
地下鉄副都心が出来て、埼玉県和光市とつながった。
ただそこにまるで未来都市のような渋谷駅ができた。
ちょうど昔の東急文化会館のあった真下。
東急文化会館といえば屋上にプラネタリウムがあり、
一階は、日本で最大級の映画館渋谷パンテオンがあった。
ユーハイムの喫茶店で待ち合わせした人もいるでしょう。
この駅は、これから東横線とつながる予定だそうで、
現在の高架の東横渋谷駅はなくなり、地下化するそうです。
改札出てまっすぐ東横のれん街に入るってことができなくな
ります。銀座線も高架でなくなるらしい。
現在の渋谷駅の宮益坂からの眺めは、60年ぐらい
つづいていたがガラリと変わります。
また新駅の通路には、ハチ公側の岡本太郎に対抗して
絹谷幸二のレリーフが飾られています。
こっちで待ち合わせすると、新渋谷通って
感じがするかも。
逆に古い渋谷各駅を今のうちに見ておくのもいいかもしれません。
絹谷幸二に関するサイト
幽霊屋敷 作者大隅 充
9
僕がライトの明りをその小箱に当てると、それはべっ甲や
琥珀で飾られた綺麗なウルシ塗りの小物入だった。
「これ。キレイだったからさ。」
と秀人は、女の子みたいに小指を立てて箱を開いた。する
とその中には、大きな真鍮のキラキラ光る鍵が出てきた。
「何?」
「何かわからないけどキレイだったから・・・さあ。それ
よかここから早く出ようよ。」
「ちょっと待って。これって二階の書斎の鍵かもしれないぞ」
タツヤ兄ちゃんは、その鍵を手にとってクイズ番組で一番に
正解がわかった解答者みたいに自信たっぷりに発表した。
「何?それ。もういいよ。早く帰ろう。」
秀人が鍵を早いとこ小箱に仕舞おうとタツヤ兄ちゃんの手の
中から取り返そうと手を伸ばしたが、簡単によけられて作業
ズボンのポケットに収められてしまった。
「ちょっと預かっとく。」
そう有無を言わさずに宣言してタツヤ兄ちゃんは、サーチラ
イトで階段から二階の天井へゆっくりと照らしてこの幽霊屋
敷の今日のアトラクションは、何だろうと通いなれたディズ
ニーランドのホーンテッド・マンションの常連客のようにし
げしげと落ち着いて屋敷全体を眺めて穴の開いた床の周囲を
ぐるりと歩き出した。
「兄ちゃん。もう夜だから・・もう帰らないと・・家でみん
な心配してる。」
ぼくが兄ちゃんの後をついてそう言うと秀人もそうだ、そう
だと穴の周りをぐるぐる回る大小のライトの明りを眼で追い
ながら叫び声に近い高音で合いの手を入れた。
「うーん。そうだよ。お前らの父ちゃん母ちゃん、もう八時
だべ。心配してるよな。黙ってシューパロさ来たっけが・・・」
立ち止まって僕も秀人も大きく頷いた。
「まあ。でもよ。せっかくここまで来て、幽霊屋敷の一番の
謎の、開かずの書斎さ見ねえで帰るのもモッタイないべ。」
タツヤ兄ちゃんは、階段の欄干の前で振り返って言った。
「えええー・・・」
秀人は、明らかに不賛成のブーイングを漏らした。
「いやぁ、あのー、モッタイないとかないです。噂の幽霊屋
敷に入っただけでもういいです。はい。」
一生懸命兄ちゃんを説得しようと僕も早口に意見したが、大
きくため息をついてニヤリと笑うとタツヤ兄ちゃんは、階段
を手すりを頼りに昇りだした。
「お前ら、勇気出してシューパロの幽霊屋敷にせっかく来た
んだ。もうちょっとだけ頑張ろうぜ。この鍵合うかどうかだ
けでも確かめてから帰ろうお。なあ!」
あの・・・・兄ちゃん・・・・
僕らは、何を言おうがこの場面でタツヤ兄ちゃんに従わなけ
れば生きていけない無人島に難破船で流れ着いた子羊のよう
なものでタツヤ兄ちゃんの大人の存在と又闇の中に取り残さ
れるより昼のように赤々と照らしてくれるサーチライトの頼
もしい明るさとに従順に従って、埃だらけの階段を二階へ上
がった。
とにかく道を照らしてくれる明りを持ったタツヤ兄ちゃんの
お尻にぴったりとくっ付いて僕と秀人は、離れなかった。
もしここの幽霊が見ていたら深海のちょうちんアンコウが長
い尻尾を振りながら泳いでいるみたいに思われたかもしれな
い。
できれば早く兄ちゃんの望むミッションが終わって今度は帰
りのシューパロの森の道をあのライトで照らしてほしいと切
に僕は願った。
二階は、いくつかの部屋があって真ん中に広めの廊下があ
った。そしてどの部屋もドアが破れたり、外れたりしてその
各部屋の中の月明かりが窓を通して廊下へもれていた。
タツヤ兄ちゃんは、その二階の部屋には眼もくれずまっすぐ
廊下を歩いて突き当たりのバルコニーのある所まで行った。
「ここからヨッチンは落ちたんだ。」
とガラスのない窓から外のバルコニーへライトを照らして言
った。
僕は、窓枠のガラスの破片がギザギザに残っている桟に注意
して指を置き外を覗き込んだ。
「本当だ。バルコニーの手すりが壊れいる。」
「まあ。ヨッチンも下が果樹園でよかったよ。ブドウの木が
クッションになって足折るだけで済んでよ。」
「よく一人で来たね。ヨッチンー。」
秀人がぴったりと僕の肩にくっ付いてか細い声を出した。
ライトに照らされた紫の葉の生い茂ったブドウの木がいきな
り暗闇の黒で塗りつぶされた。
ああああーと僕と秀人が悲鳴をあげると、こっちだ!とタツ
ヤ兄ちゃんは、サーチライトをバルコニー下から廊下の天井
に移して次のミッションへ僕らを誘導した。
ライトに照らされた廊下の右側には、小さめのクモの巣だら
けの階段が続いていた。
「この上は、実際は中二階なんだ。あの昇ったところにある
扉の向こうが開かずの書斎だ。」
9
僕がライトの明りをその小箱に当てると、それはべっ甲や
琥珀で飾られた綺麗なウルシ塗りの小物入だった。
「これ。キレイだったからさ。」
と秀人は、女の子みたいに小指を立てて箱を開いた。する
とその中には、大きな真鍮のキラキラ光る鍵が出てきた。
「何?」
「何かわからないけどキレイだったから・・・さあ。それ
よかここから早く出ようよ。」
「ちょっと待って。これって二階の書斎の鍵かもしれないぞ」
タツヤ兄ちゃんは、その鍵を手にとってクイズ番組で一番に
正解がわかった解答者みたいに自信たっぷりに発表した。
「何?それ。もういいよ。早く帰ろう。」
秀人が鍵を早いとこ小箱に仕舞おうとタツヤ兄ちゃんの手の
中から取り返そうと手を伸ばしたが、簡単によけられて作業
ズボンのポケットに収められてしまった。
「ちょっと預かっとく。」
そう有無を言わさずに宣言してタツヤ兄ちゃんは、サーチラ
イトで階段から二階の天井へゆっくりと照らしてこの幽霊屋
敷の今日のアトラクションは、何だろうと通いなれたディズ
ニーランドのホーンテッド・マンションの常連客のようにし
げしげと落ち着いて屋敷全体を眺めて穴の開いた床の周囲を
ぐるりと歩き出した。
「兄ちゃん。もう夜だから・・もう帰らないと・・家でみん
な心配してる。」
ぼくが兄ちゃんの後をついてそう言うと秀人もそうだ、そう
だと穴の周りをぐるぐる回る大小のライトの明りを眼で追い
ながら叫び声に近い高音で合いの手を入れた。
「うーん。そうだよ。お前らの父ちゃん母ちゃん、もう八時
だべ。心配してるよな。黙ってシューパロさ来たっけが・・・」
立ち止まって僕も秀人も大きく頷いた。
「まあ。でもよ。せっかくここまで来て、幽霊屋敷の一番の
謎の、開かずの書斎さ見ねえで帰るのもモッタイないべ。」
タツヤ兄ちゃんは、階段の欄干の前で振り返って言った。
「えええー・・・」
秀人は、明らかに不賛成のブーイングを漏らした。
「いやぁ、あのー、モッタイないとかないです。噂の幽霊屋
敷に入っただけでもういいです。はい。」
一生懸命兄ちゃんを説得しようと僕も早口に意見したが、大
きくため息をついてニヤリと笑うとタツヤ兄ちゃんは、階段
を手すりを頼りに昇りだした。
「お前ら、勇気出してシューパロの幽霊屋敷にせっかく来た
んだ。もうちょっとだけ頑張ろうぜ。この鍵合うかどうかだ
けでも確かめてから帰ろうお。なあ!」
あの・・・・兄ちゃん・・・・
僕らは、何を言おうがこの場面でタツヤ兄ちゃんに従わなけ
れば生きていけない無人島に難破船で流れ着いた子羊のよう
なものでタツヤ兄ちゃんの大人の存在と又闇の中に取り残さ
れるより昼のように赤々と照らしてくれるサーチライトの頼
もしい明るさとに従順に従って、埃だらけの階段を二階へ上
がった。
とにかく道を照らしてくれる明りを持ったタツヤ兄ちゃんの
お尻にぴったりとくっ付いて僕と秀人は、離れなかった。
もしここの幽霊が見ていたら深海のちょうちんアンコウが長
い尻尾を振りながら泳いでいるみたいに思われたかもしれな
い。
できれば早く兄ちゃんの望むミッションが終わって今度は帰
りのシューパロの森の道をあのライトで照らしてほしいと切
に僕は願った。
二階は、いくつかの部屋があって真ん中に広めの廊下があ
った。そしてどの部屋もドアが破れたり、外れたりしてその
各部屋の中の月明かりが窓を通して廊下へもれていた。
タツヤ兄ちゃんは、その二階の部屋には眼もくれずまっすぐ
廊下を歩いて突き当たりのバルコニーのある所まで行った。
「ここからヨッチンは落ちたんだ。」
とガラスのない窓から外のバルコニーへライトを照らして言
った。
僕は、窓枠のガラスの破片がギザギザに残っている桟に注意
して指を置き外を覗き込んだ。
「本当だ。バルコニーの手すりが壊れいる。」
「まあ。ヨッチンも下が果樹園でよかったよ。ブドウの木が
クッションになって足折るだけで済んでよ。」
「よく一人で来たね。ヨッチンー。」
秀人がぴったりと僕の肩にくっ付いてか細い声を出した。
ライトに照らされた紫の葉の生い茂ったブドウの木がいきな
り暗闇の黒で塗りつぶされた。
ああああーと僕と秀人が悲鳴をあげると、こっちだ!とタツ
ヤ兄ちゃんは、サーチライトをバルコニー下から廊下の天井
に移して次のミッションへ僕らを誘導した。
ライトに照らされた廊下の右側には、小さめのクモの巣だら
けの階段が続いていた。
「この上は、実際は中二階なんだ。あの昇ったところにある
扉の向こうが開かずの書斎だ。」