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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

さすらいー地球岬 8

2009年09月18日 | 投稿連載
地球岬 作者大隅 充
     8
 線路は、どこまでも走った。
このまま永遠につづいてこの先、終わりがないんじゃ
ないのかとレールの枕木と枕木を正確に踏んで足をス
イスイと前に出しながらオレは、不安に思った。よく
考えると線路がどんどんと走っているのではなく、走
っているオレが疲れをまったく感じずに走っているの
だった。簡単にいえば足が自然に動いていてオレは、
自分の走っている体からぽつんと切り離れている感じ。
周りの平原や畑は、白い雪の原なのに二本のレールだ
けは、雪が溶けていてはっきりとバラスの石粒が見える。
どのくらい走ったのか小さな駅舎が見えてきた。深夜
で人影もなくホームも待合室も静かに眠っていた。
 オレは、この駅の外れに鉄塔に乗っかった重油タン
クの下に潜り込んで一度休むことにした。
そこでオレは、奪い取ったキーホルダーのすべての鍵
を金庫に試してみたがどれも役に立たなかった。両手
で力の限り抉じ開けようともしたがビクともしなかった。
すると顎から鼻の頭からポトポトと汗が大粒で落ちて
きた。立っている足の脹脛が重く引きずられるような
痛みが甦ってきた。
横腹がナイフで刺され、口と鼻を抑えつけられたよう
に息が苦しく胸がえぐられるように痛くなった。今ま
で感じていなかった疲れが一気に噴き出した。もうオ
レは、立つどころか呼吸もできなくなり四つん這いに
なってタンクの真下で蹲った。白い息があの王子製紙
ののっぽ煙突から出ていた煙みたいに口から出てきて
睫毛に引っ掛かっては凍った。
オレは、ジャンパーの襟を立てて顎の下までジッパー
を押し上げて風が入らないようにすると床に畳まれて
いたブルーシートを広げてその中へ潜って眠った。
 気が付いたら朝日がスノーダストを高い空にきらき
らと輝かせていた。
ガタンガタンガタンと激しい線路を噛む列車の車輪の
音が耳を劈いている。貨物列車が体のすぐ脇を通り過
ぎて行った。
ブルーシートから抜け出してオレは、鉄塔の下の誰に
も踏まれていないキレイな雪を口に入れてガシガシと
噛んで歯を磨いた。
そして列車の通った線路へと走った。
線路も周りの平原もうっすらと朝霧が立ち籠めていた。
そしてちょうど駅ホームから30メートル手前の標識の
ところでバラバラになった簡易金庫を見つけた。
昨日重油タンクの鉄塔に潜り込んで完全に眠る前に一
度抜け出してパチンコ屋から盗んだ金庫を線路に置い
ていたものだった。
見事に真っ二つに千切れて中の一万円札と千円札が散
らばっていた。
オレは、急いで破れていようがいまいが札という札を
拾い集めた。70枚までは数えたが後は面倒臭くて紙袋
にとにかく押し込んだ。
 駅の待合室で一番きれいな千円札で立ち食いそばを
食べて、券売機で7時発の室蘭行きの切符を買った。
ホームのベンチにはすでに登校中の高校生が集団で座
っていて座る場所はなかった。オレは、仕方なく先頭
の屋根の切れた電柱に寄り添って立った。
金は手に入れた。誰にも負けない包丁も持っている。
もうすぐ地球岬だ。オレがこの世で最後に見る場所ま
であと数時間。何も怖いものなんかない。もしあの景
品所の用心棒が仕返しに来ても、誰にも邪魔されない
ぞ。オレは、完璧な力を持っている。望む場所に行く
金と自由を手に入れた。邪魔する奴はみんなズタズタ
にしてやる。
電車が入ってくるまで後10分。オレは、朝の駅の雑踏
の中で奇妙な興奮にひとり包まれて危なくチビリそう
だった。
 とその時。目の前を笑いながらショートヘアの女子
高生が走り抜けて来た。赤いマフラーがかすかにオレ
の鼻先を掠って行った。レモンの匂いがした。つづい
てニキビ面の学生服の男子が追いかけて来てオレの後
ろで女子高生の前で止まった。
二人は、見詰め合って赤い顔で黙った。
そして「これ、あげる。」と女の子は赤いマフラーを
男の子の首にかけた。
「向こうの大学に行っても私のこと忘れないでね。」
「なんで。斎藤こそ忘れるなよ。オレのこと。」
オレは、電柱を背にして真剣な高校生のカップルの、
その純粋さに心がクラクラした。
オレに一度もなかった世界だった。
女の子は、泣いている。男の子は、我慢して女の子の
手を握っている。
オレは突然走りだした。あれだけ完璧な力をもってい
たオレがまったく裸になってただただ改札を出て線路
沿いの道を走った。
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からから煎餅~シーちゃんのおやつ手帖108

2009年09月18日 | 味わい探訪
黒糖せんべいの中に可愛いオモチャが入っているお菓子。
昔は降るとカラカラ音がしたことから、このように名付
けられました。
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