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ある日カッパ姉ちゃんとカメラおじさんの家に一匹の子犬がやってきた。
日々のうつろいの発見と冒険を胸に生きていこう!

愛するココロ-15-

2007年06月29日 | 投稿連載
    愛するココロ  作者:大隈 充    
                15
 狭い路地は、ドブ滓の流れる側溝に板がのせられているだけで
エノケンが走ると、トランプが一枚一枚めくれるように杉板が跳ね上がった。
追っ駆けて来た森下組のチンピラたちは、顔を出したドブ水に足を
取られて途端にエノケンとの差をつけられてしまった。
いつもなら花園神社の境内を抜けて、都電に乗るか、バッタ問屋の
怪しい路地から新大久保か、早稲田へ簡単に逃げられるのに、
どの出口にも正森忠三郎亡き後に増加した森下組の新参の栄養失調
気味の若い衆が待ち構えていた。
仕方なくエノケンは、バー「ベンボー亭」の三階の通称画家さん
という男娼がアトリエ代わりにしている隠し部屋から屋根へ出て、
排水管をよじ登り隣のビルの屋上づたいに曙町までやっと逃れることが出来た。
「曙町には、わたしのアパートがあってその木造二階建てのちょうど
角部屋が空いていたんでエノケンさんがマリーと会うのに借りたんじゃよ。
そこが誰も知らない新しいエノケンのアジトだったんよ。」
「その村越マサっていうヤクザが力を盛り返したらエノケンや
マリーさんヤバクない?」 屋台でラーメンをすすりながらトオルは、
由香と並んで源蔵に聞いた。
源蔵もラーメンの麺のみを割り箸で摘みながらビールを飲んで
映写技師としての一日の埃のように積もった疲れを開放した。 
「新宿の正森興行も二代目になって半年しか続かなかった。
本当に大変だったのは、その後でよ。」
「ではすぐにマリーやエノケンは、危ないことにはならなかったの?」
由香は、屋台の暖簾越しに向かいの昭和館の閉ざされた正面玄関を見た。
その玄関の前にエノケン一号が佇んでいた。
「まあ、夏から冬までは、鬼ごっこみたいなもんで彼らも劇場で
客席から悪態つく程度だった。」
「マリーさんは、エノケンと会うことは、出来たんだ。」
「いつも白いパラソルをさして曙町の坂道をアパートまでひとりで
よく歩いてきたね。マリーさん。白いゆりが揺れているみたいだったなあ」
街灯に照らされたエノケン一号は、じっと由香たちのいる屋台を見つめていた。
「マリー、マリー・・・」
エノケン一号から発せられたその声は、人間の声に近くて、
ぞっとするほど熱い情感を伴っていた。
 マリーは、踊り子を夢見てSKDの研修所に入ってレッスン
を続けていたが戦争で焼け出されて天涯孤独な身としては、
バスガールで貯めたお金もあっという間にそこをつき、キャバレーの
踊り子としての職に身を寄せるしかなかった。
あの夏。江ノ島へ行ったふたり。太陽が少しやさしく傾いた午後。
盆過ぎて海水浴客も疎らな浜辺を日が沈むまで歩いた。
白い砂と青い海とやさしい太陽と、世界は止まったように広かった。
何も語らず、何もせずただ砂浜をふたりは歩いた。
エノケンが波に洗われていた貝殻を見つけた。
エノケンが拾った白い巻貝をマリーは、バスケットに入れずいつまでも
手に握り締めていた。
「なんか貝殻を大事そうに持っているそん恰好は、小さな子供みたいだな。」
「きれいよ。これ。きれいな形。」
長いエノケンとマリーの影が砂浜から波打ち際まで伸びていた。
「人間の骨みたい。」
ぽつんと言うと、ニッコリ笑った。
「どの道みんな骨になるのさ。」
「これ、うれしいな。エノケンさんに貰った貝殻。うれしいな・・
・ひとから何か貰ったことないから・・・うれしいな・・・」
「子供やなあ。」
とっぷり暮れた帰りの江ノ電の中は、乗客も少なく隣り合わせに
座ったエノケンとマリーの車窓からは、暗い海が見え隠れした。
マリーは、エノケンの右腕に腕を絡めより添ってエノケンの肩
に頭をつけていた。
エノケンは、マリーが黙ったまま目を閉じているので眠っている
と思い、左手で巻貝を取ろうとすると、マリーは、しっかりと
握って離さなかった。そしてそのエノケンの左手をマリーの右手
がそっと掴んできた。
エノケンは、肩が濡れているのがわかった。
マリーが泣いている。
エノケンは、生まれて初めての幸福感を感じた。それは、
たぶんマリーも同じだっただろう。ただ違っていたのは、
こんな幸せがもう二度とこないのではないかという、
苦しくて甘い予感がマリーには芽生えていたことだけだった。
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シャラポワ、襲われる(ぽっぽ通信)

2007年06月29日 | めんちゃん日記
(ハト爺さんのぽっぽ通信だより)
テニスのウィンブルドン選手権大会が始まった。
今回シャラポワは、怪我の回復が万全ではないが、
いつもながらの衣装には、こだわりを見せた。
背中に小さな白い羽根をつけた白鳥をイメージ
したという白い衣装を披露した。
 しかしここに災難が、起きた。
'99年の大会でベッカーとキーファーとの試合で鳩が
乱入して試合が一時中断する事件があり、
以来フィネガンという立派な鷹を試合中フルタイムで
主催者は常駐させている。
ところがこのフィネガン、シャラポワを白鳥と間違えて
襲って低空飛行した。
シャラポワは無事だった。
シャラポワの抱負
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